埼玉新聞社 新井護さま
および、編集部の皆様

どうも、お世話になっております。昨日、大宮駅西口で貴紙の取材を受けた者です。
記事、さっそく紙面とWeb上で、2014年9月24日(水)配信の「「入管特例法廃止を」
在特会が大宮で会合、主張に反対の声も」と題された記事(http://www.saitama-np.co.jp/news/2014/09/24/04.html)を拝見いたしました。ありがとうございます。

まず、感想から述べさせていただきます。
誠に残念ながら、この記事では、読者に大きな誤解を与えてしまうのではないかと思います。

まず、見出しに「「入管特例法廃止を」ー在特会が大宮で会合」とあります。これでは、在特会の主張が、主張する価値のある、何らかの正当性をもったものと読者に捉えられてしまうのではないでしょうか。

また、記事の本文中で「在日特権を認めるべきではない」という在特会会員の言葉をそのまま紹介していますが、これでは、彼らが主張する「在日特権」というものが、あたかも本当に特権として存在しているかのように読者に思われしまうのではないでしょうか。

インターネット上では、この記事に対する反響がたくさんあがっています。
記事のWebページ(http://www.saitama-np.co.jp/news/2014/09/24/04.html)をみますと、Twitterでの言及が118件(9月24日16時現在)ありますが、これは貴紙の他の記事とくらべて、桁が2つ違うと思います。それだけ注目されているということです。

この記事に対するTwitterでの反響( http://bit.ly/1xcK5jT)をみると、ほぼ、記事への非難です。具体的に言えば、在特会の主張とカウンターの主張を「両論併記」し、いわば「どっちもどっち」の印象を与えてしまっているという点が、Twitterでは強く非難されています。

具体的な批判を少しTwitterからご紹介します。

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「両論併記記事の悪い見本だ。しかも「在日特権」デマを無批判的に垂れ流し拡散した点で罪深い。魚が喰われて絶滅するからネッシーを殺せというデモが起きても、そのまま報じるのだろうか?」
「ネッシーと在日特権はデマである点で共通だが、後者が比較にならぬ程害悪が大きいのは極めて悪質なヘイトスピーチだから。マイノリティがターゲットになってるだけでなく存在否定になる。」
「記者は在日の歴史や人権を知らないに違いないが、特別永住なる資格は特権でもなんでもない。制限されたとしても退去強制がありうる、再入国許可規制のついた、改善されざる差別待遇。」
「在特会の主張をわざわざ丁寧に見出しや記事に挿入する必要、あるのかね。
口実をつけてヘイトスピーチを撒き散らしてることが本質なんだけどな。」
「この件でしょ。 記者の名前さらしたれ、という気分になるね。見出しから何から、本当に悪い見本。」
「差別犯罪者の「主張」の両論併記を行ってどうするのか。それとも埼玉新聞は強盗の言い分もいちいち書く方針なのか。当紙の良記事紹介を目にした覚えがないが、どうやら理由がわかった。」
「なんだこの記事。。主張はどこだ?ザイトクは悪だとハッキリ書け。0点、書き直し!」
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このような厳しい批判が、貴誌の記事に対して向けられています。そのことを、しっかりとご承知おきいただければと思います。

さて、在特会のヘイトスピーチに関して、もう少し補足説明をさせてください。

ご存知の通り、在特会らが主張している「在日特権」というものは、単なるデマです。在特会が「在日特権」と呼んでいるものは、主として在日韓国・朝鮮人に与えられている「特別永住資格」のことですが、これは特権ではまったくありません。
詳しくは、野間易通さんの『在日特権の虚構』という本に書かれていますが、ここでは在特会の言っている「在日特権」というものがデマであることを簡略にお伝えいたします。

通常、日本国籍がなければ日本に永住することはできません。しかし、在日韓国・朝鮮人ら(特別永住者)は日本に帰化することなしに何代でも日本に永住することができます。在特会らは、主としてそのことを「在日特権」であると言っています。

しかし、こういった主張は端的に間違っており、単なる事実誤認にもとづいたものです。なぜなら、在特会の主張は、日本の戦時中の植民地政策のことをまったく考慮に入れていないからです。

現在の在日韓国・朝鮮人(特別永住者)の多くは、植民地政策によって強制的に日本国籍を与えられ、「国民」に組み入れられた人たちおよびその子孫です。1945年の終戦の際、日本には約230万人の在日朝鮮人が在住しており、そのうちの約64万人は住み慣れた日本に残ることを選択しました。当時すでに日本に生活の基盤があったからです。

しかし、日本政府は1952年に彼らの日本国籍を一方的に剥奪し、彼らは突如として「外国人」としての扱いをうけることになりました。1991年に入管特例法が制定され、ようやく彼らが得ることができたのが、上述の「特別永住資格」です。
つまり、特別永住資格はなんら特権ではなく、朝鮮半島に対する侵略によって発生した被害と、その後にとられた差別的処遇に対するほんのわずかな保証にすぎないものです。

現在、「特別永住者」として日本に住んでいる在日韓国・朝鮮人の方々のなかには、一度も韓国・朝鮮を訪れたこともなければ、韓国語を話せない方もたくさんいます。彼らは、生活の基盤が日本にあり、日本で生まれ、日本で教育を受け、日本で働いて生活をしているのであって、その点では「ふつうの日本人」と代わりありません。

しかし、在特会らは、これらの歴史的事実をみようとせず、彼らに対して「国に帰れ!」といいます。人によっては一度も訪れたこともなければ、親戚も友人もおらず、生活の基盤もない「国」に帰れ、と言っているのです。それが、昨日(9月23日)のヘイトスピーチです。

また、昨日(9月23日)のヘイトスピーチデモでは、「在日は犯罪者だ!」などと人種差別を助長する発言も目立っていました。在特会の会長、高田(桜井)誠は、デモの際に「アメリカではですね、ベトナム人と黒人が一緒になってね、韓国人を襲撃する。…オーストラリアでも韓国人狩りが行われております。これがグローバルスタンダードなんですよ!」と述べています。これは単なるヘイトスピーチを超えており、もはや明確な犯罪行為(ヘイトクライム:差別による物理的暴力)を扇動するきわめて危険なものであると言わざるを得ません。

実際、彼ら在特会は、2009~2010年の京都朝鮮学校襲撃事件や、2010年の徳島県教職員組合業務妨害事件などのヘイトクライムを行っており、それらの事件ではすでに刑事罰を課されたり、民事訴訟を起こされたりしています。在特会らの主張は、すでに暴力となっており、日本に住む在日韓国・朝鮮人の方々には具体的な被害が出ているのです。

このような状況において、彼らが主張する「在日特権」というものが、あたかも本当に特権として存在しているかのようにみえる記事が存在していいとは、私は思いません。

あるべきジャーナリズムの姿は、彼らが主張する「在日特権」なるものが、誤解に基づいたものである、という情報を読者に提供することではないでしょうか。

この記事では、むしろ「在日特権」というものの「存在」を、読者に広く知らしめてしまう危険性があります。新聞が「社会の公器」であるのならば、それは差別的なデマを垂れ流すものであってはいけません。たしかに、私たちカウンター側の声も掲載していただきました。しかし、彼らが主張する「在日特権」なるものがデマであることは、調べれば簡単に分かることなのですから、それを記載することがジャーナリズムの仕事です。

今後、ヘイトスピーチや人種差別のことを記事にする際には、ぜひともその点を考慮に入れていただければと存じます。もし今後、在特会やヘイトスピーチのこと、あるいはカウンター行動のことなどで、さらに取り上げてくださる場合は、ご一報いただければ幸いです。いつでも取材には協力いたしますし、情報提供もいたします。

今一度、ヘイトスピーチや人種差別に対する報道姿勢について、編集部内でご検討いただければ幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

(以下、連絡先のため省略)

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