「ローカル線の再生には観光需要しかないのか?」 


「ローカル線の再生には観光需要しかないのか?」 
先般いただいたこのテーマに、長くなりましたのでこちらより回答します @583maremodel


「ローカル線の再生」というのは言うなれば、企業再生です。
売上が下がり、赤字になっていく会社をどうやって救うのかという事ですから、その基本は鉄道に限らないと思うのです。
昨日はその一例として「フィルム」というのを出しました。
フィルムはピークから僅か10年程度で9割も需要がなくなりました。
その原因はデジカメの普及です。
この市場の劇的な変化をフィルムメーカーはどうすることも出来ません。
まず大切な事はその現実を直視する事です。
その上で、自社の持っている強みは何か、そして何を出来るかこれが生き残る道です。
それをやってのけたのが富士フイルムです。
元々フィルムって、物凄い細かく粒子化をする技術や、薄いフィルムに何層もの乳剤を塗るという、フィルム製造で養ったナノテクノを富士フイルムは持っていました。
この技術を応用し、化粧品や液晶テレビの膜などフィルム以外のものを商品化しています。
あるいは、元々X線のレントゲンフィルムなどを作っていた医療画像技術を応用し、医療機器にも力を入れています。
その結果、主力のフィルムの売上が9割も減ったなかで、むしろ売上を増やし、デジタル化という大波を乗り切りました。
一方コダックは、世界最大のフィルムメーカーという立場に胡坐をかき、デジタル化も遅れたことから、最後は破綻します。

この状況ってローカル線と似ていると思うのです。
車がこれだけ普及しているところに「鉄道に乗ってください」と言っても乗る理由がありません。
まず、車は家の軒先から、目的地までドアトゥードアです。
こういった地方に行けば行くほどどこのお店も店舗より大きいくらいの巨大駐車場完備ですから、行った先で止めるところにも困りません。
とすると、圧倒的に車の方が便利です。
コストも、今時リッター30km走る車が当たり前にあるご時世、つまり30kmの移動コストはガソリン代の160円程度と言うことです。
実際は車体の価格や税金、保険などありますから160円という事は無いですが、それでも圧倒的に電車より安いですね。
例えば一畑ですと、出雲大社前から長江までが30.1kmですが、690円です。
つまり、車の4倍以上の移動コストです。
それを住民に「乗って下さい」と言っても、不便で高い鉄道に乗るわけ無いんですよ。
フィルムで例えるのなら、デジカメ全盛の時代にフィルムで撮影して現像、プリントしてくださいと言っているも同然で、それは一部のマニア以外利用する事はありません。
鉄道も同様で、車生活している人にただ「乗ってください」と言っても乗る理由は全く無いのです。
結果、「乗って残そう」運動をしている人たちからして普段は車に乗るという珍現象が起きます。
「あれ、乗って残そう運動してるんじゃなかったんですか?」という。
この現象は国鉄時代からあって、先日もあるフォロワーさんに教えていただきましたが、廃止を突きつけられた自治体の長が率先して住民と共に運輸省に乗り込み、「住民が

観光バス○台連ねて陳情に上がりました」って、「バスで来た・・・って、結局、鉄道乗らないんですよね」というアピールになってしまったという笑うに笑えない話もある

ようです。
こういうところって何をして良いのか全く分からないので、とりあえず思いついた事を次々とします。
しかも他社の真似ばかりとなり没個性です。
更にそこに戦略も無いため効果が薄い状態となります。
要するに、ローカル線の活性化は別に観光に限った事ではなく、自社の持っている強みや弱みを理解して、その上で何が出来るのかを考える事が重要です。
これがSWOT分析といいます。

もちろん「観光」というのも一つの重要なキーワードですが、それだけかと言うとそうではありません。
例えば千葉県の銚子電鉄、「この会社は何の会社ですか?」と言う答えは、今では「鉄道会社です」というより、「焼き菓子製造会社で、副業で切符売ってます」と言う方が

適切なほど煎餅を売りまくっています。
同じく千葉のいすみ鉄道はグッズの売上が運賃収入に匹敵するほどの年間7000万円以上売りまくっています。
日本の人口自体減少して、否が応でも今後運賃収入の減少が見込まれる中で、単に運賃収入を上げるというアイデアしか浮かばない所は、生き残っていけないでしょう。
これは、何もローカル線に限った事ではありません。
JRや大手の私鉄ですら同じです。
駅なかビジネスはじめ、様々な運賃収入以外の売上を作っています。
「JR東日本は何の会社ですか」という問いに「鉄道会社」という答えは間違っていませんが適切ではありません。
例えば電車どうやって、収益を上げるでしょう。
「運賃」は言うまでもありませんが、他に何か無いでしょうか?
それ以外のアイデアが出ないため「乗って残そう」となります。
電車に乗れば多数の広告が掲載されていることに気付きます。
つまり、電車とは巨大な広告媒体です。
実際、JRも私鉄も、広告収入は莫大なものであり、それゆえ、鉄道会社は関連子会社で、広告代理店を持っているほどです。
JR東日本系の広告代理店「ジェイアール東日本企画」は業界4位という規模です。
あるいはJR東日本のショッピングビルのルミネ、コンビニのニューデイズ、クレジットカードのビュウカードなど、鉄道以外の流通小売分野の規模は、イオン、セブンアン

ドアイ、ダイエーに次ぐほどの規模です。
このように鉄道と言うのは、ただお客様を運んで運賃収入を上げるだけのビジネスモデルではありません。
逆に言えば、運賃収入を上げる事しかアイデアが無い会社が乗客が減少しているなかで、どうして良いかわらなくなり、思いついた事を次々にやって、結局何の効果も無い状

態になっているようです。

広告についても、あるローカル線の試算をしたところ、全て掲載すると年間1700万円くらいの売上にがあるのに、何もしていないところがあります。
これで「経営の限界だ」って全くの嘘だと私は思うのです。
あるいは何もない過疎地のローカル線でも、なまじ土地はあるわけです。
ではそれをどう活用すれば良いのか考えれば良いのです。
しかし、過疎地の車の通りも無いところに突然店を出してもお客は来ません。
そんなところを有効に活用する方法は?
例えば携帯電話の基地局(鉄塔)を建てないかと、携帯会社にセールスすれば月3万円の賃貸収入でも、10箇所も作れば月30万円、年間360万円の収入ですから、これ

は大きいです。
あるいは「ロケ」という使い方があります。
列車内や駅をスタジオとして貸せば、この賃借で収入となります。
特に駅構内や列車での撮影は許可の取得に大変な時間と労力が必要ですが、「電話一本、当時ロケも受け付けます」なんて売りにすれば、確実に需要はあります。
実際、テレビのワイドショーなどの再現VTRで列車内での撮影が必要となるケースはあり、実際この迅速な対応でロケ需要を取り込んだローカル線もあります。
ケースバイケースですが、数万円から数十万円の収入になります。
実はこのロケ需要、古くは京王線がよく使われており、少し前では北総鉄道、最近は西武鉄道が力を入れています。
ローカル線は更に組織が小さい分迅速な対応で当日ロケなどにも応じ、よく使われている所があります。

運賃収入が増やせないのなら、こういう様々なアイデアで増収増益させる事は可能です。
しかし、見ているとこういうアイデアが全く無いために、「乗って残そう!」と叫ぶだけになり、そして叫んでいる人すら鉄道に乗らないで車に乗るという珍現象が各地で起

きています。
このように、「乗客を増やす」と言うことが無理でも、収益構造を変え赤字体質から脱却かることは可能です。
場合によっては黒字化することも可能かもしれません。

でも、ローカル線の活性化事例を見ていると、こういった色々な改革アイデアを持っていても、こういう事を全く知らない人たちが取り囲んで「そんなのおかしい」「住民利用

を増やすべきだ」、妨害する事例が結構あちこちで起きているようです。
その一方で、そういう人たちに「そんなに言うならあなたたちがやれば良いんじゃないですか」と言っても、何も出来ないというのはお約束です。
何も出来ないけど邪魔だけするという人達はもっともタチが悪いんですが・・・あちこちで起きていますね。
私に突っかかって来る人でも、「そんなに言うならあなたたちがやれば良いんじゃないですか」と言っても、ネットで騒ぐだけで何も出来ない、まるで黒子のバスケの犯人み

たいな人がいて困った物です。
これ、各地で起きていて、ある地方民鉄社長に食って掛かっている人もいて困った物です。

にしても、松江周辺は非常に観光地として強力なものがありますから、一畑電車は観光鉄道として生き残っていく価値は大きいと思いますよ。
観光鉄道で経営を支え、結果住民の足が確保されるというのは、私は全く本末転倒とは思わず、賢い経営だと感じます。

Reply · Report Post