畑村洋太郎教授が、福島原発事故の「事故調査・検証委員会」の委員長に就任することが発表された。
6年前の著書「コンプライアンス革命」の中で、私のコンプライアンス論は『畑村洋太郎先生の「失敗学」の「コンプライアンス・バージョン」』であると述べているように、コンプライアンスは「法令遵守」ではないという発想自体が、畑村先生の示唆から生まれたものであり、畑村・失敗学と郷原コンプライアンス論とは極めて深い関係にある。
これまで、私も、危険学プロジェクトなど畑村先生が企画された多くの活動に参加してきたし、畑村先生にも、コンプライアンス研究センターでの事故防止に関するシンポジウム等の多くの企画に参加して頂いた。
そのような畑村先生の「失敗学」をベースにして、今回の福島原発事故の原因・背景を考えていくことには極めて大きな意義があることだと思う。
しかし、注意しなければならないのは、畑村・失敗学は、従来の事故原因調査等とは考え方が全く異なるということだ。
事故の発生や拡大に関係する様々な要因を抽出し、そこから「本質安全」への道筋を明らかにしていくというのが「失敗から創造へ」という畑村・失敗学の基本的な考え方であり、「誰が悪かったのか、誰の責任か」ということは問題にしない。そこで、明らかにされる事実というのは、「そういう発想で事故原因を考えることが、安全につながる」という一つの「仮説」であり、事故原因と結果の因果関係を実証することではない。
畑村先生を中心とする委員会の調査・検討が、今回の原発事故問題への対応や、今後の我が国の原発をめぐる政策に、活用されるためには、このような畑村・失敗学の基本的な考え方が調査に携わる関係者に理解されるだけではなく、国民に受け入れられる必要がある。
今後、委員会が立ち上げられ、そこでの議論が、必要に応じて公開されるであろうが、それを、従来の事故調査のような責任論や法的原因論の観点でとらえると、大きな違和感を生じることになる。
まず、「失敗学」の考え方について認識を共有することが必要だ。

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