[TPP反対 ふるさと危機キャンペーン TPP“主導国”] 米国外交公電から読む 規制緩和 下 (日本農業新聞5月21日)

 「モンサント社が、ニュージーランドの遺伝子組み換え規制が嫌いなのは周知の事実」(ニュージーランド外交貿易省のマーク・シンクレアTPP首席交渉官の発言)。海外からの農地への投資に対する規制緩和などは国民の評判が悪いことも付け加えた。(米国大使館公電から)
 ニュージーランドは1984年に大胆な規制緩和をスタート、世界的に民営化の優等生となった――。こんなイメージが強く、日本の「小泉改革」の際にも手本とされた。

 首都ウェリントン市から北に車で3時間の位置にある地域の中核都市・マスタートン市。近くに住むもやし栽培農家のジェレミー・ホウデンさん(55)は、違う見方をしていた。

 「市中心部には銀行店舗がいくつかあるが、少し外れるとほとんどない。国営郵便局が解体され外資に売られ、もうからない店舗は廃業させられたからだ。住民は皆、不便を強いられるようになった。大企業はもうかっても国民に利点はない」

 民営化などに詳しいオークランド大学法学部のジェーン・ケルシー教授は「ニュージーランドは規制緩和の痛い失敗を繰り返してきた」と指摘する。その典型の一つが建設業界の規制緩和だ。

 昨年5月、ニュージーランドのモーリス・ウィリアムソン建設相が記者会見で驚くべき発表をした。90年代半ばから2000年代初めに建てられた個人住宅の雨漏りの補修について「国と地方自治体で費用の半分を負担する。残り半分も融資に政府保証を付ける」ことを明らかにしたのだ。約4万2000戸が対象となると見込む。

 なぜ、個人住宅の修理費用を国が面倒を見るのか。答えは90年代に立て続けに行われた建築基準の緩和を契機に、多くの住宅が雨漏りや腐れの問題に直面したからだ。相次ぐ苦情に政府は重い腰を上げ、規制緩和で使用が認められた防腐処理をしない合板の利用などが原因であることを突き止めた。2000年代に入り政府は慌てて規制を強化したり検査を厳しくしたりしたが、“後の祭り”となった。

 囲み記事(上)にあるウィキリークスが報じた在ニュージーランド米国大使館の外交公電によると、ニュージーランドのマーク・シンクレア環太平洋経済連携協定(TPP)首席交渉官は、食品安全などの規制緩和に対する国民の懸念と、TPPを推進する側との意見の違いが大きいことを米国に素直に伝えている。

 ニュージーランド労働組合評議会のビル・ローゼンバーグ政策局長は指摘する。

 「TPPがこのまま進めば安価な労働力への依存や安価な薬価政策の見直し、多国籍企業による規制への訴訟が増え国民生活を圧迫する。米国からニュージーランドへの投資規制の撤廃が迫られることは確実だ」

 世界に先駆け規制緩和を大胆に進め、その失敗から規制緩和が国民生活に牙をむく可能性があることを知るニュージーランド。ケルシー教授は「TPPが結ばれれば、国民が必要だと感じても再規制の道が閉ざされる。問題は、国が役割を果たせなくなってしまうことだ」と警告する。

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