大坪・佐賀氏犯人隠避事件判決公判傍聴記

まず、呆れたのが、判決文を読む裁判長の声が小声で早口で殆ど聞き取れないこと。私は特に耳が悪いわけではないので、おそらく、最前列の記者席でも殆ど聞き取れなかったはずだ。傍聴席に聞こえない判決の言い渡しというのは、「公開の法廷での判決」と言えるのか。これが記者会見であれば、「聞こえませーん」という罵声が飛ぶはずだが、法廷での裁判長に対しては、記者から文句を言う声は全くが出ない。
要するに、判決は被告人・弁護人に聞かせるもので、記者も含めて傍聴人は、恩恵として傍聴席で見せてやっているだけ、ということか。

さて、聞き取りにくい中で聞いた判決だが、主文は、執行猶予付の有罪。検察・弁護側の主張、争点、公判経過からはこういう結果になるだろうとは思っていた。被告人二人が、前田検事(当時)の故意の証拠改ざんを認識していたかどうか、隠蔽の意図があったかどうかについての判示が延々と続く。最も重要な問題は、昨年2月に出した「組織の思考が止まるとき」(毎日新聞社)でも書いたように、本件が犯人隠避に当たるかどうか、という法律問題だ。私は、両氏が故意の改ざんであるかどうかについて、認識していたことと違う報告を上司にしていたとしても、それは、組織内における報告手続の問題で、それが、刑事事件の犯人を逮捕する義務に反したということには当たらないという見方だが、弁護側の主著は、殆どが改竄の認識を否定することにばかり力点が置かれた。そうなると、検察側は、現職検事を何人も証人に立てて、故意の改ざんの認識があったことを立証することになる。裁判所としては、多数の現職検事が偽証していたことの認定はしにくいはずだ。。
判決では、犯人隠避の成立については、簡単な理由で認めた。しかし、そのことは、別の面で大きな意味を持つことになる。
判決の量刑理由の中で、「特捜幹部であった被告人達は、部下の犯罪を認識したら、ただちに捜査して、刑事事件として立件すべきだった」というような明確に述べていた。
しかも、執行猶予にした理由、すまり、被告人に有利な情状として、本件は、被告人ら個人的な動機で行った行為というより、特捜検察の体質、検察の組織の問題が表れたもので、個人だけを責められないというようなことも言っていた。
検察は、これまで、都合の悪い証拠は、できるだけ非開示にし、都合の悪い身内の不祥事はできるだけ表に出ないようにする、という組織文化を守り続けてきた。今回の判決は、「身内の犯罪」をみつけたら、自ら捜査して刑事事件として立件せよ、という姿勢に転換することを検察に求めたのだ。
この判断を前提にすれば、陸山会事件での田代検事の虚偽公文書作成の事件の捜査に対しても、検察が消極的姿勢で臨むことは「犯罪」だということになる。しかも、その捜査は、特捜部長、副部長という個人レベルの問題だけにとどめるのではなく、組織的背景にも踏み込んで捜査すし事実解明をする必要がある、ということなのだ。
今回の「聞き取りにくい判決」はの中身は検察にとって相当重いものだ。

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