『FTA全て結ぶと 貿易額の8割超 南北格差化拡大も』|日本農業新聞1月9日

 経済連携協定(EPA)などを含め政府が交渉・検討している自由貿易協定(FTA)が全て発効した場合、日本の全貿易額に占めるFTA締結国との貿易額の割合(FTAカバー率)が83.1%になることが分かった。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加を含めFTAに前のめりな日本の姿勢に刺激され、他の主要国・地域の動きも加速。世界貿易機関(WTO)交渉が行き詰まる中で、経済規模が小さく貿易相手としては軽視されがちな開発途上国が取り残され、先進国との経済格差の拡大を招く恐れがありそうだ。(千本木啓文)

 日本のFTAカバー率は現在18.4%で、韓国などに比べ低い。農業の重要品目への配慮や、全加盟国を同等に扱うWTOの「無差別原則」を経済大国間のFTAは揺るがしかねないことから、これまで慎重に検討してきたことが背景にある。

 仮に交渉・検討中のFTAが全て発効すればFTAカバー率が大きく上昇するのは、TPP交渉の米国、また今年前半にも交渉が始まる中国・欧州連合(EU)のいずれも日本との貿易額が大きいためだ。

 FTAは締結国間以外の国を貿易条件で差別する。世界3位の経済大国の日本が主要国・地域とFTAを結べば、それ以外の国に与える影響が大きい。

 野田佳彦首相が昨年11月、TPP交渉参加に向け関係国との協議を始める方針を表明した直後、米国とEUの首脳らが両国・地域の貿易自由化について今年6月までに研究をまとめることで合意するなど「EUや中国などが(FTAに)積極姿勢に転じている」(政府関係者)という。

 昨年12月のWTO定期閣僚会議では、貿易を通じた途上国の開発を目指すドーハ・ラウンド(多角的貿易交渉)の行き詰まりが明確になった。その上、極端な貿易自由化を目指すTPPのような協定が拡大すれば、最貧国である後発途上国はもちろん、タイやインドネシアといった開発が進んだ国も、不利益を受ける可能性が指摘されている。

 東京大学大学院の鈴木宣弘教授は「日本は当面、農業規模で共通性があるアジアの広域FTAで、途上国を排除しない緩やかなルールを作り、農業の多面的機能や富の公平な分配を考慮した貿易ルールの確立をWTOで目指すべきだ」と指摘する。

◆日本が交渉・検討中のFTA・EPAなどが全て発効した場合のFTAカバー率(%)

すでに締結した国・地域 カバー率
ASEAN          14.6
インド           1.0
メキシコ          0.9
チリ            0.7
ペルー           0.2
スイス           1.0
小計           18.4
        +
交渉・検討中  状況  カバー率
オーストラリア 交渉中   4.2
サウジアラビアなど湾岸協力理事会
        交渉中   8.4
EU       予備交渉中 10.5
中国(日中韓FTA)共同研究終了20.7
韓国(日中韓FTA)共同研究終了 6.2
モンゴル     共同研究終了 0.01
カナダ      共同研究終了へ1.4
コロンビア    共同研究開始へ0.1
※TPP交渉参加国 交渉参加を検討※13.2
小計            64.71
        ||
合計            83.1
(2010年財務省貿易統計から作成)

※交渉参加9カ国から、日本がFTA締結・交渉中の7カ国を除く米国とニュージーランド2カ国の合計

FTAカバー率=全貿易額に占めるFTA・EPAなどの締結国との貿易額の割合

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