HAZL(土木工事)と声亡き歌姫




彼女が武具屋に現れたのは、珍しく所属していたチーム全員用事がなく店を開けたまま近況を伝え会おうと集まった日だった。

酒を口にし、相変わらず荒ぶる司令塔殿なヘファイストスは元より、普段は言葉少なに語るアモスでさえがドスの効いた声で話す将軍の愚痴。
それを聞き流しつつ閑散とした店内をなんとなしに眺めていると、入り口に備え付けたカウベルがカランと静かに音が鳴った。

「おいティウ、お客さんだぞ。本日第一号!」
音源を目ざとく見つけた、珍しく非番を非番のまま過ごせているローカパーラが腰掛けるカウンターを叩き気分良く、
相変わらずダレている店主へ声を掛けると残り二人を連れてのっそりと開いた扉へ顔を向ける。

気が暗い二人にスモークがかった眼鏡を掛けた男の三人に同時に眼を向けられたその少女は一瞬気押されるも、気を取り直しぺこりと頭を下げた。

「……しかも別嬪さんじゃねぇか。なんだモテるじゃねぇかティウよ」

「大将あんた今日自腹な。商売で大事な信用地に落とすような真似すんじゃねぇよスカポンタン」

「…流石に今のは駄目だ、目の前に警官さんが無線持ってるのが見えるかヘフィ」

「通信するぞハイさーんにーいーt」

「あー悪い悪かったって。悪かったな嬢ちゃん、ちょいと気が立ってたみてぇだ」

置いてけぼりにされたまま目の前で繰り広げられるマイペースなキャッチボールに目を白黒させつつ、両手をブンブンと振り気にしないと表現する。

「よかったなー警察のお世話にならずに済んで。ちゃんと彼女に感謝するんだぞー?」

「…俺らが世話になるのは心底勘弁願いたいんだ、賄賂代わりに彼女に一杯奢ってやれ」
無線のハンドマイクを腰に戻しケラケラと笑うローカパーラ、そこに追撃を掛けるアモス。
今月地味に厳しいんだがなぁ、と嘆くヘファイストスだが、素直に従う辺り負い目を感じているのだろう。

「そうだな、嬢ちゃんなんか飲みたいものあるか?ここのマスターはどこか偏屈でな、珍しい物でなければ大半は揃ってるぞ」

「もう開けちゃってるけど一緒にチップス食うー?」

ここは武器屋なんだぞー、と言いつつのろのろと冷蔵庫へ足を運ぶ店主、だが振り返り
「で、なんにする?」と問い掛けたところで場の空気が一方的のままである事に気がつく。

「あー、なになに?このヒゲモジャに緊張しちゃった?気にしなくていいよー?」

ブンブンブン。

「…この掛け合いの早さに戸惑っているのでは?」

……ブンブンブン。

「……矢張り戸惑うか。……興味で覗きに来た一般人か?」

「大将腰見ろ、それはない。それも多分俺らの後輩だ。……話せないのか?」

「……!」
冷蔵庫から戻ってきたティウにビシィ、と指を指す少女。

「あぁ、そうだったのか。それは申し訳ない事をした」

ブンブン。

「気にするな、ってとこか?ウチの大将が失礼した。とりあえず牛乳と生搾りオレンジを持ってきたがこれで良いか?」

ティウがカウンターに700ℓのボトルと瓶を置くと、少女は数巡の後オレンジのボトルを指差す。

「オレンジだな。なら残りは瓶ごと持ち帰るといい。丁度良い罰になるだろ」

奥の方でギョッとするヘファイストスを無視してグラスにジュースを注ぎつつ、客入りもこんな具合だしのんびりしていって構わないが、と前置きをして「ご用件はなんでしょう?」と少女に問い掛ける。

それを受けて視線を上げ考える少女の手元に手帳とボールペンを差し出し「これ使ってー」とローカパーラ。
軽く会釈して手に取ったペンでサラサラと綴られたのは“弾薬を購入をしたい”。

ふむ、と顎に手を添えるヘファイストスとローカパーラ。

「…得物を見てからの方がいいだろう」

「わぁってるから店主の仕事取らないでくれねーかなアモスやい! ……で、腰のそれだと思うけど見せてもらえるか?」
しかめっ面をアモスに向けた後彼女にそう問うと、軽く頷き滑らかに右のバックサイドホルスターから得物を引き抜きスルリと弾倉を引き抜き向きを反転させ手渡す。

遠巻きに眺めていた二人はその動作に目を見開く。この小さな少女はどれだけ現場を駆け巡ったのか。

「……これは.45ACPの大口径化を目指したものか、となるとウチではアレが使えるな。ローク、HC-4のボックス持ってきてくれるか?」

弾倉から取り出した弾丸を機材で測り、一通り眺めたティウは目に入ったローカパーラに指示を出す。

いい加減変わらない配置を覚え始めていた彼は「へーへー人使いの荒いこって」と言いつつ指示通りのボックスを手に取り戻る。

それを受け取るとケースから弾を一本取り出し、借り受けたそれと比較して一人頷く。

「問題ないとは思うが試射したほうがいいだろ。レンジがあるから行こう」

そう少女に声をかけると振り返り勝手に呑んでろー、と投げやりに伝え、店舗角のレンジへ歩く。
辿り着いたそこには距離とマンターゲットの描かれた硬質段ボールが、書かれた距離の位置に佇んでいた。

んじゃやろうか、と少女に遮音イヤーマフを渡し自らも装着、弾を入れ替えた弾倉と得物を準備する。

「ちょっと相棒借りるな。毒味みたいなもんだ」と気持ち声量を上げた声で伝えると弾倉を装填し弾丸を薬室に送り込む。

両手で慎重に構え、一息に3発放ちマンターゲットを撃ち抜くと、残心のように息を吐き薬室を空にする。

本体に問題がないことを確認すると、「問題なし」と呟き弾倉を抜いた本体を手渡して「好きなだけ撃つといい」と言い数歩下がる。

破裂音の後新しい弾の手綱を操るように集中し出す彼女に、満足したら戻って来るように伝え店に戻ると、
彼女の文字の横に“ちょっくら呑んでくる”と書き残された手帳が残されていた。

溜息を吐いて片付け始め、一息ついた頃に少女がカウンターまで戻ってくる。

手帳の文字を見つけ困った顔をした彼女と手帳を通して売買の量を伝え合い、支払いが終わった頃にローカパーラが扉から顔を出した。

「どうしたローク、二人は?」

「寄った店で潰れたんで返しといた!んでこれから緊急だわ……」

ティウのその問い掛けにローカパーラは苦笑混じりに答えると、それじゃ!と顔を引っ込めカウベルの鳴る音だけが響いた。

「……騒がしい奴らで悪いな」
困った顔で笑いかけると、少女も苦笑で返し差し出された荷を受け取る。

「じゃ、またなんかあったら来るといい。待ってる」

その言葉に一つ頷き身を翻した桃色の少女は、カウベルを鳴らし街へ繰り出した。




また、後日の試射でターゲットの回収を面倒臭がり義手のワイヤーで行った結果、少女を心底驚かせることになるのはまた別の話である。

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