以下は、2013年8月9日、映画監督のオリバー・ストーン氏とアメリカン大学の歴史学者ピーター・カズニック准教授の長崎原爆記念式典出席後のマイナーメディア向け記者会見(http://www.ustream.tv/recorded/37058113)の翻訳です。記者による質問は簡略化してありますが、ストーン氏、カズニック氏の回答はできるだけ忠実に訳しました。



質問; 原水協の3つのイベントに参加した感想。


ストーン:ごめんなさい。今日はとても疲れている。とても暑かったし。
ただ、私の出たイベントに参加した人達は、歴史についての知識も
あり、高い意識を備えた人達だったと思う。日本で出会える最高の
道徳を持ったたちだったと思うし、わたしの側にいる人々だと思う。

彼らと話していてい興味深かったのは、私たちの歴史について話し
たときのことだ。もう聴いた人もいると思うが、わたしは日本人が
自分の歴史について知っているかどうかに強い疑いを持って
いる。戦争が彼らの目を見えないようにし、痛みを感じないように
したのではではないかと思っている。

私が知る限り日本政府は国民に情報をあまり与えていない。だから
日本国民は戦争犯罪について知らずに来たし、日本の軍人にアジア
人、なかでも中国人、韓国人、東南アジア人、それから捕虜になっ
た白人、イギリス人やアメリカ人や他の国の国民がどういう扱いを
受けたかも知らなかった。

日本人はそのように自分の歴史を否定されてきた国民だが、それは
アメリカ人も同じだ。ピーター(カズニック)も指摘したが、アメ
リカ人も自分の歴史を否定されてきた。どうしてか。それは日本も
アメリカも同じ軍隊に支配されてきたからだ。アメリカ人は自国の
軍隊に支配され、そしてそれは今でも続いている。

米軍はすぐに日本を占領した。原爆のことを話すことをタブーにし
た。(アメリカのしている)戦争の事なんか全然話題にもできない
ようにした。それらの話題について、言わば厳しい検閲が行なわれ
ている。ヒバクシャはひどい扱いをうけ、長いことまともに医療も
受けられなかった。放射能で人は死んで行き……それは大混乱だ。

再教育について話すと、ドイツでは戦後、国民に対する再教育があ
ったが、日本では再教育がなかった。日本人は再教育される事もな
く、アメリカがアジアで関わった対共産主義戦争の(チェスで使う)
ポーン(将棋で言えば歩)として使われた。朝鮮戦争がすぐに起っ
たので、アメリカが対日政策を考え直す時間もなかった。

アメリカは日本を朝鮮戦争の発進基地として使い、それ以来ずっと、
日本はベトナム戦争でも使われ、クウェートの戦争でも戦費の支払
いに(財布として)使われ、イラク戦争のときも再び沖縄が使われ
た。私の見る限り、日本はいまだに自分のアイデンティティーと主
権を回復するに至っていない。

日本では何代も首相が変わったが私には誰がだれかもわからない。
ただ一人、社会主義者だか自由主義者だか、立ち上がって変えよう
とした人がいるが、何も達成できなかった。鳩山氏には東京で会う
事になっていたと思う。彼は沖縄にとっての希望だったが、オバマ
が手を貸して鳩山を辞任させた。それが私の印象だ。



岩上安身氏の質問:おとなしい日本人ががどうしてあるとき中国人朝鮮人に
対して残虐になれるのかという点について。監督の本を読んでいて、
日本は古くから帝国であったと気づいた。今、新しい大帝国アメリ
カと一体化しようとしている。それについてどう思うか。


カズニック:残虐性というのは、普遍的な問題だ。人はどこでも残虐になる
ようにできている。グアテマラで起った事は、まず兵士を意図的に
虐待する。すると、兵士は残虐になり、民衆にひどいことをするよ
うになる。赤ん坊を捕まえ、頭を岩に打ち付けたりというようなこ
とを平気でするようになる。そんなこと、ふつうはどんな人間にで
きるだろうか。

米国について言えば、戦争は年々匿名性を帯びてきた。ますます非
人間的で。ますます遠くで起るものになってきた。ユタ州や、カリ
フォルニア州に置かれた一室に座って、ドローン(無人攻撃機)を
セットして、スクリーンに映る映像を戦闘ゲームのように見ながら、
遠くにいる敵ひとりひとりを攻撃している。

私がベトナムで従軍した時は、戦闘はもっと敵と面と向かってやる
ものだった。今では敵の顔を知る事もない。

日本が第二次大戦で見せた残虐性は、戦争プロパガンダにあらわれ
ていた。そしてそれはアメリカの行なったプロパガンダと平行線を
なすものだった。アメリカは日本人の事をダニやゴキブリのような
虫けら、またサルだと吹聴した。

一方日本もアメリカ人に対して同じような仕打ちをした、アジア人
にはもっとひどいことをした。日本は明治維新でに西欧化しようと
したが、それは、他のアジア人を劣等で人間以下のものとして扱う
態度を生んだ。

アメリカ人も日本人を人間以下に扱った。一回人間以下に扱えばも
う二度と人間として扱うことはない。日本は中国人に対して、また
朝鮮人に対してそういうことをしたわけだ。ベトナム人にもマレー
人にもシンガポール人にも、さらに米国人、英国人、フィリピン人
に対してもだ。

つまり、その同じ「非人間化」のプロセスが戦争において敵を憎み、
殺す事を許すために行なわれた。

しばしばアメリカ人の間で一つの大きな疑問が話題になる、それは
アメリカはドイツに原爆を落とす可能性があったかどうかというも
のだ。アメリカ人はドイツを人間以下と見なしていなかったのだ。
そこが日本人に対する見方と違っていた。

ドイツに原爆を落とす事になったかどうか、我々にはわからないが、
1943年5月5日(の原爆完成)以降、原爆のターゲットは常に日本だ
った。もし、爆弾が不発でも(サルみたいな)日本人にはそれが何
か分かりもしないだろうと。…いや、本当かどうかわかりませんよ。

本当にそれが日本を原爆のターゲットにした唯一の理由かどうかは
わからない。だって、ドイツは原爆が準備できる前に降伏していた
から。日本に落としただろうか、ドイツに落としただろうか、オリ
バーはどう思う?


ストーン:ドイツには落とさなかったと思う。もし、どうしようもなかった
ら、つまりドイツが勝ちそうだったら落としたかもしれない。でも、
ドイツはソ連に負け続けていた。1942年以降、誰の目にもソ連が勝
ちそうだと分かっていた。



岩上:オリバー・ストーン氏からひとことほしい。周囲の民族を見下すのが
「帝国」そんな傾向をもった日米が軍事的に一体化しようとしてい
る危険についてうかがいたい。つけくわえると、中国に対する脅威
をしきりに煽りながら日本に兵器を買わせている。これは危険なゲ
ームでは?


ストーン:日本がアメリカと対等な同盟関係であるか、小帝国であるかどう
か、私にはわからない。物質的な意味では帝国かもしれない。日本
は世界第三位の経済大国だ。しかし興味深い事に世界第4位の軍事
予算を使う国でもある。だから、まあ、日本が軍事的な帝国かとい
えば、そうかもしれない。でもまだ完全にそうなってはいないと思
う。

米国の軍事同盟と言うと、私は日本よりも英国を思い浮かべる。ま
ちがっているかもしれないが、英国はいつでも米国にとって最大の
同盟国だったから。で、英国は小さい島国で、日本も小さい島国と
という点では同じだが、日本がアジアの中でアメリカの主な同盟国
だと思った事はない。

米国のアジアの同盟国はいつも環状をなしてきたと私は思っている。
北から韓国、日本、台湾、フィリピンはとても大切な同盟国だ。台
湾にはいつでも大量の大規模兵器を売っている。フィリピンの国土
はきわめて重要だ。アメリカは完全にフィリピン政府を支配してい
るように見える。

日本については日本人が原子力と核兵器に対して忌避的であるとい
う点がアメリカにとっての問題だ。そこは微妙な点で、とりあえず
日本に圧力をかけることはできる。だがかければ日本の人々はそれ
に対抗して行動を起こすだろう。米国はそこまでバカではない。

沖縄問題は大変センシティブな問題だ。(軍の兵士による)交通事
故、レイプ、殺人などもあるし、報道もされている。米国もバカで
はない。しかし米国は無慈悲でもある。

そして、日本、韓国、台湾、ベトナム、オーストラリアなどをつな
ぐ新機軸……、オーストラリアには潜水艦を配備するんだっけ……、
そしてシンガポール、タイ、カンボジア……。

私は米国は今中国を敵だとは見ていないと思う。しかし、米国防総
省は中国の脅威は増大していると見ている。私がここに来る前に寄
ってきた韓国の済州島では、太平洋最大の海軍基地が作られつつあ
る。

済州島軍港は水深が深いので、世界最新最大の核搭載空母ジョージ
ワシントンが停泊できる。そしてその済州島は上海から500km圏内
にあり主要なシーレーンを支配できる。だから韓国は米国にとって
大変重要だ。

アメリカの戦略は、ピーターが言うように本当に出来上がった戦略
で、先進的な基地をディエゴ・ガルシアに置き…、ああ、そういえ
ば、インドも同盟に加わるんだった。私にとっては青ざめるような
ニュースで、ショックだったのは、私はインドは常に米国から独立
していると思っていたからだ。ネールは失脚しなかったしアメリカ
軍がインド軍に近寄る事もゆるされていなかった。そのことはおさ
えておきたい。

しかし事態は変わってきている。アメリカは、国をまたにかけたど
でかい龍なのだ。千もの基地を持ち、しっかりした戦略ももってい
る。最新式の無人攻撃機をもち、サイバー攻撃もできる。あらゆる
意味で圧倒的だ。

だからアメリカは日本を(軍事的に対等な)「パートナー」として
必要としているわけではなく、同盟国の一部として必要としている
にすぎない。日本をその一部として便利に使おうとしているのだと
言えると思う。


カズニック:付け加えたい。日本は米国のアジアにおけるもっとも重要な同
盟国だった。特に戦後、1949年の中国(共産党の南京制圧)以降は
そうだった。日本は中東におけるイスラエルと同等の価値があった。
その地域において米国に忠実で、米国の指示を受け入れ、米国の汚
い物言いを許す存在だった。

ストーン:野球もやるしね。(笑)

カズニック:イチローは衰えてきたけどね。(笑)

1950年代に入って、ベトナムが勃興しアメリカを悩ませ、マレーシ
ア、フィリピンも力をつけてきた。アメリカはこれらの国が中国の
ように全部共産化してしまうのではないかと恐れた。

日本がそれで貿易相手国を全部失ってしまい、思いあぐねて中国に
進出し、結果として日本も共産化してしまうのではないかと恐れた。
それがアメリカが1950年代はじめ、1954年、(フランスが撤退を余
儀なくされた)ディエン・ビエン・フー(の戦い)後にベトナムに
介入した理由の一つだった。そのとき心配したのはベトナムの事で
はなく、日本の事だった。




質問:どうやったら核廃絶できるか


カズニック:米国内においてはオバマに圧力をかけて、核廃絶にお金をかけ
るようにしむけなければならないと思っている。核廃絶はオバマ自
身の公約であり、それを守らせるようにする。NPT(核拡散防止条
約)の見直し時期も迫っている。そのときもチャンスだ。

これまで核廃絶はある問題の中の大きな部分を占めてはいたが、そ
れそのものが独立した問題として取り上げられたことはない。キッ
シンジャー、シュルツ、ペリー、ナン、かれらはみんな核廃絶を呼
びかけていたが結局まやかしだった。彼らはベトナム戦争や他の戦
争を拡大させた人達だ。

核兵器はもはや軍事的優位にとってかつてほど重要ではない。今ア
メリカは陸、海、空だけでなく、宇宙、サイバー空間も支配してい
る。ロシアが米国ほど核兵器削減に熱心でない理由は、ロシアにと
って核兵器だけが軍事超大国であることを保証するからだ。

アメリカは通常兵器においてもロシアよりはるかに進んでいる。と
いうことはわれわれにとっての問題も大きい。われわれは(核兵器
だけでなく)そういったものにかける軍事予算を削減する方法を見
つけなければならない。

いまや、中国やロシアは宇宙空間を軍事化することに反対している。
なのに、アメリカは今や宇宙空間から下を歩いている人間の瞳を追
跡して、それがだれのものか同定し、その持ち主を空から狙い撃ち
できるようになろうとしている。監視して、国家の安全を守るため
に、日本で交わされるすべての会話を盗聴し、メールやネットがど
う使われているか調べる。そういうことは、われわれのこれまでの
スコープをこえるものだ。

私は死ぬまでに核兵器を廃絶しようとしてやってきた。核兵器はこ
の惑星の全ての生命を終わらせてしまう可能性があるからだ。しか
し、そうした視野をいまの状況ははるかに越えてしまっている。核
兵器ではないが核兵器に匹敵する大きな問題に直面しているのだ。

いまや単に核廃絶だけではだめだ。つまりこれからは、帝国そのも
のを終らせる事、軍事化を終らせる事、そして基地を終らせる事、
そして宇宙の軍事利用をやめさせる事、そして核兵器の廃絶だ。
ジョージブッシュ政権が危険だったのは、かれらが核兵器をより使
いやすくしようとしたからだ。

ストーン:(適当に短くまとめた通訳に)その翻訳は、ちょっと短すぎる。
ピーター(カズニック)は5分も話したのに、きみは2分しか話し
ていない。え?、録画してるからいいの?



質問:広島と長崎の式典の印象は?


ストーン:日本に来る前に本やフィルムを見て、強い印象をすでに持ってい
た。ピーターは何度も日本に来ている。私にとっては初めてだった。
でもここに来て印象が変わったということはない。しかし、骨に肉
付きがあたえられたように、細部が見えた。

被爆者たちと語り、恐ろしい経験、悲しい経験の詳細を聞いた。原
爆が落とされると、ある種のわけのわからない無力感に襲われると
いうこともわかった。広島、長崎ふたつの都市を訪ねてそんなこと
を感じた。


ピータも言ったが、今ある核兵器のひとつひとつは広島原爆の7千
倍の威力がある。そうだっけピーター?


カズニック:いや、そんなことはない、10倍から100倍だ。


ストーン:100倍だってすごいことだ。水爆の中にはそれを起爆するための
原爆が入ってるというのをわすれちゃいけない。それが爆発すると
いうのがどんなに恐ろしい事か。


カズニック:補足するが、これまで作られた最大の爆弾は広島原爆の3500倍
のものだ。だが、7000倍のものも作ろうと思えばできた。そしてア
メリカ人は、実際広島原爆の70万倍の威力の爆弾をつくろうという
話もしていた。それは1945年に下院で議論されたものだ。70万倍だ。
もう想像もつかない。


ストーン:とにかく日本の人々には感心した。原爆を絶対忘れまいという意
思に感動した。広島、長崎両市の式典はとてもパワフルで記憶とい
うものがどういうものか思い知らされた。記憶が無ければわれわれ
はただの動物だ。日本人はその点とても優れている。

私は安倍の事は批判したが、政府の人間がここに来て死者を慰霊す
るのを見るのはうれしいことだった。アメリカはこのことを知って
いるのか。アメリカはこの式典にだれか送っているのか?


会場:ルース(駐日大使)は来た。広島に。長崎には来なかった。


ストーン:そうか。長崎には来なかったと。でも、米国内ではこの式典の事
はまったく知られていない。しかし日本人がこのことを忘れまいと
することは大切だ。子供たちもたくさん来ていたが、子供たちには
原爆そのもののことだけでなく、なぜそれが落とされるに至ったか、
なにが戦争をひきおこしたのかその辺をしっかり教えてほしい。日
本が1931年に満州を侵略した事なども。

私はそれらを本で読んだ。今回はこの経験をアメリカに持ち帰って
また考えたい。広島、長崎のことは忘れない。

怒りはある。でもそこには、許しもある。大切なのはこんなことを
二度とまた起こしてはいけないということだ。みんな同じ人間なの
だと認め合いましょう。


以上

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