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26th Apr 2014 from TwitLonger

永住者の生活保護についての訴訟の上告審での展開について、一部に不正確な理解が見られますので、まとめてみました。

まず、現在、日本政府は、外国人は生活保護法による保護の対象外だという見解をとっています。
現在生活保護を受給している外国人に対して行われているのは、「生活保護法による保護」ではなく、「生活保護法による保護に準じた権利性の無い一方的行政措置」だとされています。

そして、厚労省は「生活保護法による保護に準じた行政措置」の対象は、①「永住者」・「定住者」・「永住者の配偶者等」・「日本人の配偶者等」のいずれかの在留資格を有する者、②「特別永住者」、③入管法による難民認定を受けた者に限るべきとの見解を示しています(①~③に当てはまらない外国人で保護の対象とならないのか疑義のある事例は自治体から厚労省に個別に照会せよとしています)。

現在外国人に対して行われている「生活保護法による保護に準じた行政措置」が「生活保護法による保護」と異なる点は、申請に対する却下や保護停止・廃止などの不利益処分に対して行政不服審査法による審査請求をしても、権利性が無いとして内容を問わずに棄却されてしまうことです(保護の内容や保護費の額などは日本人に対する生活保護法による保護と全く同様です)。

外国人の生活保護受給権については、オーバーステイの外国人が提起した保護申請却下処分取消訴訟に対して、最高裁は2001年に、現行の「生活保護法が不法残留者を保護の対象とするものではないことは、その規定及び趣旨に照らし明か」「不法残留者を保護の対象に含めるかどうかが立法府の裁量の範囲に属することは明らか」との判決を下しています(最判2001(平13)・9・25)。

ここで注意すべきは、最高裁は不法残留者は「生活保護法による保護」の対象とならないと判断しただけで、不法残留者以外の外国人が生活保護法による保護の対象となるか否かについての最高裁の判断はまだ出ていないということです。

現在最高裁に係属している訴訟は、永住者の在留資格を持つ中国籍の原告が、生活保護申請却下処分の取消訴訟と生活保護開始の義務付け訴訟を併合して提起したものです。
控訴審の福岡高裁判決(福岡高判2011(平23)・11・15賃金と社会保障1561号36頁)は、国は難民条約の批准等及びこれに伴う国会審議を契機として、外国人に対する生活保護について一定範囲で国際法及び国内公法上の義務を負うことを認めたものということができるとして、一定の範囲の外国人も生活保護法の準用による法的保護の対象となるものと解するのが相当であり、永住的外国人である控訴人(一審原告)がその対象となることは明らかであるとして、原告の請求を全部棄却した一審の福岡地裁判決を取消し、保護申請却下処分取消請求を認容しました。一方、保護開始義務付け請求については却下しました。

この高裁判決を不服として被告の大分市が上告し、最高裁第二小法廷は6月27日に口頭弁論を開くことを決めました。最高裁は原判決を破棄する場合は必ず口頭弁論を開かなければなりません。原判決を維持する(上告を棄却する)場合でも口頭弁論を開いてもよいのですが、そうしたことはまずありません。
したがって、保護申請却下処分取消請求を認容し、保護開始義務付け請求を却下した高裁判決が破棄されるのはほぼ確実といえます。

保護申請却下処分取消請求を認容した高裁判決が破棄される場合でも、「永住者の在留資格を持つ外国人は生活保護法による保護の対象となるが、原告は保護の受給要件を欠く」と判断される可能性も理論的にはありえます(本件においては被告もそのような予備的主張を行っています)。
本件では外国人の生活保護受給権のほかにも、原告の世帯認定や夫名義の預金が原告の資産に当たるかどうかなども争点でした。原告側は、原告夫婦は婚姻関係が破綻しており、同一世帯ではないと主張しています。

「永住者の在留資格を持つ外国人も生活保護法による保護の対象とならない」として保護申請却下処分取消請求を認容した高裁判決が破棄される場合、その射程がどこまで及ぶのか(特別永住者にも及ぶのか等)は判決文を見ないとなんともいえません。

なお、「永住者の在留資格を持つ外国人も生活保護法による保護の対象とならない」と判断された場合でも、それは一部のネット右翼が主張しているような、現在外国人に対して「生活保護法による保護に準じた行政措置」が行われていることが憲法違反だなどということにはなりません。

冒頭で紹介した最判2001(平13)・9・25は「不法残留者を保護の対象に含めるかどうかが立法府の裁量の範囲に属することは明らか」と判示しているのです。「保護の対象に含めるかどうかが立法府の裁量の範囲に属する」ということは、生活保護法による保護の対象としてもしなくてもどちらでも違憲とはならないということです。つまり、現行の生活保護法を改正して不法残留者を生活保護法による保護の対象とすることも合憲だということです。

不法残留者に対して「生活保護法による保護」を行うことすら合憲なのに、永住者等に対して「生活保護法による保護に準じた行政措置」を行うことが違憲となることなどありえません。
(従前の判例を変更する場合には、原判決を破棄するか否かにかかわらず最高裁は大法廷を開かなければいけませんが、本件は大法廷への回付は行われていません。つまり、最判2001・9・25が変更されることはありえないということです。)

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