@tos @asng25 @aomidoro3 あさいお短いのだけど書いてみました。掌編集にしようかと思うのでとりあえずお二方にだけ、どうぞ。

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「悪かったってばー」
「楽しみにしてたんやもん」
「実験でちょっとミスしちゃってさー、チームに迷惑かかっちゃうからね？」
「……わかるけど。でも、水族館楽しみにしてた……」
「だから、ごめんってば」
　手を合わせて、申し訳無さそうにしている朝美。
　口調は軽いけど、目を真っ直ぐ見つめてくるときは、だいたい真剣な時だってぼくは知ってる。知ってるけど、それとこれとは別の話。
　だって今日は、ぼくと朝美がアメリカにやってきて、ちょうど一年になる記念日だった。……ただし、もう夜だけど。水族館はとっくに閉まってるくらいには夜。
　朝美は、結局研修が終わった後も、そのままアメリカに残ることになった。会社の研究所？で、なんや小難しい実験をしてて、いつだって帰りは遅い。泊まりがけになることだってしょっちゅうある。労働基準法ってこっちにはないんかな。ぼくはそういうの、全然わからんけど。
　ぼくはと言えば、英会話の勉強も兼ねて、バーで働いてる。もうとっくに日常会話に困らないくらいにはぺらぺらになってるけど、でもまあ慣れてみると意外と良い人たちやし、お給金も悪くないしで、なんとなく、だらだらと続けてる。新しくバイトを探すのも大変やしね。
　ただ、そうするとなかなか普段顔を合わせることができなくなってしまう。ぼく以外の気配だけは感じる、２ＤＫの小さい部屋。水がまだ切れていない食器とか、少し減ったトイレットペーパーとか。それと、取り込んで、折り畳まれたぼくの洗濯物とかも。だけど、一番寂しいのは、空になった隣のベッドのかすかな温かさ。
　だから、朝美が泊まりだと連絡があったとき、朝美のベッドに潜り込んで寝ることが、ぼくの秘密の習慣になった。
　なんとなく、朝美の体温とか、匂いとかが感じられて、嬉しかった。
　……だから、ぼくにとって、大事な記念日だった今日も、泊まりって言われたものだから、水族館に行けない不貞寝も兼ねて、さっさとベッドに潜り込んだのがついさっき。もちろん、朝美ので。
　なのになんで、朝美がもう帰ってきてて、ぼくとこうして会話してるんやろな。なんか間抜けっぽい。
「なんで伊織は私のベッドで寝てるの？」
「……泊まりじゃなかったん」
「ボスに無理言って切り上げてきたんだよー。明日気合い入れてどうにかするから、今日だけは日付けが変わる前に帰してくれって」
　言われて朝美の格好を見ると、いかにも慌てて飛び出して来ました、と言わんばかりで。触ると柔らかい癖っ毛はいつもより三割増にくるんと巻かれているし、上着の裾は半分出てる上に、襟まで立ってる。
　ぶっちゃけ、かなりみっともない。
　みっともないはずなんだけど……心臓はきゅうとなった。苦しい。でも嫌な気分てわけじゃない。
「くっくっ、酷い格好やん、朝美」
「あー、だってバスに遅れそうでさー、バス停まで全力疾走なんて高校生ぶりなんじゃないかな？」
　だってな、それだけ、朝美も今日を大事に思ってくれてたことが、それでわかったもん。
　相変わらずぶきっちょだけど、真っ直ぐで、愛おしいやつ。
「あー、でさ。本当はそこの角のケーキ屋で、なんか買ってこようと思ったんだけど、もう閉まってて。コンビニになっちゃったんだよねえ、あはは……」
　がりがりと頭を掻いてビニール袋を前に突き出してきた朝美を見たら、いい加減我慢の限界で。
　さっきから、なんでもないやり取りやのに、もうどきどきしっぱなしなんよ、ぼくの方は。
「だからさ、伊織、起きて一緒に――」
「それ、明日の朝ごはんにしよ？」
「……伊織？」
　ぎしりとベッドを揺らしながら上半身を起こして、朝美の手を引いた。朝美は抵抗しない。外着でベッドに乗るのは、普段ならどうかと思うけど、今はいい。
「なあ朝美、ぼくのこと、解剖せえへん？」
「懐かしいね、それ。高校を思い出す」
「ぼくの殺し文句やったもん」
「ふふふ、そんな殺し文句、私たちしかありえないね」
「せやね」
　朝美が本格的に体重を乗せて、ベッドがさらに軋む。
　ぼくは、明日の夜まで仕事はない。朝美は明日も大変みたいだけど、今日、日付が変わるくらいまでは、ぼくが独り占めしたって良いと思う。ええよね？

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