注目される次の一手

菅首相の浜岡原発全面停止の要請、かねてから重大な危険が指摘されていた浜岡原発の運転の停止を求めたこと自体は正しいと思う。しかし、今回の要請が、日本の原発問題の解決に向けての「英断」となるのか、逆に、原発をめぐる社会の混乱をさらに深めるものになるのか、昨日の会見での発言を聞いただけでは判断できない。菅首相の「次の一手」が注目される。
問題は二つある。第一に、浜岡以外の他の原発をどうするかという問題だ。昨日の会見で、菅首相は、浜岡原発が震源域に含まれる東海地域で30年以内にM8程度の東海地震が発生する可能性が87%と極めて高いこと、原発事故が起きた場合に国民生活に重大な影響が生じることなど「浜岡原発の特殊性」を強調した。しかし、今回の東日本大地震も地震学者が予想とは異なるものだった。現在の地震予測には、浜岡と他の原発の質的相違の根拠となるだけの信頼性はない。今回の浜岡原発の運転停止要請が他の原発をめぐる議論に重大な影響を与えることは避けられない。
この点は、原発に代替する電力供給源という、もう一つの問題にも関連する。菅首相に続く海江田経産大臣の会見で、火力と揚水発電、それでも足りなければ関西電力からの電気の融通を受けられるとの見通しが示されたが、関西電力は原発比率5割を超える最も原発依存度の高い電力会社だ。管内の電力需要を賄った上に中部電力に電気を融通するとすれば、敦賀の原発をフル稼働することが必要となる。福島原発事故がいまだに収束できず、敦賀のもんじゅも大トラブルに見舞われているときに、果たしてそのようなことが可能なのか。結局のところ、原発に代わる代替エネルギーの開発について、従来の電力会社の発想を超えた新たな施策を打ち出すこと、節電についても、自動販売機による電力消費の削減、パチンコ店の営業規制などの抜本的な対策を講じることが、浜岡原発停止による電力不足問題は解決のために不可欠である。
昨日の菅首相の浜岡原発運転停止要請は、取り敢えず「最も危険で最も重大な影響のある原発を止める」ということだけにしか目が向けていないように思える。その判断自体は正しい。しかし、その正しい判断は、他の原発をめぐる問題や、電力需給全体の問題に重大な影響を及ぼし、原発に支えられてきた日本の電力事業の構造をめぐる議論にも直結することは避けられない。
菅首相が、そのような議論に踏み込む覚悟もなく、パフォーマンスで「思いつきの決断」をしたのだとすれば、今後、原発問題をめぐって収拾のつかない重大な社会的混乱を生じることになりかねない。
「次の一手」として、福島原発での失敗を踏まえた原発政策全体について明確な方針を示すこと、東電の賠償問題にも関連する発送電分離等の電力事業の自由化問題について方向性を示すこと、などを打ち出すことができるか、首相としての鼎の軽重が問われている。

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