失敗するローカル線活性化運動・・・その原因は何か?


【専門家に任せる必要性】
私がよく使う例え話で、「最愛の人が重い病気になったらどうしますか?」と言うのがあります。
何度もツイートしていますので知っている方も多いでしょうが・・・
ご両親や、奥さん、お子さんetc最愛の人が病気になったら聞くまでもなく病院に連れて行きますよね。
当たり前の事です。
それは「医者」という専門家に対応を任せるという事です。
どんなに助けたいという思いが強くも、医学の知識が無い人は重い病気と言う問題を解決する事は不可能です。
手術をするには、麻酔や消毒の知識も必要ですし、手術をサポートする看護士も必用で、これらはみな国家資格を持った専門家です。

しかしローカル線の活性化は不思議な事がおきます。
それは、まるで親族が家で手術をするような事を始めてしまう事です。
麻酔の知識が無いのに、腹を割いたら失神してしまいます。
消毒の知識もなく台所から持ってきた、包丁で腹を切り裂けば、雑菌による感染症で死んでしまうでしょう。
腹を無事割いたところで、どこに何があるのかもわからないでどうやって手術するのでしょうか?
しかしローカル線の活性化は、この状態が起きます。
つまり、何かイベントをやるなら、どうやってPRして、どうやって集客するのか、イベントを行う前段階が重要です。
手術でいうのなら、麻酔や消毒に相当します。
どんな名医でも、麻酔や消毒無しでは手術できません。(よほど軽度な物は別として)
ですが、こういった事を全く考えていないのがローカル線の活性化運動の特徴です。


【どうやってPRするのか?】
「ポスター貼っておけばいいんだろう」・・・って、「手術前に消毒?マキロン塗っておけばいいんだろう」くらいの荒っぽい考えです。
ポスターを貼る・・・一つの手段ですけど、じゃーどこに貼るの?っていう問題が有るわけです。
でも大抵は駅とか電車内とか"内輪"の範囲ですよね。
それが首都圏のように一日に何十万人、何百万人と利用するようなところならそれだけでも意味はありますが、一日1000人程度の路線では殆ど効果がありません。
まして、多くの人に知ってもらう活性化目的でやるのに、普段利用している人にしかアピール出来ない電車内や駅では外部の人には何のPRにもなっておらず、当然何の活性
化にもなっていません。
インターネットで・・・これも手段です。
しかしホームページで情報発信するなら、まずホームページに来てもらわないと始まりません。
当たり前の事です。
しかしこの至極当たり前のことを全く考えていません。
「なんかインターネット使えば世界中から来るんだろう」みたいな乱暴な発想です。
まずは、ホームページにどうやってきてもらうのかという対策が必要ですが・・・全く考えていないわけです。

秋田内陸縦貫鉄道では「ワンデーオーナー」という制度を募集しており、今年の除雪費に当てるそうですが、想定の一割ちょっとしか申込みがないと報道されていました。
鉄道側は「ホームページなどでも告知したのに・・・」との事でホームページを見てきましたが・・・
情報なんて出ていません。
色々探し回ると下層にあるようですが、そんな探し回らないと見つからない情報なんてお客様に伝わるわけがありません。
報道されたという事は、それを見た人が全国からホームページに訪れるわけです。
ではその訪れた人にダイレクトに情報が伝わるようにトップに「ワンデーオーナー募集」と掲載しておくべきです。
つまり、お客様の導線上に的確な上方を置くということです。
それが、「なんかインターネット使えば世界中から来るんだろう」みたいな感覚で利用しているから、お客様がどういう導線で来るのか全く考えていないわけです。
当然情報は全く伝わりません。

それは、麻酔も消毒もしないで腹割いて、「血止まらなくなったんですがどうすればいいですか」と言っている様な状態です。
専門知識がある人からすると、信じられない事が平気で次々と起きてしまうわけです。


【餅は餅屋】
来てもらったとして、次にどうやってアピールするのかも重要です。
例えばこちらの写真を見ていただきましょう。
http://twitpic.com/b4mepj
これは岳南鉄道の沿線観光案内パンフレットです。
この中にビール列車の案内が出ていますが、これを見たとき私はいかがな物かと感じました。
なんだかうな垂れたお父さんに、一人で何か食べているおじさん、立ってマイクトークしている人がいますが・・・誰も聞いているように見えません。
余り楽しそうじゃないですよね。
もしかすると現地は盛り上がっていたのかもしれませんが、そうだとしてもこの写真からは全く伝わりません。
まして女性なんて、こんなおじさんばかりの所に行きたくないですよね。
こんな写真を見て「是非乗ってみたい!」と思いますか?
一方、プロが作るとどうなるか?
これは毎年年末になると首都圏の駅などに張り出される「ぐるなび」の広告の一例です。
http://www.musicman-net.com/blog/photo2/ketsumeishi101102.jpg
皆が満面の笑みを浮かべ、いかにも楽しそうじゃないですか。
ちゃんと若い女性も中にいます。
その女性も左の三名のところに座らせる方が目立つのですが、そうすると別グループに見えてしまうので、おそらく中心に持ってきたんだと思われます。
そしてよーくみてください、ジョッキのビール泡、全員同じ高さでしょ。
全員、一番ビールがおいしく感じられる泡の比率にするれば、よりおいしく見えるんですよ。
多分、画像合成で作ったんじゃないかと思いますけど、こういう演出は必要です。
これが前に指摘した「ミッションクリティカル」です。
「餅は餅屋」という言葉がありますが、こういうことなんです。
このことわざの意味は、餅屋さんという餅の専門家がつく餅と、素人がつく餅では、一見すると同じ餅でも、よく見ると餅の生地の細やかさなど全く違う、転じて素人がやる
ことと専門家がやることでは、一見すると同じに見えても全く中身は異なっているという意味です。
この写真はまさにその一例で、プロのクリエーターが作った広告と、素人が見よう見まねで作った広告では天と地の差になっているわけです。
写真一枚でも、こんなに大きな差になっているんです。
ここが冒頭話した、「医者」の話です。
何とかしたいと思っても、PRや広告など専門知識が無いまま、見よう見まねで次々にやってしまうと、こういう状況があらゆるところに起きてしまいます。
結果、色々やっているように見えて、効果が有るんだか無いんだか分からない状態になるわけです。


【アイデアがあればお金はいらない】
最近、「うまい事やったなぁ」という地方活性化のお祭があります。
それがこれです。
http://twitpic.com/b4n714
知り合いが「地方活性化のイベントのポスター」とツイートしていましたが、正確に言うとこれは間違えです。
このポスター、JR東日本のポスターなんです。
よーく右下を見てみると、JR東日本新潟支社となっています。
これは「うまい事やったなぁ」と感じました。
JRの駅、まして首都圏の駅にポスター貼り出すなんていったら、「何百万円、何千万円もかかる」と思うでしょうね。
でも、このポスター、製作費はかかったかもしれないですが、掲載費はおそらく無料です。
憶測なんですが、お祭の実行委員側の費用でポスターを作る、その下に「おいでは新幹線で」と掲載します。
こうすることで、JRの社内では「支社のお客様誘致ポスター」の扱いになるわけです。
JRでは自社の広告枠があちこちにあるわけで、それを活用すればタダで首都圏でポスターが張り出せるわけです。
JRとしても、ポスタータダで作ってくれるなら悪い話では無いですし、祭りの実行委員としても、製作費はかかっても、タダで首都圏に貼ってたくれるなら悪い話ではないわけです。
ビジネスの世界で言う、win winの関係です。
お金がなくても、アイデアがあればこういう事は出来るわけです。
もっともこのやり方、「クロスプロモーション」と言って、広告業界ではポピュラーな手法です。
こんなポピュラーな手法ですら、専門的な知識が無いと「JRにポスター貼るなんてお金が無い」で終わってしまうわけです。
このようにあらゆる所で「餅は餅屋」の論理が展開されます。


【写真展・・・実は私は懐疑的です】
どこでもそうですが活性化運動が始まると、大抵地元のカメラマニアの方が集まりだして「写真展」が始まります。
では、この写真をご覧下さい。
http://twitpic.com/b4meu8
どうですか!
ここに行ってこみたいと思いましたか!!
「電柱ですか?なんかよくわかんないですけど・・・」と、オードリーのコント状態ですよね。
でも、これ携帯電話の基地局マニアの方にとっては、これは凄い写真なんですよ。
これって、新幹線のトンネル内で携帯電話を使えるようにする基地局なんです。
と、聞いても、興味が無い人からすると「はぁ・・・で、なにがすごいんですか?」という感じでしょう。
そもそも基地局と言うのがよく分からない人かも多いかもしれません。
そういう方に「どうですか、どうですか!」と見せても、「なんかよく分からないんですけど、なんか凄いんですかはぁ」というリアクションしか出来ないでしょう。
そんなところに行ってみたいなんて当然思いません。
鉄道写真展やるって、こういうことなんですよ。
自分達とすれば「これは凄いぞ」と思っていても、興味が無い人からすると、全くどうでもいいことなんです。
それをご自慢の高給カメラと高給レンズでカッチョェェ画角で撮影しても、興味が無い人にとっては全くもってどうでもいい話です。
つまり、鉄道に興味が無い人に鉄道写真見せたって、電柱の写真を延々を見せられているのと同じことなんですよ。
でも写真展やる人って全くそういうことを考えないんですね。
それはつまりお客様の視点で何をすべきかではなく、自分達が何をしたいのかという視点でしかないわけです。
すなわち、活性化の名を借りて自分達が楽しんでいるだけだという事です。


【写真展はやり方次第で成功する】
写真展が悪いと言っているのではありません。
実は私、こう言いながら鉄道写真展プロデュースした事があるんですよ。
ご存知の方もいると思いますが、ららぽーと新三郷で開催した「武蔵野操車場写真展」です。
なんでこんな企画が立ち上がったかというと、元々ららぽーと新三郷のあった場所は、東洋一の規模といわれた武蔵野操車場があった場所です。
しかし、国鉄改革の中でわずか十年で使用停止し、その後数十年更地のまま放置されていたわけです。
そこを再開発して出来たのがららぽーと新三郷をはじめとした「ららシティ」です。
この新三郷駅、操車場を中央に上下線を分けて作ったため、操車場を解体後、上下線のホームが約350メートル離れているというわけの分からない構造になっていたわけです。
そういったことを新しくこの地に引越してきた方々は何も知りません。
古くから住んでいても、二十歳くらい人ですと物心ついた頃には更地だったでしょう。
話では「ここに貨物ターミナルがあったらしい」との事は聞いているでしょうが、具体的にどういった物があったのかを知る人はかなり少なくなっているはずです。
そこで、「普段疑問に思っている、ここに何があったのかお知らせしますよ」と言う視点の写真展なら成立するだろうと、プランを出したわけです。
内容は、武蔵野操車場が出来る前、建設中、運用中、解体後の写真を展示、そのほかに鉄道博物館などから借りてきた当時の操車場の様子の写真です。
内心は「こんなの見る人いるのかな・・・」と思っていましたが、時間帯によっては人だかりが出来るほどの大盛況でした。
それはお客様が何を見たいのだろうかという始点で作ったからだと思います。
写真展をやるという方向は良いと思うのですが、「バリュー感」が重要ではないかと思うのです。
「美しい写真」ってバリュー感ではないんですよ。
だってネット見れば大量にあふれているわけです。
それをわざわざ足を運んでみる必要は無いですよね。
おそらく、美しい武蔵野線の写真展なんてやっても誰も見なかったでしょう。
普段見れる光景を時間割いて見る必要性なんて全く無いんです。
ディズニー臨でたまに入ってくる583系とかカシオペア釜とかそういう写真であっても、鉄道に興味が無い人からすれば「色違いの電車が走っている」程度の感覚でしょう

ですが、普段から皆さんが気にしているテーマ、合わせてネットですら見ることが出来ないという価値があったからこそ、武蔵野操車場写真展は大成功だったのかなと思いま
す。
それが「自分の写真を見せたい」というのが本心だと、こういった視点を全く失ってしまうのではないでしょうか?
しかし、残念な事に活性化だと始まる写真展の殆どは、活性化ではなく写真自慢大会です。
当然、会場は活性化とは程遠い、閑古鳥状態と言うのが多いのが現実です。


【なぜこうなってしまうのか?】
こういった問題が起きる要因って、やはりゼネラルプロデューサーがいないためです。
要するに色々と運動が立ち上がるのはいいんですが統制を取る人、個々の企画を煮詰めてより高める人が誰もおらず、四方八方好き勝手な状態が起きてそれぞれのプロジェクトが相乗効果も発揮できなくなります。
たま駅長の和歌山電鉄も当初はそんな感じでしたが、和歌山大学の学長など組織した和歌山市民アクティブネットワークがプロデューサー的な位置づけで運動を取りまとめます。
そして方々がコンセンサスもなく思い付きでバラバラに活動していた市民運動を「分科会」というグループに再編し、そのぞれの分科会がテーマをもった活動をしています。
また、地域のまちづくり活動団体などもと連携を強化します。
その結果、ああいったかつて無い再生が展開されたわけです。

これらを参考に、例えば写真自慢したい人たちがいると言うのは、それはそれでいいことなんです。
それなら「写真分科会」でも作りましょう。
今度は食べ歩きが大好きな人たちがいると言うのなら、「食べ歩き分科会」でも作ります。
この二つのの部会が合流し、町中の食べ歩きをし、その様子やメニューを写真好きの人たちが撮影します。
それをweb制作などが出来る方がいれば、それをwebで公開します。
もちろん、撮影には料理撮影の知識が必要ですし、webもセンスあるデザインが必要で、そういうことを精査できるディレクターなり、プロデューサーが必要です。
そしてそれを公開すれば、かなり精度の高い沿線のグルメ情報が出来ます。
これなら、写真自慢したい人も、食べ歩きしたい人も、欲求が満たされますし、何よりお客様に有意義な情報が出来ます。
もし、自分の撮りたいように撮影して、それを見せたいんだと言うのなら、それはやはり目的が活性化ではありませんから、活性化運動からはお引取り頂くべきです。
でも、そうではない、単にやり方が分からないだけだと言うのなら、こういったコントロールをキチンとしていけば、そういった市民パワーが大きな力になるはずです。

ですが、残念な事に大半のところはこういったコントロールが無く、市民パワーが大きな潮流にはならず、数年して空中分解状態になってしまうところが多く感じます。

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