ローカル線はなぜ活性化しないのか 関係ない事をする必要性、ミシュランに学ぶ



【タイヤ屋が何故グルメガイド?】
みなさん「ミシュラン」をご存知でしょう。
「ミシュラン」と聞けば「タイヤ」「ガイド」どちらかを思い浮かべると思います。
答えはどちらも正しく、「ミシュラン」は世界最大級のタイヤメーカーであると共に、「ミシュランガイド」の発行元でもあります。
ミシュランガイドはこのタイヤメーカーの社員が調査、取材し星を認定します。
しかし、何故タイヤメーカーが全く畑違いのグルメガイドなんて出しているのでしょうか?
ミシュランガイドが最初に発行されたのは、今から百数十年前の1900年にまでさかのぼります。
当然、そんな時代にはインターネットも、携帯電話も、カーナビもありません。
となれば、いざ車で旅行に行ってもいつガソリンがなくなるのか、いつ給油できるのかも全くわからないと言う時代です。
当然、ぐるナビも、食べログもありませんから、食事をするにしてもどこでしていいのかも分かりません。
そんな冒険のような事をするのは、よほどの物好きです。
しかし、どこにガソリンスタンドがあり、どこにどんな飲食店があり、その他にも郵便局や万が一の車の整備方法などいろいろな情報があれば「行って見ようかな」と思います。
そのため、当初はグルメガイド単独として出したのではなく、「自動車旅行者に有益な情報誌」として「ミシュランガイド」が配布されたのです。
それは今でも続いており、グルメ以外に観光地を認定する「ミシュラングリーンガイド」というものも存在します。
そうやっていろいろな人が気軽に車で旅行するようになれば・・・
当然、タイヤが減ります。
タイヤが減れば否が応でも、タイヤは売れます。
そうなんです、ミシュランはタイヤを売るためにミシュランガイドを出したのです。

【ブランド戦略の重要性】
それともう一つの意味があります。
それが「ブランド戦略」です。
人間と言うのは知らないものを買おうとしない性質があります。
例えば自動販売機ビジネスの鉄則は「安いノーブランドの商品より、高いブランド商品の方が売れる」と言うものです。
自動販売機に聞いたことが無いメーカーの缶コーヒーを80円で入れておくのと、ジョージアやBOSSなど有名メーカーのコーヒーを120円で入れておくのでは、圧倒的にジョージアはじめ有名メーカーの缶コーヒーの方が高くても売れると言います。
これがブランド戦略です。
値段の兼ね合いなどもあるので絶対ではないとしても、往々にして人間は知らないものをわざわざ買わないと言う傾向があります、
そのため企業は名前を売るために莫大なお金を投じます。
例えばネーミングライツというのがあり、有名な施設などの名前をその企業や商品名にして販売すると言うものです。
横浜国際総合競技場は現在、日産スタジアムと言う名前ですがその名前を付ける権利に日産自動車は1億5千万円も払っています。
しかし、コンサートなどイベントチケットには「日産スタジアム」と必ず書かれますし、マスコミが取材するときにも「日産スタジアム」と言わざるをえません。
あるいはコンサートではミュージシャンが「今日は日産スタジアムまで来てくれてありがとう」「また日産スタジアムで会おう」と、ファンに向けて「日産」「日産」と連呼してくれます。
その宣伝費を考えると1億5千万円なんて安いものだと言うわけです。
その他にも、野球場のバックネットや至る所に企業名が書かれていますが、会場に来た人や野球中継でテレビに写る露出効果、そういった物を考えて企業は広告掲載します。
このように、企業は自社の製品や社名を知ってもらうために莫大な費用を投じるのです。

ミシュランがガイドブックを出することで、マスコミは「ミシュラン」「ミシュラン」「ミシュラン」と連呼し、ミシュランガイドの表紙を大写しで報道します。
その表紙にはミシュランのロゴと共に、あのミシュランのキャラクター「ミシュランマン」も報道されます。
発売後、全く関係ないグルメ番組でも「あのミシュランガイドで三ツ星を取った」など、またも「ミシュラン」が連呼され続けます。
このように「ミシュラン」がしつこいほどに報道される費用はいくらでしょうか?
それは「タダ」です。
つまり、ミシュランは知らない人がいないというほどに知名度を向上させるのに払った宣伝費は「タダ同然」という事です。

このように、ミシュランガイドはあくまでタイヤ販売戦略の一環なのです。
実はそれを象徴する出来事があります。
ミシュランガイド東京版が発売されたのが2008年のこと。
この時期、ミシュランは本業のタイヤ販売で日本市場では苦戦をし日本工場も閉鎖となっています。
日本はブリジストンが半数以上という圧倒的シェアの中で、世界の強豪ミシュランですら、太刀打ちできない状況が続きます。
そこで、日本でのマーケット戦略としてミシュランの日本版が発行されたわけです。
ミシュランは車にある程度興味がある人なら知っているブランドでも、日本では車に興味が無い人はあまり知られていないのが実情でした。
しかし、ミシュランガイドを日本で発行することで、タイヤメーカーはブリジストン以外知らないという人ですら、ミシュランを認知するに至ったわけです。

【ミシュランから学ぶローカル線の活性化】
これらの発想はローカル線の活性化にも極めて重要だと言えます。
廃止論議が浮上するローカル線は大抵「乗って残そう」運動が始まります。
しかし、鉄道に乗らない人というのは鉄道に乗らない理由があるわけです。
そもそも、移動しないと言う人や、普段は車に乗っている、その理由は車の方が便利で安いからなど。
そういった人たちにいくら「乗ってください」「乗ってください」と言っても、用事が無い人が乗ることはありませんし、車の方が便利だと言う人がわざわざ高くて不便なものに乗ることは通常ありません。
何といっても、「乗って残そう」運動を展開している人たちが、普段は車に乗っているのが殆どと言う有様。
自分達も乗らないようなものに乗ってくださいなど、論理的に滅茶苦茶な運動です。
そんな中身の無い運動をいくらやっても、当然利用者が増えるわけでも、利用者減少に歯止めがかかるわけでもありません。
いすみ鉄道の鳥塚社長も「乗って残そう運動なんてやって残ったためしがない」と、長野電鉄屋代線存続シンポジュウムで発言しています。
(実際には和歌山電鉄しかり、「乗って残そう運動」をやっていて残ったところはありますが、そういった所は乗って残そう運動では効果が無く別な手段を取った所です。)

ミシュランはタイヤを売るためにはタイヤが減るようにすれば売上が上がるという、実に馬鹿馬鹿しいほど単純明快な理由でミシュランガイドを発行しました。
ならば、ローカル線の活性化もお客様が「乗ってみたいな」と思わせる状況を作ればいいのです。
例えば、どこのローカル線にも色々な魅力があります。
その魅力を案内して、「行ってみたい」と思わせ、行きやすいガイドが必要です。
ですが、活性化できないローカル線やイマイチぱっとしない自治体の観光案内には特徴があります。
それは案内がただの「電話帳」になっており、「ガイド」とは程遠い物です。
例えば温泉宿の紹介も、ただ建物の写真と住所電話が記載されていいるだけ。
電話番号を見て「この温泉に行ってみたい!」と思う人などいません。
いるならよほどの変態です。
一方、旅行代理店として急速に発達した、つまり利用者の支持を得た楽天トラベルをみてみましょう。
館内にどんな施設や設備があるのか、プールやゲームセンター、卓球の有無の記載など当たり前、インターネットは使えるか、それは有線か無線か、ドライヤーの有無、スリッパの有無から、石鹸は液体か固体化まで実に詳細な情報が書かれています。
これがいまや当たり前の世の中です。
そういうのを当たり前に利用している人に、電話と住所だけで判断しろなんて提示しても、そんなの判断できません。
当然答えは「わけがわからないので行かない」です。

こういった所はアクセス一つ考えていません。
「○○駅からバスで30分」とか書かれているところはよくあります。
でも、「バスで行け」というのなら次にお客様が考えることはなんでしょうか?
「どのバス乗って、どこで降りればいいんだ、バスは何時何分にくるんだ」です。
しかし、こういうところの案内は「後はテメーが調べて勝手に行け」です。
つまり、どのバスに乗っていいのかも書かれていなければ、何時に来るのかも全く分かりません。
バス会社に問い合わせようにも、どこのバス会社かも分かりません。
首都圏のように10分おきにバスが来るようなところならまだしも、こういうところに限って一日数本しかバスがありません。
駅前でちょっと電話していたら・・・まだ昼下がりだと言うのに終バス行ってしまったとか、地方では起きがちです。
だいぶ、ネットでバス停検索が出来たり、乗り換え案内にもバス路線が入っては来ていますが、まだまだ完全ではなく、特にこういう地方のバスは網羅されていません。
これはまさに「後はテメーが調べて勝手に行け」という実にお客様に無礼な案内です。
でも、こういうこと平気でやっているところが実に多いのに驚きます。
こんなことやっていれば、お客さんが減るのは当たり前です。
それでいて「おもておし」「おもてなし」と口では言う・・・お客様がどうやって来るのかすら考えておらず、何をもてなすのでしょうか?

B-1グランプリに触発されて、食べ物で町おこしを始めた頃は多数あります。
ですが、今一つパッとしない所はやはり理由があります。
例えば大ブームとなった富士宮やきそばは、市内全部の焼きそば店を回って調査しました。
そして案内パンフレットには、全ての店舗の住所、電話はもちろんのこと、営業時間、定休日、座席数から、駐車場の有無、平均予算、調査員のコメントまでかかれています。
それらが地図で掲載されていると共に、一覧表となり一発で比較検討できるようになっています。
一方、いまいちパッとしないところはそこまで詳細な情報が書かれていないうえ、goggleマップにマークするだけ、今営業しているお店を探すには全部のマークをクリックして営業時間を調べないとならないなど、実に面倒です。
お客様のインターフェースなどまるで考えていません。
それで町中右往左往して、やっとたどり着いたら・・・「今の時間、休憩中です」、また探して違う店に行けば「今日はもう売り切れました」、また探して行けば「この時間提供していないんですよ」・・・
「二度と来るか!」と思いました。
実際に、ある町で私が体験したことです。
こんなことしていればお客様が離れていくのは無理もありません。

ミシュランガイドが100年以上前に持っていた精神すらない人たちが、活性化なんて出来るはずがありません。

【活性化には何が必要か】
活性化というのは「イベント列車」=「活性化」など、単純なものではありません。
プロジェクトとして起こすものです。
まず、ミシュランから学べば、お客様が行きやすい案内をしっかり作ることではないでしょうか?
総じてローカル線というのは情報がありません。
上記のように、観光地にどうやって行っていいのかも、そこがどんな魅力があるのか、そもそも何があるのかも分かりません。
調べようにも酷いインターフェースだったり、出てきた情報もただの電話帳だったり酷いです。
そういったところを改善し、ミシュランガイドや楽天トラベルに負けないほどの情報を掲載すべきです。
そうやって「行って見たい」と思わせる、魅力的な情報や行きやすい詳細な情報が必要です。
それにはきちんと取材することです。
一日数本しかバスが無いようなところや、そこまで行かなくても首都圏と比べて本数が少ない地域で「バス○分」という案内だけで実際に現地にたどり着けるのか、検証もしていなければ、実際に乗りもしていないわけです。
口では「おもてなし」「お客様目線で」といいながら、まったくお客様の目線ではありません。
要するに、お客様への案内を作るのならきちんと取材をして、エピソードを探して、それを膨らませてお客様が「行ってみたい」と思う情報を提供すべきです。

結局、「活性化」と始まるところの多くは、いままでそんなミッションやったことが無い人たちばかりです。
そこに廃線だ、過疎だと問題が起きて突然「がんばろう!」と始まります。
しかし、突然そんな事を始めても、何も出来ないし、何をしていいのかも分からないわけです。
もし、そんなことが卓越したセンスで出来る人たちなら、そもそも廃線だ、過疎だと言う問題など浮上しないのです。
さらに、こういう運動が始まると地元のマスコミなどがちょっと報道したりします。
今まで、マスコミに出るなんて人生一度も経験が無い人たちばかりの所で、新聞に出たら大騒ぎの大喜びです。
でも、全国の人に知ってもらう活性化運動で地元の新聞しか報道しなかったと言うのは失敗です。
そういった基準値も分からず、低い目標で満足しているため、お客様から見放されてしまうのです。
更に怖いのは、そういった事実を指摘しても「俺たちをバカにしている!」などと逆上したり、客観性を失った感情論が前に出てきて自分達が正しいんだと反論することに精一杯・・・こうなった活性化運動はもはや手に負えません。

ではどうすればいいのでしょうか?
よく、町おこしで必用なのは「若者、馬鹿者、よそ者」と言います。
経験は浅いけど時代を取り込むセンスや行動力のある若者、ここで言う「若者」とは実年齢に限らず精神が若ければ実年齢が高齢でもかまいません。
次に、常識外れの大きな企画を立てて、それを実行する、強靭な精神の持ち主の「馬鹿者」。
こういった人たちは、柔軟な発想も行動もとれない人たちからすると、異端児扱いされます。
でも、誰しもが「無理だ」と思う事をやってのける人は、常識外れの発想と行動力があるからです。
そしてもう一つ重要なのが「よそ者」です。
とかく、活性化や町おこしは地元の有志があまって始まるケースが多いですが、それは極度の「井の中の蛙」になっているわけです。
自分達は普通だと思っている事も、東京など大都市にいる人からすれば常軌を逸しているようなことは多々あります。
そういった事をよそ者の始点で、改善、提案していくことが重要です。
なんといっても、外部からやってくるお客様は皆、「よそ者」です。

こうやってお客様始点でお客様に有益な情報を提供する・・・
ミシュランは百数十年前に、もう気づいていたことです。

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