とりあえず関係者各位に土下座しておきます。他の人のところとキャラとか設定とかが違ってますが、まぁそこはIfってことでお願いします。 #セーラー少女


 夕暮れの学び舎。グラウンドの掛け声がわずかに届くだけでほとんど静寂に包まれたこの部屋に、二人の少女がいた。一人はキャンバスに向かって黙々と絵を描く黒髪の少女。もう一人はその様子を椅子に向かって眺める茶髪の少女。二人のいるこの部屋は静寂と言えど無音ではない。外界の喧騒や二人の息遣いの音、そしてそれ以上に耳に入り込んでくる絵筆がキャンバス上を走る音が部屋を満たしていた。
 そんな空間を茶髪の少女が打ち破る。
「いや~。ここは静かでいいねぇ」
 そう言って一つ伸びをすると何処からか取り出したお菓子を開け、ポリポリと食べ始めた。
「あなたのせいで静かではなくなったのだけど」
 黒髪の少女がキャンバスから目を離すことなく茶髪の少女に話しかける。それを聞いて、茶髪の少女はニカッと笑いながら答えた。
「たまにはこういう変化も必要でしょ」
「ここのところ毎日来て同じことしてるようだけど」
 少しだけ困ったような表情で黒髪の少女はそう言うが、茶髪の少女は意に介さず、手を振りながら気のせいだよ、なんて言って誤魔化した。
「それにしても、こういう静かなところで作業が出来るのはいいね」
 茶髪の少女の呟きに黒髪の少女が、その静寂を打ち破るのは誰だと言いたげな表情で睨む。が、すぐに無駄だと気付いたのか少女はキャンバスに目線を戻した。
「そういうあなたはいいの、作業しなくて。こんなところにいないで部室で執筆でもしたら」
 黒髪の少女の言葉に一瞬苦いような顔をした茶髪の少女は、少し唸ってから口を開く。
「優良なる創作には良質なる空間と健全なる精神が必要でして、つまりこの部屋の静寂が私にとって良い影響を与えているのであって、別に小煩い誰かさんから逃げてるわけとかじゃない……というか小説は急かされて書くものじゃないしぃ」
 最後の方は開き直ったような調子で言う少女に、黒髪の少女がため息交じりに言葉を返した。
「その良質なる空間とやらを私は害されているんだけどね」
 何のことやらというようなポーズをとる茶髪の少女。そんな反応をするのが分かっていたのか、黒髪の少女もそれ以上の文句は言わなかった。

「それにしても、どうしてここに来るの?」
 束の間の静寂を打ち破ったのは先ほど文句を言っていた黒髪の少女の方であった。珍しく彼女の方から声を掛けられ、茶髪の少女は嬉しそうに身を乗り出して答えた。
「さっきも言ったでしょ。ここの静かな空間が好きだって」
「静かなのはここ以外にもいっぱいあるでしょ。なんでわざわざここに?」
 黒髪の少女がさらに問いかける。茶髪の少女は悪戯っ子のような笑顔を浮かべて答えた。
「だってあなたがこの素敵な空間を作り出してくれてるのでしょ」
「さぁ、どうでしょうね」
 黒髪の少女も彼女と同じように悪戯っ子のような笑顔を浮かべる。茶髪の少女がその笑顔の意味を探っていると、廊下の方から力強い足音が聞こえてくるのに気付いた。ハッと何かに気付いた茶髪の少女は、ちらっと廊下の方に目をやってから慌てて彼女は黒髪の少女の方に向き直った。
「かのちゃんの意地悪!」
「加代ちゃんには言われたくないわ」
 身を乗り出してじっと睨み合う二人だったが、茶髪の少女が根負けしたのか、はぁとため息をついて椅子に深く座りなおした。
「まぁ今日はそろそろ帰ることにするよ」
「今日はってことは、明日もまた来るつもりかしら」
 呆れた様子でそう聞く黒髪の少女に、茶髪の少女はもちろんとだけ答えた。
「あ、そうだ。お邪魔させてもらった代わりにお菓子あげよう」
 そう言うと茶髪の少女はポケットから個包装されたお菓子を取り出し、黒髪の少女に手渡した。
「邪魔だと思うのなら来ないでほしいわね」
「それは無理な相談かなぁ」
 黒髪の少女の呟きに茶髪の少女がおどけたように答える。二人にとってこの会話は、ここ数日の別れ際の茶番であった。周りの様子を確かめながら、黒髪の少女が茶髪の少女に向かって声を掛ける。
「そろそろ来るわよ」
「あっやばっ」
 廊下から聞こえてくる足音はもう間近まで迫ってきているようだった。茶髪の少女は急いで足音が聞こえる反対側の扉まで歩み寄る。
(じゃ、また)
 茶髪の少女が口だけでそう言い黒髪の少女に向かって手を振った瞬間、もう一つの扉が勢いよく開かれた。
「ですかぁぁぁぁ! 締切何日だと思ってんだぁ!」
 その音に紛れて茶髪の少女は部屋から逃げ出していった。

「それにしても、あの人は何をしてたのだろう」
 締切ギリギリまでのらりくらりと催促から逃げる困った先輩を追いかけて入った美術室。実花は一人呟いた。目当ての人物が入れ替わりで逃げて行ったのには気付いたけれど、それ以上に気になることがあったため、彼女はその部屋に入って行ったのだった。
 あまり使われておらず全体的にうっすらと埃が被った部屋で、実花は真ん中あたりに埃の被っていない椅子を見つけた。これが困った先輩が使っていた椅子であろう。でもこんなところで何を。そんなことを疑問に思いつつ、椅子が向く先に目をやる。そこには不思議なものが残されていた。
 イーゼルに向かって置かれた椅子の上。一本の筆が個包装のお菓子に立てかけられていた。その筆の先にはつい先ほどまで絵を描くのに使われていたかのように茶色の絵の具が光沢を放っていた。実花の頭はさらに謎で埋め尽くされた。あの人は本当にここで何をしていたんだ? 頭の中は疑問だらけとなるが、一先ずそこはそのままで置いておくことにした。片付けは本人にやらせればいいのだ。だったらまずは――。
 困った先輩を追いかけて、実花は美術室を後にした。

 無人になった美術室で一人、茶髪の少女が描かれたキャンバスの前で少女はお菓子をポリポリと口にしていた。

Reply · Report Post