★【TPP交渉参加を問う】『ジャーナリスト 東谷暁氏 米国の思いのまま』|日本農業新聞2013年3月16日

 これで日本のさまざまな制度は、米国が思うように改造されていくことになるだろう。すでに事前協議でも米国は、日本に牛肉の輸入枠を広げさせ、かんぽ保険のがん保険参入を阻止し、自動車でも妥協を引き出しつつある。おそらく公的医療保険制度においても「変更」を余儀なくされ、そしてもちろん農業は試練の時代を迎える。
 
 そもそも、安倍晋三首相が昨年の衆議院選挙の際に、自民党の「TPPの考え方」にあった六つの条件のうち、関税だけに絞り込んだときから欺瞞は始まっていた。
 
 典型的な農業保護国である米国にとって「聖域なき関税撤廃」など不可能であり、安倍首相の打診はオバマ大統領にとって自国の方針を内外に明示するまたとないチャンスだった。
 
 こうした状況の中で、日本政府の情報収集および分析は万全とはいえない。それどころか経産省OBが日本の「攻めどころ」を米国に内通していた事件にもみられるように、交渉が日本社会を考慮したものになることすら危ぶまれる。
 
 例えば、日本高官が「米国は日本の公的医療保険制度を廃止しますか」と聞いて、米国高官が「他国の制度を廃止などしない」と答えたので安心だというが、米国が参加国の公的医療保険制度の根幹である「払戻制度」を「変更」させようとしていることは、米通商代表部の公式文書を読めば明らかなのである。
 
 米国は保険が「関心事」だと表明したことについても、日本政府は「かんぽ生命」だと説明しているが、米国の公文書には「共済」に対する批判が見られる。米国は広義の「保険」の制度変更を求めているのだ。
 
 こんな安易な姿勢で交渉に臨まれたのでは、とても日本の独自の制度は守れない。そして、聖域なき関税撤廃が行われなくとも、関税率の大幅引き下げに妥協してしまえば、日本農業は壊滅的な打撃を受けることになる。

Reply · Report Post