「川内原発再稼働「白黒つけてほしい」(ルポ迫真)」
(日経新聞・2013/3/14 3:30)

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFB04040_Z00C13A3SHA000/?dg=1

 「答えは同じです」。2月1日、鹿児島県知事の伊藤祐一郎(65)が記者会見で不快感をにじませた。伊藤は原発事故に備えて避難準備をする原子力防災の重点区域を、九州電力川内原発(薩摩川内市)から「半径20キロ圏」と繰り返し、国の指針である「半径30キロ圏」を強く否定してきた。何度聞かれても考えは変わらないという意味だ。



ホテルに到着し、スタッフに歓迎される千葉ロッテの2軍選手ら(1月31日、鹿児島県薩摩川内市)
 ところが県はこの後「30キロ圏に決定」と豹変(ひょうへん)。高校の後輩で伊藤とは蜜月関係にある鹿児島市長の森博幸(63)が「市は30キロ圏で対応したい」と強く反論したのがきっかけだ。森は原発周辺の市町のリーダー格でもあり、地元では「原発再稼働で足並みをそろえようと知事が無用な対立を避けた」との見方がもっぱらだ。

 伊藤は旧自治省時代、石川県に出向して原発政策を学び、自治大学校長まで経験した「地方自治のプロ」。メンツをかなぐり捨ててまで森に歩み寄った背景には、原発の再稼働で何とか地元経済を立て直したいという強い思いが透ける。

 1月22日、鹿児島労働局の雇用対策会議。撤退する薩摩川内市の富士通系工場の約700人の従業員のうち、大分県の事業売却先への転籍や他県のグループ会社への転出が難しい離職者は約550人と報告された。隣接する日置市のパナソニック系工場も来春閉鎖、すでに離職した183人のうち再就職は半数で雇用情勢は極めて深刻だ。

 川内原発は13カ月運転すると2~3カ月の定期点検に入る。県内外から1基あたり約1千人の技術者や作業員が集まり、地元経済を潤す。九州新幹線の鹿児島ルートが2011年3月12日に全線開業し、歩調を合わせるように「ホテルルートイン薩摩川内」が開業した。点検で80%台後半あった客室稼働率だが、ホテルの運営会社は「原発停止後、特需は見込めず売上高への影響は大きい」と打ち明ける。

 この冬は千葉ロッテマリーンズ2軍の春季キャンプの話が舞い込み、プロ野球選手の宿泊で何とか穴埋めした。「動かすのかどうか白黒つけてほしい」。受け皿となる周辺ホテルや旅館では綱渡りの対応が続く。

 元首相の吉田茂の腹心で九電会長を務めた太賀吉を父に持つ財務相の麻生太郎(72)。2月28日の経済財政諮問会議で麻生は自戒を込めつつ、再稼働をめぐる政府の対応を振り返った。「政府はどういう具合にしたいのかと。私が電力会社だったら、そう言う」(敬称略)
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