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20th Jul 2014 from TwitLonger

生活保護裁判を第一審から最高裁まで眺めてみる Ver3.1


2014年7月18日、最高裁で外国人は生活保護法の保護対象となるかを争った裁判の判決が出ました。
判決としては「法的保護の対象を拡大するような法改正もされていないことから、外国人は生活保護法の対象ではなく、行政を通じた事実上の保護にとどまる」といったものでした。
このページではこの裁判の経過(被告・原告の主張及び裁判所の判断も含めた下級審判決)と論点のまとめをなるべく分かりやすく行ってみようと思います。
が、下級審まで含めているのでそれはまた膨大な文字数にのぼると思われます。簡潔にまとめるつもりではありますが、そこはご容赦ください。
なお、このページにおいては原告の方が生活保護を受ける要件を満たすかについては記載しません。あくまで、生活保護法と外国人という視点でのみまとめます。ご了承ください。
なお、ページの最後に作成するにあたって参考とした資料を記載しています。

さて、事を考える前提として、ここで外国人に対しての生活保護制度がどのように運用されていたかを見てみましょう。

生活保護制度は「生活保護法」によって規定、運用されています。
その生活保護法の目的を定める第一条には、
“国が生活に困窮するすべての【国民に対し】、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、
その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。”(括弧強調は引用者)
とあります。
同じように、生活保護法の第二条には、
“すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、
この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。”
とあります。
これらの条文を読む限りでは、外国人に生活保護制度を出す法的根拠は存在しません。
ちなみに、旧生活保護法(現行生活保護法の施行によって廃止)は
“この法律は、【生活の保護を要する状態にある者】の生活を、
国が差別的又は優先的な取扱をなすことなく平等に保護して、社会の福祉を増進することを目的とする” (後に国籍条項が加わったため、事実上現行制度と同じ)
とありましたから、改正によって範囲が明確に狭められています。
このあたりは第一審と最高裁でも重視して取り上げられました。

生活保護法に規定のない外国人への支給の根拠となっているのは厚生省による、
“昭和29年5月8日付、社発第382号厚生省社会局長通知”と呼ばれるものです。
通達とは、行政官庁(現在で言えば厚労省とか経産省とか)が下級機関(地方の役所とかですね)に下す命令のことです。
この命令によって、行政内部での様々な事項の取り扱いを統一する意味もあります。
この通知によると、
“生活保護法(以下単に「法」という。)第1条により、外国人は法の適用対象とならないのであるが、当分の間、生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱いに準じて左の手続きにより必要と認める保護を行うこと。”
とされています。
つまり、日本の行政官庁はあくまで生活保護法は外国人を対象としたものではないが、
人道的側面から「準用」して外国人への生活保護を支給する、という方針を示しているということです。
では、その前提を頭に入れて今回の裁判の概要と経過を下級審から順番に見ていきましょう。

★第一審 大分地方裁判所 判決(平成21年(行ウ)9号)

この裁判では被告(大分市)が勝訴しました。
つまり、外国人に対して生活保護支給をしなくても違憲ではない、ということです。

●この裁判に至るまでの経緯
日本での永住許可を持つ中国国籍の女性(以下原告)が大分市の福祉事務所に生活保護の申請を行う

福祉事務所に却下される

大分県知事に審査請求を行う

県知事が却下(理由:外国人である原告に対する上記却下決定は行政不服審査法上の処分に該当しないため)
参考:行政不服審査法 第一条“この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し(中略)簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。 ”

女性が却下処分の取り消し及び大分市に対する生活保護開始の義務付け、自身に対する保護の給付と保護を受ける地位の確認を求めて提訴する(これがこの裁判)

●裁判の概要
・原告の請求(原告=中国国籍の女性)
(主位的請求) 
①、大分市福祉事務所長による保護申請却下処分を取り消すこと
②、大分市福祉事務所長は生活保護法に基づいて保護の開始決定をすること
(第一次予備的請求)
③、生活保護法に基づく生活保護基準に従った保護を行うこと
(第二次予備的請求)
④、原告が生活保護法に基づく保護を受ける地位にあることを確認すること

大分地裁においてはこれらは全て却下、棄却されています。
では、争点と大分地裁の判断を見てみましょう。

●裁判の争点と裁判所の判断

○外国人に対する生活保護法適用の有無並びにそれぞれの請求の適法性及び可否

・生活保護法の対象が外国人に及ぶか?並びに日本国憲法第25条との関係
(原告の主張) ※原告=中国国籍の女性
憲法の保障する基本的人権は、性質上日本国民固有の権利と解されるものを除き広く外国人にも保障されるところ(引用者註:マクリーン事件最高裁判例より)であって、憲法第25条が保障する生存権は、人の生存を支える極めて重要なものであるから、少なくとも日本人と変わらない生活実態を有し、納税義務も果たしている永住資格を有する外国人には保障され、それを具体化した生活保護法も適用がある。

(被告の主張) ※被告=大分市
生活保護法第1条は生活保護の対象者を「国民」と規定しているから外国人に生活保護法の適用はない。
また、国家はまずは自国民の社会的な権利の充実を図ることが合理的であるから、外国人を社会保障から排除することが憲法第25条(生存権規定)に反するとはいえない。

【裁判所の判断】
生活保護法は、生活保護受給者の範囲を日本国籍を有する者に限定している。
このことは、旧生活保護法1条が
“この法律は、『生活の保護を要する状態にある者』の生活を、国が差別的又は優先的な取扱をなすことなく、平等に保護して、社会の福祉を増進することを目的とする。”
と規定し、その適用対象を日本国民に限定していなかったものを現行の生活保護法のとおりに改めたことからも明らかである。
現行生活保護法が適用対象を旧生活保護法が規定する「生活の保護を要する状態にある者」から、「すべての国民」、「すべて国民」と改めたのは、現行生活保護法において、旧生活保護法が有していた恩恵的な給付としての性格を改め、国民に生活保護を受給する権利があることを明確にする一方で、生活保護受給する権利を持つ者の範囲を日本国籍を有する者に限定した趣旨と解することができる。
また、憲法第25条との関係においては、憲法第25条1項は、国が個々の国民に対して具体的、現実的に義務を有することを規定したものではなく、同条の趣旨にこたえて具体的にどのような措置を行うかという選択決定は国会の広い裁量に委ねられていると解すべきであるから、永住資格を有する外国人を保護の対象に含めるかどうかが立法府の裁量の範囲に属することは明らかというべきである(最高裁平成13年9月25日第三小法廷判決http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319130828900524.pdf)
そうすると、その立法府の選択決定については、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみざるを得ないような場合を除いては、違憲の問題は生じないものというべきである(最高裁昭和57年7月7日大法廷判決)。

そこで、そのような基準を元に今回のケースが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみざるを得ないような場合に当たるか否かを検討したところ次のような点が挙げられる。
・外国人に対する生存権保障の責任は、第一次的にはその者の属する国家が負うべきである。
・国は、限られた財源の下で、国内外の政治・経済・社会的諸事情等を考慮しながら、政治的判断により、種々ある社会保障政策の中から憲法25条の要請を満たす立法措置を主体的に選択することができると解すべきである。
・生活保護費用は全額公費で支給されるものである(生活保護法第10条)。
・外国人への支給にあたっては、本国における資産や扶養義務者の有無等が問題となることがあり得るが、その調査は困難である。
・これらの者に対して生活保護を実施するときには、事実上無条件で生活保護を与えるに等しくなってしまうことが予想される。
・生活保護は生活に困窮する国民に必要な保護を行うものであって、納税をした者に対する給付ではないから、納税義務を果たしていることと生活保護受給権の有無とは直接的に結び付くものではない。

以上から、生活保護法の適用を永住資格を有する外国人に認めないことが“著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみざるを得ないような立法措置である”とまではいえない。
したがって、生活保護法の適用対象を日本国籍を有する者に限り、永住資格を有する外国人を保護の対象に含めなかった生活保護法の規定が憲法第25条に反するとはいえない。

・法の下の平等を規定した日本国憲法第14条に違反するか?
(原告の主張)
厚生年金法、国民年金法、身体障害者福祉法及び労働者災害補償保険法等においては、一定の要件の下に外国人に対してもその適用が認められているのに、最後のセーフティネットである生活保護の場合だけ外国人、殊に永住資格を有する外国人に対する適用が認められないというのは、合理的理由が全くなく国籍を理由とした差別であり、法の下の平等を定めた憲法第14条に反するので、少なくとも永住資格を有する外国人にも生活保護法が適用されなければ違憲である。

(被告の主張)
憲法第25条の趣旨にこたえてどのような解釈、立法をするかは立法府(国会)の裁量に委ねられている。したがって、生活保護法を外国人に適用しないことが著しく合理性を欠いて明らかに裁量の逸脱・濫用であるという立法措置とはいえない。
限られた予算の中で給付を行うにあたって自国民を外国人より優先的に取り扱うのは当然許されるべきことであるから、外国人に生活保護の申請権を認めないことは憲法第14条に違反しない。

【裁判所の判断】
憲法第14条1項は法の下の平等を規定するが、これは合理的な理由のない差別を禁止する趣旨であって、各人が有する事実上の差異を前提として合理的な区別をすることは同項に反するものではない。
そして、前掲したように、国はその限られた財源の下で政治的判断により憲法第25条の要請を満たす立法措置を選択することができるのであって、外国人に対する生存権保障の責任は第一次的にはその者の属する国家が負うべきとの考慮の下で、生活保護法の適用対象を日本国籍を有する者に限定することも立法府の裁量の範囲に属する事柄であり、このような区別について合理性を否定することはできない。
また、どの範囲の外国人についてどのような種類の社会保障制度を適用するかについても、立法府の合理的裁量に委ねられるものと解すべきである。
したがって、生活保護法の適用対象を日本国民に限ることが憲法第14条1項に違反するものではない。

・国際人権規約によって外国人に生活保護を受ける権利が認められるか?
(原告の主張)
国際人権規約 A規約第2条2項、第9条、第11条1項などは自動執行条約であり、上記各規定によれば、外国人に生存権が保障されること、さらには、外国人に生活保護を受ける権利が認められることは明らかである。
(被告の主張)
国際人権規約の各条文は、それぞれの権利を保護するために国が積極的に社会政策を推進すべき政治的責任を負うことを規定したにすぎず、直接的に個人に対して具体的な権利を付与したと規定するものではない。

【裁判所の判断】
国際人権規約の各規定は、権利が国によって保護されるに値するものであることを確認して締約国において権利の実現に向けて邁進すべき政治的責任を負うことを規定したものであって、個人に対し直接具体的な権利を付与したものではない。そのことは同規約第11条1項についても同様であり、それはその文言に照らして明らかであるので、個人がA規約を根拠に生活保護の開始を請求することはできない。

・却下に処分性が認められるか
解説:なぜ処分性が論点になるかと言えば、その有無によって行政不服審査法の対象となるかどうかが決まるからです。行政不服審査法の対象となれば、今回のケースの原告が出した審査請求を大分県知事が却下した裁決は違法となる訳です。
(原告の主張)
外国人に対する生活保護法の適用については、通知によって「国民に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて」保護を行うようにとの見解を厚生省が示しており、生活保護行政においては外国人に対して日本人と同等の保護を行ってきた長い歴史がある。
日本人との平等な取扱いの必要性や給付の公正さの確保の必要性、生活困窮に対する緊急の必要性等を考えると、仮に外国人に対する生活保護の受給関係が「準用」すなわち行政措置の反射的効果であるとしても、生活保護の運用に対する外国人の信頼ないし期待は法的保護に値する利益であるから、本件却下処分には処分性が認められるべきである。

解説:通知に基づいて今まで日本人と同等の取り扱いを行ってきた積み重ねや人道的見地から見て、たとえ法的根拠に基づかない行政措置だったとしても、その制度に対する外国人の信頼や期待は法的保護に値する利益(行政訴訟法第9条1項)であるから、行政不服審査法の審査対象である「処分」である、と主張している訳です。

(被告の主張)
本件通知に基づき外国人に対する生活保護の給付が認められてきたとしても、外国人に対する生活保護の給付に法令上の根拠がないことは明らかであるから、それに対する外国人の信頼又は期待が直ちに法律上の利益(行政訴訟法第9条1項)に該当するとまではいえない。

解説:つまり、外国人に対する生活保護はあくまで行政措置の一環であって、法的根拠に基づくものではない。したがって、行政訴訟法に規定される「法律上の利益」ではない。よって、行政不服審査法の審査対象とする「処分」ではない、と被告は主張しているわけです。

【裁判所の判断】
・外国人に対する生活保護支給の形態(判断の前提となる事柄)
厚生省の通知によれば、この行政措置は日本国民に対する生活保護法に準ずる手続きで行われ、保護申請書を外国人に提出させて調査の上で保護の可否を決めることとなっている。
ということは、外国人が行う生活保護申請には
・外国人にも生活保護法の適用があるという前提に基づいた「生活保護法という法的根拠に基づいた生活保護」の開始を求める
ものと
・生活保護法には基づかない「任意の行政措置としての生活保護」の開始を求める
ものの2種類がある。
本件の場合は前者であると思われるが原告は特段としてそれを意識していないので両方の性質をも持ち合わせているといえる。
原告の請求を却下した処分通知書には、申請が生活保護法に基づいて保護の開始を求める趣旨ものであることを前提とした通知であるという趣旨の記載があるが、その一方でこの申請が任意の行政措置であることを前提とした記述も見受けられる。
したがって、行政は、外国人には生活保護法の適用がないから同法に基づく申請は認められないとの判断を前提として「任意の行政措置としての生活保護」の開始を求める申請を却下したものであって、この却下処分は前述した2種類の申請のどちらも却下したと認めるのが相当である。

てぃんぐちゃん註:2種類=「生活保護法に基づく生活保護」及び「任意の行政措置としての生活保護」。前者は行政の黙示的な判断、後者は明示的に却下されたと認定。

・生活保護法という法的根拠に基づいた生活保護という側面からの検討
・主位的請求①(福祉事務所長による保護却下処分の取り消し請求)について
以上の前提から本件の処分性について検討してみると、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であって、原告の権利義務ないし法律上の地位に直接影響を及ぼす法的効果を有するものということができ、主位的請求①の中身、つまり福祉事務所長による保護却下処分の取り消しは処分性を有する。

てぃんぐちゃん註:処分性“法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であって、原告の権利義務ないし法律上の地位に直接影響を及ぼす法的効果を有するもの”について→法に直接的な記載はないものの、判例として確立(最高裁第一小法廷判決 昭和37年(オ)296)している。

したがって本件審査請求も適法になされたものと認められ、本件裁決は誤ってこれを却下したこととなるから、主位的請求①は審査請求の要件も満たすといえる。
よって、主位的請求①のうち生活保護法に基づく保護申請却下処分の取消しを求める部分は適法な請求と認められる。
が、しかし、現行の生活保護法は外国人への適用はなく、そもそも生活保護受給権は権利として認められるものではないので、原告が外国人であることを理由として却下をした本件却下処分に誤りはなく主位的請求①は棄却されるべきである。

解説:なんかあげて落とすみたいな書き方でアレなんですけど、簡単に言えば、福祉事務所長の行った保護却下処分は処分性を有するし、それをうけた審査請求自体は適法なんだけど、肝心の大本である生活保護法の適用が外国人にはないからそもそも受給する権利を外国人は持っていない。したがって生活保護法に基づく保護却下処分の取り消しを求める権利自体を原告は持っていないからこの主位的請求①は棄却される、ってことなんですね(ややこしい)。
ちなみに、審理を行った結果として請求を退けるのが棄却、申し立て自体が不適法として理由の有無を問わずに門前払いにするのが却下です。

・主位的請求②(生活保護法に基づく福祉事務所長による原告への保護開始決定請求)について
主位的請求②は行政訴訟法(以下行訴法)第3条6項2号の義務付けの訴えである。
よって、本件は却下処分がなされているから、行訴法第37条の3、1項2号の「当該処分又は裁決が取り消されるべきものであ」ることが訴訟の要件となる。
しかし、前述したように主位的請求①の取消しの対象である本件却下処分は取り消されるものではないから、主位的請求②は不適法な訴えである。

解説:そのままです。主位的請求①で行われた取り消し対象は取り消す対象と判断されなかったので義務付け請求自体が不適法ということです。

・行政措置としての生活保護の開始を求めるという側面からの検討
・主位的請求①及び②について
却下処分は生活保護法に基づく申請によってなされたものではなく、行政庁が発した通知を根拠とした行政措置を求める申請に対してなされたものであって、法を根拠とするものではない。
したがって、大分市福祉事務所長による却下処分は“法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であって、原告の権利義務ないし法律上の地位に直接影響を及ぼす法的効果を有するもの”ではないから、処分性は認められない。
よって、主位的請求①の保護申請却下処分の取消しを求める部分は不適法である。
また、主位的請求②は義務付けを求める対象が行訴法第3条6項1号及び2号の「処分」に該当しないので不適法である。

・各予備的請求について
外国人に生活保護法の適用はない。したがって、厚生省通知による外国人に対する生活保護の実施は、生活保護法を準用するというかたちの任意の行政措置として行われてきたものであってその法的な性質は贈与である。
よって、贈与の申込みの意思表示に当たる保護申請に対して贈与の承諾の意思表示に当たる保護開始決定がなされて初めて贈与契約が成立して原告に生活保護受給権が発生することになる。
が、しかし、本件においては生活保護開始決定はなされておらず、逆に贈与の拒絶に当たる申請却下がなされたのであるから、贈与契約は成立しておらず原告に生活保護受給権は発生していない。
以上のことから、原告は生活保護の実施を受ける地位にないので、予備的請求はいずれも理由がない。

解説:外国人に対する生活保護支給の法的な性質は贈与であると。
つまり、自分(原告)が「ちょーだい」って言って相手(行政)が「あげるー」って言って初めて贈与の契約が成立する訳ですね。でも今回の場合は自分が「ちょーだい」って言ったあとに相手が「やらねーよばーかw」って言った訳ですね。ということは贈与契約自体が成立していないので、原告に受給権自体がない訳ですね。したがって当事者訴訟としての予備的請求を行う理由(権利に基づくもの)がないわけです。

○原告は生活保護の受給要件を満たすか。
(省略、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101220104616.pdf P6~P8を参照)

★第二審(控訴審) 福岡高等裁判所(平成22(行コ)38号)
●裁判の概要
・原告(控訴人)の請求
(主位的請求)
①、原判決(前掲した大分地裁判決)を取り消すこと
②、福祉事務所による保護申請却下処分を取り消すこと
③、控訴人に対して生活保護法に基づいて保護の開始決定をすること
(第一次予備的請求)
④、生活保護法に基づく生活保護基準に従った保護を行うこと
(第二次予備的請求)
⑤、控訴人が生活保護法に基づく保護を受ける地位にあることを確認すること
(第三次予備的請求)
⑥、控訴人に対して厚生省通知に基づく生活保護基準に従った保護を行うこと
(第四次予備的請求)
⑦、控訴人が「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」と題する通知による保護の実施を受ける地位にあることを確認すること。
●裁判の争点と裁判所の判断
○外国人に対する生活保護法適用の有無並びにそれぞれの請求の適法性及び可否
(被控訴人の主張) ※被控訴人=大分市
第一審と同じ
追加の主張は以下の通り。
“外国人に対する生活保護の給付の仕組み自体が生活保護法に根拠を有さず、本件通知は、同法が外国人を適用の対象としていないことを前提に、独自に定めた行政規則に基づく行政措置として、同法上の扱いに準じて外国人に対する保護のための給付を行う旨定めているにすぎないから、同法の仕組み全体を見ても、外国人を同法の適用対象としているとの解釈が導かれるものではない。”

(控訴人の主張)
第一審と同じ
追加の主張は以下の通り
難民条約批准時に生活保護法のいわゆる国籍要件が撤廃されなかったこと、平成2年の口頭指示により永住資格を有する外国人に対する生活保護の実施が確認されたこと、生活保護の実施について外国人も日本人と同じ予算で処置されていること、原審の判決前後において外国人の生活保護の開始の手続、申請書式等は日本人に対するものと同じであること、原審の判決後に出された却下処分通知書には、本件通知に基づく申請の却下について不服申立てをすることができる旨教示されていること、外国人の指導指示違反による保護廃止及び生活保護法違反による詐欺事件において刑事罰が適用されていることに鑑みれば、本件却下処分には当然に処分性が認められること。
外国人の場合であっても生活保護廃止決定については処分性を認める判例があること、本件通知は生活保護法を準用していること、同法によれば日本人に対する保護決定が処分であることは疑いないこと、生活保護決定が処分と解される実質的根拠は外国人の場合にも当てはまること、保護の実施を本質的には贈与と見た場合にはなおさら日本人と外国人の差異を認めがたいこと、及び労災就学援護費不支給決定に処分性を認めた最高裁判例に鑑みれば、本件通知による措置には処分性が認められるべきである。

【裁判所の判断】
(前提事実)
・生活保護法の範囲について
現行の生活保護法は、少なくともその立法当時においては、同法による生活保護受給権者の範囲を日本国籍を有する者に限定していたものである。
・厚生省の通知について
この通知は外国人が生活保護法の適用対象とはならないとしつつも当分の間生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて必要と認める保護を行うものとされた。
手続に際しては、国籍を明記した申請書の提出、外国人登録証明書の呈示、当該外国人が要保護状態にあると認められた場合の保護の実施機関から都道府県知事への報告、都道府県知事は当該外国人が同人の属する国の代表部等から必要な保護等を受けることができないことを確認することを除けば、日本人と同様の手続によるものである。
平成2年10月に生活保護の対象となる外国人は永住的外国人に限定された。その理由は、本来最低生活保障と自立助長を趣旨とする生活保護が予定する対象者は自立可能な者でなければならないので、永住的外国人のみが生活保護の対象となるべきであるというものであって、結果として生活保護の対象となる外国人は大幅に限定された。

・難民条約における法改正
難民条約第23条は
“締約国は、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、公的扶助及び公的援助に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える。”
と定めていたことから、同条約の加入と批准に際して生活保護法のほか、国民年金法や児童手当法等に規定されていた受給資格を日本国民に限定する、いわゆる国籍条項が問題となったところ国民年金法などは国籍条項を削除する旨の法改正がなされた。
しかし、生活保護法 については法改正を見送るとしたことから、上記批准に伴う国会審議において問題となったところ、昭和56年5月27日に開催された衆議院外務委員会において、政府関係者によって
「生活保護につきましては、昭和25年の制度発足以来、実質的に内外人同じ取り扱いで生活保護を実施いたしてきているわけでございます。去る国際人権規約、今回の難民条約、これにつきましても行政措置、予算上内国民と同様の待遇をいたしてきておるということで、条約批准に全く支障がないというふうに考えておる次第でございます。」
「改正した場合は出入国管理令との関係等、様々な問題が生じる。」
「現行のままでも難民条約の批准には何ら支障がないし、実質的には日本国民と同じ保護をしている。」
「生活保護予算も保護費ということで、国内の一般国民と同じ予算で保護費の中で処置をいたしておるわけで、特にそれを改める必要はない。」
と答弁されたため、法改正は見送られ今までの運用が継続された。

(以上まで前提事実、ここから裁判所の判断)
これらの経緯によれば、当初の生活保護法の対象は日本国民に限定されていたものの、実際には本件通知により外国人もその対象となり、日本国民とほぼ同様の基準、手続により運用されていたものである。
その後、難民条約の批准等に伴い国籍条項の存在が問題となったところ、国籍条項を有する他の法律はこれを撤廃する旨の法改正が行われたにもかかわらず、生活保護法 については、上記運用を継続することを理由に法改正が見送られる一方、生活保護の対象となる外国人を難民に限定するなどの措置も執られなかったこと、その後の平成2年10月には、生活保護法の制度趣旨に鑑み、生活保護の対象となる外国人を永住的外国人に限定したことが認められる。
したがって国は、難民条約の批准等及びこれに伴う国会審議を契機として外国人に対する生活保護について一定の範囲で国際法及び国内法上の義務を負うことを認めたものということができる。すなわち行政府と立法府が当時の出入国管理令との関係上支障が生じないとの認定の下で一定範囲の外国人に対して日本国民に準じた生活保護法上の待遇を与えることを肯定したものということができるのであって、言い換えれば一定範囲の外国人において上記待遇を受ける地位が法的に保護されることになったものである。
よって、生活保護法あるいは本件通知の文言にかかわらず、一定範囲の外国人も生活保護法の準用による法的保護の対象になるものと解するのが相当であり、永住的外国人である控訴人がその対象となることは明らかである。

・処分性について
被控訴人は、本件申請は生活保護法に基づくものではなく、行政庁に対して行政措置を求めるものに過ぎないのであって、本件却下処分はこれに対する事実上の応答としてなされたものであるから本件却下処分に処分性は認められない旨主張するが、控訴人に対しても生活保護法が準用されるべきことは上記のとおりであり、同法に基づく本件却下処分に処分性が認められることは明らかであるから上記主張は採用できない。

解説:特にありません。最高裁でフルボッコにされている(しかも全員一致で)ので、そちらが十分すぎる解説になっていると思います。

なお、福岡高裁において認められたのは、保護申請却下処分の取り消しと原審(大分地裁)の判決の取り消しのみで、第一、第三次予備的請求は棄却、その他の主体的請求ならびに第二、第四次予備的請求は却下されています。
つまり、大分市側が敗訴したからといって、この判決は大分市が“申請を却下したこと”に対して判決を下したに過ぎません。

○控訴人における生活保護の受給要件充足性の有無
(省略、http://www.westlawjapan.com/case_law/pdf/WLJP_20111115.pdf P5~6ならびにP8~11参照)

★第三審(上告審) 最高裁判所(平成24年(行ヒ)第45号)
【最高裁の判断】
福岡高裁は、“難民条約等への加入及びこれに伴う国会審議を契機として、国が外国人に対する生活保護について一定の範囲で法的義務を負い、一定の範囲の外国人に対し日本国民に準じた生活保護法上の待遇を与えることを立法府と行政府が是認したものということができ、一定の範囲の外国人において上記待遇を受ける地位が法的に保護されることになったものである。また、生活保護の対象となる外国人の範囲を永住的外国人に限定したことは、これが生活保護法の制度趣旨を理由としていることからすれば、外国人に対する同法の準用を前提としたものとみるのが相当である。よって、一定の範囲の外国人も生活保護法の準用による法的保護の対象になるものと解するのが相当であり、永住的外国人である被上告人はその対象となるものというべきである。”

と判断したが、これを肯定することは出来ない。その理由は次の通りである。

・旧生活保護法は、その適用の対象について「国民」であるか否かを区別していなかったのに対して現行の生活保護法は、第1条及び第2条においてその適用の対象について「国民」と定めており、このように同法の適用の対象について定めた「国民」とは日本国民を意味するものであって、外国人はこれに含まれない。
・現行の生活保護法が制定された後、現在に至るまでの間、生活保護法の適用を受ける者の範囲を一定の範囲の外国人に拡大するような法改正は行われておらず、保護に関する規定を一定の範囲の外国人に準用する旨の法令も存在しない。
・したがって生活保護法を始めとする現行法令上、生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されると解すべき根拠は見当たらない。
・厚生省の通知はあくまで行政庁の通達であり、それに基づく行政措置として一定範囲の外国人に対して生活保護が事実上実施されてきたとしても、そのことによって生活保護法第1条及び第2条の規定の改正等の立法措置を経ることなく生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されるものとなると解する余地はない。
・福岡高裁で挙げられた我が国が難民条約等に加入した際の経緯を勘案したとしても、本件通知を根拠として外国人が同法に基づく保護の対象となり得るものとは解されない。
・ただし、通知はその文言上も生活に困窮する外国人に対し、生活保護法が適用されずその法律上の保護の対象とならないことを前提として、それとは別に事実上の保護を行う行政措置として、当分の間、日本国民に対する同法に基づく保護の決定実施と同様の手続きにより必要と認める保護を行うことを定めたものであることは明らかである。
・以上のことから、外国人は行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり、生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく、同法に基づく受給権を有しないものというべきである。
・したがって、本件却下処分は生活保護法に基づく受給権を有しない者による申請を却下するものであって、適法である。

以上と異なる原審(福岡高裁)の上記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり、原判決の中上告人敗訴部分は破棄を免れない。
そして、以上と同旨の見解に立って、被上告人の本件却下処分の取り消しを求める請求は理由がないとしてこれを棄却した第1審判決は是認することができるから、上記部分に関する被上告人の控訴を棄却すべきである。なお、原判決中上記請求に係る部分以外の部分(被上告人敗訴部分)は、不服申立てがされておらず、当審の審理の対象とされていない。


というわけで、最高裁の判断は、“受給権を法的根拠に基づいて保有していない者からの請求を却下するのは適法である”ということですね。
論旨も概ね第一審の大分地裁のものと同じようになっています。


参考資料など
・大分地裁判決文(平成21年(行ウ)第9号生活保護開始決定義務付け等請求事件)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101220104616.pdf
・福岡高裁判決文(平成22年(行コ)第38号生活保護開始決定義務付け等請求控訴事件)
http://www.westlawjapan.com/case_law/pdf/WLJP_20111115.pdf
・最高裁判所判決文(平成24年(行ヒ)第45号)
http://www.tbsradio.jp/ss954/2014/07/post-299.html
・フリー百科事典 Wikipedia http://ja.wikipedia.org/
・永住外国人生活保護訴訟最高裁判決について ←これは読んだら理解が深まります。
http://www.twitlonger.com/show/n_1s2h88g

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