今日の東京新聞こちら特報部 【脱原発のココロ 藤波 心さん】#genpatu

【脱原発のココロ『中学生アイドル 藤波 心さん(15)』】

ストレートの髪を腰近くまで伸ばし、愛くるしい表情。おしゃれな今どきのミニスカート姿はアキバの萌え系を思わせる。街ですれ違ったら、普通の中学生なのだろうが、ひとたび原発について語りだすと、ハキハキとよどみなく質問に答える。
15歳のの中学生アイドル藤波心は昨年、反原発や脱原発のイベントに引っ張りだことなり、一躍脚光を浴びた。子役やグラビアアイドル歴は長いが、無名に近かった。その藤波の環境を一変させたのが、昨年3月11日の東京電力福島第一原発事故だった。

《危機感語ったブログ炎上》

普段は兵庫県内の公立中学校に通うが、テレビのニュースで、原発の安全性を繰り返すことに疑問を持った。重大な事故にもかかわらず、同級生が「震災や原発事故の報道ばかりでつまらない。早くバラエティーやドラマを見たい」と不満を口にしたことに衝撃を受けた。自分は毎日、放射能の不安におびえながらニュースを見てるのに。「とんでもないことが起きてるのに、これでいいのかな」
3月23日、自身のブログに「避難覚悟で…」と題して高まる危機感と違和感つづった。
~原子力 それはまさにパンドラの箱です。檻から解き放たれた猛獣…。
いつ襲いかかるかわからない猛獣と同居できるほど私は神経太くない…。あなたはそれでも、便利と引き換えにこれからも、パンドラの箱を開きつづけますか??? ~

反響はすさまじかった。3月末までに書き込みは14000件以上に上った。賛同のコメントもあったが、「非国民」「ガキのくせに」といった心ない中傷も少なくなかった。関西にある小さな所属事務所にはファクスが殺到し、右翼を名乗る男が質問状を持って訪れた。同業者からは「どうせ売名行為だろう」と言われた。

《友人からも距離置かれ》

ファンには「アイドルは水着を着てニコニコ笑っていればいいんだ」と言われた。友人からも「そんなことを言う人だとは思わなかった」と腫れ物に触るように接された。「疑問を口にすることも許されないの」。アイドルを辞めることになるかもしれない。不安にさいなまれ、一時は引きこもり状態になった。悩んでいるうち、ソフトバンク社長の孫正義や音楽家・坂本龍一らがコメントに賛意を示した。著名人や文化人からメッセージ入りの本がたくさん届いた。母親には「自分の思った通りにやりなさい」と背中を押された。話したことない同級生に「頑張ってね」と言われたこともあった。著名人と身近な人、両方に励まされ、藤波は徐々に立ち直っていった。
吹っ切れた藤波は、5月7日、東京・渋谷のデモに参加したのを皮切りに昨年末までに30回近い反・脱原発のイベントに参加した。関西から東京へ通うための交通費を自分で持つこともある。ブログの内容をまとめた本の印税と貯金は、そのために使ってしまった。
今年3月には高校受験を控え、平日は学校と塾に通い、週末はイベントや取材の合間に勉強する。中学生にはタフな生活だが音を上げることはない。「(原発について語ることは)生きるか死ぬかの問題だから、しんどいと思う暇なんてない」

《一人一人が声上げて》

昨年6月11日の東京・新宿であったデモイベント。藤波は脱原発を訴える女子中学生アイドルグループ「制服向上委員会」とともにゲストとして参加した。学生運動の経験者ら年配者が多かった反・脱原発のイベントに十代の女子中高生が加わり、新鮮な空気を吹き込んだ。
マイクを手にし、集まった聴衆を前に語りかけた。
「広島、長崎と放射能の被害を受けた日本が、また放射能の被害に遭っています。おいしい野菜や魚を食べ、安心して暮らせる日本でいてほしい。一人一人が声を上げてください」
続けて、放射能に汚染された被災地を美しい土地に戻してほしいとの思いを込め、唱歌「故郷」を歌った。透明感のある声が会場にこだまする。一緒になって口ずさむ女性、涙を流す年配の人の姿もあった。
12月11日には、横浜市開港記念会館で行われた集会で、科学技術の限界について訴えた。「科学が発達して、人類が何でもコントロールできると思ったら大間違いです。地震の多い国に原発をつくるというのも、自然をばかにした人類のおごりだと思います」
藤波の相次ぐイベントの参加要請に、所属事務所の社長でマネージャー務める清水雅史(41)は「反・脱原発の活動の中では突出した年少者ということでオファーをいただいてると思う」と語る。「しっかりした子だから」と藤波にブログの書き込みを指導したこともない。

《健康でいられる幸せ かみしめ》

藤波の精力的な活動の原動力には、母親の影響がある。母親は、十代で原因不明の大腿骨骨頭壊死となり、下半身に障害が残った。藤波は、命の危険を伴いながら産んだ一人娘だ。
病気の原因がわからないため、娘も発病するかもしれないと、健康には人一倍気を使って育てられた。インスタント食品やファーストフードはほとんど口にしていない。「原発事故に反応したのは、放射能をまき散らして健康を脅かすということが許せなかったのかもしれない」と、ブログを書いたもう一つの理由を話す。
母親は、自身が病気で青春時代を謳歌できなかったという後悔があり、
藤波は「健康なうちに好きなことを一生懸命やりなさい」と小さいころから繰り返し言われた。勉強もアイドル活動も手を抜くと叱られた。「健康な体でいられることの幸せ」をかみしめ、自らを奮い立たせる。
希望する高校に進学できたら、同級生とも原発について話したいと思っている。小中学校の教科書に原発の危険性は書いておらず、授業で教えてもらったこともない。同級生たちは、あまりに無関心だと感じる。これから放射能の災禍と向き合っていくのは自分たちなのに…。
脱原発デモや今月14、15日に横浜で開かれた「脱原発世界会議」では高校生を含む若者の姿が目立つようになった。彼ら彼女らに“等身大”の自分を見て、勇気づけられる。

《感じたこと 素直に発言》

今でも「大人たちに利用されている」との心ない批判が寄せられる。「今はそれでいい」と思っている。自分が素直に思ったことを人前で発言することが「少しでも多くの人に原発のことを考え、議論してもらうきっかけになる」と信じているから。
(敬称略、宮畑譲)

ふじなみ・こころ
1996年、兵庫県生まれ。子ども服のモデルをきっかけに小学1年生で芸能活動を始める。以後、グラビアや東京・秋葉原を舞台にアイドル活動をしている。著書にブログの内容をまとめた「間違ってますか?私だけですか?14才のココロ」(徳間書店)がある。兵庫県姫路市在住。

【デスクメモ】
「B級アイドル」を自称する藤波さんは、TPP問題についても積極的に発言している。ブログに書き込まれた批判のコメントも消さずに載せる。現在の日本の姿をそのまま残しておきたいからだそうだ。立ち直った藤波さんは強い。十代の少女をネットでたたく大人の方が、よっぽどひきょうで弱い。(国)

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