MPJ 第5回原稿 (2010年3月掲載分)

格付の嘘
■二つの格付け
債権の評価基準となる格付けであるが、実は格付けには公式の格付けと裏格付けといわれるものが存在する。「裏格付け」正式にはマーケット・インプライド・レーティングといわれるもので、債権の価格やCDSなどの指数から導く市場評価に合わせた格付けである。実は、現在、この二つの格付けの間に大きな乖離が生まれており、それが大きな問題となりつつある。
それでは、なぜ、そのようなことが起きるのだろう。実は格付会社はそれぞれ非公開の独自の格付け基準で評価しており、その中には将来リスクや政治要因も含まれているのである。この将来的、政治的リスクというのが難物であり、客観評価などできない類のものとなる。

■2つの利益相反
現在、世界のスタンダードとされている格付会社は、米系のムーディーズ、スタンダード・アンド・プアーズ、欧州系のフィッチとなる。実は、この3つの格付会社は単なる営利を目的とした民間企業なのである。そして、その収益は格付をする会社から得て居るのだ。ここに大きな利益相反関係が存在し、大きな問題となっている。
また、それぞれの会社のオーナーに、投資家やファンドなどが含まれていることも大きな問題なのである。例えば、ムーディーズの筆頭株主は、世界有数の投資家であるウォーレン・バフェットなのである。つまり、投資家が支配する利益目的の民間企業が、市場の債権価格を誘導出来る構造なのだ。

■格付けと債権価格
かつて、日本の国債が異常に低く評価され、それが大きな問題となった時があった。しかし、日本の投資家は、それでも日本の国債を買い続け、国債価格の暴落は発生しなかった。あまり、陰謀論に走るのは良くないが、国債価格の暴落にかけた投資銀行が存在し、予想外の反応に大きな損失を出したのは、知る人ぞ知る事実となる。
なぜ格下げが、債券価格暴落の大きな要因となるのか、実は格付けが引き下げられることで、年金身金やソブリンファンドなどは債権をもちづづけられない構造になっているのだ。
各基金や各ファンドにより規定は違うが、ファンドの安全性を保つため、契約時に一定以上の格付けの格付けを持つ債権しか保有できない仕組みとなっており、格下げされた場合、保有する債権を一定期間内に投げ売らないといけないことになっているからである。

■PIIGS問題と格付け
実は、ギリシャの格下げにより、ソブリンファンドの投げ売りが発生し、それがPIIGS危機をさらに悪化させている。債権が投げ売られることで、既発債権の暴落が発生、新規債の発行金利を上昇させ、資金調達のコストを上昇させるとともに資金調達を困難なものとしているのである。
そこで、ドイツなどの金融当局は、ソブリン債の民間による格付の廃止を提案しようとまでしているのだ。民間に格付けさせなければ、債権の投げ売りが発生しようがないからである。
しかし、これは誤魔化し意外の何者でもない。

■報じられない事実
ここまで、格付の問題点を述べてきたが、最大の問題はこの問題が国内で正しく報じられることがないことである。私から見れば、経済紙などで一部取り上げられることがあっても、難しい表現をわざと使い、わからないように報じているようにしか見えないのである。
日本人は法律や決まりを守り、その中で最大限の努力をする。欧米人は自分たちの都合に合わせた法律や決まりを勝手に作る。格付け問題こそ、その典型と言えるものである。
渡邉哲也

Reply · Report Post