「アベノインチキ(または不誠実な安倍)」 Foreign Policy 2014年6月24日


不誠実な安倍 — 我々はどうして憲法改正へと動く日本の首相の動きが心配なのか

米国政権の見ている目の前でイラクが崩壊しようしているが、その米国政権はイラク問題にも匹敵する日本からの不吉なニュースを無視し続けている。大きな国際的関心を集めることも無く、安倍晋三首相が憲法クーデターを起こそうとしている。つまり、国民投票による支持を得ずに憲法の根本をなす重要な部分を無効化してしまおうというのである。

第二次世界大戦の結果をふまえ、日本国憲法第9条では「国家間の争いの解決手段としての武力の行使は永久にこれを放棄」している。安倍は、強大化する中国と予断を許さない北朝鮮情勢が日本国憲法が放棄したはずの軍事力による対抗手段を必要としていると信じている。日本国民を説得できるかどうかは安倍にかかっている。しかし、国民投票を飛ばして性急に憲法を変えてしまおうというような違憲的なやり方はだめだ。もし安倍のクーデターが成功すれば、それが先例になり、受け継がれてきた自由と民主主義をどんどんこわしていくことになるだろう。

これまでのところ、オバマ大統領は安倍の使命に対して暗黙の了解を与えてきた。しかし、このまま手をこまねいていれば米国のアジア政策の土台を今後何世代にも渡って揺るがすことになる。

この2年間、安倍の自由民主党は選挙で勝ち続けてきた。停滞していた日本経済を上向きにし始めたその経済政策を有権者が好感したからだ。実際日本のビジネス社会の自信レベルは世界同時不況以来最高の高まりを見せている。しかし、だからといって、経済政策の成功で得た安倍人気を利用して日本の根本的な価値をひっくり返すようなことは憲法が許さない。たとえば平和主義への日本の貢献のありかたについてである。憲法条文は両議院の3分の2以上の賛成を経なければ国民投票にかけられず、国民投票で過半数の賛成を得た上でなければ条文は改訂できない。しかし、安倍はその第一段階をクリアできていない。衆議院では自民党は連立を組んでいる公明党とあわせて3分の2以上の議席を持っているが、参議院では両党合わせても55%にとどまっている。そのうえ、有権者は安倍の改正案にはっきり反対の意を示している。共同通信による6月の世論調査では安倍の憲法改正案への反対は5月の48%から55%に増加している。

2012年12月に安倍が政権を奪回してすぐ、憲法改正のための国民投票が両院の過半数で実施できるようにしようと運動し始めた。しかし安倍の戦略は裏目に出た。国民の広い支持を得るはずが、国民からそっぽをむかれたのだ。

そこで、安倍は方針を転換して、さらに悪質なやりかたで目的を達成しようとしはじめた。日本では制度上内閣府が憲法と制定法の解釈に当たってきた。そこでは憲法9条は国連憲章で正当な自衛と定められた軍事行動さえも禁止しているとされてきた。8月以降安倍は内閣法制局に憲法解釈を見直すよう圧力をかけてきたが、5月になってそれはようやく成功した。内閣法制局は憲法9条が集団的自衛権と言う名の軍事的先制攻撃を許していると解釈を改めた。そして今、憲法改正のための法律に定められた義務的な手続きによらないで、安倍はその解釈を受け入れるよう内閣に圧力をかけている。

6月に提出された安倍の現在の提案では、軍隊がもし「他国からの日本もしくはその他の国への攻撃により、国家の存立、国民の生命、自由、そして幸福追求の権利が大きく脅かされる」ならば武力の行使は許されるとしている。「もしくはその他の国」という文言には由々しいものがある。その文言により、日本は米国や近しい同盟国のために軍事力を使えることになるからだ。そのような先制攻撃、たとえば「幸福を追求する権利」の名のもとに、石油や食糧の輸送の妨げを打ち破るために軍事力を使用することは、国連憲章51条に定める自衛の原則を大きく逸脱しており、威嚇や軍事力の行使を断固放棄している憲法9条をないがしろにするものである。

その改正案の過激な本性にもかかわらず、安倍は連立相手の抵抗を克服しつつある。公明党は面目を保てるぎりぎりの線を測りながら、違憲的な方法による憲法革命に歩調を合わせるかもしれない。もし国民と海外の世論がきっぱりとその動きに反対の意を示さなければ…。

憲法9条だけの問題ではない。1947年に出来た憲法は米国による占領下で書かれたもので、帝国政府はそれを国民投票にかけることなく受け入れた。それ以来、憲法はまったく改正されてこなかった。もし、安倍政権が法に則って両議院の3分の2以上の賛成を得て国民投票にかければ、21世紀の日本国民は、アジアの民主主義をリードする国家の、その存立の基盤となる憲法の運命を自分たちの手に握ることが許されることになる。

その反対に、もし安倍が一方的に憲法を改正し、そして国民投票のプロセスをないがしろにすれば、それはさらなる憲法クーデターへの先例を作ることになる。たとえば、憲法97条は「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」としている。しかし、自民党はすでにその文言を削除した憲法草案を用意している。また、その憲法草案では「公共の秩序を害さない」ために表現の自由と結社の自由に制限をくわえようとしている。安倍が憲法9条について憲法改正の手続きを踏まないで済むなら、ジョージ・オーウェル好きの人たちが言う「再解釈」を通して日本の憲法をなし崩しにしようとする安倍をだれが止めることができるだろうか?

オバマの4月の日本訪問の際、二人の首脳は共同記者会見に臨んだ。そこで安倍は「広域の安全保障と防衛協力を促進する」と述べた。

しかし、その対価は何だろう。この記者会見が残した誤った印象を払拭するために、キャロライン・ケネディー駐日米国大使は、憲法9条と厳密に合致した場合に限り米国は軍事協力を支持すると述べなければならなかった。そもそもオバマ政権は他のアジア列強国からの短期的な挑発に対処するために日本の助けを優先的に求めるべきではない。そうではなく、成熟した民主主義国家としての日本の立場をこの地域で確固たるものにする方がずっと重要なことだ。それ以外は受け入れられない。

BY Bruce Ackerman , Tokujin Matsudaira
JUNE 24, 2014

原文: http://www.foreignpolicy.com/articles/2014/06/24/dishonest_abe_article_nine_japan_constitution

翻訳 @reservologic

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