【シリーズ】ローカル線はなぜ活性化しないのか/ビジネスとして貧弱なローカル鉄道


みなさんは「JR東日本」と聞くと何の会社と答えるでしょう?
多くの人は「鉄道会社」というでしょう。
それは間違ってはいませんが、適切ではありません。
その証拠がJR東日本の会社概要です。
http://www.jreast.co.jp/company/outline/
たしに旅客鉄道事業とは冒頭書いていますが、その他はおよそ鉄道とは一見関係の無い業種業態ばかりです。
「広告業」「金融業」「クリーニング、写真現像等の取次業」「清涼飲料水、酒類の製造及び水産物の加工・販売業}etc、一体鉄道とは何の関係があるのでしょうか?
しかし、こういったビジネスを鉄道会社は展開しているのです。
鉄道会社のビジネスモデルは単に、鉄道を走らせているだけではありません。
「鉄道を中心に複合的なビジネスを展開する企業」
これが、鉄道会社です。
例えば、「電車」ってなんでしょうか?
「人を運ぶもの」
(JR貨物M250系はどうなんだとかそういう突っ込みはおいておいて)これは間違ってはいませんが、50点です。
たしかに人を運ぶ乗り物です。
しかし、そこで発想が止まると、収益を上げられません。
電車というのは、人を運ぶ乗り物であると同時に、「広告媒体」です。
つまり、広告を掲載する場所です。
そしてその掲載料で収益を上げられます。
どれくらいの収益が上げられるのか、ここに料金表があります。
http://www.jeki.co.jp/transit/document/pdf/train_media/tm_13_P026.pdf
山手線でラッピング車体と車内広告を2週間掲載する掲載料は、なん2000万円以上です。
そうすると単純計算で一編成年間96回掲載できますから、山手線一編成で年間19億2千万円も広告収入があるわけです。
それが全部で52編成あるわけですから、998億円あるわけです。
あくまで単純計算で、常に全編成ラッピング車体をしているわけではないので実際はそこまでは無いでしょうが、ラッピング以外にも車内の広告や車内ビジョン内での広告収入もあるので、数百億は軽くあるでしょう。
一方、山手線の運賃収入はどれだけあるのでしょうか?
公式なデータは見つかりませんでしたが、「山手線と東海道新幹線では、どちらが儲かっているのか」(洋泉社)によると一日平均3億4千万円ほどと書かれているようです。
そうすると、単純計算で年間1241億円ですので運賃収入に対する8割を広告費で稼げることとなります。
と、考えると電車というのは貴重な「広告媒体」だと言えます。
電車だけではなく、駅も同様にあちこちにポスターや看板があるように、巨大な広告媒体です。
そのため、JR東日本では広告を専門に扱う子会社の広告代理店「ジェイアール東日本企画」というのがあります。
http://www.jeki.co.jp/
そしてその規模は広告業界で五指に入る規模です。
つまり、「JR東日本」は鉄道会社だけではなく、広告業界としても業界上位だと言うことです。
当然これはJR東日本に限らず、鉄道各社同じです。
ですから、鉄道会社の多くは関連子会社に広告代理店を持っています。
東急エージェンシー
http://www.tokyu-agc.co.jp/
京王エージェンシー
http://www.keio-ag.co.jp/
小田急エージェンシー
http://www.odakyu-ag.co.jp/
京成エージェンシー
http://www.keisei-agency.co.jp/
京急アドエンタープライズ
http://www.keikyu-ad.co.jp/
相鉄エージェンシー
http://soag.co.jp/

広告業だけではありません。
JR東日本は「ルミネ」などの駅ビルでの小売業やニューデイズなどの売店・コンビニ業、あるいはビュウカードによる金融業なども展開しており、これら流通業ではイオン、セブン&アイ、ダイエーに次ぐ業界第四位の規模です。
つまり、JR東日本は小売業・流通業だと言えます、
しかし、このビジネスモデルはむしろJR東日本は民鉄に遅れています。
東急、西武、東武、小田急、京王、阪急、阪神、近鉄、京阪・・・これは一体何の会社でしょうか?
もちろん鉄道業ですが、もう一つあります。
それは「百貨店」、つまりデパートです。
ターミナル駅には多くの人が来ます。
その多くの人が来る駅の上や前にデパート作ればお客さんたくさん来るだろうという馬鹿馬鹿しいほど単純な発想で、鉄道会社の多くは百貨店を経営しています。
つまり、鉄道により人が移動すると、それによりどういったビジネスを展開できるのか、それをとことん追及し収益を上げていく、これが鉄道会社のビジネスモデルです。
JRが立ち遅れているのは日本国有鉄道法(昭和61年廃止)により、鉄道事業及びその附帯事業の経営などに業務内容を限定されていたため、あまりいろいろなことができなかった経緯があります。
しかしJRになりその制限が取り払われたため、現在は様々な事業に参入しているわけです。
民鉄にはその制限が無かったため、元々様々な事業に参入してきました。

このもっとも分かりやすい事例が東急でしょう。
例えば鉄道を作るとします。
もちろん適当に路線を敷くわけには行きませんから、どこにどういう路線を通すと経営効率がいいか、人口統計や、あるいは地形、路盤、自然環境への影響なども調べないとなりません。
そういった専門のコンサルティング会社があります。
東急設計コンサルティング
http://www.tokyu-sekkei.co.jp/index.html
設計が出来たら、実際に土木工事や橋をかけたり駅を作らなくてはならないので、建設会社があります。
東急建設
http://www.tokyu-cnst.co.jp/
路盤が出来たら線路を敷かなくてはなりません
東急軌道工業
http://www.tokyu-kidoh.co.jp/
線路が出来ら電車が必要です。
東急車輛製造
http://www.j-trec.co.jp/
(ただし、現在はJR東日本に鉄道車両製造部門を売却し総合車両製作所になっています)
車両や設備にはメンテナンスが必要です。
東急テクノシステム
http://www.tokyu-techno.co.jp/
駅が出来れば、人が住みます。
人が住むには家が必要です。
家を仲介、販売するのは不動産屋さんです。
東急不動産
http://www.tokyu-land.co.jp/
人が住んだら、食べ物や生活用品が必要です。
ならばスーパーが必要です。
東急ストアー
http://www.tokyu-store.co.jp/
スーパーには豆腐や納豆、米が売っています。
東光食品
http://www.toko-foods.com/
若い人は若い人向けのファッションが必要です。
渋谷109を展開しています。
東急モールズデベロップメント
http://www.tokyu-tmd.co.jp/
たまには外食をしたいですね。
東急グルメフロント
http://www.tokyu-gf.jp/
食べたら運動しないと体に良くありません。
東急スポーツオアシス
http://www.sportsoasis.co.jp/
たまにはスキーもいいかもしれません
たんばらスキーパーク
http://www.tambara.co.jp/skipark/
こういった施設や建物には警備が必要です。
東急セキュリティー
http://www.tokyu-security.co.jp/
人が住めば団欒が必要です。
団欒の王道はやはりテレビです。
イッツコム
http://www.itscom.net/
こういった各種料金の支払にクレジットカードは便利です。
東急カード
http://www.topcard.co.jp/
決済はじめ、色々なシステムの開発が必要です。
東急コンピューターシステム
http://www.tokyu-computer.co.jp/
人が生活をすると家族をもち、子供が生まれます。
子供には教育が必要です。
亜細亜大学
http://www.asia-u.ac.jp/
こういった様々なビジネスを展開すると、ビジネスマンが訪れるので出張でホテルが必要です。
また人が住めば、結婚式もするでしょう。
東急ホテル
http://www.tokyuhotels.co.jp/ja/index.html
ホテルではシーツなどを洗濯する必要があります。
東急リネンサプライ
http://www.tokyulinen.co.jp/
こういった色々な企業はCMを作ったり宣伝が必要です。
東急エージェンシー
http://www.tokyu-agc.co.jp/
CMを作るには撮影スタジオや編集が必要です。
イメージスタジオ109
http://www.imagestudio109.co.jp/index.html
人は老いて行きますので介護が必要です。
東急ウェルネス
http://www.tokyu-wellness.co.jp/top.html
人は老い、悲しきかな亡くなってしまったら家族構成が変わるので、家を売却する必要があるかもしれません。
東急リバブル
http://www.livable.co.jp/
建て替えないまでもリニューアルするなら
東急リロケーション
http://www.tokyu-relocation.co.jp/trs/

と、言うように、「鉄道」を中心に一体どれだけのビジネスが展開できるのでしょうか?
これだけ書いても、まだ一部でしかありません。
東急は非常に象徴的かつ大規模に複合ビジネスを行っている事例ですが、民鉄の多くはどこも似たようなことをしており、JRも追随しています。
しかし、赤字にあえぐローカル線にはこういった発想が全く無いということです。

その象徴が「乗って残そう」運動です。
だから活性化といえば、沿線の人に「乗ってください」という発想しか出てこない・・・
そういったところから一向に抜けきらないから全く活性化しないのではないでしょうか。
ですから数人のお客さん増やすより、広告取った方がよほど収入になるのに、全くやっていないわけです。
しかし、こういった所は何をしていいのか全く分からず「乗ってください」と言う以外アイデアが浮かばないために、ただ闇雲に「乗ってください」「乗ってください」と言うだけになり、観光案内作ってみたものの「○×駅下車、車で50分」とか、鉄道利用してくださいと言いながら、駅からどうやって車で行くんだよという案内が平気で書かれていたり、支離滅裂な状態が日常的に起きています。
鉄道に乗らない人は乗らない理由があるわけで、例えば移動コストが車の方が安いと言うのがあります。
いまどきガソリンリッター30kmくらい走る車も登場しており、それはいい方でも20kmくらいは走る車は当たり前になって来ています。
つまり、20kmの移動コストが(地域によりますが)150~170円くらいと言うわけです。
一方鉄道なら、2倍からもっと数倍はかかるのではないでしょうか。
それに家族3人だと、さらに2倍以上です。
しかも車なら、自宅の目の前から目的地までドアtoドア、時間も自由で便利です。
それを高くて不便で時間にも制約がある鉄道をわざわざ理由する理由は何でしょうか?
皆無です。
実際、「乗って残そう」運動を展開している活性化シンポジュウムなどで聞いても、「今日鉄道で来た方手を挙げてください」というと殆ど誰もおらず、「車で来た方手を挙げてください」というと、殆どの人が手を挙げるといいます。
「あれ、乗って残そう運動なんですよね」と。
「乗って残そう」と言っている人からして乗っていない、これが乗って残そう運動の実態です。

ではなぜ、自分たちも乗らないのに「乗って残そう」と叫ぶようなちぐはぐなことをするのか?
見ているとこういったところは「乗って残そう」以外のアイデアが出てこないということです。
そうすると次に起きるのが他の真似です。
他が成功したからうちもやれば人気者になれる論理です。
しかし、山形鉄道の野村社長があるセミナーでこういっています。
http://keiei-online.jp/seminar/succession/post_192.html
「日本で1番高い山は何山かみなさんご存知ですよね?分からない人はいませんよね?日本で1番高い山は、富士山です。
では、日本で2番目に高い山は何山か直ぐに出てきますか?私は、一応駒沢大学の文学部地理学科という所を出ていますが、それでも分かりませんでした。
調べてみたら、長野県の北岳という所らしいです。長野県の北岳も富士山に及ばずですが、3,000メートル級の高い山なんです。
しかし、2番目なのに、みなさん直ぐには出てこないではないですか。」
つまり、一番初めにやったところは皆さんの記憶に残るけど、他を真似た二番煎じなんて記憶に残らないということです。
二番、三番程度ならまだしも、二十番、三十番、それ以降なんて日の目を見ることすら無いということです。
その典型的な例がゆるキャラでしょう。
どこかが成功したから「うちもうちも」とやって、結局地元の人すら知らないという現象は各地で起きています。
他が成功したからうちもやる論理で失敗した典型的な事例だと言えるでしょう。
くまモンのようにヒットしたゆるキャラはヒットした仕掛けがあったわけです。
でも、真似をするところは目に見えない仕組みを真似ないで、「なんかゆるいキャラ作っておけば人気になるんだろう」みたいな乱暴な発想で形だけ真似ます。
しかしそんな二番煎じは殆ど話題になりません。
自分たちが考える発想が無いためにこういう事が起きるわけです。

しかし、沿線の人が乗らない、乗って残そうと言っている人たちからして乗らないのにどうやって乗客を増やせばいいのでしょうか?
それは簡単なことで乗る理由を作ってあげればいいわけです。
その象徴は西武グループでしょう。
西武鉄道は所沢の当時何も無いようなところに西武園遊園地やユネスコ村、西武球場(現、西武ドーム)、などを開園します。
こういったリゾートへ行くには当然、交通機関が必要です。
しかも、遊園地の閉演時間や野球、コンサートが終わった後には何万人もの人が一斉に帰宅します。
そんな大量の人を輸送するには鉄道が最適です。
では、「おいでの際は西武線で、お帰りも西武鉄道で」と言えば、西武線の乗客は増えます。
ただ「乗ってください」ではなく、乗る用事を作れは、お客様は利用すると言うわけです。
ですから、鉄道会社とリゾート開発はセットになっているケースが多いわけです。
東武鉄道も、沿線に東武動物公園や東武ワールドスクウェアー、最近ですと東京スカイツリーなどを強力に推し進めて、そこに行く人たちの利用を喚起して運賃収入を上げています。
関西ですと近畿日本鉄道もそうで、伊勢志摩の観光開発に力を入れています。
もちろんリゾート開発は莫大な費用がかかるため、中小民鉄には無理ですが、持っている資産を生かしてやっていくのも方法です。
西武、東急、東武、東京メトロ、横浜高速鉄道は相互直通運転で、互いの観光地をPRして利用喚起しています。

もっとミラクルな複合ビジネスの事例があります。
「宝塚歌劇団」を皆さんご存知でしょう。
ところでこの劇団員の方々の身分は何かご存知でしょうか?
宝塚の劇団員の身分は阪急電鉄創遊事業本部歌劇事業部の社員扱いです。
つまり、宝塚歌劇団の人は駅員や運転士と同じ鉄道会社の社員だと言うことです。
ではしかし何で鉄道会社が劇団なんてやっているのでしょうか?
宝塚のステージを見に行くには阪急宝塚駅が最寄り駅です。
と言うことで、皆さん阪急電車を利用します=運転収入になります。
つまり、宝塚歌劇団は阪急の運賃収入を上げるのに必要ですから、それは鉄道会社が運営してもおかしくありません。
もちろん、入場料収入もなりますし、様々な著作権の権利収入にもなります。
ここで鉄道と劇団と言うのがつながります。

版権収入はJR東日本や東急でもあります。
ポケットモンスターの著作権表示を見たことがあるでしょうか?
ここを良く見てみましょう。
http://www.tv-tokyo.co.jp/anime/pokemon/
ページの一番下の方に「JR KIKAKU」と書かれています。
なぜポケットモンスターにJRが出てくるのでしょうか?
これ、前出の「ジェイアール東日本企画」のことで、JR東日本は子会社を通じてポケットモンスターに出資して権利の一部を保有しているということです。
ですから、JR東日本はポケモンを使ったキャンペーンをよくやります。
それは自分のところの権利だからです。
ボケモン以外にも色々なアニメや映画に出資しています。
http://www.jeki.co.jp/advertising/contents/index.html
東急エージェンシーもかつては「マグマ大使」にはじまり、「東京ミュウミュウ」や「かいけつゾロリ」などにも関与しています。

こう考えると鉄道は一体どれだけ裾野が広いビジネスなのでしょうか?
しかしこういったことを全く知らない、勉強もしない、それならまだしても、全く知らないのに他から学ぼうと言うことを全くしない経営者や、全く知らないのに「俺が絶対に正しい」という人たちが取り囲む・・・これが活性化できない理由だと感じます。
実際こんなことがありました。
何度も書いていますが、秋田内陸縦貫鉄道で「鉄道甲子園」というイベントを開催しようとしましたが、これが商標侵害になっているという問題を指摘したところ、参加校の生徒がなんの鉄道経営の知識も無ければ、支離滅裂な法解釈で「俺が絶対に正しい」と騒ぎ出し、うちの会社を潰してやるみたいな騒ぎを起こして、結局警察に非行事実で立件、家庭裁判所に送致されています。
つまり、社会的に完全に「NO」だと言うことです。
他の生徒も「マスコミに晒してやる」などと騒いでいましたが、逆に「手に負えない悪質なネット事件」として新聞報道されたのはこの高校生の方です。
その内陸線は一体どうなったでしょうか?
職員の手当てカットや運転本数削減などを行い、運転士が大量離脱するなど色々と現場に影響が出ているようです。
あるいは千葉のいすみ鉄道では、小さなローカル線がまさに大手民鉄のようなビジネスモデルで売店の売り上げなどで営業外収入を7000万円以上上げているのに「売店で物を売っているだけだ、利用者を増やすべきだ」と批判している地元議員がいるとか。
しかし、2013年3月に放送したテレビ東京の「ガイアの夜明け/巨大鉄道会社の野望~乗客争奪戦の裏側~」のエンディングでこのようなコメントをしています。
「鉄道会社の生き残りの鍵はもはや鉄道を走らせることに留まりません。」
そういったことが全く分からない人たちが取り囲んで、時に警察沙汰の騒動まで起こしてしまう・・・
こういった人たちが鉄道を衰退させている原因では無いでしょうか?
そして経営者もこういったビジネスモデルが全く分からないのに、居座ってしまう・・・
それもまた活性化を妨げる原因でしょう。

先般、元しなの鉄道、埼玉高速鉄道の社長を歴任された杉野 正さんにお会いしてきました。
杉野さんも言います。
こういった末期状態の赤字に陥っている第三セクターは一刻も早く民間に経営を任せるべきだと。
そしてしなの鉄道、埼玉高速鉄道も結局黒字体質となります。
また、鉄道ではありませんが、こちらも黒字化不能と言われた長崎ハウステンボスも黒字化し、ついには行政からの補助金も「儲かっているんで、もういりません」と返納する程です。
たしかに、赤字の路線の中には再起不能、そもそもなんでここに鉄道敷いたんだ見たいなところが無いわけではありません。
しかし、斬新な経営発想を持っている人たちに託せず、黒字化したり、黒字まで至らなくても大幅な経営改善をする事例は既に色々出ています。

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