【日韓インタビュー】第7回~
「竹島(独島)問題」「歴史認識問題」をどう考えるか?

(聞き手・武田肇)

●ソウルの民間会社に勤務する韓国人男性、Sさん(49)【前編】

=Sさんとは、ツイッターを通じて知り合いました。会社での肩書は「新事業開発チーム次長」。長身で落ち着いた雰囲気の紳士。しかし、今回の取材で私の韓国人のステレオタイプイメージを一番壊してくれた人物でした。「ツイッターで取材相手を探す」という取材手法でなければお会いする機会はなかったと思います。取材は大統領選直前の12月中旬。
 長くなりますので、【前編】と【後編】に分けて紹介します。


--今日はお寒い中、わざわざありがとうございました。いまツイッターを手に「日韓関係の未来を考える」という取材をしています。日本とのかかわりがあれば教えて下さい。

 1987年(当時22歳)のことなのですが、私が江原道・鉄原(※1)で軍務に就いていたとき、外国人の一行が軍部隊を視察に来ました。私は保安隊員として見学者用バスに乗ったのですが、1人の日本人のおじいさんが泣いておられたのです。私は日本語が全くわかりませんから通訳を通して事情を聴くと、そのおじいさんは「帝国陸軍の伝統が、韓国軍に残っていたことに感動した」というのです。

 びっくりしました。私は日本帝国陸軍は1945年の敗戦で消えたと思っていましたし、それがどうして韓国軍と関係があるのだろうかと。でも、後で調べてみると、理解できたのです。日本の敗戦後、韓国陸軍が形作られたのですが、その際、旧日本陸軍や旧満州国軍で士官・下士官経験のある人たちが主力としてかかわったのです。武器や編隊などは米軍の影響でしたが、訓練方法や規律は日本陸軍の伝統が生かされたのです。それを知って大変驚きました。

 さらに84年(※2)に大学に戻ると、運動圏の学生たち(※3)はみんな岩波書店の「世界」とか、日本で出版された左派系の書籍・雑誌を読んで、思想的影響を受けていました。私は運動圏の学生ではありませんでしたが、その状況に大変関心を持ちました。専攻ではありませんが、日本と韓国の関係を研究しようと思ったのです。
 ただ、就職すると、忙しくて日本語を勉強する時間はありませんでした。転機は2000年ごろ、翻訳機が登場したことです。日本語の新聞や雑誌、本を、その気さえあれば読めるようになりました。韓国語と日本語は順序や語彙が似ているから、翻訳機を使えば9割くらいは読むことができます。

 さらに数年前には、日本の「2ちゃんねる」の内容をリアルタイムで見ることができるサイトが登場しました。翻訳掲示板「ゲソムン」(直訳すると「犬のうわさ」?)や、海外のネチズン(ネットユーザー)の反応を集めた「ガセンイ」などです。ここに入り、「東アジアニュース速報+2ch」などを読むと、日本人が韓国に非常に関心を持っていることがわかります。

(※1)鉄原(チョロン)=韓国最北の軍事要衝で、非武装地帯(DMZ)に接している。北朝鮮が見える展望台や、北朝鮮が「南侵」のために作った地下トンネル跡もあり、観光客が訪れる。

(※2)84年の韓国=朴正熙大統領の暗殺(79年)以後、クーデターで実権を握った「新軍部」出身の全斗煥大統領が強権政治を続けていた。民主化を求める学生運動が盛んで、当時の日本の韓国報道はそうしたニュースが中心。日本は中曽根政権下で、83年に電撃訪韓、84年には全斗煥大統領が日本を公式訪問した。

(※3)運動圏(ウンドンコン)=学生活動家は「運動圏学生」と呼ばれていた。いまでは市民運動も包括する言葉に。


--「2ちゃんねる」には、ためになる書き込みもあるかもしれませんが、韓国や韓国人を中傷する書き込みが多いと思います。日本人でも恥ずかしく思うときもありますが。

 そうでもないですよ。掲示板に現れる書き込みは様々ですが、中傷の書き込みというのは韓国の掲示板にもあることです。特に日本だけの問題ではありません。気分が悪くなることはありませんよ。2ちゃんねるが韓日関係の悪化にはつながるというのは、単純な見方でしょう。

 逆に、2ちゃんねるに現れる日本人の反応を見て、こんな視点で考えることもできるのかと勉強になることが多いです。韓国で知る機会が少ない韓国のニュースや出来事も、知ることもできます。

 たとえば、日本の皆さんにはおなじみの「何でも韓国が源流」というのがあるでしょう。韓国人が、日本のすしだとか、他国の文化の起源を朝鮮半島と主張しているという、あれです。私は「韓国起源説」が流布されていることや、そのことが海外で話題になっていることを2ちゃんねるで初めて知りました。最初は驚いたのですが、韓国人の思考を踏まえると、さもありなんと。


--お仕事は何をされていますか。

 室内造景の会社に勤めています。たとえば、この店(ソウル市役所近くの喫茶店)にクリスマスツリーがあるでしょう。こういう飾り物の植物を管理し、シーズンが終わったら撤去する業務です。だから私、この店のコーヒーの無料クーポンを持っています。負担に感じなくていいのですよ(※コーヒーをおごってもらいました)。

 いずれにしても、日本にも歴史問題にも何の関係もない会社です(笑)。私は趣味で韓日関係に関心を持っている「アマチュア(研究家)」です。


--日本には何回行ったことがありますか?

 90年代に仕事で2年間米国に行ったのですが、そのときに成田空港で飛行機を乗り換えました。それ以外は、ありません。実質的には日本に行ったことがないです。


--こんなに日本に関心がおありなのに?日本人の知人はいますか。

 米国に2年間行ったときに親しくなった日本人がいます。いまでも年賀状を交換する仲です。それから高校生のとき、日本語担当の先生が一度日本人を学校に呼んできて、少しお話ししたことがあります。しかし、仕事で日本人に会う機会はありません。

 米国で親しくなった日本人は男性1人、女性1人です。男性はトヨタに部品を納品する小さな会社に、女性は人材派遣会社に勤めていました。

 特に米国ではそうなんでしょうが、海外に出た韓国人にとって一番身近な外国人は日本人なんですよ。日本人がいればつきあうしかしょうがないというか、それくらい自分たちに一番似ている存在です。

 日本人と韓国人では、人と人の距離の取り方が違うとは思いましたね。韓国人は距離が近く、私的空間にも入っていくことさえありますが、日本人は逆ですよね。プライバシーを尊重する。だから長くつきあっても、ちっとも親しくならないと感じることがあります。でも、それは初期段階のことです。ある程度時間が経てば、韓日の文化の違いだと気づき、つきあう上で大きな問題にはなりません。


--日本人の友人ができる前の日本のイメージは?

 悪いイメージはなかったですよ。私が学生時代を過ごした80年代半ばは、日本文化が広がった時期です。五輪真弓の歌が韓国の歌曲よりも人気だったり、カフェから聞こえるのは決まって日本の歌だったり。日本の漫画、アニメにも接した世代です。

--日韓の歴史問題についてはどうでしょうか?

 たとえば今、大統領選がおこなわれていて、(与党セヌリ党の)朴槿恵候補が、(お父さんである)朴正熙元大統領の70年代のことで批判を受けているじゃないですか。今から30~40年前の韓国は(クーデターで政権の座についた)軍人による非民主的な政治でした。そして100年前(の韓国併合時)は、日本人による統治です。私は個人的に、そこに大きな差はないと思っています。

 いま、韓国では70年代、80年代(※軍事独裁政権だった朴正熙政権、全斗煥政権)について盛んに批判が行われています。いま、韓国社会全体で見れば、日本統治時代への批判よりも、70年代、80年代への批判の方が多いし、関心も高いと思っています。


--若い人たちの対日感情がよくないという意見を聞きました。

 若い世代、20~30代の世代は、歴史について小説やドラマ、あるいは漫画を通じて知識を得る傾向にあります。ドラマや小説は視聴者や読者の集中力を高めるために、わざと過激につくりますし、事実でないことも盛り込みます。若い世代は体験がないゆえ、それが実際にあったように受け止めてしまう。それゆえに、その時代を直接経験している人に比べて、若い人たちの方が歪曲(わいきょく)して歴史を受け止めているのではと思います。

 私のような50代(Sさんは韓国の年齢で50歳)は、そうした小説、ドラマを「ドラマチックなもの」(作り物)として受け止めます。なぜなら、おじいさんやお父さんから、その時代(日本統治時代)についてある程度話を聞いているからです。直接経験している人から話を聞くのと、小説、ドラマ、漫画だけを通じて知るのでは、大きな差があると思います。


--日本の植民地時代について、どなたからどのような話を聞きましたか。

 特に印象に残っているのは、幼少のころ、近所にあった塾の先生です。その先生は、当時70歳だから、いまもご存命ならば100歳を超えているでしょう(※1910年の韓国併合前後の生まれ?) 
(太平洋戦争時に)南太平洋に日本軍の軍属として派遣され、指がありませんでした。足も引きずっておられました。その方を通して当時のお話をたくさん聞いたのですが、先生が日本人や日本に対して悪く言うことはありませんでしたよ。その先生は、日本の算数の教科書をもとに子どもたちに算数を教えて生計を立てておられました。

 日本人は、韓国人は反日教育をしているという印象を持っているでしょうが、学校現場には実はそんな余裕はないと思います。入試準備のために忙しいのです。それに植民地時代のことは試験にあまり出ません。答えが複数あるような、論議中の問題は採点が難しく、試験になじまないからです。教科書に植民地時期について詳細な記述があっても、詳細に習うとは限らない。そこは日本の皆さんにも考えていただいた方がいいと思います(※)

 ただ、さきほど申し上げたように、テレビ、映画、ドラマ、漫画を通じて、若い世代に「反日」の心理が強くなっていることはあるかもしれません。

(※)韓国の歴史教育の実際=この点について、知り合いの韓国人大学生C君について尋ねたところ、Sの見方にはちょっと異論があるとのことでした。受験体制下の学校でも、先生次第で、植民地時代について詳細に感情を込めて教わることがあるそうです。また、実は歴史の授業よりも、「抗日文学作品」が多く取り上げられる国語の授業の方が、「反日的な感情」が高まるとC君は言っていました。先生が「作品が書かれた背景」を情感を込めて教えるからだそうです。ただ、「必ず教科書通り詳しく教わるとは限らない」という点は、Sさんの見方に賛同とのことです。


--韓国の新聞は「日本」について過剰に厳しく報道しているという批判が、私のツイッターのフォロワーから寄せられています。

 韓国社会というのは、メディアの競争がすごく激しいのです。視聴率、購読率はもちろん、新聞の場合、個別の記事の人気度まで競争です。そんな中で、たとえば慰安婦問題について中立的なスタンスを取ったら、集中攻撃を受けてしまうのです。広告収入が落ちたり、視聴率が落ちたり。だから、どのメディアも、反発が起こりそうな問題については神経をとがらせています。うかつに手を出せない。だからみんな、対日問題では、韓国社会で論議が起きにくい書き方、つまり厳しい書き方しかできないのです。

 日本人は韓国メディアを通して、韓国は反日感情が過剰と思うかもしれませんが、そうしたメディア特有の問題があることを知っておいた方がいいと思います。

 考えてみてください。日本大使館前の「水曜集会」(※元日本軍慰安婦と支援団体が毎週水曜日に欠かさず、約20年にわたって日本大使館前で謝罪と賠償を要求するデモをしている)は、韓国の新聞がよく取り上げますが、いつも参加する人しかしていません(※地元記者によると、通常は20人程度か)。国民的問題と言われているのに、新しいメンバーが集会に参加することはほとんどないのです。せいぜい全教組(※)の先生が、自分の生徒を連れて行く程度です。一般の人たちはさほどの関心はありません。「やっているなあ」という感じで。

(※)全教組=全国教職員労働組合 韓国の教職員組合の一つ。しばしば韓国の保守新聞に「従北」(親北朝鮮)のレッテルを張られ、批判されている。


--慰安婦問題についてはどのようにお考えなのでしょう。

 私は93年ごろから慰安婦問題について関心を持ち続けています。当時、私はリサーチ会社に勤務していて、慰安婦問題の資料を集め、国際機関に向けて英語翻訳する仕事をしていました。慰安婦問題の論文についても多く目を通しています。

 そんな私から見ると、韓国メディアは慰安婦問題に関して、事実に基づかないことを報道することがしばしばあると思います。慰安婦問題を熱心に勉強している記者も非常に少ないと感じます。

 慰安婦問題が大きな問題となったのは92年、93年ごろです。(※93年8月に河野洋平内閣官房長官がいわゆる「河野談話」を発表) それまで、韓国人が慰安婦のことを知らなかったかと言えばそうでないのです。私も、少なくとも高校時代には知っていましたし、70年代の韓国社会でもよく知られていました。問題化しなかっただけなのです。70年代、80年代当時の韓国社会の雰囲気の中で、「私が慰安婦だ」と公開的に告白することはとてもしんどいことだったのです。それが90年代になって、日本側で大きな報道があり、元慰安婦の人たちが次々と自己告白して、大問題になっていきました。

 その過程である問題が起きました。吉田清治さんという日本人の証言です。吉田さんは「軍の命令で済州島で慰安婦を集め、多数の女性を中国戦線に無理やり連行した」といった内容の本を出版しました(※1983年)。この本が韓国でも出たとき、私は大学を卒業していたのですが、ベストセラーになったと記憶しています。それ以降、韓国で従軍慰安婦問題を考える人たちは、この本を参考にして判断するようになりました。

 ところが、その後、吉田さんの証言は信用できないことが判明したのです。突き止めたのは、韓国の済州島の「済州新聞」の記者でした。吉田さんが慰安婦を集めたというソンサンポ(城山浦?)一帯を取材して歩き、89年に記事にしています。吉田証言のようなことがあったら、済州島の人びとの記憶に深く残っているはずなのに、いくら取材しても、証言が裏付けられなかったのです=(※)


(※)吉田証言に対する朝日新聞の対応=「軍の命令により朝鮮・済州島で慰安婦狩りをし、多数の女性を無理やり連行した」などとする吉田清治氏の証言については、80~90年代、朝日新聞を含む日本メディアも報道した。しかし、その後、吉田氏の証言を疑問視する声が日本でも広がり、朝日新聞は97年3月31日の紙面で、吉田証言の検証結果を報告。①済州島の人たちから、吉田氏の著述を裏付ける証言は出ておらず、真偽は確認できなかった②(証言の真偽を問う朝日新聞の取材に対し、吉田氏は)「反論するつもりはない」として、関係者の氏名などのデータの提供を拒んだ③(慰安婦問題に関する日本)政府見解は、吉田氏の証言をよりどころにしたものではない、とし、事実上、吉田証言は信頼に値しないと結論づけた。
 この件は本題とは関係ないことではありますが、時間が経ちすぎで、吉田証言に対する朝日新聞の対応についてご存じでない方もいらっしゃるようなので、念のため触れました。ちなみに朝日新聞が97年3月は、私の入社前です。

(Sさんインタビュー 続き)
 問題は、それにもかかわらず、韓国では現在も、吉田証言が信用できないことを知っている人が多くないことです。甚だしくは、記者でさえ揺るぎのない事実と思い込んでいます。

 今年9月、「朝鮮日報」のコラムで、また吉田証言が事実として紹介されました(2012年9月9日のコラム「『慰安婦狩り』を告白した日本人」)。私はすぐに朝鮮日報のホームページに抗議の書き込みをしました。「吉田証言が事実でないことはちょっと調べればわかることだ。調べもしないで記事を出したのか。記者はファクトが命ではないのか」といったことを書きました。しかし、すぐほかの読者に「威張るな!」と書き込まれました。

 私のように慰安婦問題に関心を持っている者は特別かもしれませんが、多くの人は関心がないから、調べようともしないのです。
 韓国メディアは、特に日本に関する報道は、知識不足を補うことなく、頭に浮かんだことをそのままに記事にすることが多いような気がします。そうした記事に対して、韓国のネチズン(ネットユーザー)の反発もあまりないんです。ネチズンも日本についてあまり知らないからでしょう。だから外部からの刺激を受けないまま、事実でないことが拡散してしまっているところがあります。私は特に慰安婦問題で、こうした傾向が強いと思っています。


--韓国の研究者はどうでしょうか。

 論文は自分の主張を裏付ける根拠を明示する必要があり、そう簡単に歪曲できません。韓国の学者の論文には、日本の産経新聞でも納得できるものが多くあると思います。一部は出版されています。

 ただ、韓国メディアではなかなか取り上げられないのです。実際のところ、研究者とか教授は、自分の研究テーマについて、むやみに、簡単に話すことができないじゃないですか。だからテレビなどに出て慰安婦問題について語っている人は、専攻者ではないことが多いのです。論文をきちんと読まず、新聞記事を読んで、あるいは慰安婦をテーマにしたドラマを見たイメージで話をしている。そのことが問題を難しくしていると感じます。

 地道な研究をしている人はめったにテレビに出ないのは、論争に巻き込まれて自分の立場が困難になることを恐れるからです。論争が「事実」を基づくものであれば意味もありますが、事実に基づかない攻撃も多い。だから避けてしまうのです。


--勇気を持って記事にする、ということはないのでしょうか?

 かりに記事にしたとしても、そういう記事はヒット数が上がりません。さきほど申し上げたように、韓国は日本と違ってほとんどの分野が競争的です。新聞も、放送も同様で、それゆえ論議になりやすいことは報道を控える傾向にあります。

 ちなみに「慰安婦をテーマにしたドラマ」の代表作は「黎明(れいめい)の瞳」(※91年、MBC)です。私も見ました。やはり吉田清治さんの本を基盤として製作された作品です。その吉田証言が信用できないことは先ほど説明しましたが、放送当時かなりヒットしました。


--ドラマの感想を

 当時は吉田証言の問題は知りませんでしたが、それは別として、私はこのドラマを見て、日本に対する考えというよりも、人間の悲劇的人生について思いをはせた記憶があります。このドラマは解放後、(朝鮮半島の人びとが)左翼と右翼に別れて戦った韓国戦争(※朝鮮戦争)まで扱っており、日帝時代がどうこうより、時代にほんろうされる人間の人生について考えさせてくれました。しかし、ほかの人たちの感想はどうだったでしょう。


--慰安婦問題に関する韓国民の関心は、マスコミ報道ほどには高くないとのことですが、李明博大統領は昨年(2011年)12月、京都で野田総理と会談した際、「慰安婦問題の解決」を強く迫りました。なぜでしょうか。

 大統領はそうするしか、選択の余地がないのです。韓国の憲法裁判所は(2011年8月)、慰安婦問題に対する韓国政府の姿勢について、積極的な対応をとっておらず、元慰安婦の人権を侵害しているとして「違憲」だとする決定を出しました。李明博大統領は就任後、意識して慰安婦問題を取り上げないようにしてきたと思いますが、この憲法裁判所判決によって、対応せざるをえなくなったのです。

 もしそれでも何の対応もとらなければ、たとえば退任後、挺隊協(※韓国挺身隊問題対策協議会、元慰安婦を支援する市民団体)が李大統領と外務省長官を相手に訴訟を起こす可能性が高かったと思います。訴訟を起こされても、李大統領が自分の資産を失うことはないと思いますが、面倒なことになるとは予想できます。李大統領は日本政府にアクションを取るほかなかったのです。


--慰安婦問題の解決はどうすべきですか。日本側は何をすべきと考えますか。

 もう日本には「河野談話」があるじゃないですか。私はそれで十分と思います。自民党の安倍総裁(当時)は、河野談話を整理すると言っていますが、私は慰安婦を全否定するものでない限り、それもよいと思っています。

 日本は民主主義国家ではないじゃないですか。いくら日韓関係が大事だと考えたとしても、政治家は選挙で当選しなければならない。そこを韓国人はよく考えなければならない。

 今回、土肥隆一議員が政界引退しましたよね(※土肥隆一・民主党前衆院議員=2012年12月の総選挙に立候補せず、引退)。クリスチャンの彼は、韓日のキリスト教議員グループ(※「日韓キリスト教議員連盟」)の記者会見に同席し、そこで独島(竹島)に関する韓国の主張に同調したということで日本側で批判されました(※2011年3月に報道で発覚)。今回、そのことが関係して立候補できなくなったことは明らかだと思います。

 そんな世論の日本で、いったいどれだけの政治家が、韓国側の主張に基づいて慰安婦問題の解決に乗り出すことができるというのでしょうか。もし政権がそういうアクションをしたら、すぐに崩壊、というのが私の日本社会、政治状況についての認識です。

 たとえば、政治家より上に立つ天皇陛下が、この問題について何らかのコメントができればいいのかもしれませんが、憲法上それもできません。だから日本側は、今ある「河野談話」以上のことはやりようがないというのが、私の現状認識です。そこをよく知る必要があります。

           Sさんインタビュー【前編】終わり
          【日韓インタビュー】第8回に続く

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