(ニュースQ3)小学校のかけ算 えっ?順序が違うと「バツ」

小学校でのかけ算の順序の教え方
 突然ですが問題です。8人に鉛筆をあげます。1人に6本ずつあげるには全部で何本いるでしょう。「8×6=48」と答えた方、小学校のテストではバツになるかも知れません。
 ●小2娘の答案見て驚いた父
 東京都内の男性会社員(40)は娘が小学2年の時、この文章問題で式と答えにバツがついているのを見て驚いた。疑問をブログに書くと、「式の順序が正しくない」「かけ算に正しい順序なんてない」などと千件近いコメントが寄せられた。
 小学2年算数の教科書を開くと、かけ算は「『一つ分の数』×『いくつ分』」と書かれてある。教科書会社の東京書籍に尋ねると、冒頭の問題に当てはめれば「1人あたり6本」×「8人分」、つまり「6×8=48」と書くのが正しい順序なのだそうだ。「『8×6』では1人あたり8本、6人にあげることになるので誤り」というのだ。
 教科書会社各社がつくり教師が授業の参考にする「指導書」も、「立式で誤答が多いのが現状」などとして「正しい順序」を徹底するよう促している。
 「正しい順序」の根拠は何なのか。東京書籍の小笠原敏成・小学算数編集長は、文部科学省が教育内容の基準を示す学習指導要領の解説に「10×4は、10が4つ」などと書かれていることを挙げる。「『一つ分の数』×『いくつ分』と順序を固定した方が、児童はかけ算の意味を習得しやすい」。小学2年でかけ算を教える際、順序を指導するのがいまは一般的という。
 ●「決めてない」文科省は回答
 ところが、文科省に問い合わせると、「国として、『正しい順序』を決めてはいない」と意外な回答。学習指導要領自体にも「順序」の記述はない。ただ、「8×6=48」をバツとする指導については「学校現場に裁量があり、コメントする立場にない」。
 ●「ナンセンス」論争41年前も
 では、式の順序が逆だとバツで仕方ないのか。「ナンセンスです」。そう指摘するのは東北大理学部数学科の黒木玄助教だ。冒頭の問題は、鉛筆をトランプのように配れば「1巡あたり8本」×「6巡分」とも説明でき、「8×6=48」をバツにする根拠はないという。「算数には様々な解き方がある。先生は児童とのコミュニケーションを大事にしてほしい」
 小学校のPTA役員を務めた作家川端裕人さんは、「『正しい順序』は分かりやすく教える手段のはずが、目的になってしまっている」と指摘する。文字式を習う時には、例えば「xy=yx」のように、「『正しい順序』は関係なくなる。順序にこだわると混乱しかねない」。昨年10月、小中学校長向けの専門誌に寄稿し、「(順序の指導は)児童・生徒が数学の抽象世界に羽ばたくのを妨げているのではないか」と訴えた。
 この問題、実は41年前の朝日新聞にも記事がある。テストでバツがついた小学生の保護者が学校に抗議したという内容で、京都大教授の助言が紹介されている。「(こどもの)思考の飛躍、冒険は大切なことで、どんどん生かす指導をしてやらなくてはいけない。親が学校に対し、学習内容などについて発言するのは大いにけっこう。まず担任の先生と率直に話し合って」。41年を経た今も変わらぬ「正答」だろう。(上原佳久)

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