サンデー毎日【総選挙後、週刊誌に初登場
アベノミクス、TPP、野党再編、憲法改正
ーー惨敗した「剛腕」次はどう動くのか
談合ニッポンをもう一回うちこわす!

《小沢一郎がすべてを語った》

〈アベノミクスは「国民にカネが回らない」〉
〈安倍首相「なんとなく右」が危なっかしい〉
〈このままなら民主党は「第二の社会党だ」〉


嘉田由紀子滋賀県知事を擁した前回衆院選で惨敗を喫した小沢一郎・生活の党代表。果たして“剛腕”は死んだのか。景気対策の裏で「憲法改正」に突き進む安倍晋三政権の評価、そして今後の政局はーー。作家・大下英治氏が核心に迫った独占インタビュー90分。

【大下英治】まずは昨年12月の衆院選を振り返っての心境を。

【小沢一郎】「第三極」といわれるグループがいくつかできて、しかも突然の解散で時間がなかったから、できるだけ広く支持を集めるには、受け皿を大きくした方がいいだろうと思ってね。僕ら「国民の生活が第一」が日本未来の党に合流する以前から、みんなの党にも日本維新の会「このままだと必ず(総選挙で)負ける」と、まとまるように言い続けてきたんだけれども、結果はご存知の通り。僕の思った通り、自民党を利する結果になりました。

【大下英治】野田佳彦首相(当時)による早期解散には、維新の会へのけん制とどうじに、小沢一郎に準備をさせない意図があったのでしょうか。

【小沢一郎】多少あったかもしれないが、まさに自殺行為。一瞬にして200人近くの同志を失ったにもかかわらず、野田首相周辺から「これで党が筋肉体質になる」「スリムになって逆に良かった」というような意見が聞かれる。異常としか言えません。

【大下英治】民主党政権が壊れた根本は何でしょう。

【小沢一郎】国民から政権を預かった、という責任感と使命感がなかったことです。それに、僕の例が典型ですが、同志が力を合わせて助け合うという良い意味での仲間意識が皆無でした。政権という“高価なオモチャ”をもらって、喜んで遊んでいたという感じですね。

【大下英治】菅直人元首相らは「小沢一郎を排除すれば支持率が上がる」という発想でした。自民党はその点、まとまりがあります。

【小沢一郎】良くも悪くも自民党の方が“大人”の常識を持っている。民主党は“子ども”。加えて、セクト主義的な左翼運動の体質があるのでしょうか。“内なる敵”を倒す、「あいつを倒せば自分は安泰だ」という感覚でした。その点は官僚と同じ。だから民主党は官僚と“共闘”できたんでしょう。せっかくスゴロクの「振り出し」から「上がり」に行ったのに、また「振り出し」に戻っちゃった。

【大下英治】しかし、「振り出し」に戻ったのは、国民が「二大政党はダメだ」と感じたからではないですか。

【小沢一郎】半分あきらめたんでしょう。それが総選挙の低投票率に表れた。ただ、自民党の得票は増えていない。(第三極が)バラバラになったから(自民、公明の議席が)3分の2になっただけです。

【大下英治】維新の橋下徹大阪市長は石原慎太郎と組んで主張が変わりましたね。

【小沢一郎】参院選が終わればはっきりするでしょうが、石原さんは完全に自民党ですよ。「総選挙で自民党が(過半数を)取れなければオレの出番」と思っていたかどうかは知りませんがね。


《「政権奪還は難しくない」》

【大下英治】今回、“一兵卒”から再び(生活の党の)代表になったのはなぜですか。

【小沢一郎】非常に迷いました。かつて自由党をつくった時と同じ状況になったわけです。僕を支持してくれる人たちは熱心な人が多いから、僕が代表になることでその票は多分戻ってくるが、過半数にはならない。主義・主張がはっきりするのはいいけれども、政権奪還という大目標からすると、我々だけでは難しい。ただ僕は、政権奪還自体は難しくないと思っています。事実、自民党などの票は増えなかったのに3分の2の議席を得たわけだから、再び(民意が)振れればドンデン返しになる。そのために受け皿をしっかりと広げ、連携することが大事だと思います。民主党は政権を一度取りましたから、自民党に対抗するのは民主党、という意識が国民に染み込んでいるんじゃないでしょうか。

【大下英治】海江田万里代表は小沢さんが代表選に立てたことがある。連携はある?

【小沢一郎】でも、「排除の論理」の人たちの影響力もまだあるだろうし、(連携は)こちらから言う立場でもない。ただ、「なんとしても政権を」という積極的な意欲がないと、労働組合だけの“第二の社会党”になっちゃう。民主党の諸君の「志」次第ですね。

【大下英治】維新はどうですか?

【小沢一郎】旧体制に対峙(たいじ)し、看板通り維新を断行するなら大賛成です。でも自民党と連携話をしているようでは国民の期待も萎(しぼ)んじゃう。

【大下英治】第三極は大変だ。

【小沢一郎】このまま行くと、野党は参院選で負けますね。でも、国民は自民党でいいとは思っていません。この前の選挙では、自民党に投票したくない人は棄権しました。参院選で負けたって次の衆院選は絶対勝てる。自民党は安定政権とは思えません。結構もろい。(安倍政権は)「右(路線)」と言われるが、右でも左でもいいんですけれども、政治家としての理念に基づき、そこから出る政策、主張、論理的・合理的な結論を掲げてやるなら、結果として賛成できなくても理解はできます。だけど、その場その場、なんとなくの右、なんとなくの左では、とても危なっかしい。安倍晋三さんはとても人柄がいいし、僕は好きです。だけど天下の政治、日本の舵取りですから、人が良いというだけでは、ちょっと船長として心許ないですね。

【大下英治】そのアベノミクスの「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」という“三本の矢”をどう見ますか。

【小沢一郎】前の自民党に戻っただけでしょう。不景気だから公共事業をやれ、というだけで目新しい話じゃない。GDPを大きくすれば、みんなに配分が行き渡り、国民の所得も上がる、生活水準も上がるという考え方が背景にあります。かつての小泉純一郎元首相も竹中平蔵氏もそうでした。右肩上がりの経済の時は通用しましたが、小泉氏以降は全然違います。実際、国民所得はずっと減っています。経営者層の所得と企業の内部保留だけが膨らみ、国民の所得に還元されていない。今また右肩上がりの時の考え方を持ち出したわけですが、国民全体のレベルアップ効果はありません。

【大下英治】「脱原発」ですが、前回衆院選で目玉の争点だったはずなのに、維新は曖昧、自民党も強く言わなくなりました。

【小沢一郎】維新も他の第三極も、口を揃えて言わなかったから、争点にならなかったと思います。加えて、野田政権が原発事故は「収束した」と宣言した。それで、なんとなく事故が終わったような雰囲気になってしまった。

【大下英治】自民党は逆に再稼働に前向きです。3分の2の議席を得たということは、国民の支持を得たという意味になるのでしょうか。

【小沢一郎】「支持」ということなんでしょうね。

【大下英治】もし選挙までに時間があれば、脱原発の訴えは浸透したと思います?

【小沢一郎】いや、違うでしょうね。メディアも政党も黙殺しちゃったんだから、酷い話です。最後は国民が決めることですが、こんなことをしていたら天に唾する結果になるような気がして、とても心配です。


《夏の参院選で計20人擁立へ》

【大下英治】夏の参院選について伺います。生活の改選は6人で非改選は2人。

【小沢一郎】改選議員のうち3人が選挙区で、3人が比例区です。近く比例区の追加公認を発表しますが、比例区では10人を擁立する予定で目標は1000万票です。

【大下英治】小沢さんの地元の岩手では、民主党の平野達男前復興相に対して候補者を立てると聞いています。

【小沢一郎】しょうがないですね。民主党は、僕たちの現職がいる新潟(森ゆうこ氏)や広島(佐藤公治氏)に新人候補をぶつけてきました。今この状況下で対抗馬を立ててくるのはケンカを売ってきたということだから、対抗せざるを得ません。しかし、1人区については基本的に野党の共倒れを防ぐため、特別の事情があるところ以外は立てないようにしようと思っています。一方、3人区以上では、ぜひ公認候補を擁立したい。首都圏の1都3県(東京、神奈川、千葉、埼玉)などの選挙区と比例区を合わせて計20人は立てたい。

【大下英治】三宅雪子さんとか、前回衆院選で敗れた人たちの中にも「参院選に出たい」という人がいますね。

【小沢一郎】三宅君は張り切っています。参院では10人以上が院内交渉団体なので、2ケタの議席を確保しなければいけません。20人の候補者擁立を目指し、2ケタ当選を目標にしたい。2013年度予算案が衆院を通過すれば、参院選一色でしょう。2~3月で基本政策を煮詰めていきますが、原点は、やはり政権交代した時のマニフェストですね。

【大下英治】安倍自民党は成長戦略を掲げています。対する生活、小沢一郎は日本をどう成長させていくのか。

【小沢一郎】外需頼み経済成長は非常に危ういことが分かってきました。諸外国の雲行きがおかしくなれば、日本もおかしくなるわけですからね。日本のように、精神的にまだ幼稚だが経済的に成熟した国は、内需中心で成長できます。1%か2%か、低いながらも成長していくことはできます。早くその仕組みを確立しなければならない。その前提として、中央集権体制を変えて地方に権限とカネを渡し、地方の活性化を図らなければいけません。それによって、内需中心の社会の礎を築いていこうというのが僕の考え方です。ところが、国会議員自身が中央集権、官僚主導の体制を変えられるはずがないと思っている。国民には地方分権、地域主権と言っているのに、実は内心、「あり得ない」と思っているんです。

【大下英治】でも都道府県によっては、能力の有無で格差が出てくるのではないですか。

【小沢一郎】隣の県は住みやすいとか、わが県の知事はダメだとかで差が出てくるからいいんです。地域間競争が生まれることでそれぞれが活性化されます。まず公共事業はすべて地方に渡すとか、地方分権を少しずつやればよかった。例えば、財務省は地方への補助金のうち「社会保障関係費15兆円は動かせない」と言うけれども、そんなことはないですよ。実際にやっているのは地方なんだからね。そして、地方の裁量に任せれば行政経費は3~4割削減できます。また、例えば企業年金の資産運用で1900億円を消失させたAIJ投資顧問には厚労省の役人が天下りしていたのに日本人は平気な顔をしている。自立意識がうすいんですね。「オレたちのカネだ。どうしてくれるんだ」と怒るのが普通なのに企業も黙ってしまっている。みんな談合体質なんです。それを断ち切って打ち壊さなきゃ、日本はうまくいきませんよ。


《「彼ら」の企みは90点くらい取れた》

【大下英治】その談合体質にメスを入れるという立場からいえば、“邪魔者”にされたという認識はあります?

【小沢一郎】僕は旧体制の人たちにとって完全な標的ですよね。証拠も何もないのに、いきなり強制捜査されました。普通の法治国家、民主主義国家ではあり得ないことです。政権交代するとみられていた野党の代表を、衆院選前になんの証拠もないのに強制捜査するなんて、後進国の独裁国家です。民主主義を否定する人たちの所業ですよ。メディアも平気でそれに乗り、僕を犯罪者扱いしました。しかも、証拠が挙げられないとなったら証拠の偽造までした。その結果、3年半、僕は政治活動を制限され、結局は無罪になったけれども、同じ党の人間にまで攻撃されました。一方で、有印公文書まで偽造した検察官は刑事責任を問われない。どうなっているんだ、日本は!
ただ、僕の息の根は止められなかったけれど「彼ら」の企みは成功した。3年半、僕の行動の自由を奪って、政権交代と民主党を破壊したんだから、100点じゃないが90点くらい取れたと思っているよ、「彼ら」は……。僕だから歯を食いしばって頑張ることができたけれど、普通、政治家は1回か2回、報道でやられたら立ち直れない。

【大下英治】憲法問題について安倍首相は「憲法改正」を訴え、維新の石原慎太郎代表は「憲法破棄」。憲法改正、国防軍、集団的自衛権についてはどう考えていますか。

【小沢一郎】首相については最初に言った通りです。政治家としての基本理念とそれに基づいた論理的、合理的帰結としての主張ならいいが、その場その場の思いつきや感情で天下人がしゃべってはいけない。憲法について言えば、日本国内で言われる護憲、改憲の議論は意味がないと思います。国民がよりよい生活をするための最高のルールだから、時代の変化とともに変える必要があるなら変えればいい。それだけの話です。
憲法9条の解釈は、日本が国際紛争を解決するのに武力を行使しちゃダメだということでしょう。自衛権は「集団的」と「個別的」に理屈の上では分けるけれども、どっちも自衛のために武力を行使することです。自衛権の発動は、直接わが国に急迫不正の侵害があった場合、もしくは放置すれば侵害される恐れのある場合に限って許される。それが日本国憲法の精神です。日米安保条約があるからでしょう。日本を攻撃する側が日本の防衛に当たろうとした米軍基地や艦船を叩けば日本に対する攻撃となる。当たり前のことです。しかし、直接日本に対する攻撃ではない他国や他の地域の紛争について、日本人や日本に利害関係があるからといって自衛権を発動するのは憲法に違反します。それが憲法の精神ですよ。憲法の前文に「国際社会と協力して日本は名誉ある地位を占めたい」とある。だから国際社会の平和のために我が国は国連活動として参加すればいい。武力行使含む活動であっても国連の活動なら憲法の理念に反することはない。でも日本単独での行動は憲法上許されないし、僕自身の考えとしても許されるべきではないと思います。
今、日本人の生命が危ない時は自衛隊を派遣しようなんていい加減な話が出てきています。今や日本人は世界中どこにでもいます。その日本人に何かあったら自衛隊を派遣するというのは、海外派兵そのものです。その理屈だと世界中どこにでも派遣できる。古今東西、戦争はそうやって起きてきた。それは止めようというのが日本国憲法の精神であり、国連が出来た経緯でもあると思います。

【大下英治】国防軍については?

【小沢一郎】憲法には、個別の名称を書くものじゃない。「自衛権は行使してよい」「自衛権は否定するものではない」というように、条文を加えるのは問題ないと思います。また、「国際紛争はすべて国連により解決する。そして日本は国連の平和活動に積極的に参加する」と書けばいい。僕はそれを第9条に追加するのは構わないと考えています。

【大下英治】安倍首相は憲法96条を改正し、憲法改正の発議要件を現在の3分の2から2分の1へと緩和することを目指しています。

【小沢一郎】96条の規定は緩めてもいいと思います。憲法を変えやすくするのはいいけれども、中身が問題です。よほど日本人が見識を持っていないと、政権が変わるごとに憲法を変えることになりかねない。


《「次の衆院選までは全力だ」》

【大下英治】TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉参加の是非が割れていますが、どう見ていますか。

【小沢一郎】日米構造協議の延長です。「ここはいいが、ここはダメだ」と、サシ(1対1)で米国とやれるの?いま参加したら米国の言う通りになりますよ。関税障壁を取り払うこと自体はいいが、米国の本当の目的は農業じゃない。医療、郵便貯金、金融など、もっと金額の大きい分野を狙っているんです。日本が本当に米国とサシでやれるなら、何も怖いことはない。

【大下英治】でも、今の安倍政権では無理?

【小沢一郎】無理だと思います。民主党より多少いいかもしれないが、似たようなものですから。

【大下英治】小沢一郎がトップ(首相)だったらやれるか。

【小沢一郎】嫌われても恨まれても、やるべきことはやらなきゃならない。僕は何回も(対米交渉を)やってきた。やり口は知っています。話し合いはなんぼでも可能です。論理の通ることは認めざるを得ないからですよ。何度も言いますが、日本人は論理で主張することがまったくヘタなんです。

【大下英治】ダメなら参加しない方がいい、ということ?

【小沢一郎】しない方がいい。自由貿易協定で十分です。

【大下英治】最後に小沢さんの政権奪還論を聞きたい。

【小沢一郎】今回、総選挙で「未来」に結集して選挙後に元の政党に戻ることは、(複数政党が一つの名称で選挙を戦う)「オリーブの木」構想で言えば何もおかしくないけれども、日本では、くっついたり離れたりと批判される。だから、もっとしっかりした集合体をつくらなければならないでしょうね。そのためにも、民主党が中心となって他党を糾合しないといけない。そうでないと政権は夢のまた夢。しかし、それができれば政権奪還は現実になる。小選挙区制では簡単なんです。(柱となる政治家は)誰だっていい。僕は、やりたいと言ったことはありません。「どうぞ」と譲って(隠れていると)怒られている(笑)。「この人の下で」となれば、すぐに自民党政権を倒せますよ。公明党は強い方につきます。10年前の民主党と自由党の合併当時、政権を取ると考えた人がいますか?自民党は民主党みたいにおバカさんじゃないから、政権が危うくなっても解散はしない。次の衆院選は2~3年後か、もう少し先かもしれない。でも、まずは“幕藩体制”を倒さないと“文明開化”の世は来ない。頭領は坂本龍馬でも西郷隆盛でもいいが、「オレがオレが」と主張する人たちでは大事は成就しません。みんな自分を殺し、捨てることです。それで、国民に一番受け入れられる人、みんなの意見をまとめられる人がトップになればいい。僕は次の衆院選まで全力でやります。ただ、その間に政権を奪還するという志を持った人物が現れなかったら日本の未来はないと思います。

構成/本誌・青木英一
ジャーナリスト・山田厚俊


~2013年2月12日発売のサンデー毎日2月24日号より

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