活性化できないローカル線の共通パターンについて質問がありましたのでこちらに掲載してみました。
大きく分けると・・・

・ミッションクリティカルではない活動
・アイデアが無い
・活動の目的が不明
・評価基準が低すぎる
・当事者意識の欠如

鉄道会社自体と、活性化団体の両方を総合すると大体この当たりに集約されます。
以下、各項目ごとについて詳しく説明します。


【ミッションクリティカルではない活動】
総じて言える事は「活動がミッションクリティカルではない」という事です。
スタートからゴールまでが綿密なシュミレートにより計画された物ではなく、常にどこかが欠落している事が原因で、ゴールにたどり着けない、すなわち活性化できないように見受けられます。
事例を出して説明してみましょう。

例えば、車両基地祭りを開催するとします。
開催しても誰も来なければ開催する意味がありません。
ではどうやって集客するのか?
「ポスターを貼る」・・・
ではどこに貼るのでしょうか?
ポスターを貼るのはたしかに一つの方法ですが、どこに貼るのかという問題があります。
駅や車内に貼っても鉄道を利用している人の目にしか触れませんから広告効果は限定的、まして多くの人に知ってもらって興味を持ってもらう「活性化」目的でイベントを行うのなら外部の人の目に触れないこの方法は既に失敗です。
ポスターというのなら、最低でもその町の人の大半が知っているという状態にしなくてはなりませんが、そんなことをしているローカル線は殆どありません。
ポスターをどこにどれだけ貼るとどれくらいの効果があるのか・・・
何も考えていません。

ここで大きな誤解が登場します。
それが「インターネット」です。
インターネットは確かに有効な宣伝手段です、ただしそれは有効に使いこなせば。
しかし、使いこなしている人がどれほどいるでしょうか?
例えばツイッターで「車両基地祭りを開催します」とツイートしたら誰にそのメッセージが届くのでしょうか?
こんな至極当たり前のことを何も考えていないのが実は活性化をする多くの人です。
何か、ツイッターで呟けば瞬く間に世界中に伝播されると思い込んでいるかのようです。
そういう方が「ツイッターで活性化」と言い出すと、毎日ツイートしているのにフォロワーは数名などという状態になっています。
つまり、一生懸命情報発信しても、数名にしかそのメッセージは届いていないわけです。
しかもそのフォロワーさんが内輪だけではただの井戸端会議です。
だったら、駅前でビラでも配った方がまだ効果的です。
この件にについて某掲示板で「リツイートがあるのを知らないのか」と批判が出ていました。
しかし、15000人フォロワーさんがいる上で1%リツイートするなら、150人がリツイートします。
その150人が平均300人フォロワーさんがいるのならこの時点で60000人に情報がばら撒かれる事となります。
一方10人しかフォロワーさんがいない人が1%リツイートすると、ゼロか切り上げてもせいぜい1人です。
その1人に300人フォロワーさんがいたところで合計310人にしか伝わっていません。
この段階で天と地の差です。(あくまで計算上の話ですが)
こういった特性を理解しないで「インターネット」とか「ツイッター、フェイスブック」と言っているところはまず失敗します。

ホームページも同様です。
「ホームページで情報発信」
大いに結構です。
では、そのホームページにどうやって人が来てくれるのでしょうか?
いくらホームページを作っても、ホームページに人が来てくれないと何もはじまりません。
こんな当たり前のことすら全く考えていません。
最低でもSEO対策は今時必須、いかに検索しやすく来てくれるのかを考えてページ製作や運営をする必用があります。
ですがそれをやっても、そもそも検索してくれないと始まりません。
では、どうやって検索するように仕向けるのか、そのきっかけは何か・・・・
何も考えていないわけです。

例えば秋田内陸縦貫鉄道は「内陸線」から「あきた美人ライン」に名称変更しましたが、ブログで「美人ライン」という名称は全く使われておらず、ホームページの随所でも「内陸線」の表記のまま。
これでは「美人ライン」と検索してくれても、その情報には容易にたどり着けません。
実際、googleで「美人ライン」と検索すると釣り糸のページが上段に来てしまう有様、「あきた美人ライン」で検索してもgoogle先生が勝手に正式名称ではない「秋田美人ライン」と変換してしまうなど、SEO戦略は完全なまでに失敗しています。
どうすれば集客できるか全く考えていない、すなわちミッションクリティカルではない証拠です。
こんな状態で情報発信しても、効果は限定的です。
ツイッターである方が呟いていましたが、「あきた美人ライン」というキャッチフレーズは「もはや社長が勝手に言っているだけ」です。
単に一つの路線に二つの名称が存在し、混乱を生じさせたに過ぎません。

最近は「マスコミを使う」という効果的な手法に気づいたローカル線もあります。
しかし、「こんなイベントやりますんでよろしくと」と案内を送ったところでマスコミからすれば「何しに宣伝してやらないとならないんだ」としか思われません。
マスコミが報道するのは、報道する価値があるからで、逆に言えば報道して欲しいのなら報道するに値するリリースを打つべきです。
このことについて山形鉄道の野村社長は「すしはどこさの法則」というのを提唱しています。
これはマスコミの報道には「ストーリー、社会性、初物、ドラマ、公共性、サプライズ」が必用だという事です。
ですがどうでしょう、地方ローカル線が打つリリースは、単に「こんなことやるんでよろしく」というだけで、どこにどんなスリートーがあるのかとか、何がサプライズなのかも分からず挙句は初物どころから何番煎じか分からないようなでがらしアイデア。
当然報道などされません。
メイドトレインはこの法則性を必ず網羅させています。
まず、鉄道というのは必ず公共性はあり、ひたちなか海浜鉄道で開催の場合は「経営再建中」というストーリーと、そしふ公募社長の再建策というドラマ、行政が出資する第三セクターという一見固そうなところが行うという意外性=サプライズ、そしてリリースには「世界で初めての試み」と「初物」を煽りました。
また、メイドトレインは可能なまで事前にリリース写真を準備します。
文字で「こんなことやります」とリリースしても、文字記事にしかしようがありません。
列車の写真を送りつけてもインパクトは薄いです。
そこで、開催一ヵ月半くらい前にメイドさんを集めて列車を背景に実に分かりやすいリリース画像を撮影し、マスコミにリリースする時点でその画像も提供します。
しかも、web用JPGと印刷用PFDデータの二種類を配布します。
ここまで直ぐにでも掲載できる準備をすれば、どんどん掲載してくれるわけです。
どうすれば掲載してくれるのかを徹底的に考えた結果です。
その結果、世界中で報道をされます。

こういった事を徹底的に考えていくのが「ミッションクリティカルな活性化」だと思います。
しかし、実際はもっと複雑で、イベントといってもどういうターゲット層なのかとか、どれくらいの範囲(距離)から集客するのかとか、コンテンツ、すなわちイベントの内容はどうするのかとかの検討はもちろん、商標、食品衛生法、鉄道営業法、旅行業法など多数の関連法の検討も必要です。
しかし実態はどうでしょうか?
「イベントやります!」
まずは誰をターゲットにしているのかも不明です。
どうやって集客するのかなど全く考えていません。
せいぜいホームページで告知しても、そもそもホームページにどうやって来て貰うのか全く考えていません。
ツイッターで情報発信してもフォロワーさんが十数名で内輪ばかり。
一体どうやってその情報が多くの人に知れ渡るのでしょうか?
全く考えていません。
個人のツイッターならそれでも何の問題も無いのですが、情報発信ツールとして使っているのなら最悪です。
マスコミにリリースしてみた物の・・・どうすれば取上げられるか全く考えていません。
このように色々やってみても、常にどこかが欠落している状況が生じているのがローカル線の活性化の特徴です。
「インターネットが全てではない」という方もいます。
確かにそうです。
しかし、今時インターネットは必須的な時代、「おばあちゃんの原宿」と言われる東京巣鴨ですら、携帯片手に歩いているおばぁちゃんは珍しくない光景ですし、スマホを抱えているおばあちゃん、おじいちゃんも出始めているご時世です。
ホームページが無いというのは今時の情報発信としては旧石器時代の感覚です。
もちろんそんなものは使わないという方も少なくないですから、ターゲットか否か、ターゲットならどう訴求するかの検討が必要です。

それでも、鉄道ファンなど常にそっち方向に利得の高い指向性アンテナを向けている方なら微弱に発信する情報も察知するかもしれませんが、普通の人はそんな情報を知るよしもありません。
結果、色々やっているけど沿線の人ですら余り知られていない、全国では全くと言っていいほど知られていないという現象がおきます。
活性化できないローカル線の共通パターンがこれです。
何かやろうとしても、単なる思いつきばかりです。
どうすれば一人でも多くの人に知ってもらって、来てもらい、どうすれば大きな話題になるのか?
全く考えていないわけです。
こんなことを繰り返していれば活性化も出来なければ乗客も減るわけです。
ミッションクリティカルではない、思いつきでしかないのです。
こんな思い付きをいくら繰り返しても、殆ど効果は出ないのです。

まず、イベントを開催するというのなら他社がどういうイベントをしているのか徹底的に調べて、視察してくるくらいの事は至極当たり前です。
他社がどういうイベントを開催し、どういうコンテンツがあり、どうやって集客しているのか、実際来ているお客様はどういう客層かetc
ですが、以外にもこんなことすらしていないしていないところが多いことに驚きます。
例えファミリーが多いのなら、そのファミリーはどういう行動をしているのか・・・
記念撮影をしている親子が多いのなら、記念撮影コーナーや子供用の制服を置けば大人気になる事に気付きます。
ファミリーというターゲット層が定まったのなら、ファミリーに訴求がある宣伝をします。
週末のショッピングセンターでビラ配りとか小学校、幼稚園でポスター掲示とかビラを配布してもらうとか。
そういうアイデアが次々と生まれます。
イベントやっても閑古鳥~とりあえず人は来ているけど閑散としている所は、きまってこういった分析も行動も何もせず、思いつきと独りよがりに開催しています。
そういった努力すらしない、そういった努力が必要という事すらわからない人たちが活性化など不可能だと言えます。

ではなぜ、こんなことを繰り返してしまうのでしょうか?
前々から私はこんな話しをしています。
「昔から可愛がってくれたおばぁちゃんがガンになったらどうします?」と。
いうまでも無く、病院に連れて行くでしょう。
台所から包丁を持ってきて自宅で手術するなどいう人はいません。
それはつまり、「医者」という専門家に対応を任せるという事です。
しかし、ローカル線の活性化はまるで家で手術をするようなことを始めます。
それはなんの医学の専門知識も経験も無い人が自らその問題を解決しようとするのです。
すなわち、集客や宣伝の知識も実績も無い人たちが「がんばろう!」と言っても何から始めていいのかも分からないわけです。
「手術をします」というのなら、消毒も必要ですし、麻酔も必要です。
ローカル線の活性化は手術の前に消毒や麻酔が必要なこともわからず、包丁で切り裂き始めるようなクレイジーな状態です。
当然助かるはずもありません、むしろ殺してしまいます。
いくら「助けたい」と思っても、助けるための知識とテクニックが無いと助ける事など出来ません。
もちろん、医者に行かなくても身内にプラックジャックがいるなら別にいいでしょう。
でもそんな人はまずいません。
結果、活性化どころか廃線や、良くても赤字額の拡大という事態に陥ります。

メイドトレンも当然各種専門家にお願いをします。
例えば私がメイドをやっても仕方ないので(特殊なマニアの方は集まるかもしれませんが、それはさておき)秋葉原のメイドさんにお願いをします。
鉄道の運行は鉄道会社という専門機関が当たります。
販売は旅行代理店という専門の会社にお願いをします。
キャラクターは腕の効く画家さんにお願いをし、印刷データはDTPを専門にする方にお願いします。
広報については鉄道会社の広報担当と連携を取り、国土交通省記者クラブにもリリースします。
私一人ではとても出来ません。
しかしローカル線の会社や活性化組織は自分達で何とかしようとします。
結果、あまりにも効果が無い結果が出てしまうのです。

【アイデアが無い】
山形鉄道の野村社長が福岡の経営者セミナーで面白い事を言っています。
それは「日本一高い山はどこですか」と聞くと、ほぼ全員「富士山」と答えられると。
しかし、「二番目に高い山はどこですか」と聞くと、殆どの人は答えられないと。
この法則はあらゆるところでそうで、「一番」は物凄く注目されるし、記憶に残るけど二番手以降となるとほとんど記憶に残らない法則があるという。
実は活性化できないローカル線はこの法則がピタリと当てはまるのです。
活性化、活性化とは言ってみたものの活性化できないところは他社の真似ばかりという特徴があります。
「つり革オーナー」「枕木オーナー」「サイクルトレイン」「アテンダント」etc
どれもこれも他社の真似ばかり、二番煎じどころか出がらしアイデアはマスコミが取り上げる事は無く、あっても地元程度で全国に知ってもらうには程遠い。
結果何の話題にもならず、沿線の人ですら知らないという状況になり、活性化以前の問題になります。
ではなぜ真似などするのでしょう?
要するに自分達にアイデアが無いから、なんとなく他社で話題になったことをやれば自分達も話題になるという思い込みが生じているのです。
しかし、野村社長の言うとおり、二番手など殆ど話題にならないのです。
当然、活性化になどなりません。

こうなった場合、お約束の方向が出てきます。
それが「イデオロギー」論です。
どうすればPRして多くの人に知ってもらい、来てもらうのか、強いては経営にプラスになるのかというアイデアを出せないと、かならず「文化的価値」「歴史的価値」が登場します。
もちろんそれも重要な事ではあるのですが、文化的、歴史的価値があってもPRにならなければ人が来ることはないのです。
これを読んでいる方で、住んでいる地元の文化財を知っていると言う方がどれだけいるでしょう?
大体は道を歩いていてたまたま見つけて「えっ、こんなところに文化財があったの!」と驚くパターンではないでしょうか?
金閣寺など日本全国で誰でも知っているか、せめて地域で有名なクラスの文化財があるのなら別として、それでも小さな文化財の事など殆ど知らないものです。
文化的な価値があって、「文化財です」と看板を建てても、所詮その程度の存在でしかないのが文化財です。
それをどう利用していくかというアイデアが出ないと、所詮その程度の存在になってしまうのです。
最近は「エコ」というのもよく出てきます。
「電車は二酸化炭素排出が少ない」というものの、電気を作るのに二酸化炭素が出るわけで。
もしてローカル線の古い電車は最近のVVVFと比較して電気を食う=二酸化炭素を出します。
まして、気動車なら直接二酸化炭素を出すのだから、いっそハイブリットバスの方がいい。
どういう事をしていけばいいのかというアイデアが出ないところはこのイデオロギー論に向かいます。
しかし、こんなイデオロギーで廃止が阻止された路線などあったでしょうか?

最近は「萌え」を使おうとするところも多くあります。
その方向も悪くは無いのですが、「なんか萌え~とかやってりゃオタク大勢来るんだろう」という乱暴な論理のところが多数あります。
何か萌えキャラクターを作ったのなら、そのキャラクターに人格を与えて育てていかなくてはなりません。
しかし、ホームページすらなく、どういう設定でどういうストーリのキャラクターかもサッポリ分からず、ただそこら中にキャラクターを張り出しているだけのところが見受けられます。
今後そのキャラクターをどうするのか、ビジネス的にもどうしたいのか、何をしたいのか皆目分からないところはよくあります。
こういうところは大体、「他で成功したからうちもやれば人気になれる」理論です。
ですが、人気や話題になったところは、しっかりホームページを作りキャラクターの設定を行い、しっかりとキャラクターを育てています。
キャラクターがあり、そのキャラクターに感情移入し、初めて応援したいとかグッズを購入したいという感覚が生まれる物です。
そういうことをまるで分からずただ形だけ真似をしても、二匹目のドジョウにはなりえないわけです。

もう一つがソフトではなくハードで解決しようとする、つまり「物」で解決しようとする事です。
物で解決するためには金がかかる・・・
新車両の購入、駅舎の建て替え・・・
古い物を生かそうというアイデアが無いと、新しくすればサービス向上という思い込みだけで突き進んでしまう現象です。
たしかに安全輸送にある程度の投資は必要ですし、老朽化で建て替えなくてはならないケースが無いわけではありません。
しかし、廃止論議が出ているところに数億円を投じ、13年の減価償却期間である車両を買う必要性などあるのでしょうか?
せめて買うにしても中古車両にするとか、コストを下げるアイデアも無い。
結果として莫大な赤字を更に積み上げる事となるわけです。

アイデアなんて物はいくらでも転がっています。
活性化できるセンスがある人はどうでもいい物に気付いて、雑草一つにも大騒ぎできる能力を有している物です。
そういった能力が無いと上記のようなパターンに陥ります。
この状況に陥っているのが由利高原鉄道です。
公募で採用された春田社長は山形鉄道の奴事例を研究したそうで、次々とイベントを開催していますが、どれもこれも他社の真似ばかり。
しかし、山形鉄道が大きく話題になったのは、野村社長が些細な事でも活性化に利用できるアイデアを有していたのと、マスコミをうまく使う能力があったからです。
そういった一見目には見えないミッションに全く気付かず、表面的な形だけ真似て次々とイベントをしても、全く話題になどならないのです。
以前ツイッターでこの問題を指摘したところ、地元の方から「直ぐに結果なんて出ないんだ」と反発を受けました。
しかし社長就任期間二年のうち、既に半分以上は経過して折り開始地点も通過しました。
あと数ヵ月で一体どんな結果が出るのでしょうか?
最新の決算は赤字額の拡大という結末です。

【活動の目的が不明】
ローカル線の活性化で地元の協力と理解は不可欠ですし、地元の声が高まって存続をすべきです。
ですが、存続運動をしている人たちの目的が不明というケースが非常に多く見受けられます。
単刀直入に言えば、「活性化」「存続」というのが目的ではなく、まるで自分達の趣味を行う場を「活性化」の名を借りてやっているというケースが多く感じます。

例えば会社なら、営業目標が定められます。
今月は何件受注するだとか、当期利益はいくらにするとか、具体的な数値で示されます。
そのため、社員はどうすればその目標に達するのかを必死に考えます。
それに満たないと、事業の見直しや、自分のいる部署の閉鎖、もっと行けば左遷やクビ、最悪は倒産もあるのが会社という世界です。
ですが、活性化団体という有志が集まると、この目的意識が不透明になりがちです。
有志が集まると言うのは、みんなが出来る物を持ち寄るという方向になりがちですが、これが問題です。
年間数千万円から数億円の赤字を抱える路線の存続をするためには、明確な目的とそれに向かうプロセスが必用です。
つまり、まずは目標ありきでミッションクリティカルに行動していかなくてはなりません。
それが存続団体の場合、目標があってそれを実現するためには何をしなくてはならないのかというプロセスではなく、まずは自分達ができる事、やりたいことからやっていこうとします。
会社であれば何か一つするにしても、そこに意味と採算性が必ずあります。
ですが、活性化団体の活動にはそれが無いケースが多々見受けられます。
結果どうなるでしょう、存続や活性化とはあまりにも程遠い活動しか出来なくなります。

例えばグッズを作るとします。
しかし、そのグッズをどういう脈略で作るのかとか、どういうセールスポイントなのかとか、なぜそれが活性化に繋がるのかとか、全く不明で「なんとなく面白そうだから」レベルで作ってしまいます。
そしてこういうパターンはどうやって売るのかも全く考えていません。
今時、現金書留なんて面倒で費用のかかる物で誰が送金してわざわざ購入するでしょうか?
お客様がどうすれば購入しやすいのかなど全く考えません。
イベントをするにしても、地元のサークルとかが出できてなにか見世物を披露したり・・・それがなぜ活性化と繋がるのか不明です。
大体こういうところはイベントをやっても閑古鳥状態か観客は知り合いばかり。
マスコミも報道せず、しても地元程度でPR効果も限定的。

ある活性化団体は連日大量の鉄道写真をネットで公開して「活性化」と言っています。
例えばこう考えて下さい。
携帯電話の基地局の写真を数千枚見せられたら皆さんどう思いますか?
世の中には「鉄塔マニア」という方もいますから、そういう方であれば面白いかもしれませんが、別にそんなマニアでもない興味が無いという一般の方であれば基地局の写真を大量に見せられてもワケが分からないでしょう。
鉄道写真も同様で、鉄道に興味がある方なら良いですが、鉄道に興味が無い方は鉄道写真を見せられてもワケが分かりません。
お客様はあくまでそこに行きたいという目的が先にあり、では何で行こうかという選択のときに「鉄道」があるのです。
にもかかわらず、大量の鉄道写真を掲載するのは、目的がお客様のためではなく、自分が写真を見たいからになっているからです。
結果、このローカル線は一時は盛り返した物の最近は乗客減少となり、また「廃止」というキーワードが浮上し始めています。
何のためにやっているかわからない活動は、活性化になどならないのです。

自分達のペースで活性化運動をやってついには廃線になった路線があります。
長野電鉄屋代線です。
こちらも地元の有志の方が集まり活性化団体が複数立ち上がります。
存続に当たり、シンポジュウムを何度も開催し、ひたちなか海浜鉄道の吉田社長や、いすみ鉄道の鳥塚社長も講演をします。
吉田社長からはメイドトレインをご紹介いただき、「やれる事は何でもやる」というスピリットを講演されました。
鳥塚社長からは「乗って残そう運動なんてやって残ったためしが無い」と、「乗らないけど残そう運動」を提唱しました。
これは「存続運動をしている人の殆どですら鉄道を利用していない」とし、「乗らないけど残したいのなら募金を集めましょう」と提唱しました。
その提唱を受けてこの屋代線の活性化団体は何をしたのでしょうか?
意味が無いという「乗って残そう運動」を開催し、募金など集めませんでした。
運動の代表の方もテレビのインタビューで「住民が出資していいという声もあるんだ」と言っていましたが、具体的に資金を集めたという話は聞きません。
要するに色々な事例を学んでも、あくまで自分達のできること、自分達のやりたい事しかこの存続運動は活動しなかったのです。
「存続」という目標を定め、その目標を実現するために何をしなくてはならないかというプロセスを組み立て実行するのではなく、あくまで自分達で自分達のペースで、自分達のできる事、やりたい事だけやり、結果がついて来てくれないか願っていた・・・
そんな運動は結局、廃止という最悪の結末を迎えます。

【評価基準が低すぎる】
目的意識の無い活動ではもう一つ恐い現象がおきます。
一言で言うと「井の中の蛙現象」です。
それはこういった活性化を行う有志の方はおろか、鉄道会社も専門家ではないため客観的評価ができない事です。
こういったローカル線は、他社と顧客を奪い合うような激しい営業攻勢などした事もありません。
大抵は地域独占で黙っていても客は来る論理で何十年も経営してきたわけです。
お客様の声や行動を分析するなどということもしたことが無いところが実に多くあります。
まして活性化団体という組織はそういった面が殆ど素人か、せいぜい地元の商店レベルのお客様相手の感覚です。
イベントするにしても企画書すら書けない人が大半です。
こういった状況で何かをしても、著しく低い段階で「合格」判定をしてしまいます。

お客様の反応に対しても同様です。
ちょっとプログやツイッターでアクセス数が上がったり、コメントが来ると「全国から大反響だと」という勘違いが生じます。
いままで全くコメントなんて来なかったところに10件ほどコメントが来るともう舞い上がってしまいます。
しかし、実態はたった10件でしかないのです。
それをまたマスコミはあおって「ツイッターを駆使して活動」などと報道すると「自分達は駆使している」「マスコミが報道してくれたんだから間違えない」と思い込みます。
ですが、フォロワーさん100件程度のどこが駆使しているのでしょう。
マスコミというのはとかくセンセーショナルに報道したがります。
そういう特性を理解しないで真に受けると、「井の中の蛙現象」がより強固になります。

インターネットやホームページも駆使しているというところは余りありません。
例えば町のグルメを紹介しますとgoogleの地図にマッピング・・・最悪です。
一見最新のインターネットを駆使した紹介のように見えますが、ではお客様はその店にどうやって行くのでしょうか?
その案内は「後は勝手に行け」でしかないのです。
駅から徒歩5分圏内くらいならまだしも、およそ徒歩ではいけないようなところを「沿線グルメ」と紹介してお客様はどうやって行けばいいのでしょうか?
こういった紹介の仕方はおかしいという評価すら出来ていません。
そもそも、「グルメ情報です」と、ただ店名と住所を出して、誰がその店に行ってみたいと感じるでしょうか?
ぐるナビなど様々な情報サイトと比較すると、あまりに情報が無い事にすら気付いていません。
お客様は何を必要としているのか、どういう情報を出す事が当たり前なのか、何が当たり前なのかの客観的評価がまるで出来ないのです。
こう言ったお客様目線とはあまりに程遠い活性化運動をしているところが実に多いのです。

栃木に「湯守 田中屋」という温泉旅館があります。
100年も続く老舗旅館ですが、今から十数年前に倒産の危機に直面します。
これを再生したのは、実はテレビ番組でした。
テレビ番組の企画として、なぜお客様が来なくなったのかの分析から始まり、リニューアルまでのすべてを番組として放送しました。
この中で驚くのは、お客様に出している料理を経営者は誰も食べた事が無いと言う事です。
実際食べて見ると、自分で肉を焼くという食べにくいシステム、焼いてはみたものの固くてマズイ、酷い食事。
そんな物を何十年も提供していたといいます。
これはローカル線の活性化も実に似ていて、自ら掲載した案内に基づいて行って見るという事を全くしていない所が実に多くあります。
観光地の案内に「○○駅車で50分」と書かれていても、鉄道で来させて駅から車で行けとはいうのは論理的におかしいという事にすら気付いていない案内は実に多くあります。
こんな事が日常茶飯事起きていれば、そりゃお客様も来なくなるわけです。
「湯守 田中屋」こういったところを徹底的にリニューアルし経営者の意識も変わった結果、現在は見事に再生し人材採用まで行うほどになっています。

【当事者意識の欠如】
実はここ数年でメイドトレインの開催要望は十数社ほどから受けています。
しかしご覧の通りそんなに開催はしていません。
それは断っているからです(自然消滅的なものも含みます)。
この断ったすべてに共通している事があります。
それは「当事者意識が無い」という事です。
「活性化したいんです」と相談に来ても、中身を聞くと・・・
・貸切で運行して欲しい
・規定の貸切運賃を払ってもらう
・イベント運営費は出さない、出せない
・交通費宿泊費も出しません
・集客はしない、集客責任は全部そちらで
・運行以外の運営スタッフは出さない
・ポスターとか貼る場合は規定の広告料金を頂く
・保健所の手続きとかも全てそちらで

これは活性化の相談ではなく、単なる貸切電車の売り込みです。
それはかまわないのですが、それならこちらもビジネスライクに「利益にならないんでお断りします」となります。
要するに、一切労力も費用も出さないけど結果だけ下さいという事です。
このパターンでのオファーは全てお断りする方針です。
私も鉄道が好きでこんな商売を始めたので、赤字ローカル線の運行会社が「お金が無いんですけど」というご相談にはご協力します。
しかし、リスクも全部負ってくれ、労力も出さないでは、会社としてはとてもお取引できません。
「お金は無いんてすけど、こっちで出来る事は何でもやりますから」というご相談ならウエルカムです。
自分達が活性化したいと思うのなら、まずは自分達が汗だくになるべきです。
「自分達は汗をかきません、でも結果だけ下さい」というスピリットでは活性化できません。
いままでメイドトレインはじめ関わってきた鉄道会社や旅行会社、広告代理店はいずれも汗だくになっています。
JALの再生に入った稲盛さんも、JALの社内は「潰れた会社」という雰囲気がまるでなく、コスト意識も全く無い体質に驚き、「今のJALは八百屋の経営も出来ない」と言い放ったとおりです。
ですが、赤字のローカル鉄道会社も同じで、廃止という話題が現実的に飛び交っているのに「死に物狂い」という意識はまるで感じないところが多いです。

それと、ローカル線の会社で特徴的なのが、交渉、折衝力が低いというのもあります。
例えばメイドトレイン開催で見積もりを求められれば、当然規定ベースの見積もりを出します。
しかし、その見積もりでは無理だというのなら、「この金額でやってくれないか」と交渉すべきです。
ここで重要なのは、ビジネスの世界でよく言われる「win winの関係」です。
要するにお互いがこのプロジェクトで利益になっていい関係になりましょうという交渉です。
ですが、意外とローカル鉄道会社で多いのが「こっちは儲けさせてもらいますが、そっちの事は知りません」型です。
お互い現金としては儲からないけど、お互い何かメリットになるようにしましょうという交渉ならwin winです。
しかし、相手があくまで規定の話しかしないのなら、こちらも当然規定の話しかしません。
これで話がご破算となります。
「予算的にこれしか出せないけど、その分こっちでやりますから」とか、「お金は出せないんですが、集客はこっちでしますから」とか、そういう交渉、折衝能力がまるでありません。

本当に何とかしたいのならとことん考えて知恵を搾り出すべきです。
そして汗だくになるべきです。
ですが、地方の鉄道会社にしろ、活性化団体にしろ、どうもそういった強い当事者意識というのを感じません。
当然、そういったところは活性化出来ないでいる状況が何年も続きます。

【成功事例から学ぶ Part1/和歌山電鉄】
成功事例をいくつかご紹介しましょう。
和歌山電鉄です。
このホームページは実によく出来ています。
まず、ホームページのタイトルを見て見ましょう。
「和歌山電鐵 貴志川線 猫のスーパー駅長「たま」とおもちゃ電車といちご電車」となっています。
タグ上にもキーワードとして「たま駅長,スーパー駅長,猫駅長,おもちゃ電車,いちご電車,和歌山駅,田中口駅,日前宮駅,神前駅,竈山駅,交通センター前駅,岡崎前駅,吉礼駅,伊太祈曽駅,山東駅,大池遊園駅,西山口駅,甘露寺前駅,貴志駅,小嶋光信,たま電車,たまステーション,松田,土江,阿部,小坂」
と、入れられています。
つまり、「和歌山電鉄」「貴志川線」「ネコ駅長」「たま」「おもちゃ電車」「いちご電車」いずれで検索してもヒットするように考えられていて、駅名や社長名で検索してもヒットするように工夫されています。
お客様がどうやって来るのかをよく考え、どうやって来てもたどり着ける工夫が、こんなホームページの入り口から始まっているのです。
こんなことは今時ホームページ作りでは当たり前ですが、やっていないローカル線は実に多いです。

各種の案内も実によく出来ています。
大阪当たりからのアクセス方法を紹介しているだけではなく、札幌や福岡など空路で来る場合のアクセス方法まで記載されています。
車で来る方に対しても、どこのインターで降りてどこを曲がって、どこに車を止めて、駐車場の料金はいくらかまで記載されています。
こういった記載を見ればいかに活性化できないローカル線の案内は酷いかが分かります。
口では「おもてなし」「おもてなし」と言っても、やっている事は「勝手に来い」にしかなっていません。
和歌山電鉄は観光案内にしても、色々なケースごとのモデルコースを紹介しています。
観光に来る人は文字通り右も左も分かりません。
そういう人に対して、ただ観光地の住所とかを示して「観光案内です」と言われても、どうやって行っていいのかも分かりません。
また観光案内自体も、きちんとレポートをして、魅力的な写真と魅力的な文章で、「行って見たい」という気持ちを誘います。
和歌山電鉄が成功したのは単にたま駅長の人気だけではなく、こういったミッションクリティカルな活動を続けているからです。
それを二番煎じに「駅長を猫にすればお客さん来るんだ」と思い込んでやったところは、殆ど話題になりません。
一時マスコミが取上げても、「テレビにでたぁ!」と浮かれるだけで終わってしまいます。

「餅は餅屋」という言葉があります。
これは同じようについた餅でも、餅屋さんという専門家がついた餅と、素人がついた餅では一見同じ餅に見えても、味も質も全く違う餅であるということわざです。
他が成功したからと真似て同じような事をしてみても、出来上がる結果はまるで違います。
しかし、集客やPRの経験も実績も無い人たち、すなわち何を見て何を判断し、何をするべきか理解していない人たちが形だけ真似ても決して同じ結果になどならないのです。
実は和歌山電鉄の全身、、南海電気鉄道貴志川線の廃止が持ち上がったときにも、市民の有志が集まり「がんばろう」とはじまりました。
しかし、どこの活性化団体にもありがちな夢を騙るだけで実行力の無い、「あとは行政、よろしく」型の運動に留まっていました。
そこに和歌山大学の学長や地元経済界が中心に設立した「和歌山市民アクティブネットワーク」 が声をかけて運動を取りまとめ費用対効果分析を行い、行政に具体的な数値をもって存続の必要性を訴えました。
その後、運営会社を公募に当たり市民団体が岡山電鉄にオファーし、現在に至っています。

和歌山電鉄が成功したのは「自分達で何とかしようとしなかった」事でしょう。
このように、有能な人たちをどんどん取り込み、どんどんプッシュした事だと感じます。
ここが他の活性化運動と大きく違うところです。
ここが私の言う、「ガンになったら医者に連れて行く」という話です。
自分達で出来ないから、自分達で何とかしなかったところが成功した所以です。
逆に、失敗するところは決まって自分達で何とかしようとし、提言にも耳を傾けず、むしろ「イチャモンつけられた」くらいに思うのでしょう。
こういったスピリットのところは決まって活性化できません。

【成功事例から学ぶ Part2/三井アウトレットパーク木更津】
近年のアウトレートブームの中、首都圏から遠く立地条件が悪い中でも成功した事例と言えるでしょう。
ここが成功した理由は様々で一概には騙りつくせませんが、「アクセス」という部分に特化してご紹介しましょう。

まず、ここの立地は最悪です。
木更津という都心から遠い場所であるうえ、最寄り駅から歩いていけるような場所ではありません。
交通の便はまさに最悪のところにこのアウトレットは出来ました。
ここで「交渉、折衝能力」が威力を発揮します。
それはバス会社へ「アウトレット直行バス」の運行を働きかけて、路線開設をさせたことです。
アウトレットは中にバスターミナルも開設し、バスターミナル直結の環境も作っています。
結果、交通機関が無い場所に、新宿や横浜などの都心から直結の足が確保されます。
まず、こういった実行力ある行動が注目に値します、

次にホームページを見て見ましょう。
http://www.31op.com/kisarazu/access/index.html
ここの案内も実にお客様の視点で作られています。
まず、やはり一番多いであろう車で来る方に対して、カーナビにどうやって入れればいいのかが書かれています。
しかも古いナビだと「三井アウトレットパーク木更津」が出てこないことをしっかり予測して、近隣の郵便局で入力する事も促しています。
その下には東京湾アクアラインの割引案内が示されており、その横にはNEXCO東日本へのリンクが張られています。
そして首都圏各所から来方が詳細に記され、下には道路交通情報へのリンクがあります。
電車やバスの案内も実に詳細に首都圏各所からのおおよその時間入りで掲載されています。
そして注目したいのは、各駅からの路線バスの時刻表へきちんとリンクしている事です。

この三井アウトレットパーク木更津のホームページはとことんまでお客様目線だという事です。
「駅からバスです」というのなら、当然お客様が次に考えるのは「どのバスに乗るの?」「バスの発車時間は?」ということです。
車で行くというのなら「ナビになんて入れるの?」という情報が必要です。
そういったお客様の必要とする情報を常に先読みし、お客様が必要なときに必要な情報が常に提示されている状態になっています。
これが当たり前のお客様サービスです。
一方、ローカル線の観光案内を見ていると、「○○駅からバス○分」と書かれていても、どこのバス会社のどこの路線に乗っていいのかさっぱり分からない案内が多く、バス会社までは書いてあっても、時刻表を掲載していないところが実に多く有ります。
首都圏のように数分おきにバスが来るのならいざ知らず、そういうところに限って一日数本しかなかったりします。
口では「おもてなし」と言っても、お客様の求める情報、サービスなど何も出していないところが大半です。
そして、そのことがおかしいという事にすら気付かない、評価基準の低さ・・・
大勢が来る要素があるアウトレットパークと地方ローカル線では必ずしもイコールとはなりませんが、こういったお客様に対する案内はイコールだといえます。

三井アウトレットパークがここまでお客様目線の案内が出来るのは、先に記した「ガンになったら病院に連れて行く」論理だからです。
ここのお客様への案内などは大手の広告代理店が入り展開しています。
お客様への案内やPRの専門家です。
このように、アクセス案内一つとっても、専門家が作る案内と、何の知識も無い人たちが作る案内では天の地の差になっているわけです。
このことだけとっても、ローカル線が活性化できない理由が見えてくる気がします。

Reply · Report Post