ローカル線はなぜ活性化しないのか? その共通の行動パターンとは何か




ローカル線はどこも人口の減少、自動車の発達という要因で厳しい経営が強いられています。
それはたま駅長で有名な和歌山電鉄も例外ではなく赤字経営です。
しかしなぜ和歌山電鉄のような全国で多くの人がその存在を知り、地元への経済効果が高い活性化を他の路線はできないのでしょうか?
色々とローカル線の会社の方や活性化団体の方からお話を聞いたり、調べていると、ある共通のパターンがあることに気付きました。
その共通のパターンとは・・・

・ミッションクリティカルではない活動
・アイデアが無い
・ビジョンが無い
・評価基準が低すぎる
・当事者意識の欠如
・スピード感の無さ

鉄道会社自体と、活性化団体の両方とも大体この当たりに集約されます。
以下、各項目ごとについて詳しく説明します。
最後に成功事例を紹介します。

【ミッションクリティカルではない活動】
総じて言える事は「活動がミッションクリティカルではない」という事です。
スタートからゴールまでが綿密なシミュレートにより計画された物ではなく、常にどこかが欠落している事が原因で、ゴールにたどり着けない、すなわち活性化できないように見受けられます。
事例を出して説明してみましょう。

例えば、車両基地祭りを開催するとします。
開催しても誰も来なければ開催する意味がありません。
ではどうやって集客するのか?
「ポスターを貼る」・・・
ではどこに貼るのでしょうか?
ポスターを貼るのはたしかに一つの方法ですが、どこに貼るのかという問題があります。
駅や車内に貼っても、首都圏のような不特定多数が毎日数万人利用しているならいざ知らず、ローカル線の場合は鉄道を利用している人の目にしか触れませんから広告効果は限定的、まして多くの人に知ってもらって興味を持ってもらう「活性化」目的でイベントを行うのなら外部の人の目に触れないこの方法は既に失敗です。
ポスターというのなら、最低でもその町の人の大半が知っているという状態にしなくてはなりませんが、そんなことをしているローカル線は殆どありません。
ポスターをどこにどれだけ貼るとどれくらいの効果があるのか・・・
何も考えていません。

ここで大きな誤解が登場します。
それが「インターネット」です。
インターネットは確かに有効な宣伝手段です、ただしそれは有効に使いこなせば。
しかし、使いこなしている人がどれほどいるでしょうか?
例えばツイッターで「車両基地祭りを開催します」とツイートしたら誰にそのメッセージが届くのでしょうか?
こんな至極当たり前のことを何も考えていないのが実は活性化をする多くの人です。
何か、ツイッターで呟けば瞬く間に世界中に伝播されると思い込んでいるかのようです。
そういう方が「ツイッターで活性化」と言い出すと、毎日ツイートしているのにフォロワーは数名などという状態になっています。
つまり、一生懸命情報発信しても、数名にしかそのメッセージは届いていないわけです。
しかもそのフォロワーさんが内輪だけではただの井戸端会議です。
だったら、駅前でビラでも配った方がまだ効果的です。
この件にについて某掲示板で「リツイートがあるのを知らないのか」と批判が出ていました。
しかし、15000人フォロワーさんがいる上で1%リツイートするなら、150人がリツイートします。
その150人が平均300人のフォロワーさんがいるのならこの時点で60000人に情報がばら撒かれる事となります。
一方10人しかフォロワーさんがいない人が1%リツイートすると、ゼロか切り上げてもせいぜい1人です。
その1人に300人フォロワーさんがいたところで合計310人にしか伝わっていません。
この段階で天と地の差です。(あくまで計算上の話ですが)

FaceBookで情報発信も特性を考えないと酷い事になります。
FaceBookのアカウントを持っている方ならいいですが、まだ全員が全員持っているとは限りません。
そんな中FaceBookで情報発信するとどうなるでしょうか?
一番最初に目に飛び込んでくる画像を「キービジュアル」と言い、ここでそのページの大半の印象が決まります。
webディレクターなら非常に重点を置くところです。
ところが、FaceBookのアカウントが無い人がその情報ページに行くといきなり「登録してください」と名前や生年月日、性別などの個人情報の入力を求められます。
これでは台無しです。
例えば家電量販店で「この冷蔵庫について聞きたいんですけど」と店員に聞くと「お名前は?あと、メールアドレスと性別も教えてください」と、いきなり問われるようなものです。
「なんだこの店?」と思いますよね。
キャンセルを押せばページを閲覧することはできるとはいえ、ちょっと興味をもって来てくれた方に「お前の個人情報教えろ」といきなり表示するのは無礼極まりない行為です。
当然多くの方はこの段階で「だったらいいよ」になってページを見てくれません。
広く情報を発信しようというときにどうして、関所を設けて敷居を高くしてしまうのでしょうか?
これ、要するに何も考えていない証拠なのです。
FaceBookが悪いと言っているのではありません。
誰でもアクセスできるホームページで共通の情報発信し、「ディープな情報はFaceBookで」などの使い方は有効でしょう。
しかし、FaceBookだけで情報発信すると多くの方を追い返しているだけです。
FaceBookは確かに利用者が大きく増えているとはいえ、日本の総人口の1割程度しか利用していません。
単純計算ですが、国民の9割に対して無礼な情報発信をしているということです。
こういった特性を理解しないで「インターネット」とか「ツイッター、フェイスブック」と言っているわけです。
お客が逃げていくのは無理もありません。

ホームページもよく考えて使うべきです。
「ホームページで情報発信」
大いに結構です。
では、そのホームページにどうやって人が来てくれるのでしょうか?
いくらホームページを作っても、ホームページに人が来てくれないと何もはじまりません。
こんな当たり前のことすら全く考えていません。
最低でもSEO対策は今時必須、いかに検索しやすく来てくれるのかを考えてページ製作や運営をする必用があります。
ですがそれをやっても、そもそも検索してくれないと始まりません。
では、どうやって検索するように仕向けるのか、そのきっかけは何か・・・・
何も考えていないわけです。

こういう所は共通していて、ネットに情報上げておけばそれで良いという実に乱暴なやり方です。
まず、どうやってページに来てくれるのか、来てくれたお客様はそのページ見てどういう印象を受けるか、お客様インターフェースは的確か、リンクや断層構造にに矛盾は無いか、画像は綺麗な物かetc・・・・プロであれば最低限レベルで考える事が何も考えられていません。
これではお客様に見放されるのは当然のことです。

最近は知ってもらうきっかけに「マスコミを使う」という効果的な手法に気付いたローカル線もあります。
しかし、「こんなイベントやりますんでよろしくと」と案内を送ったところでマスコミからすれば「何しに宣伝してやらないとならないんだ」としか思われません。
マスコミが報道するのは、報道する価値があるからで、逆に言えば報道して欲しいのなら報道するに値するリリースを打つべきです。
このことについて山形鉄道の野村社長は「すしはどこさの法則」というのを提唱しています。
これはマスコミの報道には「ストーリー、社会性、初物、ドラマ、公共性、サプライズ」が必用だという事です。
ですがどうでしょう、地方ローカル線が打つリリースは、単に「こんなことやるんでよろしく」というだけで、どこにどんなスリートーがあるのかとか、何がサプライズなのかも分からず挙句は初物どころから何番煎じか分からないようなでがらしアイデア。
当然報道などされません。
例えば、中央省庁や都道府県庁には「記者クラブ」というマスコミ各社常時詰めているところがあります。
鉄道で言えば、国土交通省にも記者クラブがあります。
ここでリリースの配布や記者会見をする場合、事前に記者クラブの審査があります。
記者クラブであまりにも価値が無いと思えば、リリースの配布すら認められません。

私がプロデュースするメイドトレインはこの「すしはどこさ」の法則性を必ず網羅させています。
まず、鉄道というのは必ず公共性があり、ひたちなか海浜鉄道で開催の場合は「経営再建中」というストーリー、そして公募社長の奮闘気というドラマ、行政が出資する第三セクターという一見固そうなところが行うという意外性=サプライズ、そしてリリースには「世界で初めての試み」と「初物」を煽りました。
また、メイドトレインは可能なまで事前にリリース写真を準備します。
文字で「こんなことやります」とリリースしても、文字記事にしかしようがありません。
列車の写真を送りつけてもインパクトは薄いです。
そこで、開催一ヵ月半くらい前にメイドさんを集めて列車を背景に実に分かりやすいリリース画像を撮影し、マスコミにリリースする時点でその画像も提供します。
しかも、web用JPGと印刷用PFDデータの二種類を配布します。
ここまで直ぐにでも掲載できる準備をすれば、どんどん掲載してくれるわけです。
どうすれば掲載してくれるのかを徹底的に考えた結果です。
当然、国土交通省の記者クラブでもリリースの配布が認められています。
更に、報道後は一斉にwebに来る事を予想していますから、リリース配布と同時にサーバーのwebデータを差し替えます。
一斉にアクセスが来た時には、ちゃんと情報が見れるようにしておきます。
その結果、世界中で報道をされます。

こういった事を徹底的に考えていくのが「ミッションクリティカルな活性化」だと思います。
しかし、実際はもっと複雑で、イベントと言ってもどういうターゲット層なのかとか、どれくらいの範囲(距離)から集客するのかとか、コンテンツ、すなわちイベントの内容はどうするのかとかの検討はもちろん、商標法、食品衛生法、鉄道営業法、旅行業法、屋外広告条例など多数の関連法の検討も必要です。
では、活性化できないローカル線の実態はどうでしょうか?

「イベントやります!」
まずは誰をターゲットにしているのかも不明です。
どうやって集客するのかなど全く考えていません。
せいぜいホームページで告知しても、そもそもホームページにどうやって来て貰うのか全く考えていません。
ツイッターで情報発信してもフォロワーさんが十数名で内輪ばかり。
一体どうやってその情報が多くの人に知れ渡るのでしょうか?
全く考えていません。
実際ある活性化イベントの情報をツイッターで発信している方がいましたが、誰一人としてリツイートしていなという悲惨なところも見かれます。
個人のツイッターならそれでも何の問題も無いのですが、情報発信ツールとして使っているのなら最悪です。
マスコミにリリースしてみた物の・・・どうすれば取上げられるか全く考えていません。
このように色々やってみても、常にどこかが欠落している状況が生じているのがローカル線の活性化の特徴です。

「インターネットが全てではない」という方もいます。
確かにそうです。
しかし、今時インターネットは必須的な時代、「おばあちゃんの原宿」と言われる東京巣鴨ですら、携帯電話片手に歩いているおばぁちゃんは珍しくない光景ですし、スマホを抱えているおばあちゃん、おじいちゃんも出始めているご時世です。
こちらは総務省の資料ですが
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/120530_1.pdf
これによると、10代~40代のネット普及率はほぼ100%、60代でも70%、70代でも半分近くはネット利用しているという時代です。
こんな時代にネットのサービスを提供しないというのは、もはや江戸時代のようなサービス状態です。

それでも、鉄道ファンなど常にそっち方向に利得の高い指向性アンテナを向けている方なら微弱に発信する情報も察知するかもしれませんが、普通の人はそんな情報を知るよしもありません。
結果、色々やっているけど沿線の人ですら余り知られていない、全国では全くと言っていいほど知られていないという現象がおきます。
活性化できないローカル線の共通パターンがこれです。
何かやろうとしても、単なる思いつきばかりです。
どうすれば一人でも多くの人に知ってもらって、来てもらい、どうすれば大きな話題になるのか?
この最も重要なことを、全く考えていないわけです。
こんなことを繰り返していれば活性化も出来なければ乗客も減るわけです。
ミッションクリティカルではない、思いつきでしかないのです。
こんな思い付きをいくら繰り返しても、殆ど効果は出ないのです。

まず、イベントを開催するというのなら他社がどういうイベントをしているのか徹底的に調べて、視察してくるくらいの事は至極当たり前です。
他社がどういうイベントを開催し、どういうコンテンツがあり、どうやって集客しているのか、どうやって宣伝しているのか、実際来ているお客様はどういう客層かetc
ですが、以外にもこんなことすらしていない所が多いことに驚きます。
2013年の初め、甲府の商店街でハローキティー神社を作ったら、実はサンリオに無許可で作っており、二日で撤去になってしまったという騒動がありました。
これは何のリサーチもせず、関係者に話も聞かず、独りよがりにやった結果です。
まずはサンリオにきちんと企画を出すべきですし、周囲の人、ネットでもハローキティーファンの人などに色々と意見を聞いてみるべきではないでしょうか。
イベントの視察をしたり、現地の方に意見を聞けば色々な事が分かります。
例えばファミリーが多いのなら、そのファミリーはどういう行動をしているのか・・・
記念撮影をしている親子が多いのなら、記念撮影コーナーや子供用の制服を置けば大人気になる事に気付きます。
ファミリーというターゲット層が定まったのなら、ファミリーに訴求がある宣伝をします。
週末のショッピングセンターでビラ配りとか小学校、幼稚園でポスター掲示とかビラを配布してもらうとか。
そういうアイデアが次々と生まれます。
イベントやっても閑古鳥~とりあえず人は来ているけど閑散としている所は、知り合いばかりという所は決まってこういった分析も行動も何もせず、思いつきと独りよがりに開催しています。
そういった努力すらしない、そういった努力が必要という事すらわからない人たちが活性化など不可能だと言えます。

ではなぜ、こんなことを繰り返してしまうのでしょうか?
前々から私はこんな話しをしています。
最愛の人が重い病気になったら、あなたはどうしますか?と。
いうまでも無く、病院に連れて行くでしょう。
台所から包丁を持ってきて自宅で手術するなどいう人はいません。
それはつまり、「医者」という専門家に対応を任せるという事です。
しかし、ローカル線の活性化はまるで家で手術をするようなことを始めます。
それはなんの医学の専門知識も経験も無い人が自らその問題を解決しようとするのです。
すなわち、集客や宣伝の知識も経験も無い人たちが「がんばろう!」と言っても何から始めていいのかも分からないわけです。
「手術をします」というのなら、消毒も必要ですし、麻酔も必要です。
ローカル線の活性化は手術の前に消毒や麻酔が必要なこともわからず、いきなり包丁で切り裂き始めるようなクレイジーな状態です。
当然助かるはずもありません、むしろ殺してしまいます。
集客や宣伝の事を全く考えずイベントをするのは、版権の事も分からずキャラクターを無断で使うというのは、消毒の必要も理解せず、せいぜい「切る前にマキロン塗ればいいんだろう」という無謀なレベルで手術を始めるような物です。
いくら「助けたい」と思っても、助けるための知識とテクニックが無いと助ける事など出来ません。
もちろん、医者に行かなくても身内にプラックジャックがいるなら別にいいでしょう。
でもそんな人はまずいません。
結果、活性化どころか廃線や、良くても赤字額の拡大という事態に陥ります。

そもそもこういった集客やプロモーション、イベントというのは広告代理店が行なう専門職です。
それを見よう見まねくらいでは、まず良い結果は出ません。
なんとなくイベントは無事終了しても、あまりにも酷い結果や、もっと集客や話題力があったのに、何もしていないところとか多数あります。
プロだと1000くらいの事を考えているのに、アマチュアが行なうと30くらいの事しか考えていないとか、悲惨な結果になっているところが多数あります。

【アイデアが無い】
山形鉄道の野村社長が福岡の経営者セミナーで面白い事を言っています。
それは「日本一高い山はどこですか」と聞くと、ほぼ全員「富士山」と答えられると。
しかし、「二番目に高い山はどこですか」と聞くと、殆どの人は答えられないと。
この法則はあらゆるところでそうで、「一番」は物凄く注目されるし、記憶に残るけど二番手以降となるとほとんど話題にならないし記憶に残らない法則があるそうです。
実は活性化できないローカル線はこの法則がピタリと当てはまるのです。
活性化、活性化とは言ってみたものの活性化できないところは他社の真似ばかりという特徴があります。
「つり革オーナー」「枕木オーナー」「サイクルトレイン」「アテンダント」etc
どれもこれも他社の真似ばかり、二番煎じどころか出がらしアイデアはマスコミが取上げる事は無く、あっても地元程度で全国に知ってもらうには程遠い。
結果何の話題にもならず、沿線の人ですら知らないという状況になり、活性化以前の問題になります。
ではなぜ真似などするのでしょう?
要するに自分達にアイデアが無いから、なんとなく他社で話題になったことをやれば自分達も話題になるという思い込みが生じているのです。
しかし、野村社長の言うとおり、二番手など殆ど話題にならないのです。
話題にならないだけではなく、こういうパターンは殆どの場合、表面の形だけを真似て、目に見えない仕組みを真似ません。
その典型がゆるキャラです。
ブームだからと全国に多数のゆるキャラが登場しましたが、殆どの所は地元の人も知らないまま去っていくゆるキャラが大半です。
くまもんなどブームになるゆるキャラは、目に見えない部分でヒットを生む仕組みがあったのですが、「人気だからうちもやれば人気になれる」とやって失敗するパターンです。
当然、活性化になどなりません。

こうなった場合、お約束の方向が出てきます。
それが「イデオロギー」論です。
どうすればPRして多くの人に知ってもらい、来てもらうのか、強いては経営にプラスになるのかというアイデアを出せないと、かならず「文化的価値」「歴史的価値」が登場します。
もちろんそれも重要な事ではあるのですが、文化的、歴史的価値があってもPRにならなければ人が来ることはないのです。
これを読んでいる方で、住んでいる地元の文化財を知っていると言う方がどれだけいるでしょう?
大体は道を歩いていてたまたま見つけて「えっ、こんなところに文化財があったの!」と驚くパターンではないでしょうか?
金閣寺など日本全国で誰でも知っているか、せめて地域で有名なクラスの文化財があるのなら別として、それでも小さな文化財の事など殆ど知らないものです。
文化的な価値があって、「文化財です」と看板を建てても、所詮その程度の存在でしかないのが文化財です。
それをどう利用していくかというアイデアが出ないと、所詮その程度の存在で終わってしまうのです。
最近は「エコ」というのもよく出てきます。
「電車は二酸化炭素排出が少ない」というものの、電気を作るのに二酸化炭素が出るわけで。
もしてローカル線の古い電車は最近のVVVFと比較して電気を食う=二酸化炭素を出します。
まして、気動車なら直接二酸化炭素を出すわけですから、いっそハイブリットバスの方が環境にいいです。
どういう事をしていけばいいのかというアイデアが出ないところはこのイデオロギー論に向かいます。
しかし、こんなイデオロギーで廃止が阻止された路線などあったでしょうか?

最近は「萌え」を使おうとするところも多くあります。
その方向も悪くは無いのですが、「なんか萌え~とかやってりゃオタク大勢来るんだろう」という乱暴な論理のところが多数あります。
何か萌えキャラクターを作ったのなら、そのキャラクターに人格を与えて育てていかなくてはなりません。
しかし、ホームページすらなく、どういう設定でどういうストーリーのキャラクターかもサッポリ分からず、ただそこら中にキャラクターを張り出しているだけのところが見受けられます。
今後そのキャラクターをどうするのか、ビジネス的にもどうしたいのか、何をしたいのか皆目分からないところはよくあります。
こういうところは大体、「他で成功したからうちもやれば人気になれる」理論です。
ですが、人気や話題になったところは、しっかりホームページを作りキャラクターの設定を行い、しっかりとキャラクターを育てています。
キャラクターがあり、そのキャラクターに感情移入し、初めて応援したいとかグッズを購入したいという感覚が生まれる物です。
そういうことをまるで分からずただ形だけ真似をしても、二匹目のドジョウにはなりえないわけです。

もう一つがソフトではなくハードで解決しようとする、つまり「物」で解決しようとする事です。
物で解決するためには金がかかる・・・
新車両の購入、駅舎の建て替え・・・
古い物を生かそうというアイデアが無いと、新しくすればサービス向上という思い込みだけで突き進んでしまう現象です。
たしかに安全輸送にある程度の投資は必要ですし、老朽化で建て替えなくてはならないケースが無いわけではありません。
しかし、廃止論議が出ているところに数億円を投じ、13年の減価償却期間である車両を買う必要性などあるのでしょうか?
せめて買うにしても中古車両にするとか、コストを下げるアイデアも無いのです。
ちなみに、中古車両は補助の対象にならないと勘違いしている事業者の方もいるようですが、国土交通省の近代化補助は現在より新しくなれば「近代化した」として補助の対象になりますので、中古車両や中古の枕木でも補助の対象です。

いすみ鉄道は2011年4月に大糸線で走っていたキハ52を導入したのをご存知の方も多いでしょう。
続いて高山線で走っていたキハ28も導入するそうです。
キハ52導入に3000万円ほど要した事を考えると今回もほぼ同額と思われます。
新車を買うよりはるかに安い金額で導入でき、新車より大きな話題づくりが出来ます。
「古いからこそ価値がある」に気付いているいすみ鉄道は何も無いところで集客に成功しています。
よく、「古い車両を入れるとメンテナンス費など維持費がかかる」という話を聞きますが、では実際にどれだけの費用がかかるのか、何年で新車を入れるのと逆転するのか、ある車両を入れることによる宣伝、集客効果と比較してどうかというシミュレートをすべきです。

アイデアなんて物はいくらでも転がっています。
活性化できるセンスがある人はどうでもいい物に気付いて、雑草一つにも大騒ぎできる能力を有している物です。
そういった能力が無いと上記のようなパターンに陥ります。

【ビジョンが無い】
アップルのスティーブ・ジョブズ氏、ソフトバンクの孫正義氏、アマゾンのジェフ・ベゾス氏、これら世界に名をはせる経営者には共通したことがあります。
それは「明確なビジョン」です。
ビジョンとはなんでしょうか?
テレビ東京のカンブリア宮殿に孫正義氏が出演したさい、こう言っています。
「まるで見て帰ってきたかのように語れるのがビジョン」
ローカル線の活性化で言うのなら、例えばこんなことでしょう。
10年後の夏の日、天候晴れ、朝から今日は蒸し暑い。
JRとの接続駅には18切符でやってきた方が大勢やってきた、目玉とした5年前に導入した古い電車が今や大人気、途中の駅には車庫があり皆そこを見学していく。
見学した後は、売店でお土産を買い、かつてはシャッター街であった商店街、駅から三件となりの店はかつて廃墟になりかけていたのに、今では若者向けのアンティークショップになっている。
隣のカレー屋は、10年前に倒産した会社の社員食堂のおばちゃんたちが集まって出来たお店、食堂で人気だったカレーを今でも再現、昼時にはいつも長だの列になっている。
これが、10年後の話だと語れるのがビジョンです。

しかし、ローカル線の活性化では意外にもこのビジョンが無い人たちが殆どです。
「活性化」「乗客誘致」「おもてなし」と、お約束の文言を並べます。
でも多くの場合、ビジョンが無いのです。
単刀直入に言えば、「活性化」「存続」というのが目的ではなく、まるで自分達の趣味を行う場を「活性化」の名を借りてやっているというケースや、自分たちが名声を得ることを目的にやっているケースが見受けられます。

例えば会社なら、営業目標が定められます。
今月は何件受注するだとか、当期利益はいくらにするとか、具体的な数値で示されます。
そのため、社員はどうすればその目標に達するのかを必死に考えます。
それに満たないと、事業の見直しや、自分のいる部署の閉鎖、もっと行けば左遷やクビ、最悪は倒産もあるのが会社というドラスティックな世界です。
ですが、活性化団体という有志が集まると、この目的意識が不透明になりがちです。
有志が集まると言うのは、みんなが出来る物を持ち寄るという方向になりがちですが、これが問題です。
年間数千万円から数億円の赤字を抱える路線の存続をするためには、明確な目的とそれに向かうプロセスが必用です。
つまり、まずは目標ありきでミッションクリティカルに行動していかなくてはなりません。
それが存続団体の場合、目標があってそれを実現するためには何をしなくてはならないのかというプロセスではなく、まずは自分達ができる事、やりたいことからやっていこうとします。
会社であれば何か一つするにしても、そこに意味と採算性が必ずあります。
ですが、活性化団体の活動にはそれが無いケースが多々見受けられます。
結果どうなるでしょう、存続や活性化とはあまりにも程遠い活動しか出来なくなります。

例えばグッズを作るとします。
しかし、そのグッズをどういう脈略で作るのかとか、どういうセールスポイントなのかとか、なぜそれが活性化に繋がるのかとか、全く不明で「なんとなく面白そうだから」レベルで作ってしまいます。
なんとなくでも別に良いのですが、せめて大きく話題になる宣伝効果が無いと意味がありませんが、そういったことも全く考えていないケースが殆どです。
そしてこういうパターンはどうやって売るのかも全く考えていません。
今時、現金書留なんて面倒で費用のかかる物で誰が送金してわざわざ購入するでしょうか?
お客様がどうすれば購入しやすいのかなど全く考えません。
イベントをするにしても、地元のサークルとかが出できてなにかステージを披露したり・・・それがなぜ活性化と繋がるのか不明です。
大体こういうところはイベントをやっても閑古鳥状態か観客は知り合いばかり。
マスコミも報道せず、しても地元程度でPR効果も限定的。
もちろん、それらが悪いといっているのではなく、きちんと活性化につながる設えがあればいいのです。

ある活性化団体は連日大量の鉄道写真をネットで公開して「活性化」と言っています。
例えばこう考えて下さい。
携帯電話の基地局の写真を数千枚見せられたら皆さんどう思いますか?
世の中には「鉄塔マニア」という方もいますから、そういう方であれば面白いかもしれませんが、別にそんなマニアでもない興味が無いという一般の方であれば基地局の写真を大量に見せられてもワケが分からないでしょう。
鉄道写真も同様で、鉄道に興味がある方なら良いですが、鉄道に興味が無い方は鉄道写真を見せられてもワケが分かりません。
お客様はあくまでそこに行きたいという目的が先にあり、では何で行こうかという選択のときに「鉄道」があるのです。
にもかかわらず、大量の鉄道写真を掲載するのは、目的がお客様のためではなく、自分が写真を見せたいからになっていて、お客様の事など全く考えていないわけです。
結果、このローカル線は一時盛り返した物の最近は乗客減少となり、また「廃止」というキーワードが浮上し始めています。
何のためにやっているかわからない活動は、活性化になどならないのです。
これもまた、その路線を、街をどうしたいのかという明確なビジョンがあり、それに向かうには何をするのかというミッションではなく、自分達のやりたいことが先に立ってしまった事例です。

自分達のペースで活性化運動をやってついには廃線になった路線があります。
長野電鉄屋代線です。
こちらも地元の有志の方が集まり活性化団体が複数立ち上がります。
存続に当たり、シンポジュウムを何度も開催し、ひたちなか海浜鉄道の吉田社長や、いすみ鉄道の鳥塚社長も講演をします。
吉田社長からはメイドトレインをご紹介いただき、「やれる事は何でもやる」というスピリットを講演されました。
鳥塚社長からは「乗って残そう運動なんてやって残ったためしが無い」と、「乗らないけど残そう運動」を提唱しました。
これは「存続運動をしている人ですら鉄道を利用していない」とし、「乗らないけど残したいのなら募金を集めましょう」と提唱しました。
その提唱を受けてこの屋代線の活性化団体は何をしたのでしょうか?
意味が無いという「乗って残そう運動」を開催し、やりなさいと言われた募金など集めませんでした。
運動の代表の方もテレビのインタビューで「住民が出資していいという声もあるんだ」と言っていましたが、具体的に資金を集めたという話は聞きません。
要するに色々な事例を学んでも、あくまで自分達のできること、自分達のやりたい事しかこの存続運動は活動しなかったのです。
「存続」という目標を定め、その目標を実現するために何をしなくてはならないかというプロセスを組み立て実行するのではなく、あくまで自分達で自分達のペースで、自分達のできる事、やりたい事だけやり、結果がついて来てくれないか願っていた・・・
そんな運動は結局、廃止という最悪の結末を迎えます。

結局、こういった活性化運動をしているところの(全てとは言いませんが)多くは、明確なビジョンがあり、そのビジョンを実現するためのミッションがあり、死に物狂いでビジョンを実現しようとしているのではなく、自分たちのペースで自分たちの好きなことをしているだけのところが多く感じます。
もっとストレートに言えば、本心の目的は「活性化」ではなく、活性化の名を借りて自分たちのやっていることを見せびらかしているだけの人たちが多々見受けられます。
当然、お客様のニーズからはかけ離れて生きます。
要するに、それは活性化をしようとしているのが本心ではなく、活性化の名を借り手自分たちの好きなことをしているだけではないでしょうか?
ビジョンも無ければ、むしろ活性化運動を利用しようとしているような所が活性化することは、ほぼ不可能です。

もっとも、こういった状況に陥るのは、行政も悪いのです。
「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」というものがあり、鉄道に限らず地域交通の再生を支援する法律的な根拠や、支援制度もあります。
この制度を利用する場合、まず行政が中心となり活性化協議会を設立し、行政や市民、交通事業者、公安委員会などと再生計画を練り、国土交通大臣の認定を受ける必用があります。
しかし、この行政がやる気が無かったり、心持たない運動しか出来無い、市民運動を取りまとめられないと、大体空中分解します。
確かに市民の方も、給与をもらって活性化運動をしているわけではなく、手弁当でやっているわけですからあるていど自分達の楽しみ目的の活動も必要かもしれません。
しかし、そこはきちんと行政が取りまとめていかないと失敗します。

【評価基準が低すぎる】
目的意識の無い活動ではもう一つ恐い現象がおきます。
一言で言うと「井の中の蛙現象」です。
それはこういった活性化を行う有志の方はおろか、鉄道会社もPRやセールスプロモーションの専門家ではないため客観的評価ができない事です。
こういったローカル線は、他社と顧客を奪い合うような激しい営業攻勢などした事もありません。
大抵は地域独占で黙っていても客は来る論理で何十年も経営してきたわけです。
お客様の声や行動を分析するなどということもしたことが無いところが実に多くあります。
まして活性化団体という組織はそういった面が殆ど素人か、せいぜい地元の商店レベルのお客様相手の感覚です。
イベントするにしても企画書すら書けない人が大半です。
こういった状況で何かをしても、著しく低い段階で「合格」判定をしてしまいます。
自分達は最大の事をしているつもりかもしれませんが、大手などのレベルと比較するとあまりに低すぎるわけです。
例えば、大手の民鉄の沿線グルメ案内と、ローカル線のグルメ案内を比較しましょう。
大手は実に美しい料理写真を掲載していますが、ローカル線のグルメ写真はスマホのカメラで撮った様な酷い写真が多いです。
大手だと、絶対NGの物も平気で載せてしまいます。

お客様の反応に対しても同様です。
ちょっとプログやツイッターでアクセス数が上がったり、コメントが来ると「全国から大反響だと」という勘違いが生じます。
いままで全くコメントなんて来なかったところに10件ほどコメントが来るともう舞い上がってしまいます。
しかし、裏を返せばたった10件でしかないのです。
それをまたマスコミはあおって「ツイッターを駆使して活動」などと報道すると「自分達は駆使している」「マスコミが報道してくれたんだから間違えない」と思い込みます。
ですが、フォロワーさん100件程度のどこが駆使しているのでしょう。
今時の高校生だって1000人くらい軽くフォロワーさんはいます。
マスコミというのはとかくセンセーショナルに報道したがります。
そういう特性を理解しないで真に受けると、「井の中の蛙現象」がより強固になります。

インターネットやホームページも駆使しているというところは余りありません。
例えば町のグルメを紹介しますとgoogleの地図にマーク・・・最悪です。
一見最新のインターネットを駆使した紹介のように見えますが、ではお客様はその店にどうやって行くのでしょうか?
その案内は「後は勝手に行け」でしかないのです。
駅から徒歩5分圏内くらいならまだしも、およそ徒歩ではいけないようなところを「沿線グルメ」と紹介してお客様はどうやって行けばいいのでしょうか?
「○○駅バスで15分」・・・って、どのバスに乗ればいいのかも分かりませんし、何分にバスが来るのかも分かりません。
あるB-1グルメの町は案内にgoogleにマークしていますが、今の時間営業している店を探すにはその何十ものマークを全部開かないと分かりません。
そういうインターフェースを何も考えていないページをOK判定して出しているのです。
こういった紹介の仕方はおかしいという評価すら出来ていません。
そもそも、「グルメ情報です」と、ただ店名と住所を出しているだけの所も多数ありますが、誰が電話番号見て行きたいと思うでしょうか?
ぐるナビなど様々な情報サイトと比較すると、あまりに情報が無い事にすら気付いていません。
魅力を伝えるという事を全く考えていないのです。
お客様は何を必要としているのか、どういう情報を出す事が当たり前なのか、何が当たり前なのかの客観的評価がまるで出来ないのです。
こう言ったお客様目線とはあまりに程遠い活性化運動をしているところが実に多いのです。

活性化運動をしている人の情報を色々集めてみると、驚くほど学んでいません。
ネット程度で調べてはいるようですが、例えば和歌山電鉄やえちぜん鉄道のように活性化に大きく成功したところに視察に行ったという話しはほとんど聞きません。
もちろん個人的に乗りに行ったという程度の話ではなく、きちんと団体として視察をして、意見交換したのかです。
あるいは鉄道イベントをやるというのに、他の鉄道イベントのリサーチや視察、あるいはその鉄道会社にノウハウや注意事項を聞いたりという意見交換もほとんどしていません。
大手で大規模にやっているところであればあるほど、様々なノウハウを持っているものですが・・・聞きません。
グルメ情報を出すのなら、他社のグルメサイトはどういう情報をどうやって出しているのか・・・まったく見もしていません。
要するに全てが一人よがりと言う訳です。
お客様離れを起こす要因の一つがそこだといえます。
つまり、お客様のニーズを全く組みきれていないのに、それが正しいと思い込んでしまっているわけです。

栃木に「湯守 田中屋」という温泉旅館があります。
100年も続く老舗旅館ですが、今から十数年前に倒産の危機に直面します。
これを再生したのは、実はテレビ番組でした。
テレビ番組の企画として、なぜお客様が来なくなったのかの分析から始まり、リニューアルまでのすべてを番組として放送しました。
この中で驚くのは、お客様に出している料理を経営者は誰も食べた事が無いと言う事です。
実際食べて見ると、自分で肉を焼くという食べにくいシステム、焼いてはみたものの固くてマズイ、酷い食事。
そんな物を何十年も提供していたといいます。
これはローカル線の活性化も実に似ていて、自ら掲載した案内に基づいて行って見るという事を全くしていない所が実に多くあります。
観光地の案内に「○○駅下車、車で50分」と書かれていても、鉄道で来させて駅から車で行けとはいうのは論理的におかしいという事にすら気付いていない案内は実に多くあります。
こんな事が日常茶飯事起きていれば、そりゃお客様も来なくなるわけです。
こんな酷い状態で、合格点を出しているところが殆どです。
「湯守 田中屋」はこういったところを徹底的にリニューアルし経営者の意識も変わった結果、現在は見事に再生し人材採用まで行うほどになっています。

【当事者意識の欠如】
実はここ数年でメイドトレインの開催要望は十数社ほどから受けています。
しかしご覧の通りそんなに開催はしていません。
それは断っているからです(自然消滅的なものも含みます)。
この断ったすべてに共通している事があります。
それは「当事者意識が無い」という事です。
「活性化したいんです」と相談に来ても、中身を聞くと・・・
・貸切で運行して欲しい
・規定の貸切運賃を払ってもらう
・イベント運営費は出さない、出せない
・交通費、宿泊費も出しません
・集客はしない、集客責任は全部そちらで
・運行以外の運営スタッフは出さない
・ポスターとか貼る場合は規定の広告料金を頂く
・保健所の手続きとかも全てそちらで

これは活性化の相談ではなく、単なる貸切電車の売り込みです。
それはかまわないのですが、それならこちらもビジネスライクに「利益にならないんでお断りします」となります。
要するに、一切労力も費用も出さないけど結果だけ下さいという事です。
このパターンでのオファーは全てお断りする方針です。
私も鉄道が好きでこんな商売を始めたので、赤字ローカル線の運行会社が「お金が無いんですけど」というご相談にはご協力します。
しかし、リスクも全部負ってくれ、労力も出さないでは、会社としてはとてもお取引できません。
「お金は無いんですけど、こっちで出来る事は何でもやりますから」というご相談ならウエルカムです。
自分達が活性化したいと思うのなら、まずは自分達が汗だくになるべきです。
「自分達は汗をかきません、でも結果だけ下さい」というスピリットでは活性化できません。
いままでメイドトレインはじめ関わってきた鉄道会社や旅行会社、広告代理店はいずれも汗だくになっています。
JALの再生に入った稲盛さんも、JALの社内は「潰れた会社」という雰囲気がまるでなく、コスト意識も全く無い体質に驚き、「今のJALは八百屋の経営も出来ない」と言い放ったとおりです。
ですが、赤字のローカル鉄道会社も同じで、廃止という話題が現実的に飛び交っているのに「死に物狂い」という意識はまるで感じないところが多いです。

それと、ローカル線の会社で特徴的なのが、交渉、折衝力が低いというのもあります。
例えばメイドトレイン開催で見積もりを求められれば、当然規定ベースの見積もりを出します。
しかし、その見積もりでは無理だというのなら、「この金額でやってくれないか」と交渉すべきです。
ここで重要なのは、ビジネスの世界でよく言われる「win winの関係」です。
要するにお互いがこのプロジェクトで利益になっていい関係になりましょうという交渉です。
ですが、意外とローカル鉄道会社で多いのが「こっちは儲けさせてもらいますが、そっちの事は知りません」型です。
お互い現金としては儲からないけど、お互い何かメリットになるようにしましょうという交渉ならwin winです。
しかし、相手があくまで規定の話しかしないのなら、こちらも当然規定の話しかしません。
これで話がご破算となります。
「予算的にこれしか出せないけど、その分こっちでやりますから」とか、「お金は出せないんですが、集客はこっちでしますから」とか、そういう交渉、折衝能力がまるでありません。
例えば、保健所の手続きは現地の管轄保健所に複数回出向く必要があり、当然遠方ですとそれだけで相当な交通費や旅費がかかります。
それを現地の鉄道会社が全部やってくれるのなら、その分のコストは下げられます。
そういったアイデアや折衝が全く出来ないところが多く感じます。

本当に何とかしたいのならとことん考えて知恵を搾り出すべきです。
そして汗だくになるべきです。
ですが、地方の鉄道会社にしろ、活性化団体にしろ、どうもそういった強い当事者意識というのを感じません。
当然、そういったところは活性化出来ないでいる状況が何年も続きます。

【スピード感の無さ】
津軽鉄道の嘉瀬駅になにやら変な絵が描かれた車両が置かれているのを存知でしょうか?
これは今から15年ほど前に「SMAP×SMAP特別編 香取慎吾ガンバリます!」というフジテレビの番組の企画で、SMAPの香取慎吾が絵を描いたものなのです。
高視聴率番組SMAP×SMAPの特別編で、人気絶頂のアイドルが絵を描いたなどという事が全国で放送されるや否や、津軽鉄道には全国からファンが殺到。
当然、津軽鉄道はかつて無い巨大なPRとなり、増収にも寄与するに至ります。
ですがこの企画、はじめに持ち込まれたのは津軽鉄道ではなかったのです。
のちに廃止となった北海道ちほく高原鉄道だったのです。
ではなぜこんな巨大PRを北海道ちほく高原鉄道では実施しなかったのでしょうか?
それはスピード感の無さなのです。
こんな話がちほく高原鉄道にももたらされたというのに、会社側は「一ヶ月も遊ばせる車両がない」「田園地帯を走る銀河線のイメージにふさわしいとはいえない」と堂々巡りの論議を繰り返して、テレビ局側から「もういいよ」と蹴飛ばされる事態となったのです。
一方の津軽鉄道はスムーズに結論を出し採用され、成功を収めたわけです。
いつも言っていますが、マスコミ関係者は異常なほどせっかちです。
今言ったら今結論出してくれタイプの人は当たり前。
私の経験でも、ある番組ディレクターが私の携帯に電話しても3時間繋がらないと「おいどうなってんだよ!」と会社に電話を入れてきたり、ある雑誌編集者は私と1日連絡がつかないというだけで警察に捜索願を出してしまうほど、せっかちです。
それは極端としても1日連絡がつかないと異常事態だと感じる人が当たり前にいるのがマスメディアの世界です。
なぜこんなにせっかちかというと、マスメディアの人はとにかく忙しく、スケジュールも超過密に入れていますし、直ちに連絡をするというのが染み付いている人たちなので3時間でも遅いと感じ、1日連絡がつかないと事件か事故と思ってしまうわけです。
また、連絡がつかないという事は、他のスケジュールを決められないからイライラするわけです。
マスコミは番組の放送や雑誌の原稿締め切りなど絶対的なスケジュールで動いている世界なため、そんないつになるか分からない話はイライラします。
そんないつ連絡付くんだか、いつ回答来るんだか分からないのなら「もうイラネ」になってしまいます。
それがちほく高原鉄道でだったのです。
この事は地元からも「もったいない」と批判が巻き起こり、ついには北海道新聞がこの問題を記事にする事態となります。

平均して言える事は地方はのんびりしているという事です。
それは地域特性で良いと言えば良いのですが、赤字を出しているところがそんな事言えるでしょうか?
例えば年間2億円の赤字を出しているというのは、1秒当たり381円の赤字を出しているわけです・・・と言っている間の数秒で1000円の赤字を越えました・・・と言っている間に2000円の赤字が・・・と言うほど、ペースで損失は増えています。
そして1時間で22831円、1日で547945円、そして1年間で2億円です。
しかし赤字ローカル線の会社や活性化団体の方はそういった危機的意識が低いところが多いです。
打ち合わせと言っても数週間後、回答待ちが一ヶ月以上とか平気です。
一日待たせるということは54万円以上吹っ飛ばしたと思うと、いかにスピード感が大切か分かります。
残念ながら赤字ローカル線の関係者はこういった危機的意識がまるで無いところが多いのです。
逆に言えば、そういった危機的意識が無いからこそ赤字を垂れ流しの状態にしているといえます。
ちほく高原鉄道の場合は特に、自治体やJR北海道からの出向者が社員の殆どであったため、「廃線になったところで戻る所はある」という感覚や、赤字であっても公務員の給料規定に基づきボーナスまで支給されているという状態で、まるで当事者意識がなかったこともまた廃線の要因といわれています。
「赤字だから給料3割カットする、ボーナスも無しだ」と言われれば死に物狂いになったでしょうし、それでも何も変わらない人は解雇した方がいいでしょう。
当事者意識の無さ、それに起因するスピード感の無さ・・・

一方他社はどうでしょうか?
メイドトレインを開催頂いた鉄道会社は、やはり先端の物を直ぐに取り入れようという意識が高いと感じ、物凄いスピードが速いです。
私がプロデュースしたメイドトレイン、開催前には様々な調整を進めますが、日に何度もメールが飛び交います。
こちらもPCメールはスマホに転送してあり、内容を見て急ぎと判断すれば直ちに電話を入れて対応します。
常に「一刻を争う」状態で対応します。
例えばメイドとインでは過去に、「メイドを乗せて入線したいので、途中で列車止めてくれ」とか、夕方に定期列車がありダイヤを入れられないという運行を打ち切りメイドトレインに増結した定期列車に車両交換するというかなり大掛かりな事を要望しましたが、こんな事も一週間くらいで「実施する」と回答が来ました。
埼玉県の新三郷にある「ららぽーと」のオシ24を使ってイベント開催したさいにも、開催決定してから開催まで3週間ほど、保健所の手続きから物品の手配、武蔵野操車場写真展の写真探し、プロモーションの色々な鉄道系博物館との提携などを私の会社で中心的に担当したのは2名で3週間ほどで作り上げました。
外部スタッフを入れても10名までは行っていません。
こういった実情を鑑みると、ローカル線の活性化運動はいかにスピードが無いのかが良くわかります。
その他、色々な商談や打ち合わせも平均的に大手は数日後で直ぐにアポイントが取れますが、赤字のローカル線というのは平均的に「担当者がいない」「その日は不在だ」などいつなるのかわからないというパターンが多くあります。
あるいは接点があったある活性化団体にも「全くお客様への情報が無い」と指摘しても、「それは鉄道会社の問題だ」「そういうのは代表に言ってくれ」とか、逃げる話ばかりで、「関係者集めてお話伺いますのでご足労いただけないですか」とか、そういう話もありません。

スピード感が大切なのは、赤字垂れ流しの防止、コスト削減という意味も勿論ありますが、最も重要なのは「本気度アピール」だと感じます。
こういった、いつ何をするのかも分からない対応が続くと「本当にこの人たちは何とかしたいと思っているのか?」と感じてしますし、遠まわしに断っているのかなとも感じます。
しかしそうかと思うと数ヵ月後に「お話を聞かせて欲しい」とやって来たり・・・
一方、「直ちにご提案を聞きたい」と言って来るところは「やる気満々だな」と感じます。
そういったところにはやはり他からも面白い企画や提案がどんどん舞い込んでくる物です。
逆に、はっきりしない対応が続くと相手も「こんな人たちに提案しても仕方ないな」と、引き上げてしまいます。
それがまた、ちほく高原鉄道だったわけです。
そしてちほく高原鉄道は最後には廃止になってしまうわけです。
一方の津軽鉄道は、厳しい経営ながらも廃止の話題が殆ど聞かれません。
津軽鉄道は意欲的な経営とPRで、首都圏の鉄道イベントにもよく参戦されている通りです。

もちろん、当事者の皆さんは意図的にダラダラやっているとは思いません。
皆さんなりに一生懸命のところも多いと思いますが、評価基準の話にも関連しますがその対応はあまりにも先端の速度からは遅く、活性化とは程遠い事があたかも普通だと感じているのだと思います。
しかし、そういった意思決定の弱さに起因するスピード感の無さと、それが当たり前だと思ってしまっている評価基準の低さ、客観性の無さが結果として赤字でも「そのうち何とかなるさ」体質で赤字を垂れ流したのではないでしょうか?
何度も例にしているJALの再生に入った稲盛氏も、そういった意識改革を猛烈に行い、パイロットに対しても燃費の良い飛び方を考えさせる教育をしたといいますし、機内誌や機内サービスの皿の重さにまでこだわり、数グラム軽くしたら一体いくらコスト削減できるかの試算までしたといいます。
もちろん大胆な人員削減や路線撤退も大きいですが、結果として赤字から100億円以上の営業利益を計上するに至ります。
家電業界も似たような話です。
現在、日本の家電メーカー、特にテレビは海外勢に押されて酷い状況、しかしその要因は元々家電メーカーが主導であった製品のコンセプトや提案が、米アップルや米グーグルなどシリコンバレーの企業が、いかにコンテンツを流すのかという状況へ変化しています。
しかし、そのあらたな価値観の変化に迅速に対応できず、意思決定の遅さで次々と新興国に抜かれていったと言われます。

活性化、活性化と直ぐにイベントをやるとか、鉄道ファンを当てにするところが多いですが、いくらそんな事をしても社員や関係者の意識が変わらないと何も変わらないのではないでしょうか?




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