宗教を重視しないのに自殺禁止規範の強い国は、かえって自殺死亡率が高い



 厚生労働省の「諸外国の自殺死亡率」 http://p.tl/I5WA を見ていて、ふと宗教の関係が気になった。

 国際比較であげられている国を、世界価値観調査のオンラインデータ分析 http://p.tl/vaPU で詳しく調べてみた。厚生労働省の出している国際比較が1999年だったので、それに近い年のデータを選択した。「自殺の正当化」(V207)の「絶対正当化されない」の数字と「人生において重要:宗教」(V9)の「とても重要」の数字を国別にまとめてみた。

グラフ 自殺死亡率と規範 http://t.co/3nFAZX1Q

 このグラフは宗教の重要度の順に国を並べたものである。他にも色々な角度からグラフを作った。そして相関があるのかどうかずっと眺めていて、あることに気が付いた。

 もしかして宗教を重視する国とそうでない国とでは、自殺禁止規範と自殺死亡率との間に、異なる相関があるのではないか。このグラフで言うと、オーストラリアから右の宗教重視国では、自殺禁止規範と自殺死亡率が負の相関、ハンガリー(死亡率世界一位)から左の宗教非重視国では正の相関があるのではないか。

 そこで、宗教重視国と宗教非重視国とに分けてグラフを書き、禁止規範と死亡率の相関を出してみた。

グラフ 宗教重視国における自殺禁止規範と自殺死亡率 http://t.co/ZbLVs5jT

 一目瞭然である。相関係数は-0.94で高い負の相関である。つまり、宗教重視国のグループでは、自殺を正当化しないと答える人の割合が高い国ほど、自殺死亡率は低いという傾向である。

次に宗教非重視国のグループではどうか。

グラフ 宗教非重視国における自殺禁止規範と自殺死亡率 http://t.co/eVceDEYk

 こちらでは相関係数は0.74で正の相関を示した。つまり、宗教非重視国のグループでは、自殺を正当化しないと答える人の割合が高い国ほど、自殺死亡率は高くなるのである。

 つまり、宗教の世俗化が進んだ国で、それなのに自殺を禁止する傾向が高い国は、自殺死亡率は高い。これは国別の話なので、大ざっぱすぎる。個人別で見たらどうか。

 そこで、新しいデータで、宗教を重視する人が最も多いアメリカと、最も少ない(最低のドイツとほとんど変わらない)日本とで、どういう傾向があるか調べてみる。すると、かなりはっきりした傾向が見えてきた。

グラフ 日本2005年とアメリカ2006年の宗教の重要性と「自殺は絶対正当化されない」率 http://t.co/W5qrMIff

 あまりにも一目瞭然である。アメリカでは、宗教を重視する人ほど、自殺を絶対正当化しないと答える。当たり前である。ところが、日本では、宗教を重視しない人ほど、自殺を絶対正当化しないと答える。逆に、宗教を重視する人は、自殺を絶対正当化しないと答える人が少ない。アメリカは宗教的根拠から自殺に反対する。それに対して、日本では世俗的根拠から自殺に反対する。このように言えそうである。

 これをどう解釈するべきだろうか。細かい統計は引かないが、日本では中高年の病気を苦にした自殺が多い。そして、高齢化するほど、宗教を信仰する人が増える。今回の結果を踏まえれば、宗教的信仰が自殺をそそのかすとなるだろうか。

 いや、それは単純でミスリーディングである。アメリカでは逆なのだから。国際比較も踏まえると、こう考えることはできないだろうか。宗教的信仰が弱いのに、自殺禁止規範が強い国では、かえって自殺死亡率が高い、と。そして、世俗的根拠から自殺に反対しても、自殺死亡率は下がらない、と。同じく世俗化した国でも、自殺禁止規範が緩い、いわゆる個人主義の国フランスでは、自殺死亡率も低いのである。

 僕はかねてから、日本の「自殺は絶対ダメ」規範に違和感を抱いている。こう言っただけでバッシングされそうである。自殺への同情はここ数十年で薄れ、自殺は病理化され、心理化され、無意味化している。しかし、自殺者は増えている。宗教者もほとんどが自殺を禁止している。教義的には当たり前である。しかし、自殺に救いを求める信仰者は多いという数字である。

 宗教を信じるから自殺を容認するようになるのだと早とちりしてはいけない。宗教が重要でないのに、自殺禁止規範が強いと、かえって自殺死亡率は高まるというポイントが重要である。このことから、世俗的根拠から自殺に反対しても、自殺死亡率は下がらない可能性が高いということが推測される。

 スピリチュアル・ブームの時に、あの世への信仰は自殺を助長するという論調が見られたが、そのようにしてあの世信仰を批判し、世俗社会の論理だけで自殺はいけない(もっと生きろ)と言い続けても意味がないどころか、逆効果になる。

 この記事を参考にして、自殺の専門家は色々な角度から、宗教との関係を探究してほしい。とりあえず、この記事で分かったことからできる提言は、自殺へのまなざしを解きほぐしてみてはどうか、ということである。

Reply · Report Post