「おおかみこどもの雨と雪」サントラ 楽曲解説(全文)


いよいよ、映画「おおかみこどもの雨と雪」サントラ発売です(7月18日)!
http://amzn.to/LuI7Ej
 
 
諸々の想いは、雑誌やウェブサイトでインタビューで話しているので、そちらで読んで頂ければと思いますが、
 
◆ 高木正勝インタビュー掲載
「ピクトアップ #77」6/18発売、「intoxicate vol.98」 6/20発行、「Sound & Recordings 8月号」7/15発売、「Switch 8月号」7/20発売、「おおかみこどもの雨と雪 オフィシャルブック 花のように」7/21発売、HITSPAPER(http://bit.ly/S0injt) などなど
 
ここでは他では話さなかった楽曲解説を書いてみようと思います。
映画の内容に触れないように気をつけながら…。
 




 「おおかみこどもの雨と雪」 楽曲解説(全文)



1:産声
 
以前のノート(http://on.fb.me/P9ejyc)にも書きましたが、監督に聞いてもらう為に、まず音のスケッチを送っていました。スケッチはとても簡素なもので、思い付いたときにピアノと声をただただ録音してました。この「産声」は13つ送ったスケッチの8番目をそのまま使っています。
 
このスケッチに辿り着くまで、実に2ヶ月(音楽に用意された制作期間は3ヶ月半なのに!)掛かりました。映画の核になる曲が浮かばず、もう自分には無理なんじゃなかろうかと諦めかけていたのですが、1週間程お休みをもらって気分転換することにしました。一度、すっかり忘れてしまって、1から新しい発想をしようと。そこで、監督の細田さんに「この映画を他の人の音楽で例えるならどんな感じ?」と、なんだか元も子もないようなお願いをしました。それまでは、言葉で説明してもらっていたのですが…。そしたら、ある曲が送られてきました。曲を聴いて、すべてが腑に落ちました。ああ、この映画は「おかあさん」の映画なんだ。。。
 
その晩、寝る準備をして布団に入って目をつぶりました。幼かった頃の自分の母親のことを思い出しました。そんな記憶がほんとうにあるのか分かりませんが、陽だまりの中でゆったりと過ごす母の背中が浮かんできて…、同時に音が聴こえてきたので、「これはすぐに録音しないと!」と飛び起きて、ピアノに向かいました。お母さんを思い出しながら、同時に自分もお母さんになったかのように、静かに演奏しました。
 
それまでに送ったスケッチの反応と全く違って、監督からもスタッフの方たちからも「これだ!!」と興奮のお返事をいただけました。僕も、もちろん「うん、これでいい!」と思っていました。改めて細田さんと打ち合わせがあり、この曲を主題歌として仕上げることが決まりました。「産声」を元に細田さんが詞を書き上げて「おかあさんの唄」が生まれたのでした。
 
 
2:めぐり
 
映画のどのシーンにどの曲を当てていくのか、これは細田さんが全て決めました。送っていた13のスケッチを聞きながら、「この曲はこのシーン」「この曲はここからここまで鳴っていて欲しい」という感じで。同時に各シーンに込めた想いも受け取っていたので、作業はスムーズに進みました。
 
スケッチを送っていた際は、自分なりに「この曲はこのシーンかな?」と何となく当たりを付けていたのですが、意外なシーンに選ばれるのが殆どで、「なるほど〜、そのシーンはそういう意図だったのか!!」と驚きの連続でした。細田さんならではの音楽とストーリーの関わり方を知って、はじめて、映画の内容を深く理解できた気がしました。
 
1曲目の「産声」と同じメロディーですが、ここではまだお母さんになっていない大学生の主人公(花さん)を思いながら、ここから新しい想いが積もっていけるように、真っ白なノートのような演奏を心掛けました。
 
弦楽器が少しずつ現れます。コンサートが始まるとき、音合わせ、チューニングの音がホールに響き渡るのがなんとも好きで、そういう演奏をして下さいとお願いしました。
 
 
3:陽だまりの守唄
 
前半の歌とピアノは、2番目に送ったスケッチをそのまま使いました。いま思い返すと、絵コンテをはじめて読んだときに感じた音の風景がこういう感じなんですね。これからお母さんになっていく花さんを見守るような、そんな曲です。後半の弦の演奏は、  徳澤青弦くんが中心になって演奏してくれました。サントラの中では、「おかあさんの唄」も彼らによる演奏です。他の曲で聴こえるストリングスの音と表情が違うと思うので、聴き比べてみてください。
 
この弦の編曲は他の曲でもお世話になった足本憲治さんが寝ずの作業で仕上げてくれました。確か、サントラを通して、彼が一番最後にアレンジした曲だったかと思います。まずピアノをお送りして、それを足本さんが自由に色付けした曲もあれば、僕がシンセなどの音を使って演奏/編曲したものを足本さんがオーケストラで演奏できるよう改めて整えてくれた曲もあります。
 
この曲では、軽くシンセで演奏したものをお渡しして、「楽器と楽器が会話しているように整えて欲しい」とお願いしました。ストリングスのアレンジ…、ともすれば、ギターで言うコード弾きのようなアレンジになってしまいがちなのですが、一つ一つの楽器が活き活きとしている状態を一番好ましく思っていまして…。どちらがどちらを支えるとか、どれが主役という在り方よりも、一つ一つが意志を持って、その上で渾然一体となって生きている在り方が好きなんです。
 
 
4:ほしぼしのはら
 
それぞれの曲名は一番最後につけたのですが、曲に名前をつけるのはいつだって楽しい作業です。「星々野原」なのか「星々の肚」なのか、漢字を使わずに、読み、音を追っていくと日本語って楽しみが増えて面白い。
 
この曲は、スケッチの状態では歌とピアノの曲でした。「産声」の直前に思い付いた曲です(スケッチ7番目)。個人的には、この曲が浮かんだ時に「できた!」と一番の興奮していたのですが、音楽プロデューサーの北原さんが「もう一声!」と一押ししてくれたので、「おかあさんの唄」まで辿り着けたんですね。一人で作業していたら、きっとこの曲で満足して、主題歌は生まれなかったかもしれません。人と一緒に仕事をする醍醐味を味わえました。
 
昔から、「風」を音楽で表現できないか色々と試してきましたが、中々上手くいかず、ほんとうに風の音を少し足してしまったりしていたのですが、今回は、純粋に楽器の音だけで挑戦してみました。
 
 
5:そらつつみ
 
絵コンテには「Aパート」「Bパート」という風に大まかに区切りが打ってありました(Dパートまでありました)。各パートで受け取る空気感が全く違ったので、音楽を作る上でもパート毎にメリハリをつけたいと思っていました。「4つの映画音楽を一気に頼まれた気分でやろう!」と思ってました。
 
この「そらつつみ」はAパートの音楽の集大成。たくさんの既にお母さんになった人たちが、星や空が、これからお母さんになる花さんとお父さんになる彼を暖かく包んでいる、そんなイメージ。
 
今回の音楽を作るにあたって、「音を奏でるのなら、それがどこから、どこへ向けて、発された音なのか、きちんと想いながら奏でる」ということを心しました。映像にあてる音楽の在り方は、色々あると思いますが、空気のようにただ在るんじゃなくて、台詞のように意志を持って在りたいと。脚本にも映像にも現れていないキャラクター、存在であったとしても、きちんと存在を思い描いて、言葉ではない台詞を音で、音楽として紡ぎたい、そう願って形にしていきました。
 
 
6:莟
 
旋律は「産声」や「めぐり」と同じですが、全く違った表情を見せられるのが、映画音楽の面白いところです。ここでも「めぐり」と同じく、弦楽器の演奏は表情を極力つけないようにお願いしました。演奏に表情をつけないことで、逆に心情を表現できることがある、そういう実感があります。
 
 
 
7:ねね
 
ガラッと雰囲気が変わって楽しい曲です。
映画音楽の制作も順調に進み、余計なプレッシャーもなくなって随分と気楽になった頃、朝にポロンポロンとギターを弾いていたら浮かんだ曲です。この頃は調子がよくて、夕方に起きて前日の作業の続きを、夜明けと共に次の曲に取り掛かるというペースが掴めていました。その時々の気分というのは、やっぱり音に出るものなので大切にしたいです。
 
隣でコーヒーをすすっていた妻に「中学生のころ、ギターで初めに覚えたのはC→G→Am→Fっていう循環コードで」と説明しながら「それでな、こういう風に歌うねん」と歌ったのが、そのまま曲になりました。
 
ここまでの曲とは打って変わって、ここからは出来るだけ単純な形を使って作るように心掛けました。まるで、はじめて楽器を演奏するときのような、はじめて曲を作るような心持ちで。音を出すだけで嬉しい、そんな光景を。使い古された下地でも、ちょっとの工夫と心持ちで、楽しく面白くなるものです。
 
ギターは改めてショーロ・クラブ(CHORO CLUB)の笹子重治さんと秋岡欧さんに弾いて頂きました。スタジオでこの曲が録音されたときの煌めきといったら!連日殆ど寝ずに作業していたミキサーの田中さんやスタッフの顔に笑みがこぼれて、心底ホッとしました。
 
僕は、この曲を聴くと、幼少期に住んでいた団地での生活、台所に敷いてあったゴムで出来たフロアシートを何故だか思い出します。
 
子育てするお母さんたちへの親守唄として響いたらいいなと、そんな気持ちで作りました。
 
 
 
8:あたらしい朝
 
こちらも2つのコードしか使ってないシンプルな曲。ギターでアルペジオ弾きをすると、しっくりくるような旋律を敢えてピアノで演奏してます。台詞がたくさん被るシーンだったので、一番大変な演奏になりました(聴こえはシンプルですが…)
 
今回の映画は「時間の経過」が肝になっています。音楽を奏でる上でも、そのシーンに流れている時間の流れ、時間のスピードを意識するように心掛けていました。
 
古くから僕の音源を聴いて下さってる人には懐かしいかもしれないストリングスの入り方をここで使っています(アルバム「Air's Note」に入っている「Ophelia」)
 
 
 
9:オヨステ・アイナ
 
「あたらしい朝」の歌バジョーン。映像を観ながら曲を完成させていきましたが、この曲辺りから映像との親密度がぐっと増していきます。効果音で表現するような箇所を、音楽からも手助けできるように、そんなアプローチに入っていきました。
 
不思議な言葉で歌ってますが、昔からその土地に住んいるような、以前からその家に居座っているような、ちっちゃな精霊たち、雨や草や石ころや、食器やタイルや柱なんかが、花さんたち一家をわいわいと迎え入れているような、そんなイメージで歌いました。
 
曲作りが順調に進んでいくに連れて、自分の幼かった頃が次々と蘇っていました。田舎に引っ越しして味わった自然への驚き、近所との隔たりがなく皆でワイワイやってた頼もしさ、朝に目が覚めたらご飯のにおいがしたこと、夕暮れを背に受けたこと、怖かった父と二人で留守番をしていたらラーメンに連れて行ってくれて美味しかったこと、お腹が痛くなって母に自転車で病院まで運んでもらったけれどお腹が空いていただけだったこと。
 
 
 
10:がさぶらたあた
 
間違っているかもしれませんが(そうだったら、ごめんなさい!)富山弁で「がさぶら」=薮、草むら、「たあた」=女の子。雪ちゃんの小さい頃にぴったりのあだ名だと思ってます。
 
最近よく、近くにある”森のようちえん”というお母さんたちが営むようちえんに遊びに行かせてもらってます。そこの子どもたちの元気なこと、元気なこと!泥だらけになって土を踏み、そこいらから木の実を採って腹を満たし、がははと笑って襲いかかってきます。この曲は、そんな愛おしい子どもたちと遊んだ僕なりの絵日記/音日記でもあります。
 
曲を作り始めたときは、19曲目の「少年と山」のバージョン違いとして取り掛かりました。所々、なごりがあります。スタジオで金管、木管を中心に演奏してもらいましたが、いちように「リズムの取り方がわからん!」と訴えられました。僕もよくわかってません。それぞれの楽器がそれぞれのリズムで演奏しているので、よく聞いてしまうと、こんがること請け合いです。
 
 
11:たねめみ
 
種、芽、実。
 
この曲だけ唯一、自分が演奏した音がまったく入っていません。
笹子重治(アコースティック・ギター)秋岡欧(バンドリン)沢田穣治(コントラバス)のショーロ・クラブによる演奏です。映画に登場する素敵なおじさまたちと全く同じように、「ああだ、こうだ」「違う、そうじゃない。こうだ」と、とぼけた会話を交わしながら素敵な大人の演奏で実りをもたらしてくれました。せわしいスタジオ録音の中で、唯一ほっこりした時間でした。
 
細田さんとはじめて打ち合わせたとき、しきりに「ギターの音が」と仰っていたのがずっと頭に残っていて…、叶ってよかったです。初号試写ではじめて完成された映画を観たとき、何故だかわからないけれど、この曲が流れるシーンにぐっと来てしまって、すっかりお気に入りの曲になりました。
 
 
 
12:きときと - 四本足の踊り
 
映画音楽の話を頂いて、細田さんにお会いして、すぐに、一番はじめに出てきた曲です。今まで演奏してきた中で、最速のピアノを弾きました。おおかみが4本足で駆ける前のめりのリズム、唸り声、素晴らしいスピード、突き抜ける開放感。絵コンテを読んで最初に感じた全てを2分間に込めました。
 
オーケストラが初めに演奏した曲もこの曲です。譜面どおりに演奏すると何か違ったので、居ても立ってもいられなくなり、思わず演奏者の前に飛び出して、身振り手振り身体振りで指揮を手伝いました。「このアルペジオは音符の連なりじゃなくて、唸り声です!ドライブをかけて!」「この連打音は、ハッハッハッハッと前のめりに飛びながら駆けていく!」「地鳴のように地面を蹴って!」と訳の分からない説明を熱くぶっ放した末、気が付いたら曲が完成していました。オーケストラの皆さんも楽しかったと思います。音符を追いながら演奏する度に笑い声が出ていました。
 
映像と音楽が合わさったとき、もうひたすら「おいおい!わはははは!」と笑ってもらえればと思って作りました。この10年、自分でも映像を作り、それに音楽を合わせてきました。ずっと試してきたことの集大成みたいなシーンに仕上がって、もう大満足です。
 
 


13:ひふみのまじない
 
個人的に、この曲は細田さんへのプレゼントだと思って作りました(音楽プロデューサーの北原さんはすぐに見抜いていましたが)。
音楽制作チームにとっては、この曲を聴く度に、今回の映画音楽の在り方、原点に戻らされる曲です。
 
子どもの頃は、母が自分の持ち物に何かしら「母の印」(衣服の破れたところにアップリケ、ぞうきんによく分からない絵を刺繍などなど)を入れるたがるのが恥ずかったものですが、思い返すと、あれらは母なりのお守りだったんだなと。母が編んでくれた毛糸のリストバンドは、寒がりの僕の必需品です。
 
 
14:太陽をもった日
 
こんなに突き抜けたあっけらかんとした演奏は初めてです。ひたすら小学生に戻って演奏しました。
 
場面転換、場所の移動に合わせて、一つの曲を大胆に転換させていく試みも初めてで、機嫌よく仕上がりました。後半の弦楽器の演奏は、すべて再弱音で弾いてもらったのですが、強い音の厚みよりも、弱い音の厚みの方が、最終的には大きな膨らみに繋がります。
 
このタイトル、好きです。
彼らのように、太陽をもった日はいつだったろう。
 
 
 
15:すべての暖かいみち
 
この1年、ピアノを弾く度に自分なりに「新しい」と感じてきた旋律と和音の在り方で演奏しました。
とてもシンプルな頭で、ピアノに向かう。難しく考えずに、1つの音の響きの続きを追っていく。きっと、一斉に鳴らすと単純なコードになってしまうような音符を、一つ一つ大切に分けて、大切に活かす。たったこれだけのことで、幾らでも曲が出来そうな気持ちになります。
音符の流れ、形式から入らずに、「響き」から音を奏でること。
数多く存在する旋律の源流を辿っていくと、そこには、ただただ音の波に漂うような世界があるように思います。
山でヤッホーと叫べば、ヤッホーと山が返してくれる。
曲を作る時も、演奏する時も、そんな心持ちでいれたらいいなと思います。
 
 
 
16:秘糸
 
一番苦労した曲です。完成するまでに10個くらい曲を用意しました。
このタイトルをはじめに思い付いていれば、スムーズに辿り着けただろうな。
 
言葉って不思議です。
何かを作り始めると、頭の中に短な単語がたくさん並び出すときがあります。
キーワード「鍵になる言葉」が、たくさんたくさん、やってきます。
そうしてる内に、この言葉がこの音になって、あの言葉はあの音で、という風に自分の中で物語が生まれて、思い切った表現に繋がっていきます。
言葉って制限にも使えますが、ときに大きく飛躍させてくれもします。
 
 
 
17:あなたが編む世界
 
会話のような曲をイメージしました。ひとつの旋律に、ひとつの旋律が答える。
あなたはわたしではないから、自分一人で世界を描いている錯覚に溺れますが、ほんとうは色んなものの想いが重なり合って編み込まれて世界はある。
不格好でも、ほつれても、ちぐはぐでも、自分なりに、色んな人やものの糸を借りて、世界を編んでいけたらいいな。
 
 
 
18:やわらかいまなざし
 
この曲は映画では使われていません。実は、16曲目の「秘糸」と同じシーンに当てようと奏でた曲です。
映画の内容に関わってしまうので細かく書けませんが、「秘糸」とは違う視点からの想いです。
 
 
 
 
19:少年と山
 
ピアノと歌のみのスケッチの状態から、きちんと楽曲に仕上げていく作業に取り掛かったのは、3月の頭でした。
まず、この「少年と山」に取り掛かりました。
 
公式サイトでも観られる「特報3」に当たってる曲です。
 
はじめて、映画に対して「色」を付けていく作業だったので、とても慎重に取り掛かりました。
山の光景を音で作り上げる。
笛の音で小さな虫たちや木漏れ日が騒ぎ出し、チェンバロが青空の光を、フルートと共に鳶が飛び旋回する。小太鼓が少年の胸の高鳴りを讃え、管楽器が岩のように立ち上がり、弦楽器が風を、コーラスが暖かく山となって少年を迎え入れる。
絵を描くように音を作っていきました。
 
中学生の頃に見たブラスバンドを思い出していました。
あのとき、そうであったように「エレキベースを使いたい!」と思いました。
 
当時は、もうほんとうに失礼な話ですが、「ブラスバンドにエレキベース…、なんだかなあ。。管楽器だけの方がかっこいいのに」と思っていたのです。が、いま思い返すと、あのエレキベースの存在が、なんだか清々しくてかっこいい。
中学生の鼓笛隊が、凛と背筋を伸ばして、まっすぐ演奏している。
そんな姿を浮かべて、曲を作りました。
 
ある時期に「かっこわるい」「ださい」と感じて蓋をしてしまった、あれやこれ。
そんな蓋を開けられたこと、蓋の中身を素直に振り返れたこと。
「おおかみこども」の音楽に関われて一番よかったことかもしれません。
 
 


20:あめつちひといぬ

天地、人犬

劇中では使われなかった曲です。
元々はDパートのあるシーンに使われる予定でしたが、映画全体の流れから使わないことになりました。

不思議な音ですが、ピアノなどの音を6つくらい同時にユニゾンで鳴らしています。

普段、「こうである筈」と思っている場所、物事が、全く違って見えるとき。
ぽっかり空いた狭間。




21:あなたはわたしの美しいうた

オーケストレーションを担当してくれた足本憲治さんが、はじめに整えてくれた曲です。
足本さんとは、今回がはじめての出会いだったので、お互いを知るためにも「まずこの曲から」とお願いしました。
続く、23曲目の「雨上がりの家」も、同じく足本さんに「まずはこの曲を」とお願いしていました。

2曲とも重要なシーンにあたる音楽なのに無茶な注文だったと思います。
本来なら、二人の息が完全に合ってきた頃、一番最後のほうに取り掛かりたかった曲でしたが、スケジュールなど色々な不安要素を考慮して、ピアノで大体の構成を伝えた後、足本さんにはエンディングから順番に作業してもらいました。
お陰で、僕は映画の冒頭から順を追って作業することができ、ほんとうに助かりました。

この曲のアレンジと、足本さんが最後に手掛けた3曲目の弦のアレンジを聴き比べると、僕と足本さん、お互いが混じり合っていく様を感じ取って頂けるのではないかと思います。

旋律としては3曲目の「陽だまりの守唄」の展開です。
親の何かしらを、子どもは必ず引き継いでいく。
親がいつか見た光景に、いつしか子どもも辿り着くものです。




22:虹のたてがみ

23曲目の「雨上がりの家」のスケッチをそのまま収録しました。映画では「雨上がりの家」が使われています。
スケッチの多くは、この曲のように思い付いたままのピアノと歌で彩っていました。

このスケッチに関しては、もう10個以上スケッチを送っていた後だったので、随分と落ち着いた状態で録音していました。映画の物語から少しだけ離れて、もう少し全体を見渡しているような、映画からはみ出していくような物語を自分なりに思い描いて演奏していました。

全ての曲を「おかあさん」に合わせて奏でたつもりでしたが、もしかしたら、この曲と15曲目の「すべての暖かいみち」は、「おとうさん」からの眼差しかもしれないなと、いま、ふと思いました。

どこまでものぼっていくような旋律です。



23:雨上がりの家

21曲目と同じく、22曲目の「虹のたてがみ」を元に足本さんが膨らませてくれた曲です。丁度、制作中に足本さんにおめでたい話が舞い降りて、心中大騒ぎだったのではと思います。3分37秒からはじまる、最後の展開部。ここを聴く度、もうなんだか色んな意味で、めでたくて、このタイミングで足本さんと一緒に仕事ができてよかったと感じ入ってしまいます。

演奏してくれた方々はもちろん、音楽プロデューサーの北原さん、オーケストレーションの足本さん、録音/ミックスの田中さんをはじめとする音楽制作スタッフが、1音1音、誠意を込めて形にしました。

家で一人で作曲して演奏して完成させて、、、という流れが多い僕の仕事ですが、今回は大勢の力でしっかり仕上げていく、大きな空間の中で作業することができて、ほんとうに幸せでした。
ひとりひとり遠慮なく、想いの丈をぶつけ合って、楽しく練り上げられたと思います。

すべての作業が終わったときの、あの「あれ、もう終わってしまうの?」という皆の表情、気持ち、、大切にしたいと思います。



24:おかあさんの唄

ここまでの23曲分、映画本編のすべての時間、はみ出した、溢れ出た色んな想い、ぜんぶ、この一曲に入ってます。

細田さんによる、手紙のように素直で透明な、おまじないのように身体に入ってくる、言葉たち。
アン・サリーさんの、なにより言葉を言葉以上に伝えられる、細やかでどっしりした、うたのちから。
足本さんの水の流れのようなアレンジ、徳澤青弦くんたちの力強いアンサンブル、田中さんのやわらかいミックス。

声に出して歌ってみて欲しい曲です。
耳から入ってくる音も楽しいですが、身体から溢れる音も楽しいです。

最後になりましたが、森山千絵さん、宮田佳奈さん(goen°)による、綿毛のようなパッケージデザイン。
みんなの想いを本物のアルバムのように残してくれました。
手に取ると、ほっこりします。





長文、お付き合い頂き、ほんとうにありがとうございます!

高木 正勝





Reply · Report Post