http://iwj.co.jp/wj/open/archives/96469

2013年8月15日 オリバー・ストーン監督、ピーター・カズニックアメリカン大学准教授(歴史学)の那覇での記者会見の全訳です。宜野湾での講演会のものではありません(宜野湾のは映像が見つからなかった)。アメリカ人でありながら極東におけるアメリカのパワーにびっくりしたという感想が聞かれる内容です。



質問(朝日新聞、のべ(?)みゆき氏):どうやったら、それぞれの国の歴史認識をすりあわせることができるだろうか。南京虐殺も、30万人を虐殺したという説もあるし、虐殺はあったが30万人も殺してないという説もある。どうやったらそういった歴史認識の齟齬を克服できるだろうか。



オリバー・ストーン:
まず、みゆきさん、はじめからずっと付き合ってくれてありがとう。あなたみたいにくっついてきたリポーターは初めてだ。ここではあなたに対してすでに話した事しか話せない。もう聞いたよというかもしれないが、本当にこれ以上話すことはないんです。あなたに話せることはもううちの夫婦関係のことぐらいしか残っていない(笑)。

ところで、日本に来て、「あなたのメッセージはなんですか」といつも聞かれた。一言でなにか伝えてくれというとなのだけど、私は思うに、ジャーナリストたちはドラマ作家としての私に映画のタイトルを教えてくれと言っていたのだと思う。

今日の新聞のタイトルはよかった。ここには日本語で「戦争は終ってない」と書いてあるのだと思うが、これはいいタイトルだ。同時にメッセージでもある。ただ、「メッセージ」というものは私にとってはとってはとても学術的に過ぎる。だから「ストーンさん、あなたのメッセージはなんですか」と言われるが、それはメッセージというより、たぶん「テーマ」のことなんだろうと思ったほうが私にはしっくりくる。

でテーマということなら、私は始めから「アメリカ人と彼らの語られた事のない歴史」を発見するというテーマでやってきた。その過程で、時として、アメリカ以外のよその国の歴史を発見する事もあった。そしてその国の事を調べなければならないこともあった。それがたとえば日本だったというわけだ。

この日本への旅行で、私は大多数のの日本人の、彼ら自身の第二次大戦にさかのぼる歴史に対する「無邪気さ=naiveté」にショックを受けた。本当にショックだった。そして、落ち込んだ。海外の人はアメリカ人よりもいい教育を受けていると思っていた。でも、日本人が歴史に関して受けている教育は、アメリカ人の受けているのと同じく、政治的な問題を抱えていることがわかった。

北アメリカでは、文字通り原爆経験を通り抜けて来なかった。原爆の事を理解して来なかった。しかし、状況は、なんと日本でも同じだった。日本も原爆の事を理解せずにここまで来ていた。皮肉な事だが、私のこの旅行の間に歴史は繰り返し、福島の放射水漏れがおおやけになってた。不幸な事だ。そして、またこの事実も秘匿されてきた。

アメリカ、日本、中国、ロシア…、これら全ての国の歴史が、語られたことのない歴史も、語られた歴史も、ウソも、真実も、すべてが川のように流れて最後は海にそそぐ。そして海が歴史の真実を解き明かす。われわれはその途上にあってベストをつくしている。

では、ピーターからもどうぞ。さあ、みゆきさん、新しい情報ですよ(笑)。


ピーター・カズニック:
みゆきさん、オリバーは、歴史は川のように流れて海にそそぐと言ったが、福島ではだれかの流した放射能が海に流れている。だれかの放射能の歴史が流れている。だれかの感情の高ぶりの歴史、だれかの浄化の歴史が流れている。それが持ち上げられたり、拡大されたりしてきた。たぶんそれがあなたの質問への答えになるんだと思う。

どんな国でも歴史家の間で、人々の間で、歴史解釈の論争がある。米国ではオーソドックスで伝統的な一派の歴史解釈、それは「凱旋のシナリオ」と呼ばれるものだが、そんなものがある。それはアメリカの偉大さを語る歴史であり、神がその最初からアメリカを祝福しているというような、また神がアメリカが世界を救う道を示したというようなそんな歴史認識だ。アメリカのウッドロウ・ウィルソン大統領も「今こそ世界がアメリカが世界を救うのを見るときである」と言っ(て第一次世界大戦参戦を決め)た。それは一つの歴史認識である。

一方、「修正主義」と呼ばれる歴史認識もある。オーソドックスな歴史解釈に挑戦する一派で、これはときに悲劇主義者と呼ばれている。修正主義者は、歴史は完璧ではないという立場を取り、その証拠も提出している。

あなたはさっき南京虐殺の話を出したが、大切なのは25万人死んだか、15万人か、30万人かということではなく、それが、その国の歴史の中にどのように組み込まれているかということだ。

われわれの「アメリカについて語られなかった歴史」は、原爆、ソ連のヨーロッパに置ける第二次大戦の勝利、そして「冷戦」に始まる。「冷戦」の大部分は米国に責任があるとわたしたちは考えている。それから、冷戦の間中ずっとあった核の脅威と、それが朝鮮戦争に引き継がれたことの問題もある。

先週オバマ大統領は、朝鮮戦争は米国の勝利だったと言った。オバマ大統領が何を吸っているのか知らない。彼はかつて(マリワナを)吸っていたことがわかっているけど、今吸っているかは知らない、でも、あんなことを言うんだからたぶん吸っていたのだと思う。

我々は、イラン、グアテマラ、キューバ政府の転覆計画、ブラジルやドミニカ共和国、ベトナム、チリ、インドネシアへの介入、それにコンゴ、それらについても別の見方をしている。そしてこれもまたひとつの歴史解釈だ。

数について論争する事はできる。被爆者の人数が本当は何人であるかについても論争できる。放射能が広島や長崎の土壌に何年残るかについても論争できる。しかし問題は全体像だ。我々が日米関係から導きだしたいのはその全体像なのだ。

20万人か30万人かは問題ではない。われわれが忘れてしまった歴史は本当はどうなのかということ。第二次大戦後の復興期に、われわれが、平和な国際関係を作ることができたはずの時点、今とは違う世界が作られていたかもしれない時点から、2013年の現在まで、今わたしたちが見るものは、戦争、軍事国家、基地……、


通訳(乗松聡子氏):ちょっとお話の内容が多すぎて…。ポイントはなんでしょうか。結論は?


ピーター・カズニック:そうか…、ポイントは、われわれが、オーソドックスな愛国主義的な見方とは違う見方を歴史に提供したということなんだけど。



会場:沖縄に関する質問を受けたい。


質問:これまでの韓国、日本での滞在から、新しい映画やドキュメンタリーの計画は?


ストーン:うーん、今は明かす事ができない。映画づくりというものは何年もかかるプロジェクトだし、下の方からわき上がってくるものだから。

ただ、この旅行で思い知った事は、アメリカのパワーだ。たとえば基地を作り、部隊を動かし、ただ単に隣人として存在するといったような、アメリカのちょっとしたしぐさでどんなことがおこるか。たとえば、ワシントンでオバマやヒラリー・クリントンが一言、二言言う事で作り出される緊張感、アジアでもヨーロッパでもアフリカでもそれが大きな大きな動揺を呼び起こす。かつてのローマ帝国のような力が今のアメリカにはある。

そしてこの旅行で学んだ事は、日本がいかにアメリカにとっての属国であるかということ。その日本がいかにアメリカの言いなりになってこぞってアメリカに尽くしているかを見て憂鬱になってしまった。

今、平均的な日本人は、日本に対する中国の脅威が増大してきたと言う。こういう単純な考え方は危険である。この中国脅威論はワシントンから発せられたものだがこれに疑いもなく従ってしまっている日本がそこにある。

日本にもこれに対して戦っている人はたくさんいる。我々が行く先々で会った進歩的な人々リベラルな人々は、名護市長にみんな同情的だった。そんな「もうひとつの考え方」をもった人々は、しかし多勢に無勢の厳しい戦いを強いられている。それが私にははっきりわかり、とてもがっかりしている。

映画の質問に戻ると、広島と長崎を題材にしたら、いい映画がもう一本出来ると思う。広島長崎がくれたメッセージにはとても強いパワーを感じてた。そのパワーはいまでも私の心を揺さぶっている。

以上

Reply · Report Post