utmgl

MRTYS · @utmgl

18th Jul 2014 from TwitLonger

永住外国人生活保護訴訟最高裁判決について


永住外国人生活保護訴訟最高裁判決の言渡がありました。残念ながら、予想された通り、高裁判決のうち上告人(行政側)敗訴部分破棄自判で、 生活保護法を改正しない限り、外国人は行政措置による事実上の保護の対象となり得るにとどまり、現行法では法による保護を受ける権利を有しないというものでした。

日本政府は、外国人は生活保護法による保護の対象外だという見解をとってきました。
現在生活保護を受給している外国人に対して行われているのは、「生活保護法による保護」ではなく、「生活保護法による保護に準じた権利性の無い一方的行政措置」(行政実務では「生活保護法の準用」と表現されています)だとされています。

そして、厚労省は「生活保護法による保護に準じた行政措置」の対象は、①「永住者」・「定住者」・「永住者の配偶者等」・「日本人の配偶者等」のいずれかの在留資格を有する者、②「特別永住者」、③入管法による難民認定を受けた者に限るべきとの見解を示しています(①~③に当てはまらない外国人で保護の対象とならないのか疑義のある事例は自治体から厚労省に個別に照会せよとしています)。

現在の行政運用では、外国人に対して行うのは「生活保護法による保護に準じた行政措置」であって、外国人には「生活保護法による保護」を受ける権利は無いとされているので、外国人が申請に対する却下処分に対して行政不服審査法による審査請求をしても、権利性が無いとして内容を問わずに棄却されてしまいます。

保護の内容や保護費の額などは日本人に対する「生活保護法による保護」も、外国人に対する「生活保護法による保護に準じた行政措置」も全く同様です(ただし、日本人の場合は住民票の所在地にかかわらず現在住んでいる自治体で生活保護を受けることができますが、外国人の場合は、現実にどこに住んでいるかにかかわらず、在留カードまたは特別永住者証明書に記載された住居地の自治体が保護の実施責任を負います)。

外国人の生活保護受給権については、オーバーステイの外国人が提起した保護申請却下処分取消訴訟に対して、最高裁は2001年に、現行の「生活保護法が不法残留者を保護の対象とするものではないことは、その規定及び趣旨に照らし明らか」「不法残留者を保護の対象に含めるかどうかが立法府の裁量の範囲に属することは明らか」との判決を下しています(最判2001(平13)・9・25)。

2001年判決では最高裁は不法残留者は「生活保護法による保護」の対象とならないと判断しただけで、不法残留者以外の外国人が生活保護法による保護の対象となるか否かについての最高裁の判断は示されていませんでした。

今回、外国人は全て「生活保護法による保護」を受ける権利を有しないと判断されたことになります。

基本的には現在の行政運用を追認したものといえますが、原告側は予備的請求として厚労省通知に基づく行政措置としての保護を行うことも求めていたのですが、高裁で主位的請求である生活保護法による保護を求める申請の却下処分取消請求が認容されたため原告は上告しなかったので、通知に基づく行政措置に処分性・権利性があるかは最高裁で審理されませんでした。
最高裁判決が「原判決中上記請求に係る部分以外の部分(被上告人敗訴部分)は、不服申立てがされておらず、当審の審理の対象とされていない」としているのはこのことです(「被上告人」とは本件の場合、原告のことを指します)。

外国人が「生活保護法による保護に準じた行政措置」の却下や廃止に対して審査請求しても内容を問わずに門前払いする現在の運用が正しいかどうかは、一応、今回の最高裁判決の射程外だといえます。

なお、一部のネット右翼は、現在外国人に対して「生活保護法による保護に準じた行政措置」が行われていることは憲法違反だなどという荒唐無稽な主張をしていますが、これは司法では既に事実上否定されています。

今回は高裁で原告側が勝って行政側が上告したので今回の最高裁判決では直接的な憲法判断はされていませんが、冒頭で紹介した最判2001(平13)・9・25は「不法残留者を保護の対象に含めるかどうかが立法府の裁量の範囲に属することは明らか」と判示しているのです。
「保護の対象に含めるかどうかが立法府の裁量の範囲に属する」ということは、生活保護法による保護の対象としてもしなくてもどちらでも違憲とはならないということです。
つまり、現行の生活保護法を改正して不法残留者を生活保護法による保護の対象とすることも合憲だということです。

今回の最高裁判決でも、生活保護法を改正して外国人を法による保護の対象とすることはありうることを前提にしていると思われます。

不法残留者に対して「生活保護法による保護」を行うことすら合憲なのに、永住者等に対して「生活保護法による保護に準じた行政措置」を行うことが違憲となることなどありえません。

なお、神奈川の右翼団が外国人に保護費を支給するのは違法だとして住民訴訟を起こしたことがありますが、「生活保護法が外国人に対して生活保護法による保護とは別に生活保護扶助費の支出をすること自体を否定するものではない以上、外国人に対して行政上の措置として生活保護扶助費を支出することが生活保護法1条に違反するという原告らの主張は理由がない」として棄却されています。
横浜地方裁判所平成22年10月27日判決(判例地方自治2011年8月号)です。

原告は控訴したようなのですが、その後の経緯は不明です(控訴審の事件番号は平成22年(行コ)第377号です)。
おそらく、控訴棄却判決が出ているか、途中で控訴を取り下げたかどちらかと思われます。
上告および上告受理申立てが行われたかも不明です。
かなり時間が経っているので、既に上告棄却・不受理決定が出ている可能性もあります。
(神奈川県庁か厚労省保護課に取材すれば分かると思います。)

もう一つ、名古屋の右翼が外国人への生活保護法の準用が違憲であることの確認と、厚労省通知の取消しと保護費の支給の差し止めを求めた訴訟があります。
一審判決は名古屋地判平成25年6月27日、事件番号は平成24年行(ウ)第148号です。
判決は当然、却下です。訴訟要件の問題で門前払いだと思いますが、判決文で内容に言及しているかは分かりません。
控訴審判決は、名古屋高判平成平成25年10月30日 事件番号は平成25年(行コ)第64号で、控訴棄却です。こちらも内容は不明です。
原告は上告および上告受理申立てを行っているようです。最高裁における事件番号は平成26年(行ツ)第11号と平成26年(行ヒ)第17号です。そのうち上告棄却・不受理決定が出るものと思われます。

Reply · Report Post