『系統樹曼荼羅』(三中信宏著、NTT出版)を読む。
起源へと遡行すること、対象を分類することは人間の根源的な営みなのだということを豊富な図像とともに教えてくれる学際的な一冊。三章から構成され、第Ⅰ部生物樹、第II部家系樹、第III部万物樹という三幅対の曼荼羅を楽しむことができるという仕立てになっている。第I部ではおなじみの生物学での系統樹の歴史を辿ることができる。美麗なヘッケルの系統樹と簡素なダーウィンのダイアグラムの違いについても触れられており、ダーウィンが最後に描いた系統樹をみると進化をめぐって彼が悩んでいたことの一端を垣間見ることができる。ある一つの始原から発するということと何かを目指して変化していくという思考パターンは人間の宿痾なのかもしれず、そういう点でダーウィンは人間の思考パターンと格闘していたのかもしれない。こうした思考パターンが顕著に表れるのが第II部の家系樹である。これらの図像はおそらく男性の視点から描かれたものがほとんどではないだろうか。いうまでもなく男性は自分の子が生物学的にほんとうに自分の子であるかどうかは分からない。それが故に家系図という過去から未来への図像に固執するのではないかと思われる。同じ図像でも男性的な樹のイメージと女性的な唐草のイメージにはこめられた意味の違いがあるような気もしてくる。第III部では文化的活動によって生まれたさまざまな産物の分類と系統が語られる。写本あり、言語あり、コンピュータソフトあり、アニメのキャラクターありとまさに曼荼羅の書名にふさわしい知のラビリンスが展開される。「鎖」や「樹」、「網」といった多様性を解読する際のイメージの力は絶大なものだが、時間経過とともに変化し展開する多様性の中に方向性や目的を読み込むかどうかで「進化」と「進化的なもの」との差がでてくるのだろうし、その差を読み取るリテラシーが要求されるのだろう。
関連する本:『系統樹思考の世界』(講談社現代新書)、『分類思考の世界』(講談社現代新書)、『進化思考の世界』(NHKブックス)の三部作、『文化系統学への招待』(勁草書房)

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