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タニグー · @tanigu

6th Nov 2011 from Soicha

参考:信濃毎日新聞[信毎web]社説:自転車 信州を“王国”にしよう/長野(2010/11/28)

 自転車に三角乗りしたことのある年代は、団塊から上あたりの世代までだろうか。

 三角形をしたフレームに横から足を差し入れてペダルをこぐ。宮崎駿さんのアニメ映画「となりのトトロ」で、行方不明になった女の子を少年が探しに行くときのあの乗り方だ。

 「となりのトトロ」は昭和30年代前半の物語とされている。自転車は高価な乗り物だった。子ども用の自転車は一部の人のぜいたく品。それでやむなく三角乗りとなる。危ないのはもちろんだ。

▽歩行者から白い目が

 あのころと比べると、自転車の世界は様変わりした。年齢に合わせたサイズの自転車に乗るのは当たり前。身近なママチャリからスポーツ用、電動アシスト…。多彩な世界が広がっている。

 しかし街中を見ると自転車はいま、いかにも窮屈そうだ。自動車から邪魔者扱いされ、歩行者からは白い目を向けられる。

 理由ははっきりしている。自転車、自動車の増加に道路環境が追いついていないためだ。

 法律では自転車は軽車両とされ、車道の左側を走ることになっている。実際には駐停車の車に行く手をふさがれ、何とも走りにくい。たまに見かける自転車レーンはすぐに途切れてしまう。

 スポーツサイクルでは長野県は全国有数の人気エリアだ。霧ケ峰、乗鞍岳、志賀高原などを舞台にサイクリングのイベントがめじろ押し。専門誌を開くと毎月のように特集記事が載っている。

 しかし、街中の自転車事情に合格点は付けられない。

 本紙の投書欄「建設標」には、歩行者、自転車、自動車のぎくしゃくした関係をうかがわせる投書がしばしば載る。夜道を無灯火で走る。歩道を後ろから来て猛スピードで追い抜く…。

▽「第3の存在」に

 二つの分野で対策を強化する必要があるだろう。第一に、自転車のことを考えた道路整備を進めること。第二に安全な乗り方を徹底すること。ハードとソフト、両面からの対策だ。

 40年ほど前、車との事故を防ぐ目的で一部の歩道について自転車の乗り入れを認めた。専用レーンが整備されるまでの一時的、例外的な措置のはずだった。

 ところが特例はその後広がり続け、今では全国の歩道の4割で自転車が走れることになっている。自転車の歩道走行は当たり前、との見方が広がった。

 自転車がベルを鳴らして歩道をわが物顔に走る背景には、こうした事情がある。自転車の側からは、「自転車は歩道を走れ」と自動車から怒鳴られる、嫌がらせのように幅寄せされる、といった苦情が寄せられる。

 自転車がからむ事故は全国で年間15万件以上起きている。交通事故全体の2割を占める。中でも自転車と歩行者の事故はこの10年間で4・6倍に増えた。

 歩行者との事故で高額の賠償を求められるケースが相次いでいる。自転車の高校生が携帯電話に気を取られ、歩行者にぶつかって後遺症が残るけがをさせた事故で、裁判所から約5千万円の賠償を命じられた例もある。

 歩行者、自動車と競合する現状を放ってはおけない。

 国土交通省によると、自転車道は全国で約7300キロ。道路延長に対する比率ではオランダやドイツの10分の1しかない。

 車道の一部を削って専用レーンをつくるのがいいだろう。自動車の通行が多少滞っても安全性は格段に向上する。ドライバーにとっても悪いことではない。

 自転車を歩行者、自動車と並ぶ道路上の「第三の存在」と位置付け、共存を図りたい。

▽上田六中の「免許証」

 安全な乗り方については、例えば上田市第六中学校の取り組みが参考になる。郊外の幹線道路沿いにある学校だ。学区が広く、生徒の半数は自転車で通学しているという。自転車の安全確保は切実な課題である。

 対策のポイントは自転車の免許制度だ。年度の初めに交通法規や安全な乗り方についての筆記試験を行い、合格すると有効期限1年の免許証を発行する。ヘルメットをかぶらなかったり、信号無視、飛び出しといった危険な乗り方をすると免許は取り消される。免許を取り直すには再試験を受けなければならない。

 通学路の安全点検も先生たちの大事な仕事だ。道路を横断する地下道の危険性を指摘して、スピードを抑えるためのポールを設置してもらったこともある。

 小中学生にとって自転車は唯一の乗り物である。長野県では全国を上回るスピードで高齢化が進んでいる。歩くのが不自由なので出掛けるときは自転車を使う、というお年寄りは多い。

 安全に走れるようになると街は格段に暮らしやすくなる。安心して暮らせる古里にするためにも、道路環境と乗り方、両面での“自転車王国”を目指したい。

(2010.11.28 信濃毎日新聞)

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