『米の自給率95%→54% 20年後に損失1兆円 九大がTPP影響試算』|日本農業新聞21日

 日本が環太平洋経済連携協定(TPP)に参加した場合、日本産米と外国産米の品質格差の縮小を考慮すると、協定発効から20年後には米の自給率が95%から54%に低下し、損失が1兆2200億円に上る恐れのあることが、九州大学大学院農学研究院の前田幸嗣准教授の試算で分かった。国内農家の平均作付面積が約10倍の12ヘクタールに拡大したと想定しても損失は1兆円を超えた。TPPに参加しても「生産調整を廃止し、規模拡大により米の輸出を増やせる」とする推進派の見通しが大きく揺らぎそうだ。

 試算は、日本がTPPに参加し、協定発効の10年後に米の関税を撤廃すると仮定。日本産米と外国産米の品質格差が縮小していくにつれて、米の貿易量や生産量、価格などがどう変化するかを調べた。国連食糧農業機関(FAO)の統計で直近の2007年を基準とした。

 TPP参加で米の自給率が大きく低下するのは、関税撤廃と品質格差縮小の結果、米国やオーストラリアが日本向けの輸出を増やすため。輸入量から輸出量を差し引いた純輸入量は、協定発効から20年後には396万トンと07年比10倍に増加。国内生産量は同3割減の469万トンに落ち込んだ。生産者米価は同75%下落し、1キロ52円(60キロ3120円)となった。10年後でも自給率は75%に低下、損失は7700億円に上った。

 TPP推進派の主張を踏まえ、生産調整が廃止され平均作付面積が12ヘクタールに拡大した場合の影響を調べたところ、20年後の米の自給率は60%に低下、損失は1兆2000億円になった。

 TPPの影響をめぐっては農水省が昨年、日本産米の9割が外国産に置き換わると想定し、米だけで損失が1兆9700億円に上るとの試算を示した。しかし、TPP推進派は「極端すぎる」と批判。米の内外価格差が縮小していることや日本産の品質の高さを理由に、規模を拡大し生産コストを下げれば輸出を増やせると反論している。

 今回の試算は、日本産と外国産の品質格差の縮小度を変化させることで両者の主張がどの程度、現実的かを推し量れる枠組みになっている。その結果、推進派の主張は、「品質格差が現状に極めて近い状態に維持されない限り成立しなかった」(前田准教授)。

 試算では、同じ市場での日本産と外国産の米の価格差を品質格差とみなした。例えば、日米では、日本産の07年の輸出価格が1キロ484円、日本向けの米国産の輸出価格が同64円で、その差額420円から関税と輸送費を除いた320円を同年の品質格差とした。

 同様に計算すると、日本産米と外国産米の品質格差は02~07年の5年間に、対米国産で年平均3.7%、対中国産で同8.5%、対オーストラリア産で同1.3%それぞれ縮小。毎年、同じ割合で縮小していくと想定し、協定発効後10~20年の状況を試算した。

 また、ジャポニカ米の主要な生産・消費国の日本、中国、韓国、米国、オーストラリア間の米貿易を対象に試算。消費者の所得や人口、10アール当たり収量、為替レートは変化しないと仮定した。

 前田准教授の話 分析結果は、TPPに参加した場合、品質格差の縮小によって日本の稲作が大打撃を受けることを示している。米国カリフォルニア州などではすでに「コシヒカリ」をはじめ優良品種が導入され、栽培技術も確立しつつある。試算では、これまでと同じ割合で品質格差が縮小すると想定したが、日本市場が開放され、海外の産地が日本向けの輸出攻勢を強めれば、縮小の時期は一層、早まる可能性がある。

〈ことば〉 品質格差 同じ市場に並ぶ同じ品目でも国産と外国産で価格差がある場合がある。消費者が国産の食味や見た目、安全性といった品質を評価して、より高い値で買うためで、その差を品質格差とみなす。品質格差は品種改良や栽培技術、安全性の向上、消費者へのイメージ戦略などで左右される。

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