【ローカル線は何故活性化しないのか?】
ここ数年、「ローカル線の活性化」という言葉をよく耳にする。
乗客が減少し、そのまま廃止するのではなく何とか盛り上げて乗客を増やそうという姿勢はいいのだが、残念ながら多くのローカル線は活性化できず廃止になったり、廃止さ

れないまでも多額の血税を投入し延命しているという状態が続いている。
ではなぜ、活性化しないのか?

そもそも「活性化」という定義はなんだろうか?
たしかに赤字のローカル線を突然黒字化するのは不可能であり、ローカル線活性化の成功事例のように語られる「たま駅長」で有名な和歌山電鉄ですら黒字化していない。
しかしたま駅長のおかげで多くの観光客が和歌山に訪れるようになり、地元への経済効果は11億円に達したそうだ。
また、経済効果を語る上で重要なのが「マスコミ報道」である。
例えばひたちなか海浜鉄道でメイドトレインを開催したさいには週刊新潮にモノクログラビア2ページ掲載されている。
週刊新潮にこのページ数、広告掲載すると400万円弱かかる。
その他にも多数のマスコミが報道したが、その報道をCMや広告掲載に換算すると、ざっと数千万円に達する。
これを「宣伝効果」という。
つまり、メイドトレインを運行することで多額の利益にはならなかったとしても、ひたちなか海浜鉄道は数千万円の利益を得たと計算できる。
そして報道をされれば多くの人の目に触れ話題となり、、それを見たマスコミがまた「今話題の~」と報道、それを見た人たちがまた訪れる・・・
さらに話題が広がりテレビや映画、CMの撮影で採用されると全国で放送される宣伝効果も期待できる。
ひたちなか海浜鉄道では開業から4年で4本のCMが撮影されたそうで、繰り返し全国で放送される宣伝効果は「赤字額を超える」と吉田千秋社長も2012年5月2日付け

のブログでコメントしている。
こう言った事を繰り返すことでどんどん話題になり、相乗し、更に多くの人が注目していく・・・
黒字にならなくても地元が賑わったり、大きな話題となった、これが「活性化」ではないだろうか。
そういった視点に立てば、鉄道会社としての単純な収支では赤字であっても、町を支えるインフラとして、あるいは鉄道が町にもたらした経済効果として、またあるいは地域

の宣伝効果として利益があれば、それはその鉄道の存在意義があるといえる。
つまり、「活性化」とは、必ずしも鉄道が黒字にならなくても、大きな話題で有名になり注目を集めたり、その結果鉄道の利用が増えなくても鉄道に関連する何かで観光客が

増えたのなら、それは「活性化」といえるのではないかと考える。
逆の言い方をすると、利益にもならなければ話題にもならない活性化活動は「失敗」だといえるのだ。

活性化出来ないローカル線で特徴的なのは、そういった視点が全くない事だ。
「活性化」「活性化」と騒ぎ立ててみる物の、何が活性化でどこに向かうのか、ビジョンもなければ具体的な目標も無い、机上の空論よりまだ悪い漠然とした夢の状態となっ

ているのである。
具体的な目標もビジョンもないのだから、当然そこに向かう計画もなければ、計画がない以上、軌道がズレていることにも気付かない。
軌道がズレても目標が「活性化」と漠然としすぎたものだから、その目標に向かっているかどうかも分からない。
その結果、いろいろな事をやっても地元ですら話題にならない、せいぜい地元の地方新聞がちょっと取上げる程度、全国区では全く話題にならない、その結末はそんな取り組

みやイベントをしていたことを、沿線の人すら知らないという有様だ。
そのどこが活性化なのだろうか。
残念ながらこういったローカル線は非常に多い。

【ローカル線活性化に必要なもの・・・それはプロデューサー】
私が思うローカル線の活性化で必要なものはズバリ、「プロデューサー」だ。
つまり、プロデュース能力がある人でなくてはローカル線は活性化できない。
具体的には秋元康とか、テリー伊藤とか、構成作家のおちまさととか、そういう類の人である。
ヒットを飛ばす法則性を理解している人たちだ。
しかし残念なことにローカル線の関係者はヒットを飛ばす法則性など理解していませんし、それが必要だという概念すら無いのだ。
そこで社長公募をするものの、選考している人たちがローカル線の関係者や自治体の関係者という、言うなれば今まで活性化に失敗した張本人が選考するがために、どんな斬
新なアイデア、ヒットの法則性を網羅した活性化案が持ち込まれても、それがすばらしいアイデアだということを理解できず、自分達の論理で選考する結果、結局同じような
ことを言う人、する人が選ばれてしまうという現象が生じている。
切り口を変えず、人を替えても、結果は変わらないのだ。

例えば乗客を増やそうとイベント列車を走らせる。
しかし当たり前のことだが、イベント列車を企画しても、イベント列車が走るということを多くの人に知ってもらわなくては、そのイベント列車にお客さんが来ることはあり

ない。
この至極当たり前のことを全く考えていないのが、ローカル線の活性化の特徴の一つである。
ここで一つ大きな誤りが登場する。
それがツイッターやブログなどのインターネットだ。
ある年間数億円という多額の補助を受けているローカル線について、補助している市の議会でも議員から「活性化にどんな取り組みをしているのか」という質疑に、市の担当

者は「ブログなどインターネットの活用」と答えている。
一見答えになっているようですが、私からすると全く答えになっていない。
例えばブログを開設しました。
そのどこが情報発信だろうか?
ブログを作ってもそれを読みに来てくれないと情報発信にならない。
ではどうやって多くの人にそのブログの存在を知ってもらい、多くの人が読みに来るようにするのか・・・
そう言った一連の仕組みが作れて始めて「ブログ」が有効なのであって、ブログを開設すれば後は勝手に情報が広まるわけではないのだ。
ブログを作るのならどうやって読みに来てくれるのかを考えないと意味がない。

多くの人に知ってもらうもっともポピュラーな方法はマスコミを使うことである。
つまり、テレビや新聞、雑誌、最近だとインターネットのニュースサイトで取上げてももらえれば短期間で多くの人に伝達できる。
しかし、マスコミに「イベントやるから報道してください」では、「なんでタダで宣伝してやらないとならないんだ」と蹴られるのがオチ。
報道するには報道するに値する価値や話題性が必要である。
逆に言い方をすると、何の話題性もないローカル線はマスコミが報道するような、マスコミが報道することを意識したイベントを次々と開催すれば、
そういった事を理解し、行動を起こせるものでなければローカル線の活性化はできない。

【失敗する社長公募】
結局、ローカル線は自分達では何も出来ず、社長公募をするのが最近のブーム。
しかし、今まで経営改革が出来なかった人たちが新社長選考した結果どうなっただろうか。
由利高原鉄道は社長就任から半年以上経過したが、沿線にか案山子を立てる(青森県、宮崎県その他多数で実施済み)、サイクルトレイン(一畑電鉄、近江鉄道など二十
社程度が実施済み)、つり革オーナー(山形鉄道、平成筑豊鉄道などで実施済み)、落語列車(山形鉄道、くま川鉄道などて実施済み)と、どれもこれも他社の真似ばかり。
むしろ就任前の方が、車内でエアロビクスを教えてくれるエアロビ列車とか斬新なアイデアが出ていた気すらする。
応募者が全員がこんなアイデアしか出さなかったのかと言えばそうではない。
実は以前、社長公募落選者が集まってトークイベントを開催するとという動きがあり(結局話だけで終わりましたが)、落選者同士で意見交換したことがあったが、色々な
「それゃスゲー」というアイデアが出ていたようだ。
例えばアニメを使うというのもあり、たしかにパクリといえばパクリですが、つり革オーナーよりは余程話題にも収益にもなるだろう。
ですが、選考員がそういう事を理解できないため、結局今までと同じような思考の方が選ばれてしまって結果は何も変わらないという典型的な事例だ。

社長公募では結局選んでいる人たちが、何をして良いのかわからなければ、どういう人を選んでいいのかも分かっていない。
その根拠が、応募要綱である。
応募者は履歴書と論文というケースが殆ど。
ですが、考えて見ましょう、企業が中途採用を行う、すなわち即戦力を求める場合、履歴書と共に必ず提出するのが職務経歴書である。
つまり、どういう会社に勤めていたのかということより、その人はどういう経験があるのか、どういうことが出来るのか、どういうプロジェクトにどういう立場で参加してい
たのかを重要視して採用するため、職務経歴書が重要だということだ。
大手企業でも新卒こそ四年生大学卒業以上というのが応募条件のところが多いが、中途採用は新卒ほど学歴は問われない。
即戦力を求めて採用する場合は、学歴より何が出来るのという職務無経歴の方が重要視されるわけだ
しかし、社長公募は職務経歴書を求める事は殆ど無い。
つまり、肩書きだけで採用しているケースが多い証拠なのだ。
いすみ鉄道の社長も、面接のときに採用プランを披露しようとしたら面接官に拒否されたみたいな事を過去に言っている。
それでもああいったパワーがある方が採用されたのなら良いが、肩書きはあるものの結局何も出来ないでいる方が半数くらいではないだろうかか?
たしかに由利高原鉄道は「実績のわかる物」といのが応募要綱にあったが、何が実績かを審査員が査定できないため、何の話題性も作れない人が採用されてしまったわけ
だ。

おそらく由利高原鉄道の審査員は、元旅行会社の人だから旅行会社とコネがあってツアーを沢山されてきてくれるという安易なEXEが起動したのではないだろうか?
しかし実態は、古巣のトップツアー(元東急観光)とのコネクションは全く生きていない。
もし強力なコネクションがあるのなら、就任後、トップツアーがご祝儀でツアーを組んで送り込んできて、「ほら、今度の社長は凄いんだぞ」とやってもいいはず。
しかし実態は、半年以上経過してトップツアーとライバルの日本旅行がツアーを企画してしまう現状す。
つまり、トップツアーのコネクションは全く生かされていないということなのだ。

【斬新なアイデアってなに?】
ところで、「斬新なアイデア」ってなんだろうか?
斬新なアイデアは何も白紙から出来上がるわけではなく、何かをヒントにアレンジする、このアレンジの斬新さだ。
例えばiPhone、個々の機能を列記するとその多くが今まで世にあったもの。
携帯音楽プレーヤー・・・ウォークマンは昔からありました、別に斬新ではない。
タッチパネル・・・昔からATMで採用済み。
でも、それを電話と合体させましたということが斬新なわけだ。
例えば私がプロデュースしているメイドトレインもヒントはJR北海道のSLすずらん号です。
すずらん号に乗ったとき、ここのカフェカーのウエイトレスが昔のウエイトレスの格好をしていたのを見て、強い衝撃を受けたのが発端。
当時はまだメイド喫茶なんてものはなかったが、十数年後、メイド喫茶ブームが到来し、「電車の中でメイド喫茶をやります」と言ったところ、海外でも報道されるほどの話

題になった。
つまり、アイデアなんてパクリで良いのだ。
けど、それをいかにアレンジするのかが手腕だといえる。
例えば車内で駅弁を売りましたなんて、「だからどうしたたんだよ」って言うくらい話題にならない当たり前の話。
けど、「ローカル線の活性化のために秋葉原のメイドさんが車内でメイド喫茶をオープンしました」となれば、「なんじゃそりゃー」となって報道されるわけだ。
先に記載した「マスコミ報道」を意識したわけだ。
ありきたりのことにちょっとしたアレンジを付け加えるだけで、斬新な発想になるわけです。
同じ事を山形鉄道の野村社長も言っている。
http://keiei-online.jp/seminar/succession/post_192.html
この中で、マスコミに取上げられる法則を野村社長は解説している通りだ。
由利高原鉄道の春田社長は就任前に山形鉄道を研究されたそうですが、残念ながらそういう肝心の事を何も理解されていないと感じる。
だから単なる真似にしかならないわけだ。
なんの捻りもない二番煎じをマスコミは報道しない。
その結果、何の話題にもならず、結果何の活性化にもならないわけだ。

【プロデューサーに必要な仕組みづくりの能力】
プロデューサーとして必要なのは、どうやって物事をブームにした後、集客に繋げられるかという仕組みを作れるかの能力だ。
その顕著な失敗例もまた秋田県で見ることが出来る。
秋田県は「パブリシティー獲得事業」と称し、赤字で血税投入しているというのに更に300万円近い血税を投じ「マスコミに取上げてもらう事業」なんてやっている。
http://www.pref.akita.lg.jp/www/contents/1306739829625/index.html
このかいあって確かに一時期、秋田内陸縦貫鉄道や由利高原鉄道はマスコミに取上げられた。
しかし、さほどの話題も集客にもなっていないように感じる。
それの原因は、思い付きでこういう事を次々にやっても、「プロデュース」という概念が全く無いからだと言える。
例えば、テレビで取上げられましたと。
その番組を観た人は、どうしますか?
実はこんな単純なことすら、全く考えていないのだ。
注目を集めても、集客に繋がらない理由がここだ。
今時なら、パソコンやスマホを片手にテレビを見ている人が非常に多いご時世、そこまで行かなくても興味を持った方は直ぐにネットで調べるという時代。
そしてまずは公式ページに多くの人が訪れるだろう。
ならば、そこに皆さんが興味を持ってくれる情報ページを作っておくべきなのだ。
トップページにはキービジュアルとなる象徴的な写真が大きく掲載されていて、各案内ページには色々な観光案内、沿線情報などなどを掲載しておくべきだ。
それで興味を持ってくれたら次にそのお客様はどうするのか?
最近はプログやツイッターでもガンガン取上げてくれる。
ではその時にどうやって拡散するのか?
そういうことをこと細かく検討し決定し、そして実行できる、そういう能力がある「プロデューサー」が必要なのだ。

しかし、秋田の2路線はじめ多くの活性化できない路線は社長公募してもそれが出来ていない。
見ていると「テレビに出た」→「乗客誘致だ、活性化だ」と、実に短絡的で、何がどうなって「→」が成立しているのか全く不明だ。
テレビに出たら後は勝手にお客さんが来てくれるんだと言う、とんだ論理の飛躍現象がおきている。
だから、マスコミにガンガン取上げさせておいて、せっかくホームページに来てくれても、行きたいと思える情報も無ければ、話題にする情報もないという現象が起きるのだ


また、少し出ている観光案内も酷いもので「○○駅下車、車で30分」とか平気で書いている。
「鉄道を利用しましょう」と言っているのに、移動手段が無い観光客に「駅降りたら車で行け」とは論理的に滅茶苦茶だ。
でもこういうことを平気で連発しているのがローカル線の活性化策だ。
たしかに移動手段がそれしかないという事情もあるかもしれない。
それなら、せめて「駅で乗車時、もしくは運転士にお申し付けいただければ下車したときにタクシーが到着しています」としていれば、まだ親切。
そこに料金も「約5000円です」と書いてあれば、一人で行くには高いと思っても、3人くらいのグループなら、「行ってみようか」と思える金額だ。
いくらかかるかも分からない所なんて恐くていけない。
マスコミに金ばら撒いてテレビに取上げさせても、そういうお客様が「行ってみたい」と思える仕組み、行きやすい仕組みづくりを全くしていないから、話題性にも集客にも
繋がらないわけだ。
お客様がまず求めているのは「ようこそ」なんて看板や、沿線から手を降ってくれることではなく、まずは的確な情報である。
駅を降りてから観光地までスムーズかつ安価に移動できる、そういった仕組みが「おもてなし」ではないのか。


【ダメな情報発信の典型「インターネット」】
最近多い、「ブログで情報発信」、最近だと「Facebookで情報発信」もダメな情報発信の典型に感じる。
それはなぜか?
ブログというのは書いた情報がどんどん下に下がっていくという特徴がある。
例えば、毎年開催されるお祭りのレポートをブログに掲載しましたと。
ではその情報が必要とされるのはいつだろうか?
翌年、そのお祭りに来ようとする人たちが情報を欲しがる一年後である。
しかし、一年後にはそのレポートははるか下の方に埋まっている。
そんな埋まった情報に気付かない。
こうかくと「googleとかで検索すればいいじゃないか」という人がいる。
だが、ホームページのトップに「昨年のレポートのこちら」とあるのと、「お前が自力で探せ」という情報はお客様にとってどちらが親切だろうか?
まして、ちょっとテレビで見て興味を持ったという程度の人が必死になって探してなんてくれない。
つまり、ここでお客様を落としているわけだ。

こういったことを考えて、どうすればマスコミが報道してくれるか、マスコミをつかわないまでも、どうすれば話題になって浸透するか、そして興味を持った人にどうやって

情報展開すれば集客に繋がるの、そういう仕組みづくりができる人プロデューサーがローカル線の活性化には必要だ。
マスコミが取上げたら後は勝手にお客さんが来るなんて事ではなく、報道はあくまできっかけで、それで興味を持ってくれた人にどうやって乗ってもらうのかという仕組みを
作らなくては、いくらマスコミに取上げられても「テレビに出たぁ!」という素人反応で終わってしまうのです。
そういう発想がまるで無いため、多額の費用を使ってCMまで放送して「内陸線(検索)クリック」なんて、ホームページにお客様を集めておいて、ホームページにロクな情
報が無いという状況が発生するのだ。
プロデュースを全くしないで思い付きでやっている象徴だ。

マスコミに取上げられたら後は勝手にお客が来てくれると思い込んでいるから、先にネットの情報を充実させるとか何もしていない。
ブログを毎日更新して情報発信している気になっているのかもしれないが、どうすればお客様はその情報にたどり着くのかを全く考えないで更新し続けているため、必要なと

きに必要な情報が出ておらず、多くのお客様を落としてしまうのだ。
さしずめ秋田県は300万円も払って広告代理店に頼めば後は全部やってくれると言う妄想でもあるだろう。
しかし、選ばれた広告代理店が受託したのはあくまでマスコミに取上げてもらうという事業。
逆の言い方をすれば、マスコミに取上げられた後の事は契約外なので「しらねーよ」で良いのだ。
多くの人がテレビを見てホームページに訪れても、何の情報も無くて誰も乗りに来てくれなくても、それは契約外の話なので広告代理店に責任は無い。
つまり、仮に300万円払ってそういう事業をしたとしても、その前にホームページに充実した充実した情報を掲載しておくべきなのだ。
そういったことがまったく分からないまま、次々とお金を使っても血税をドブに捨てているだけにしかならないのだ。

このパブリシティー獲得事業は、わからない人間が選考して失敗した象徴と言える。
その理由がこちらにある選考得点票だ。
http://www.pref.akita.lg.jp/www/contents/1306739829625/files/kekka.pdf
一見するとまともな採点をしているように見えるが、この中でどうやって話題性を作れるかという部分については全く触れられていないのが特徴的だ。
つまり、肝心のことは全く評価されず、どうでもいい所ばかり採点されているのがよくわかる。
分からない人が選考している典型事例です。
全体を統括できるプロデューサーがいないまま、次々と思い付きで何かを始めた結末と言える。

【プロデューサーに必要なセンス】
一年ほど前にツイッターでこういうツイートをしたら8000件以上リツイートされて話題となり、いまだたまにリツイートを繰り返されているツイートがある。
「女子大生が夜キャバクラでアルバイトしていると聞くとふしだらに聞こえるけど、キャバクラ嬢が昼は大学で学んでいると聞くと真面目に聞こえる」と。
同じ事柄を表現しているのに、物の言い方一つで真逆に受取られる典型的な事例だ。
似たような事をいすみ鉄道の鳥塚社長も言っている。
「部外者の目で見なさい」と。
そしてこのようなことも言っている。
「次の列車まで1時間待ちですと言えば『なんだよ、そんなに少ないのかよ』となってしまう。それを『街を探索するには丁度いい時間です、こんな所があります』と案内す
れば楽しいひと時になる」と。
似たような経験が自分にある。
小湊鉄道の養老渓谷駅前に食堂があり、「おむすびあります」と書かれていたので買いに行ったら・・・20分くらい待たされた。
お客さんは私しかいないのに。
それ普通に考えると「おむすび2個に20分かかるってどういうことだ!」と思いますが、「コンビニでは味わえない、20分もかかって作る手作りおむすび」と言えば、な
んだかとっても価値があっておいしそうに聞こえます。
そういう視点やセンスが公募社長には必要だ。
つまり、雑草一つにも価値を見出し、そして大騒ぎ出来るセンスが必要なのだ。

しかし、由利高原鉄道はどうだろう。
国鉄時代からある旧矢島駅の駅舎、私には「なんと言う文化遺産だ」と見えたのに、社長就任後潰してしまった。
私には正気の沙汰とは思えない出来事だ。
そういうものを生かしていくというセンスが無いと、ただの古い建物にしか写らず、廃棄物にしかならない。
もちろん耐震強化工事とかに費用がかかるという問題もあるだろう。
しかし4億かけて新車両3両入れるなら、その予算で2両キハ58入れて国鉄を再現した方が余程話題になるのではないだろうか?
駅舎もいくつも建て替えるのに数千万円はかかったはず、お金が無かったわけでは決して無い。
(補助金をそういう利用できるのかという問題もありますが)
「魅力」「魅力」と言うが、魅力ってなんだろうか?
魅力がいくらあっても、これでは魅力を生かすことも出来なければ、魅力を伝えることも出来ない。
もちろん何を魅力とかじるのかは人それぞれとは言え、魅力なんてものは金をかけて作り出せばいいというものではない。
和歌山電鉄のたま駅長も、そこらにいたただの野良猫。
ひたちなか海浜鉄道は、新車両を入れるお金がない事を逆手に取り、レトロ路線で売り出した。
「使える物は親でも使う」これくらいの感覚と、「雑草一つに大騒ぎできる」能力が無いと、ローカル線の再生は不可能なのだ。
どこのローカル線にもかならず魅力はある。
その魅力を生かして活性化するのが公募社長に託された使命のはず。
下手すれば保健所に連れて行かれて殺処分されてしまう野良猫ですら「これはスゲーー!!!!」思えるセンスがない人にかかってしまうと、貴重な文化遺産すらも潰されて
ゴミになってしまうのだ。
そんな人がローカル線の再生を出来るのだろうか?
結果は見ての通りだ。

【物を売る法則】
「人が物を購入する」
一見何ということはない、当たり前に日常行われている行為だが、これを論理的に考えたことはあるだろうか?
それを論理的に考えた事がない人はローカル線の再生は不可能だ。
社長公募で成功したところはその法則を理解しているか、理解していなくても感覚的に持ち合わせていた人だと感じる。

例えば、「缶コーヒーを買う」
では、多くの種類の缶コーヒーが出ている中で、何を選ぶだろうか?
もちろん甘い物が好きな人、無糖が好きな人など人それぞれですが、例えばカフェオレ好きの人は下記のケースだとどちらが選ぶだろう。

1.BOSS カフェオレ
2.貴族館テイスト カフェオレ

自動販売機ビジネスの鉄則がある。
それは無名メーカーの安いコーヒーより、有名メーカーの高いコーヒーの方が圧倒的に売れるという法則だ。
それは人間の心理として、自分の知らない物は信用しないという法則があるからだ。
これがブランド戦略である。

ローカル線の再生にも同じ事が言える。
ローカル線は活性化だと次々とイベントを開催したり、ツアーを組んだりするが、順序が逆だ。
いくらそんなことを続けても、そもそもそういうことをやっていることが知られないと人は来ないし、「行ってみたい」と思えるブランドが無い、つまりどこにあってそ
こがなんなのかわからないようなところに観光客など来ない。
つまり、斬新なアイデアでイベントをやるということより、まずはその沿線のブランド価値を高めることが先なのだ。
そしそれをプロモーションして多くの人に知ってもらって初めて「集客」になるのだ。
これらのプロジェクトがきっちりとかみあって初めて一つのプロジェクトが完結するのである。

この失敗例もまた秋田内陸縦貫鉄道で見る事が出来る。
http://blog.livedoor.jp/nairikutetu/archives/50711771.html
前社長の若杉氏が、地元の方と開催した討論会の席上でも、地元の方から色々なイベントをやっている事など知らなかったといわれている通りだ。
こういったプロジェクト遂行能力が無い方が、次々と思い付きでいろいろな事をやっても、全く効果も意味も無いという典型事例だ。

【ローカル線活性化の真の改革に最も必要アクションは?】
例えば子供の頃から可愛がってくれたおばぁちゃんが癌になったとする。
皆さんはどうするだろうか?
これを読んでいる人の中で、台所から包丁もってきて、おばぁちゃんを手術してあげるという人がいるだろうか?
そんな人普通は居ない、癌の手術が出来る病院に連れて行くだろう。
出来ることなら、その分野に名医に診て欲しいと思うのが普通のことだ。
それはつまり専門家に任せるということだ。
しかし、ローカル線の活性化はまるで、家でおばぁちゃんを手術するように事を始めてしまう。
それを鉄道の活性化に当てはめると、乗客誘致やプロモーションの知識を全く持たない言わば素人が、台所から包丁持ってきて手術するようなことを始めてしまうのだ。
それじゃー助かるどころか、殺してしまう。
これが赤字ローカル線でよくあるパターンなのだ。
いくら何とかしたい、助けたいという思いが強くても、助けるためのテクニックが無いと、助けることなど出来ないのだ。

つまり、ローカル線の活性化で最も必要なことは、根底からの意識の改革だ。
具体的に言うと、「自分達のやってきたこと、自分達の考えは間違っていた」というのと、「自分達は多額の税金を使っている」と言う認識だ。
JALの再生に入った稲盛 和夫さんも「今の日本航空は八百屋も経営できない」と言い放った。
そして経営破たんしたというのに、社内では「潰れた会社」という意識はまるでなく、コスト意識もなかったと言う。
そこで稲盛さんは、社員の意識改革を徹底的に進めたそうだ。

その意識改革で成功した鉄道会社がある。
西武鉄道だ。
取引先なので私の口から言うのもなんだが、西武鉄道は数年前には証券不祥事を発端に、東証一部上場を取上げられ、同時に様々なスキャンダルが噴出した時期がある。
しかしそれを経験したからだろうか、西武鉄道は「変わらなくてはならない」という意識を物凄く強烈に感じる。
もちろん、安全、定時運行という鉄道の根幹にかかわる部分は絶対に譲ってくれないが、逆に言えばそれが担保されるのなら、どんなことでも「どうすればそれが出来るか?」

という方向から考える。
私のプロデュースで運行しているメイドトレインも、「ホームに入るときにメイドの娘が車内に乗ってくるという演出をしたい」と申し出たところ、数駅手前でメイドを乗せ

るためにわざわざ列車をを止る、そんなことまでしてくれる。
「変わらなくてはならない」という意識だからこそ、他の大手鉄道会社では絶対に出来ない、やらないこともやらないくてならない、いやむしろ他がやらないからこそ、うち

がやるんだという意識が物凄い強烈に感じる。
そして次々と色々な施策を打ち、面白いことを続けている。
これらはやはり、「変わっていかなくてはならない」という意識改革の成功例だと感じる。

要するに、「ローカル線活性化の真の改革に最も必要アクション」は、社員の意識改革だ。
形を変えても、やる人間を変えても、意識が変わらないと何も変わらない。
そして意識改革をせず、社長公募しても、今までと同じような人しか選考されず、結果として何も変わらないと言う現象が生じる。

【最後に】
巨額の赤字を抱えるローカル線を黒字にすることは殆どの場合、無理だろう。
もちろん沿線に大規模宅地開発や、商業施設などを次々と作り集客するという方法が無いわけではないが、それはあまりにも費用がかかり、リスクも多すぎる。
バブル経済のときはそういったことを散々やって、巨額の赤字を抱えたところも多数あるので、その方法はリスクが大きすぎる。
しかし、公共インフラと考えれば、ある程度ローカル線が赤字を抱えることは町を維持する必要経費だと言える。
消防署が赤字だからと(極小規模なケースは別として)消防署を廃止するとかありえない論議だ。
赤字でも、インフラとして必要なら、維持する価値はある。
そう考えるとローカル線は赤字でも良いのだ。
問題は、それを多くの住民が容認できるのかという事である。
それは、お客を増やして黒字にするという方法ではなく、多くの住民が「赤字だっていいじゃないか、みんなのためなんだから」と言う方向にしていくのも、ローカル線存続
の一つの方向だと言える。
その実例はひたちなか海浜鉄道で、未だ赤字は赤字だが、吉田社長の経営手腕で色々な背策を打ち出し、次々とマスコミに取上げられ、ドラマの撮影やCMの撮影なども多
数行われ、有名タレントもやってくるようになった結果、はじめは「税金まで使って残す必要あるのか」という批判もあった中、今では街のシンボルとなり、住民の見方も変
わったと言う。
以前は「ひたちなかに住んでいる」と言われても、「日立?家電メーカー?」程度にしか言われなかったのに、「この間テレビで見たよ!、レトロ電車のところでしょ」と言
われるとうれしくなる物だ。
そういうことを繰り返していくのが活性化であり、そうすることで住民も「赤字でもいいじゃないか」となっていくのだ。
こういったことを全く理解していない公募社長を選んでしまった路線は実に悲劇の方向に向かっている。
そして、社長公募していたことすらも忘れられているようなところが半数近くではないか?

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