q3s_f

Q3式 · @q3s_f

15th Oct 2014 from TwitLonger

@sailorsousakuTL
『新しい循環の始まり』
眠気覚ましらしく、確かな決意に溢れたお話。

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「はい、じゃあこれ」
「確かに受け取りました。お疲れ様です、先輩」
 生徒会選挙は昨日の事。新しい生徒会長に選定された私は、さっそく次の日に、先代の先輩からの引き継ぎを受けていた。
 放課後の生徒会室は柔らかな光に満たされて暖かい。冬を前にして駆け足で沈む太陽は、既に橙色の輝きを放ち始めていた。下校の時間にはまだ早くとも、既に世界は夜へと向かいつつある。
「重いですね、このファイル」
「ふふ、私が出来なかった事、したかった事、今、思いつく限りの全部を詰め込んだからね」
 先輩の表情は確かな達成感に満ち溢れつつも、少しだけ寂しさのようなものを垣間見ずにはいられない。
 多分、もっと何かが出来たはずだと、後悔する気持ちがぬぐえないのだろう。誰よりも時間を大切にして、誰よりも多くの事をやり遂げようとしてきた先輩らしいと思う。
「先輩、一つ、聞いても良いですか?」
「ん?何?一応、必要な情報は一通りそこに書いておいたはずだけど……」
「いえ、そうじゃないんです」
「?」
 そんな先輩の表情を見ていたら、ふと、訊いてみたくなってしまった。
 もっとも、半年間、先輩を間近で見てきた私には、これからの質問にどう答えるかなんて、ある程度予想がつくのだけど。
 だから、これは。
「先輩は『無駄な事はしない』主義、でしたよね」
「そうだね。時間は有限だから。なるべく無駄にならないようにって、私は思ってるけど」

「じゃあ、『無駄な事』って何だと思います?何が『無駄』なんだと思いますか?」

 私の右手が今しがた受け取った分厚いファイルをなぞる。チラリと目線をそちらに落とした先輩が、怪訝な表情を浮かべつつも口を開く。
「それは」
「いえ、先輩は答えなくても大丈夫です。きっとこう答えるんだろうなって、私なりに考えている事があるんで」
「何、それ。だったらどうして質問したの?」
 口調は少しだけ厳しいものだけど、先輩の表情はあくまでも柔らかく微笑みを湛えている。
 私の性格なんて、先輩には筒抜けだろうから、もう慣れたものなのだろう。
 ちょっとだけ申し訳ないと思いつつ、先輩には、私なりの"儀式"に付き合ってもらいましょう。

「決意表明みたいなものです。演説では話しませんでしたけど、私は常にこの事を考えながら、生徒会長を全うしようと思って」

 先輩の穏やかな微笑みに、少しだけ負けず嫌いな色が宿る。
「ふふ、そうなんだ。それをわざわざ私に言ったのは?」
「自分を追い込んでみようかと。先輩には負けませんよ?来年の今頃には、先輩よりも多くの事を残して引退するつもりですから」
「そう」
 すっと、先輩が右手を差し出す。
 ニコニコというよりも、ニヤニヤとした笑顔を見せる先輩からは、相変わらず人の上に立つ人間の風格を感じてしまう。
 なんというか、横暴で挑戦的で、そして、優しいのだ。
 どれも私に無いものだとは、自覚している。
「半年間、お世話になりました。ゆっくり休んでください」
 私も右手で応える。不安を見せないよう、精いっぱい背伸びした表情で。
 寂しいのは分かっている。不安なのも分かっている。明日から、先輩はここに居ない。明日からは、全部私がやらなくちゃいけない。

 でも、ここでそれを見せてしまったら、先輩が心置きなく旅立てないから。

 がっしりと握手した手が離れた時、そして、先輩が手を振って生徒会室を後にした時。
 それでも、私の胸の辺りが鈍い痛みを発して、目の奥に熱い感覚が宿るのを抑える事は、出来そうにも無かった。

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