オリバー・ストーン、ピーター・カズニック 外国特派員協会会見@東京 2013年8月12日(全訳 Q&A部分後半)

映画監督のオリバー・ストーン氏とアメリカン大学歴史学准教授のピーター・カズニックが出席した外国人特派員協会での会見を3つにわけて日本語訳したものの最後の部分です。通訳のつかない英語オンリーの会見だったので情報量も多く、読み応えがあります。他の二つの部分とあわせてどうぞ。

この記者会見の動画
https://www.youtube.com/watch?v=FoZsERPRqII
https://www.youtube.com/watch?v=USoFSvYuG2E

この記者会見の全訳
スピーチ部分 http://www.twitlonger.com/show/n_1rm1q8p
質疑応答前半 http://www.twitlonger.com/show/n_1rm2ha3
質疑応答後半 これ



質問:
ピーター・オコナーと言います。私は東アジアにおけるプロパガンダ研究の歴史学者です。長年私の武蔵野大学の学生に聞いていることは、東京への焼夷弾による大空襲が広島、長崎の原爆に比較してどういう扱いを受けているかということ。広島では8万人が亡くなり12万人が今でも被曝後遺症で苦しんでいる。長崎では、2万6千人が亡くなり、さらに4万人が被曝後遺症になっている。これらの数字はまだ確定していない。

東京では、終戦までの8ヶ月の焼夷弾攻撃でおよそ50万人が亡くなって、1千万人の難民が出たが、その東京大空襲の小さい石碑はようやくこの5年の間に建てられた。それにくらべて、広島では、キノコ雲、溶けた弁当箱、止まった時計などいろいろなものが広く原爆のアイコンとして認知されている。

日本の政治史の大半は陰謀だとしても、私はこのことが計画的に行なわれた陰謀だとは思わない。何か奥まった部屋で青写真を見ながらやったというよりは、ただうっかりしていてそういうことになったと思っている。それについてどう思うか。


司会:
つまり、東京大空襲が広島長崎と同等の注目を集めていないということに関してですか?


質問者:
日本はドイツに次いで世界で2番めに一般市民に対する大規模な爆撃を行なった国だ。一般市民に対する無差別爆撃は、1936年(実際は1937年4月26日)に(バスクの)ゲルニカに対するドイツの爆撃が最初で、日本は翌1937年(8月13日)に上海を爆撃している。日本はその点(通常爆弾による市民への無差別爆撃)では特別ではない。日本が特別なのは、原子爆弾を落とされたことである。それが(東京には石碑がなかった)理由ではないかと私は思っている。確信はないが。


ピーター・カズニック
まず、お断りしておくと、広島・長崎と東京空襲の被害者に関しては私が持っている数字はあなたのと違う。

あなたの質問は面白いポイントを突いており、大切だと思う。私は東京の空襲博物館(東京大空襲戦災資料センター)に行った。そこは東京空襲の歴史を知るためにみんな訪れるべき場所だと思う。

アメリカは、戦争が始まる前には、ルーズベルト大統領がスペインと中国における(ドイツと日本の)無差別の焼夷弾攻撃を、残虐で野蛮な行為であるとして批判していた。しかし米国が太平洋戦争に本格的に関わるときまでには、米国の基本戦略は焼夷弾攻撃になっていた。米国が同盟国に送った爆弾の4分の3は焼夷弾で、それはまさに都市を焼き払って市民を殺戮するためのものだった。

アメリカの基本的態度は「日本に市民なんてものは存在しないから、日本人全員が合法的な攻撃目標だ」というものだった。

カーティス・ルメイが作戦参謀だった。この人がひとつ正直だったのは、この爆撃を「テロ爆撃」と呼んだ事だった。つまりこれは国家テロだったのである。われわれは個人の起こすテロリズムにも怒りを感じるわけだが、これは国家が主導したテロリズムであり、戦争犯罪だ。

戦争長官であったスティンプソンは1945年6月にトルーマンに「私は焼夷弾攻撃について大変な懸念がある」と言った。「私はアメリカがヒトラー以上にひどいことをしたという悪評が立つ事を心配している。それは日本人に対する野蛮な殺戮だ」と。それで広島への原爆投下ということになった。

広島が特別扱いされるに足る理由は、トルーマンが原爆投下前に、それが地球上の生命の終わりの始まりだと理解していたからである。都市に対する焼夷弾攻撃はひどいことだ。ただ、焼夷弾は地球上の生命すべてを終らせたりはしないが、核の時代はそれで地球上の生命が終わってしまうことがある。

原爆投下前の5月31日に(マンハッタン計画を主導した物理学者、「原爆の父」)ロバート・オッペンハイマーはリーダーたちに、3年のうちに広島に落とす原爆の7千倍の威力を持つ核爆弾を製造できると言った。(ローレンス・リバモア所長で「水爆の父」)エドワード・テラーは1945年までに広島原爆の70万倍の威力の原爆を製造できると言った。

アメリカは3月9日と10日の二日間にわたって東京を焼夷弾で空襲したのを始め、まったく軍事的な意味を持たない都市にまで焼夷弾による空襲を拡大して行った。1945年の夏には富山市の99.5%を焼き払った。

もうひとつ興味深いのは、日本軍による上海の焼夷弾空襲は、東京裁判では取り上げられなかったことだ。どうしてか。それは上海の焼夷弾空襲の件に触れると、では、アメリカが日本にやった焼夷弾空襲は何だ、原爆投下は何だということに話が行くことになるからだ。

みなさん、おわかりかと思うが、オリバーや私が「原爆を最初に使ったのがアメリカでなくドイツだったらどうだったか」と言うタラレバの話をするのはのはそういう理由からだ。もしそうなっていたら、原爆の究極の残虐性が論じられることになって、核兵器は排除される事になったかもしれない。

しかし、最初に原爆を落としたのがアメリカだったので、核兵器は何か必要なものとして見られるようになり、アメリカがそれを持つ事に関しては、いいことであり、防衛に必要なものだということになった。

だから、あなたの持ち出したポイントは議論に値するものであり、東京大空襲は他の焼夷弾空襲のことも含めてもっと注目を集めてしかるべきだと思う。しかし、東京大空襲を広島長崎の原爆と対比させる必要はないと思う。どちらの歴史も共に記憶に留めるべきだと思う。



司会:
ありがとうございました。ではそこの真ん中の人。そのあと後ろのピーター。


質問:
フリーランスのオオバヤシと言います。オバマ大統領の外交政策特に対中政策について、中国は核を背景に巨大な帝国を作ろうとしている。また環太平洋地域を征服し支配しようとしている。二人にお聞きしたい。


司会:
質問の意味がわかりませんが。


オリバー・ストーン:
いや、私には分かる。この人は中国が自前の核兵器を作って太平洋全域を支配しようとしていることがどういう意味をもつのかを聞きたいのだと思う。……ということで、この日本の方の質問はピーターに振る。私は疲れてるから。


ピーター・カズニック:
重要な質問だと思う。アメリカに取って全地球的な優位性を持ち続けることは中心的な課題だ。2011年11月、ヒラリー・クリントンが『フォーリン・ポリシー・マガジン』に「アメリカの太平洋の世紀」と題して寄稿した。そこで、ヒラリーは、アメリカはイラク、アフガニスタンを離れて中東からアジアにシフトする必要があると書いた。アメリカはアジアにおいて支配的な力を持たなければならないと。

どのようにしてそれを達成するかというと、それは中国の脅威を演出する事だと。そしてヒラリーは、オバマもゲイツもその考えを支持するに違いないと書いている。アメリカはアジアの人々を脅して、より親米的な同盟関係を作るのだと。

まず、アジア全域に武器輸出を拡大し、それは当然日本も含み、実際日本の防衛予算は「エア・シー・バトル」のコンセプトの一部として大幅に増大した。戦闘機を台湾やその他の国に売り、2500人の海兵隊を豪州に増強し、またごく最近フィリピンに展開する部隊も増員した。

アメリカは、その軸足を大西洋から太平洋に移した。現在大西洋:太平洋を50:50で展開している米海軍勢力を、今後は太平洋を60%にすると。オバマは予算が危機的だから軍事予算を削減すると言うが、アジア地域での軍事予算削減の予定はない。それがアメリカの中心的関心だからだ。

アメリカは、アジアを「ニュー・フロンティア(新天地)」と見ている。それは軍備拡張の新天地だ。米海軍との合同の軍事演習はアジア中で展開している。紛争の軍事化をやっているのだ。

アジア地域にはたしかに紛争が存在する。中国がひどい振る舞いをしていることも事実だ。そして中国に強力な国家主義的要素が存在する事も間違いない。中国の政策はどこか愚かしい。しかし、長年にわたって、弱く、虐げられてきた中国が、今や、世界第2位のGDPを持ち、軍隊の近代化を行い、国際的に強く主張するようになってきたのだから無理はない。しかし、どこかふらついている印象がある。

だが中国はアメリカほど好戦的な国であったことはない。日本はアメリカに寄り添って来たわけだが、アメリカは第二次大戦以降、戦争に次ぐ戦争を戦ってきた。それに対して中国はアメリカが周辺諸国に対して与えててきたほどの脅威を周りの国々に与えてきたわけではない。アメリカは、国外に数千の基地を持つ帝国だ。一方、中国が国外に持つ軍事基地はたったの1つだ。

中国は政策を転換すべきだ。中国は、安倍のような日本の軍国主義者たちに軍備増強と憲法9条廃止の口実を与えるべきではない。日本の中には核武装論者もいる。

だから中国の外交政策はきわめて重要だと思う。自国と周辺国の平和を維持するためばかりでなく、その政策が日本や周辺国の右翼のリーダーたちに発言のネタを与え、周辺諸国を怖がらせることによって、アメリカの地球規模の覇権主義的ヴィジョンを支持する結果となるからだ。

それが、中国の外交政策を危ういものにしている原動力だと思う。



司会:では後ろにいるピーター。


質問者:
オーストラリア、ヘラルド・サンのピーター・ライアンです。まず、あなたがこの作品『もうひとつのアメリカ史』を出版してくださったことに感謝します。本当に素晴らしい作品だ。

「第4期ブッシュ政権」について先ほど述べられたが、オバマ政権側からお二人のプロジェクトに関して何かコメントがあったかどうか伺いたい。それについて、彼らが何か言ったか。真実が明らかになる事が嫌だとか、おそろしいとか……。


オリバー・ストーン:
彼らは無視したんだろうと思う。彼らが私のドキュメンタリーを見たかどうかさえわからない。正直なところ、アメリカはとてもとても大きな国だ。さきほどの女性の質問者にも答えたが、主流のメディアからは全く無視された。

私にとってオバマは……、ピーターも言ったことだが、つまりあの悪夢のような8年間にブッシュは「法律家の言う事など気にしなくてもいい。いいように取りはからえ、とにかくテロリストをやっつけるのだ」と言って法律を破り、盗聴を強行した。2003年のことだ。彼はどんな手段も手に入れようとした。

そしてそのあと「法律家の」オバマが登場し、「法律的な方法で」政府が合法的に盗聴できるようにしてしまった。特にリベラルのオバマ支持者の望むように制度化して。

でも、彼の行為は違法だ。盗聴行為は違法なのだ。アメリカは、平たく言えば全世界を盗聴している。時間をさかのぼってだれの会話でも聞くことができるなんてことができる必要はない。しかし、そのシステムはもうできてしまっている。

オバマの世界盗聴は明らかに違法行為だ。オバマは「私には盗聴する権利がある。法律家も合法だと認めている」と言う。しかしオバマはどのようにして法律家が彼ににそのような権限をあたえたのかについては言わない。なんでも秘密裏にやってしまうのだ。秘密コードを仕組んだコンピュータのように。

オバマには FISA (Foreign Intelligence Surveillance Act = 外国情報監視法) があるが、そこに君臨するのは保守的な主席裁判官ジョン・ロバーツだ。彼が裁判官の任免権を持ち、ほとんど全部の検察官ポジションに共和党員を任命している。そのおかげで、3年間、オバマ政権のすることどんなことでも認めてきた。

「だってテロリストがいるんだからしょうがないだろう」と言う人がいるだろう。たしかにテロリストはいる。しかし、テロリストの脅威の場所を特定するのは、世界の諜報機関が互いに協力し合いながら、世界をまたにかけた諜報活動と警察活動によって行なえばいい。

われわれには(世界規模での盗聴を許す)こんな法律は必要ない。テロリスト対策には、これまで英、仏、伊 、独などの国が長年やってきたことで十分足りる。20世紀の後半、彼らはがんばっていい仕事をしてきた。人間による諜報活動だ。一定量の盗聴で問題は全部解決できた。今日あるような気違いじみた過剰反応は必要なかった。

そもそもオバマは社会に透明性の確保を約束してきた人だ。市民の自由を守ると約束して大統領になった人だ。その人が(個人の自由を補償した)マグナカルタ修正4条と5条を侵害したのだ。外国人の権利がどうこう言う以前に、私などのような一般の人々にとってそれは由々しいできごとだ。

「マグナカルタ(大憲章)」は、ジョン王とか、ロビンフッドとかの時代にできたものだが、そのころまでは、われわれ民衆には何の権利もなかった。悪い王が「決める」といえば何でもその通りになった。王は法律を超越した完全な権威だった。そして我々の側に法律はなかった。そこにマグナカルタができて、ようやくわれわれひとりひとりに法律による保護が与えられたのだ。それが今、侵害されようとしている。私や多くのアメリカ人が怒っているのはそのことだ。

エドワード・スノウデンは私のヒーローだ。利益目的ではなく良心にしたがって彼の持つ情報を漏洩したからだ。自分の命をかけるような彼の良心に私は感動した。

スノウデンは今逃亡している。そして、メディアはこぞって彼の事を無法者扱いする。しかしそれは単純なものの見方だ。本当は、かれは自分の命と健康を私たちのために犠牲にしたのだ。私たちは政府に(スノウデンの訴追を)思いとどまるよう圧力をかけなければならない。メディアもだ。

警鐘を鳴らした人がオバマに脅迫されている。警鐘をならした7人の人がもうすでにオバマによって訴追されている。ひどい時代になったものだ。オーウェルが書き表した時代がまさに来ている。「ビッグブラザー」の時代だ。オーウェルも予想できなかった事は、ふつうの家庭のひとりひとりが監視される時代になったことだ。

オバマは「心配しなくてもいい。全部に聞き耳立てているわけじゃないから」と言う。しかし聞き耳立てる「ことはできる」わけだ。そして、オバマじゃなくてもだれか別の大統領たとえばブッシュ3世だとかヒラリー・クリントンだとが出て来たらどうなる?

「テロリズム」とか、ナンセンスだ。「テロリスト撲滅」が世界を支配している。米国は常軌を逸している。(カーター民主党政権の国家安全問題担当補佐官だった)ブレジンスキーはアフガニスタン政策を批判した。ブレジンスキーでさえこの超おバカな政策を攻撃している。

我々は後戻りしなければならない。どのように後戻りできるのかわからないが、この「テロリズム」フィーバーから後戻りしなければならない。

政府の公的な活動に対して抗議する人々、公民権運動とかベトナム戦争反対とか、イラク戦争に反対する学生運動とか、こういう抗議活動はとても大切だ。人々の中から泉のようにわき起こって来たものだ。

しかし、今ターゲットになっているのは、テロリストだけではない。こういう民衆から出て来た抗議活動もターゲットにされている。つまり、政府の将来の政策にたてつく者、ウォールストリートの銀行家に抗議する人達も、みんな「潜在的脅威」としてターゲットにされる。だれでも潜在的脅威として標的になるのだ。

ボストンマラソンでは、環境活動家たちの抗議行動を追跡するのに忙しくて、爆弾を持った連中がいるのに気がつかなかった。つまり、彼らの関心は「テロリスト」ではなく、「反政府活動をする人々」なのだ。まるで、J・エドガー・フーバー(がFBI長官だった)時代になんでもかんでも政府に抗議する人間のせいにしたようにだ。

フーバーは政府にたてつく人間が大嫌いだった。抗議する人はだれでも「サヨク」で「共産主義者」だということにした。ベトナム戦争の時代には、証拠もないのに50万人の人が彼のブラックリストに載せられ、盗聴された。

我々は今、そのときと同じ場所にいる。

オバマはヘビだ。我々はそのヘビを引き戻さなければならない。




司会:最初にここにいる人、それからハセガワさん、その次にその後ろで手を挙げている人。


質問者:ジャーマン・プレス・エージェンシー(DPA)のロッチ・グレイザー(?)です。日本について短い質問を一つ。 これからのプロジェクトとして、『もうひとつの日本史』を作ろうと思ったことは? もしそまだ考えていなかったら、将来的に協力してくれる日本の映画監督や日本の歴史学者とジョイントでそういうプロジェクトをやろうと思うか。


オリバー・ストーン:
プロデューサーとしては、『もうひとつのアメリカ史』と同じような時間と、自己資金を日本のプロジェクトにつぎ込むことは、もうちょっと無理だと思う。計画がしっかりしていて、お金の方を日本側で何とかしてくれれば、もちろん協力したい。

司会:ピーター、あなたはいかがですか。

ピーター・カズニック:私はもう同意している。オリバーさえよければ、私は一緒にやる。もしそんなのが完成したらいいと思う。日本にいる間毎日、わたしたちは日本の友人たち、同僚たち、メディアからも(日本バージョンを)作ってほしいという声をたくさん聞いた。

日本滞在は、オリバーにも私にも学習体験だった。被爆者のみなさんから、ジャーナリストたちから、歴史研究者から話を聞き、たくさん本を読み、いろいろなところでいろいろなことを学んだ。私は日本についてある側面のことは知っていたが、より広い視野から見た日本については知らなかった。オリバーは日本の歴史の事はまったく知らなかった。だから知識が必要だった。

そして日本をあちこち旅して学べば学ぶほど、日本の過去が、日本だけでなくアメリカにとっても、世界にとっても、どんなに重要かがわかってきた。

日本とアメリカは蜘蛛の巣のようにリンクしながら、協力してウソの歴史を作って来た。アメリカと日本は、世界第一位と第三位の経済大国で、世界第一位と第四位の軍事大国だ。もし両国が協力して、今までしてきたようなこととは別の、世界にとってもっと良い事をしたら、世界を大きく変える事ができると思う。

私たちは、日本がもっと中国に手を差し伸べる姿を見たい。日本が過去に中国に対してしたひどい仕打ちに配慮しながら二国間に信頼関係を築くことで、両国にある狂信的なナショナリズムを過去のものにできたらいいと思う。



司会:ハセガワさん。

質問者:
ラジオ・ニッケイの長谷川です。広島と長崎でたくさん発見があったということだが、福島の原発事故についてはどのように注意を払っているか。


ピーター・カズニック:
私は、共著として日本の原子力発電についての本を書いたことがある。私の見るところ、日本の原子力発電は、アイゼンハワー大統領の「核の平和利用プログラム」から来ている。

アイゼンハワーは、アメリカの軍事力を核依存型にしようとしていた。1953年にアイゼンハワーが大統領になったとき米国は一千発の核兵器を持っていたが、辞めるときには、米国は3万発の核兵器を持つに至っていた。実際に持っていたのは2万3千発だがアイゼンハワーが通した予算は3千発分だった。

アイゼンハワーは核兵器を最終兵器とせず、核兵器から始まる軍事力を考えていた。一つしかなかった核ミサイル発射ボタンを数十に増やした。アメリカの軍事計画では、もしアメリカが対ソ連(核)戦争を始めれば、6億5千万人が死ぬだろうと見込んでいた。

そのようにしてアイゼンハワーは核兵器を世界に売った。彼は「原子力がいいものだと世界に思わせる事ができないかぎり、核兵器を世界に受け入れさせることはできない」と言った。そこで、1953年12月に国連に出向く前、アイゼンハワーは「核の平和利用」を言い出した。それはウソであり、裏切りであり、見せかけにすぎなかった。

書類をちゃんと読めば、そこにははっきりと「これ(『核の平和利用』推進)の目的は核兵器を使用可能にすることだ」と書いてある。それがアメリカの戦略だった。それで、米国は日本の指導者たちといっしょに日本で原子力発電を推進した。

その日本側の指導者のひとりは正力(松太郎)だった。彼はA級戦犯だったが米国の取り計らいで娑婆に出て、読売新聞の創始者となった。正力はCIAとUSIAを通してアメリカに協力して、日本で原子力推進のプロパガンダを始めた。

日本での原発推進は簡単な事ではなかった。特に、日本は原爆の犠牲者だったし、1954年の第五福竜丸事件のあとは、日本の世論は沸騰していた。翌年には日本の人口の実に3分の1の数の核兵器反対署名が集まったりした。米国がこういう状況をなんとかしようとして始めた事。それは組織的プロパガンダだった。

彼らが日本で最初の原子炉を置こうとした場所は広島だった。それがアメリカの望んだ事だった。アメリカはそうやって原発を日本で推進しようとした。しかし、気が狂った都市か思えないのは、そもそも日本のように地震の多発する国にたくさん原発を作るなど、我々にはまったく意味がわからない。

日本は全くちがう政策を持つべきだった。中国は今や太陽光発電で世界をリードしている。日本のようなすばらしい技術を持った国はいまごろ中国と肩を並べていなければならなかった。そ

れなのに不幸な事に日本はそのエネルギーを液化天然ガスでまかなうことに決めた。その多くはアメリカから来る(シェールガスな)のだが(これの採掘に使う)フラッキングという技術は非常に危険な作業工程だ。

だから、簡単な解答というのはないのだが、福島に関して言えば、この原子力発電所は、他の原発と同じく自然災害で破壊されるのを待っていたような存在だったといえる。東京電力はウソをついてそこで本当に置きている事を隠してきた。そしてその結果ひどい環境破壊がおきてしまった。空気中に出て行く放射性物質だけでなく、いまや大量の放射性廃液が海に流れ込んでいる。

もう、東電にも政府にも解決できないような事態になっている。おそらくここにいらっしゃる特派員協会のみなさんの方がよくご存知だと思うが、これは非常に危険な状況だ。なのに、安倍は各地の原子炉を再稼働しようとしている。現在動いているのは2基だけだ。残りを稼働させようなどと、正気の沙汰ではない。六ヶ所の話もだ。

日本はエネルギーを得るための、また平和的な発展のための別のやりかたを見つけるべきなのだ。



司会:ありがとうございました。では、その後ろの人その次にいちばん奥の人。時間が迫っています。あと5分でおしまいなので……。延長できますか? 15分延長できるそうです。


質問者:
お時間をいただきありがとうございます。オリバー・ストーン監督に伺いたい。正しい知識を得るという事に関して、どうお考えか。あなたはこのプロジェクトのために自己資金を投入したということだが。あと、もっとたくさんのスノウデンに出ていてほしいとお考えか。

また、この政権に関して選挙のやり直しをした方がいいとお考えか。権力側による非常にたくさんの情報スピンが行なわれ、人々が正しい情報を元に政権を選択できない状態があると思う。どうすればいい?

もうひとつ聞きたいのは、あなたは孤独な戦いをしていると感じているか。「真実は金がかかる」と言うが、金銭的な意味でも。


オリバー・ストーン:
たしかに、私は孤独だと思う。しかし、いろいろな国、アメリカのいろいろな小学校、高校、大学といったところに出て行ってみんなに話して感じるのは、私は一人ではないということだ。私たちは孤独ではない。この(ドキュメンタリー)映画を作って、いろいろな意味で報われたと感じている。

最後にはDVDの売り上げとかでいくらか利益が出るのかもしれない。それはわからない。ただ、このプロジェクトはやって良かった。これまで作った映画の中でも最高のやりがいを感じた。このプロジェクトの5年間でそれまでの人生で得た以上の歴史の知識が得られたと感じている。この仕事は、わたしがそれまでの人生で持っていた信念をさらに強めてくれた。

私は、これをやったおかげで「いいカルマ(業)」が得られたと感じている。「もしあなたが平和のために心配するなら(=徳を積むなら、いいカルマが得られる)」と言う。私にとって私の人生がいちばん心配だけれども、今ではこれまでになかったほど平和の事を心配している。

もうひとつの質問だが、だれでもこのドキュメンタリーシリーズから自分のものを取っていくことができる。これは12時間の映画で70年間という長い期間をを扱ったドキュメンタリーだから、だれでもそこから自分に必要なものを取って行ってくれればいい。原子力発電に興味のある人もいるだろうし、スノウデンに興味のある人もいるだろう。

ただ言わせてもらえば、この映画は、世界的な規模で行なわれている「信頼の不正使用」の話だ。最初の方でも言ったが、米国は、原爆を落としておきながら、しれっと「これは正しいやり方だったのだ」と言う。「正しいやり方」だったわけがない。正しいわけがない。まちがったやり方だったのだ。我々が強調したいのはそこだ。

ただ、原爆そのものが話の中心というわけではない。原爆の話は、あるくり返し現れる「パターン」の一部なのだ。

アイゼンハワーは米国を核爆弾で軍事国家にした。(大統領だけでなく)司令官、副司令官たちにも核のボタンを押す権限を与えた。(スタンリー・キューブリックの)『博士の異常な愛情』のシナリオはそこから生まれた。

ジョン・F・ケネディーは1962年に、ジョン・フォスター・ダレスとドワイト・アイゼンハワーのやった「核の瀬戸際政策」がアメリカ自身に跳ね返って来たもの(キューバ危機)と向き合わなければならなかった。

ケネディーはそのことから多くを学び、勇気ある行動をとった。『もうひとつのアメリカ史』の中ではかなり詳しくジョン・F・ケネディーのことを扱っている。昨日、ハヤカワ・コンファレンスでも、ケネディーを扱った美しい第6章を上映したのだが、ケネディーは偉大な平和戦士だった。

ゴルバチョフのことも扱った。その愛すべき1章でわれわれは「世界の希望」を見せたかった。ゴルバチョフはその時代の本当の偉人だった。ロシアで彼がどう言われているかなど関係ない。私たちが見ているのは「全体像」なのだ。

時代は下って今日の時代を私たちは「テロの時代」と呼ぶ。今年の1月にその章を作り終わったのだが、その1章にブッシュとオバマを入れた。 どの出来事を扱うか決めなければならなかったほどたくさんの出来事があった13年間の話だ。

最後の章はシリーズの最後を飾るにふさわしい寛大さの章にしたいと話し合った。ソフトパワーを発揮しようとしたリーダーたちについての話だ。ルーズベルトや、ウォレスや、ケネディーのような人々だ。彼らはハードパワーのことだけでなく、他の国々のことを思いやり、感情移入して世界の人々の心をやわらげることを考えた人達だった。

たとえば、ヘンリー・ウォレスは第二次大戦で甚大な被害を出したソヴィエト連邦に対して思いやりを示そうとした。ソ連は、暴君スターリンのイメージが強いが、ソ連については別の見方もできるのだ。

だから、このシリーズを見終わった人が、世界に対するより広い思いやりの心を持ってくれたらいいと思う。たとえば、独立しようと苦しんでいる他の人々の苦しみに対してもっと意識的になってくれたらいいと思う。

第三世界についてもある程度まで深く扱った。1955年のバンドン会議がどんなに重要だったか。あの怒り渦巻く時代に、(エジプトの)ナセルや、(インド)のネール、(インドネシアの)スカルノや、(ユーゴスラビアの)チトーなどが一堂に会したのだ。世界の同じ人々が「こんな狂気の(核)競争はもうたくさんだ、我々自身の事を考えよう」と、「冷戦のことを離れて、我々の国の発展のことを考えよう」と。ちなみに、この会議を主導してリーダーたちを集めたのはソ連ではなくアメリカだった。

CIAには非常にきたない歴史がある。米国はいつでも弱いフリをしていたからKGBなどに比べるとCIAははるかに効果的に仕事をした。ケネディーが大統領だったときも、いつでもソ連の方がたくさん武器を持っているということになっていた。さっきの質問者の方が中国は核のモンスターだと言っていたが、実際は中国の核兵器など、アメリカに比べるとまったく取るにたらないものだ。(それくらい実際のアメリカの軍事力は群を抜いているのに、アメリカは弱いフリをする)。

第10章では、宇宙の軍事化についてあつかっているが、アメリカの宇宙軍事化の技術は信じられないくらい進んでいる。ウイスコンシン大学のマコーイ教授が、今後10年ぐらいのうちに、250マイル(402.3km)上空の宇宙空間にある無人衛星が、一つ一つの目標を攻撃できるようになると言っている。宇宙空間から一国を破壊するという話をするところまで来ているのだ。

サイバー空間の軍事化という話もある。アメリカは中国が大きなサイバー攻撃を仕掛けていると言った。皮肉な事に、最初のサイバー攻撃をイランに対してしかけたのはアメリカだった。それなのに中国にサイバー攻撃を仕掛けられたと言って大騒ぎする。これはアメリカのメンタリティーなのだ。アメリカはいつでも「弱い」ふりをする。そのメンタリティーはアメリカにとって、この「静かなる帝国」にとってはいいものなのだ。

しかし実際、米国は「静か」ではない。いつも「声高」だ。世界はそれを知っている。スノウデンがそれを証明してみせた。世界中に数ある国のなかで、スノウデンに「家」を提供しようと申し出たのは5カ国にすぎない。このことは世界中がこぞって同じ「病気」にかかっていることを示している。

フランスはどこだ?フランスは、ドゴール時代ならスノウデンの亡命を許しただろう。ドイツも亡命を許したはずだ。ブラジルがスノウデンを受け入れないと直ちに決めた時は、ウソだろうと思った。ブラジル大統領のジルマ・ルセフは前任のルーラと同じ道を行くはずだと思っていたがうらぎられた。

しかし現実は、全世界がアメリカを恐れているのである。中国がスノウデンを逮捕しなかったことはよろこばしい。少なくとも中国はアメリカに対してあのような態度をとるガッツがあった。ロシアのプーチン大統領は正しい事をしたと私は思う。彼がとった態度を誇りに思う。もっと多くの国が米国に対して立ち上がるべきだと思う。アメリカはもっと世界から「No」の声を聞かなければならない。米国に歯向かう声を聞かなければならない。

そういう意味で(ベネズエラの大統領だった)チャベスは良かった。地域で一定の力を持っていたからだ。地域的な力が大切だ。トルコ、ブラジル、ベネズエラ、中国、ロシア、そういった国々だ。

日本は…、なんということだろうか!眠りこけていた。日本の総理大臣はみんな寝ていたのだ。もう68年間も! 日本はそろそろアメリカとたもとを分つべきだ。安全保障条約を解除してアメリカの核の傘から出るべきだ。なぜか。それは日本は再び偉大な国になることができるからだ。アジアにおいて平和をもたらす真のリーダーになれるからだ。

それはそれとして、長い目で見た日本の国益は、中国とともにある。日本はすでに中国の最大貿易国だ。中国を敵と見なしてはいけない。違う見方で見るべきだ。

まず過去に日本が中国に対してしたことを謝ることからはじめてほしい。日本が殺した人々に対してまず謝ってみたらいい。そのとき世界は「なに?日本が謝罪したんだ!」と驚いて新聞の大見出しになるだろう。それはある意味ゴルバチョフが周辺国に対して示したのと同じように、アジアの平和の始まりを告げるものになる。それは言わば春の到来のような、新しい世界の始まりを告げるものになるだろう。

そして、中国も日本を嫌うのをやめて日本に対する見方を変えるだろう。それが始まりなのだ。

おっと…、質問はなんだっけ……?


質問者:日本の軍国化を支持するのか。アメリカをもう必要としない日本ということになると独立した軍事国家になることを意味するのではないか。

ピーター・カズニック:
いや、そういうことにはならない。あなたは選択肢の設定を間違えている。なぜかというと、日本はすでに大きな軍備を持っているからだ。日本は今でも世界第4位の軍事予算を使う国だ。

ただし、日本に必要なのは守備のための軍備で、攻撃のための軍備ではない。憲法9条を廃止に向かうプレッシャーは多い。憲法96条の変更が話題になっているが、9条廃止へのプレッシャーも強い。

しかし、私たちは、憲法第9条が再びきちんと機能する姿を見たい。今でも9条は骨抜き状態だが、もし廃止してしまえば、日本は今よりももっと直接的にアメリカの戦争に巻き込まれて行く。そして日本の青年たちが遺体を収納する袋に入って帰国することになる。

第二次大戦以来、米国の起こした戦争に次ぐ戦争でアメリカの若い男女が袋に入って帰国した。日本は将来そういうことになりたいのか。アメリカの戦争に巻き込まれて? 私は日本の人達がそんなことを望んでいるとは思わない。

あと2、3点付け加えると、あなたは「真実は金がかかる」と言ったが、現実は「虚偽は命を奪う」のだ。これが選択肢だ。真実を知るためには金がかかる。しかし、真実をしらなければ、それよりももっと大きな代償を払う事になるということだ。

T・S・エリオットが『ゲロンチョン』で的確な疑問をなげかけている。「ここまで知ってしまった以上、どんな許しがあるというのか」と。オリバーと私は、知識を得ようとしてやってきた。私たちは本当に苦労した。精神的にも苦労した。わかっていただけると思うが、私たちが相手にしているのは、銃、兵器、爆弾、爆撃機を持ち、全てのメディアを支配し、教育の大部分を支配しているものだ。しかし我々には真実がある。

つまり、これは、「真実」対「軍事力、軍事化に対するプレッシャー、搾取、その他」の闘いなのだ。我々は真実には力があると思っている。

世界を見渡せば、もちろん私たちは抗議活動を支持するけれども、しかしそれ以上に世界は不安な状況の終焉に向かっている。全世界がだ。私たちはそれをギリシャに見る。60%の若者、18歳から20歳、30歳までの若者が失業している。チュニジアでは26歳の物売りが何度も侮辱されたのに抗議して焼身自殺した。それに触発されてがあっという間に「アラブの春」が起った。ほかにも、エジプト、トルコ、ブラジルなど、世界中で同じ事が起っている。米国内でさえその兆候はある。われわれはそれを「希望」と見ている。

我々はこれに歴史的な意味を与えたい。武器、歴史、「オキュパイ」運動、のことについて考え始める必要がある。それが歴史に焦点を当てる意義なのだ。

アメリカの抱える問題の一つは、人々がユートピアを語る事をやめたことだ。彼らは今ある現実は不可避なものだと信じている。しかし我々は、人間が作ってきた世界に不可避なものなどひとつもないと信じている。

だから、我々は、正気の人達で世界を作り直すのだ。こんな世界、300人の金持ちが3千万の貧乏人を合わせたよりたくさんの冨を持っているというような世界は私たちが作ろうとしたものじゃないと。我々が作りたいのは武装社会ではない。宇宙から何からすべてを軍事化する世界ではない。

我々は他にも違った世界、違う考え方があったはずだとみんなに教えることができる。世界を違うものにするための時間はまだある。まだ世界は滅んでいない。まだ我々にはできることがある。『もうひとつのアメリカ史』が、さらなるいくつかの『もうひとつの歴史』へのきっかけになればいいと思っている。そして、世界が『もうひとつのアメリカ史』を国家権力に対抗する「真実」という名の武器として使ってくれればいい。


司会:ありがとうございました。他に質問の手を挙げていただいていた方、ごめんなさい。もう終らなければいけないという厳しいお達しがありまして。

もう一人質問を受けますか?


オリバー・ストーン:
では、もう一人。


司会:ではそこの方



質問者:
フリーランスのマイケル・ガルブレイスと申します。
ちょっと話題を変えたいのだが。あなたの言う「もうひとつの歴史」は日本がどのようにして第二次大戦に巻き込まれて行ったか、その始まりに関してもうひとつ別の視点も提供できるのではないか。また、アメリカが第二次大戦の終わりに取り戻した大量の金(きん)の果たした役割について新しい見方を提供できるのではないか。その金(きん)のことはあなたがたの言う「パターン」を裏書きするものではないか。


司会:それは答えるのが難しそうな質問ですね。本のこのページを読んでくれという答えはできませんか?


ピーター・カズニック:
その質問にごく簡単に答えるなら、答えは「ノー」だ。

アメリカ帝国とアメリカの国防に関する「もうひとつの歴史」について、アメリカで私たちが出版した本は800ページある。その800ページの他にボツにした200ページがある。本を手で持てる重さにしたかった。最初出版社は275ページで収めてほしいと言っていた。私たちはそんなの無理だと言ってなんとか800ページの本にしてもらった。

私たちには時間の関係で扱うことの出来なかったたくさんの話がある。時間がなくて調べることのできなかった歴史がたくさんある。

だから、この本では、読者みんなが理解できる中心的な課題にしぼって扱った。アメリカ帝国について、米国の安全保障のありようについて、世界の安全保障のありようについて。今現在の状態、また今あるその状態をもたらしたのは何かについて、それをこれから帰るためには何が出来るかについて、私たちにはできたのはそこまでだ。


司会:ピーター・カズニックさん、オリバー・ストーンさん、すばらしいスピーチをどうもありがとうございました。明日の読売新聞の見出しが楽しみですね(笑)。「いつわりの蜘蛛の巣でつながった日米関係」それに正力松太郎の写真入りで一面を飾ることでしょう。


オリバー・ストーン:
今日はおまねきいただき、ありがとうございました。


質疑応答部分後半 全訳 ここまで

文責 @reservologic (萩原一彦)

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