千早「ふたつの星が出逢える日まで」

頬杖をついたまま、ため息を吐く。
読みかけの小説に青い栞を挟んで閉じた。

腕を伸ばしながら見渡した事務所の中には、至る所にカラフルな七夕飾り。

今日は7月8日。
昨日、行われるはずだった七夕会は、今も降り続ける雨で中止。

みんなの願いを書いた短冊は、どこか寂しげに扇風機の風で揺れる。


───家族のみんなが元気で暮らせますように


目についたのはオレンジ色の短冊に書かれた願い事。

ふふっ、高槻さんらしいわね。

意識せずとも、盗み見てしまった罪悪感に少しだけ苛まれる。
どうせなら他の人のも……なんて、思ったけど踏み留まった。


別に、見られて困るようなことなど書いて無いはず。
だけど、笹に括り付けられた短冊は、どこか神聖な物のような気がして憚られた。


織り姫と彦星は逢えたのかしら。

雨だったから、やっぱり逢えなかったのかしら。


窓を濡らす雨が涙に見え、やっぱり逢えなかったのだと勝手に結論付ける。

たった一晩の逢瀬すら叶わないのに、変わらず互いを想い続ける事なんて途方も無いことのように思えた。


流れる月日に恋い焦がれ。

たった一日を待ちわびる。

遠く彼方の星に面影を重ねて。

ふたりを分かつ天の川。

向こう岸の想い人と目と目が逢う瞬間。

どんな気持ちなんだろうか。

その一瞬の尊さが、変わらない愛を育むのだろうか。

そんな事を考えた時、優しく微笑む彼の顔を思い出した。


まだ、愛とも呼べないような淡い感情。

だけど、心が暖かくなる。

この気持ちは大切にしよう。

愛に変わるとしても。

信頼に変わるとしても。

貴方に寄せるこの気持ちを、この胸の中で育んでいこう。

星がきらめく夜空のような、輝くステージの影でひっそりと。



少し気恥ずかしくなって、それを誤魔化すように窓に近付くと、いつの間にか雨は止んでいた。


ふと、読みかけの小説を手に取り、青い栞を引っ張り出す。

青色のボール紙をただ切っただけの栞。

机の上に置いて、ペンを走らせる。

意外とロマンチックなこともするのね。

自分の行動に思わず噴き出しそうになった。

子供じみて、たわいも無い、おまじない。


───次の星合の頃、少しは貴方に近づいていますように


短冊に見立てた青い栞。

ふたつの星が出逢える日まで、誰にも見つからないようにすれば叶うかもしれない。

来年は晴れますように。

そんな願いを込めて、そっと、ページの隙間に忍ばせた。


アフターストーリー。http://www.twitlonger.com/show/n_1rl8hjo

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