ローカル線はなぜ活性化しないのか? 「富士宮やきそば」の成功から学ぶ。


2013年1月17日放送のテレビ東京「カンブリア宮殿」の特集は「富士宮やきそば」でした。
http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/backnumber/20130117.html
(カンブリア宮殿とはテレビ東京の番組で色々な企業再生やプロジェクトを成し遂げた人を特集する番組)
今回はこの番組を見た感想を基にローカル線の活性化について書きます。

「B-1グランプリ」を皆さん御存知かと思います。
全国の御当地グルメを競い合う(正しくは料理ではなく団体が競います)おなじみのグルメイベント。
このB-1の王者で、一大ブームを巻き起こしたのが、静岡県富士宮市の「富士宮やきそば」です。
その経済効果は640億円に達し、シャッター街を活性化、地元に大きな経済効果と雇用を生み出しました。
たかがやきそばて、なぜここまで大きな活性化を実現したのでしょうか?

まず、結論から先に言うと、富士宮やきそばがヒットした原因は「マスコミ」です。
富士宮やきそばの町おこしは始に「富士宮やきそば学会」を作ります。
「学会」なんて随分と大それた名称をつけます。
次に市場調査に行くときに「やきそばG麺だ」と騙って市内全てのやきそば店をまわったそうです。
当然、「学会だ」「G麺だ」と、相当「アヤシイ」。
周囲からもかなり不信がられたそうです。
しかし、これは作戦だったそうで、マスコミはこういったおかしなものに飛びつきやすいという性質があります。
会長の狙いはそこだったわけです。
何をするにも、先ずはさておき、知ってもらわないと始まりません。
知ってもらうには「宣伝」が必用です。
でも、CMを打ては数千万円から億という宣伝費が必要です。
一方、マスコミが取り上げれば宣伝費はタダで、数十万、数百万、時に全国で報道されれば数千万人に知れ渡ります。
つまり、活性化において、マスコミに取り上げてもらうというのは極めて重要なことだと言えます。
「学会だ」「G麺だ」という馬鹿馬鹿しい話にマスコミは飛びつき、一年間で175件の取材を受けたそうです。
そして全国に「富士宮やきそば」が知れ渡るに至ったわけです。

実は全く同じ事を言っている方がいます。
石川県羽咋市役所職員の高野誠鮮氏です。
この方は、公務員でありながら限界集落を活性化し限界集落から脱出、地元の米をブランド米に育て上げ、農家の収入を4倍近くに引き上げ、ついにこのブランド米はローマ法王の献上米になります。
この方が、ある講演でこのように言っています。
http://www.kougabu.com/gallery/itou/pleasure/ufo.html
「まちおこしの根幹はマスコミにあるんだという考え方なんです。なぜかというと、まちおこしというのは謙譲の美徳を誇る時代じゃないんですね。どういう事かというと、どこでどんなにつまんない事をしていても、日本中の人に知ってもらう必要があるんですね。」
そしてこの方は突然、「UFOで町おこし」を始め、マスコミに「特ダネがあるぞ」と呼びつけては、何事かと思えば、うどんの具でUFOの着陸を模したんだと取材させたり、UFOサミットをやるぞと日清食品に(お察し下さい)協賛を求めたり、もはやバラエティー番組のような企画を連発します。
あまりにも馬鹿げている事を真剣にやっている、こういうのはマスコミは大好きです。
結果、全国で話題となり、ついには五十数億円をかけてUFO博物館を作ってしまいます。
また、米を販売するときも「有名人が食べているとなるとマスコミは飛びつくはずだ」と、まずは宮内庁に掛け合いますが相手にされず、今度は「神繋がりだ」と、ローマ法王に献上を申し出ます。
これが見事当たり、「ローマ法王が食べている米だ」とワンサカ報道されます。
結果は見事に大成功します。

更に同じ事を言う方がいます。
いすみ鉄道の鳥塚社長です。
いすみ鉄道鳥塚社長のブログでは、過去にこんな事を発言しています。
http://isumi.rail.shop-pro.jp/?eid=861184
「より多くの人々に知っていただくために、マスコミに営業をしていろいろ取り上げてもらう。」
http://isumi.rail.shop-pro.jp/?eid=860881
「テレビ局に積極的に働きかけて、いすみ鉄道が今のようにテレビやマスコミにたくさん取り上げていただけるようになったのです。」
やはりマスコミです。

もう一つ、ローカル線再生の最高峰の話題を誇る「たま駅長」でおなじみ、和歌山電鉄はどうでしょうか?
運輸政策研究機構の研究会向け資料で日本政策投資銀行がまとめた「地方鉄道活性化方策の事例と示唆について」という資料があります。
http://ipt.jterc.or.jp/koukyou_shien/event/090626kensyu/pdf/01_asai.pdf
ここの5ページにたま駅長の和歌山電鉄がなぜ存続できたのかが書かれています。
その理由は「マスコミ報道」と記載されています。
活性化の要因は「ねこ駅長」ではなく、それをきっかけとしたマスコミ報道だということです。

関係者が意図しないのに大ブームになったものがあります。
それが「月島もんじゃ」です。
今や東京名物となった月島もんじゃですが、古くから月島にもんじゃの歴史があるわけでもなく、元々そこにもんじゃ屋さんが集結していたわけではなく、殆どはブームになりかけたところに外部からやってきたり、今までの業態を変えて出店したお店ばかりで、ここ20年くらいの話です。
では何故こんな現象が起きたのでしょうか?
諸説はありますが、その一つにテレビ朝日で放送していた深夜番組「トゥナイト」があると言われています。
風俗取材もあるなど、大人向けの情報番組です。
このトゥナイトが「巨乳姉妹がやっているもんじゃ焼き屋がある」と放送したのがきっかけで、ブームに火がつきます。
実に下らない理由ですが、月島の街はそれを上手く利用したわけです。
その結果、シャッター街になりかけていた月島の商店街は見事に活性化を果たし、もはや東京名所にまで成長しました。

このように活性化に成功する所は、皆マスコミをうまく使っているということです。
しかし、ただマスコミに「取り上げてください」と言っても、「何しにタダで宣伝してやらなければならないんだ」と思われるだけです。
マスコミの報道には特徴があります。
例えば、今の日本で最も重要なことはなんでしょうか?
もちろん、いろいろなことが重要ですが、例えば今、Yahooニュースを見ると、トップに「AKB河西写真で講談社が謝罪」とあります。
ですが、日本は年間3万人が交通事故で死んでいます。
自殺者も3万人います。
人が死ぬこととAKBの写真集、一体どっちが重要なんでしょうか?
当然人が死ぬことの方が、社会的には問題です。
でも、報道ってそうではないのです。
こういう見た人が「あっとする」「なんじゃこりゃー」という物を前に出してきます。
町おこしに成功する所は、みんなこの特性を理解しているか、野性的本能として持っているのです。
そして、何かをするときに必ず「マスコミが飛びつく」というのを意識して何かを始めます。

ではどうすればマスコミに報道されるのでしょうか?
この点については山形鉄道の野村社長がある講演で分かりやすく説明しています。
http://keiei-online.jp/seminar/succession/post_192.html
それが「すしはどこさ」の法則です。
野村社長いわく、報道をされるための要素は・・・
ストーリー
社会性
初物
ドラマ
公共性
サプライズ(意外性)
これらがそろって始めて報道されるといいます。

例えば八百屋で大根を売っていました。
報道されますか?
全く報道されません。
「安い」「品質がいい」「食の安全を」etc
こんなことはどこでも言っていることで、それは必要なことではあっても上記の要素が無いため、報道価値などありません。
しかし、最近コンビニで大根はじめ野菜を売っていると言う事を、色々なニュースや新聞、経済系の雑誌が報道しています。
なぜ同じ物を売っているのに八百屋は報道されないのにコンビにだと報道されるのでしょうか?
それは「すしはどこさ」の法則が網羅されているからです。
コンビニというのが日本の消費者の生活に欠かすことが出来なくなっているという公共性、一方で郊外型スーパーの発展で都心部や住宅街からスーパーがなくなっており老人など買い物難民が出ているという社会性、利便性を追求してきたコンビニが生鮮食品を売るというサプライズと初物、今までコンビニが構築してきた流通網では対応出来ない中、社員が奮闘して店頭に並べられたというドラマ、これらが揃うので報道されます。

富士宮やきそばも、焼きうどん発祥の地といわれる九州小倉と「天下分け麺の戦い」と対決を仕掛けそれをマスコミ報道させ、更に知事に必勝祈願を書いてもらうよう要請します。知事が動けばマスコミが動きます。
勝負は負けたものの、マスコミに報道されたことで、「富士宮=やきそば」をマスコミを使ってPRし続けたわけです。
高野誠鮮氏も当時のソ連共産党ゴルバチョフ書記長やレーガン米大統領、サッチャー英首相などの世界のVIPに「うちの街はUFOでまちおこしをしている、激励してくれ」と手紙を書くという破天荒な事をします。
そして運良く返事が来たらそれをさらにマスコミに流して「海外のVIPから応援メッセージが来た」と大騒ぎ。
このように活性化に成功するところ、しかも大きく成功するところほど「マスコミ」をうまく使い、たきつけているのです。

実際、「やきそば」で町おこしをしている所は全国に複数ありますが、富士宮以外を言える人は殆どいないでしょう。
この事について野村社長は上記の講演で「日本一高い山はどこかと聞けば殆どの人が富士山と答えられるけど、二番目に高い山はどこかと聞くと殆どの人は答えられない」と言います。
つまり、他の真似をした二番煎じなど殆ど話題にもならなければ、人の記憶にも残らないということです。
高野誠鮮氏が言うのはまさにそこで、馬鹿げた事をしてでも知ってもらわないと先がありません。
しかし、活性化できない所は決まって「地域の皆さんに愛される」「沿線の特性を生かして」「乗って残そう」とかそんなありきたりなところからばかり入ります。
もちろんそこは重要ですが、それを最初に持ってきては何の面白みも珍しさも無く、マスコミは報道しません。
報道されない以上、多くの人が知る手段を失い、知らない所を利用しようと思うことはありません。
もちろん、報道されれば人が来るとは限らず、企画の内容やコンテンツの充実、価格帯、営業力など様々な要素も十分に検討する必要がありますが、それらを充実させてすばらしいものが出来ても、多くの人に認知されないと人は来ないのです。

たまに、私がプロデュースしたメイドトレインについて「活性化にならない」と言う方がいます。
そういった方は、紛れも無くこういった「マスコミ効果」を知らない方でしょう。
「地域の特性に合わない」「利用者のニーズにマッチしない」「そんな一過性のものは」と批判する方がいますが、活性化をするところの多くは「地域のニーズ」とはかけ離れたところから始まります。
「やきそば学会」「やきそばG麺」「UFO」「ねこ駅長」「国鉄型気動車」「巨乳」は地域のニーズだったのでしょうか?
どれも地域では求めていなかったはずですし、むしろ始めは「なんだそりゃ」と批判も受けたところもあるといいます。
メイドトレインが自信を持って「活性化になる」と言えるのはこういった報道効果です。
夕方のニュース番組から、全国の情報番組、全国紙から地方紙、ネットニュース、海外でも多数の報道があり、中国では新華社通信が配信し50媒体以上で報道されました。
海外のYahoo!ニュースのトップにも掲載されていました。
週刊誌など複数の雑誌も報道しています。
これらの宣伝効果を計算すると、軽くと1億円は超えると考えています。
あるところの活性化運動が地元の新聞にしか取り上げられないという状況がありました。
それを広告費掲載費に換算し宣伝効果をはじき出すと40万円でした。
つまり、メイドトレインの方が250倍以上の活性化効果があると言えます。
もちろん、是が非でもメイドをやれといっているわけではありませんし、秋葉原の老舗店も閉店し始めており、そろそろブームも終息だとは感じています。
しかしこういった、いかにマスコミが飛びつくのかという視点は変わりません。
問題はこういった事実を認めるかどうかです。

あるいは私の主張を「詭弁だ」という人がいますが、全くうがった話です。
カンブリア宮殿に高野誠鮮氏が出演したさい、司会で作家の村上 龍氏は高野氏について「この人多分プランナーとしては普通の人だ」と言っています。
こういったマスコミを使ってプロモーションを展開するというのは何も斬新なアイデアでもなんでもないのです。
大手の企業なら広報部があり、広告代理店とも常にどういった戦略で会社や商品を売り込むのかを考えます。
例えば、かつて「西部警察」というドラマがありました。
このドラマに日産自動車が協力しています。
日産としては自動車数十台提供しても、ドラマを通して「日産の自動車はカッコイイ」という印象が視聴者に焼き付けば、車の提供なんて安いもの。
一方、爆破されたり、谷に突き落とされる車は大抵トヨタはじめライバルの会社ばかりです。
また、このドラマでは地方で聞き込みといえば、スポンサーのオートバックスに行くというのもお約束。
そして聞き込みしているシーンの前には日産のエンジンオイルが置いてあるとか、しつこいくらいの露出です。
このように、企業は常に自社をどうやってマスコミを通してアピールするかを考えているわけです。
つまり、「マスコミを使うんだ」という発想は何も斬新でも独創的でも、当然詭弁でもない当たり前のことです。
逆に言うと、こんな当たり前のことに全く発想が行かないというのがローカル線が赤字になり、活性化できない要因だといえます。
私も、色々なローカル線の関係者の方と話しても、全くこういった話が通じず、「テレビに出たいのではなく、沿線のお客様に乗って欲しいのですが・・・」と、全く話が通じない事も多々あります。

なぜ、通じないのでしょう?
活性運動を見ていると不思議な事があります。
それは不思議なほど、皆さん学んでいないということです。
例えば社長公募第一号となったひたちなか海浜鉄道も知らない、住民の力で存続した万葉線やえちぜん鉄道も知らない、町おこしの成功事例も知らない、そういう人たちが活性化をしていることに驚きます。
もちろん始めは誰でも素人、知らないのは仕方ないのですが、他の事例を学んだり、情報収集したりもしていません。
当然そんな人たちが、視察に行ったり、成功した関係者に話を聞きに行ったりなんてしません。
その結果、典型的な「井の中の蛙現象」が起きます。
つまり、自分達は一生懸命やっているつもりでも、全国の事例から比較するとあまりにも恥ずかしい地点で満足してしまうという事です。
当然、活性化には程遠い状況となっています。
学んでいないため、何がスタンダードか、自分達がどのポジションにいるのかも分からなくなっているわけですから、こういった事例を出して話もちんぷんかんぷんという状態が生じます。
更に怖いのが、こういった問題を指摘しても、自分達が問題であるという事を認識できず、認めようとせずどんどん独りよがりな方向に向かいます。
そして殻に閉じこもり、自分達のやっている事を根拠も無く正当だと言い張る・・・
こういう状況に至った所は、もはや活性化は不可能です。
こうやって廃止になったところ、あるいは廃止論議が出ているのに活性化せず、ますます廃止の方向に進んでいところがあるのは実に残念です。


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