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2nd Apr 2011 from Twitlonger

「原発解体~世界の現場は警告する~」書き起こし

2009年10月11日放送。NHKスペシャル。
http://www.nhk.or.jp/special/onair/091011.html

■動画
http://www.dailymotion.com/video/xhphl5_yyyy-1_tech (1)
http://www.dailymotion.com/video/xhptpl_yyyy-2_tech (2)
http://www.dailymotion.com/video/xhptqj_yyyy-3_tech (3)

■書き起こし
 運転を停止して14年経った原子炉。原子力発電所の心臓部だ。今も強い放射線を出し続けている。
(ドイツの作業員)「数値は1900マイクロシーベルト」
 この数値は、一般の人が一年間に浴びても差し支えないとされる量を30分あまりで超えてしまう。原発は運転を終えてもなお、数百年にわたって放射能が消えないのだ。
 これまでに世界で作られた原発は539基。その内の100基以上が閉鎖され、解体の時を迎えている。
 日本でも2つの原発の解体が始まっている。その現場に初めてカメラが入った。立ち塞がっていたのは、放射能という目に見えない壁。
「ピ、ピピピ…」(ガイガーカウンターの音)
(日本の作業員)「ちょっと待った、下がった」「入らんのよ。うまいこといかんのよ」
 あらゆる所に汚染が残っている可能性がある。
 既に15基の原発を解体してきたドイツ。最先端の技術を使っているが、思うように進んでいない。
(ドイツの作業員)「気をつけろ、止めろ止めろ。失敗してしまった」
 放射性廃棄物の処理に苦しむイギリス。巨額の税金をつぎ込まなければならない事態に陥っている。
(原子力施設関係者)「廃棄物へ近づくほど強い放射線が出ている」
(放射性廃棄物の専門家)「原発があるどの国でも、放射性廃棄物が大量に生まれている。私たちは解体や廃棄物の処分にもっと注目しなければならない」 原発が生み出す電気。それによって成り立つ私たちの暮らし。その原発の建設が今、さらに加速しようとしている。運転中に二酸化炭素を出さないため、温暖化対策として注目されているのだ。
 しかし、その影で放射性廃棄物という負の遺産が生み出され続けている。原発解体という人類が初めて直面している課題。現場からの警告。

(テロップ)「原発解体~世界の現場は警告する~」

 福井県敦賀市にある原子力発電所「ふげん」。去年から解体が行われている。原発は内部が汚染されているため放置すると安全上問題があり管理コストがかかるとして、国は全て解体する方針だ。解体は放射性物質を絶対に外に漏らさずに進めるとしている。本当に周囲に影響を与えず、安全に解体できるのか。私たちは取材を始めた。
 「ふげん」の内部。今も健康に影響を与えるほどの放射線が出ている場所もある。
「こちらは制御棒駆動装置の上部です」
 まず持たされたのが放射線の測定器。どれだけ被曝しているか、常に確認できるようにしておくためだ。
 ふげん地下2階。解体を行うのは、放射線による被曝を防ぐための特別な教育を受けた作業員たちだった(20名弱の作業員が映し出される)。
 現場責任者の井上辰也さん。今回の作業は、安全に解体できることを実証するのが目的だという。
「手足もと良し」
「手足もと良いか。本日もご安全に」
 汚染区域に入る前。作業員はゴム手袋を二重に着けていた。テープで入念に固めるのは、汚染物質が手に付くと口や鼻を触って体内に中に入る恐れがあるためだ。マスクも着けなければならない。放射性物質は仮に顔に付いても洗い流すことができるが、吸い込むと健康被害につながる恐れがあるからだ。
 解体が進むふげんの構造。
 ふげんは、原子炉内で核分裂を起こし、その時に出る莫大な熱を使ってタービンを回し発電する。その際、原子炉では極めて高い放射能を持つ核のゴミが出る。原発は運転を終えても、原子炉を中心に配管やタービンなど広い範囲に汚染が残る。
 解体は、危険な核燃料を抜いた後、汚染の比較的少ないところから始める。そして、最も強い放射線が出る原子炉は最後だ。解体で出る放射性廃棄物は特別な容器に入れ、地下に埋めるなどして処分されることになる。
 私たちが取材したのは、原子炉とタービンの間にある「主蒸気管室」。比較的汚染レベルが高い場所で、カメラが入るのは今回が初めてだ。
 他の区域へ汚染を広げないためのシート。その先に主蒸気管室はあった。一般の建物と異なり、目に見えない放射性物質が残っている恐れがある。
「ここ足場いるやろ」「いるよな」
「手で切らなあかん」
 配管が複雑に入り組んだ空間で作業は行われていた。この日、汚染の可能性が高い機器の解体に取りかかろうとしていた。原発を緊急に止めるときに使われる大型のバルブの解体だ。
 バルブは、原子炉から流れる蒸気を止めるときに使われる。内部には放射性物質を含んだ蒸気が溜まる。
 解体は弁を抜き取る作業から始まった。
「どうでもええけど、防具つけなあかんで」
「これで上(の部品)は取れます」
 弁を引き抜いた後、内部から放射性物質が見つかった。その直後、事務所に戻った井上さん。緊急に対策を話し合った。
「汚染の方は?」
「測りました」
「特にない?」
「あります。だめです」
「いくつぐらい?」
「6キロ」
「おー、すごいな」
 見つかった6キロという数値は平均的な汚染レベルの6倍。吸い込むと健康に影響を及ぼす恐れがある。作業員は急遽、放射性物質が付着しにくい特別な防護服を着ることになった。
(取材陣)「測ってみないとわからないことがあるんですか?」
(作業員)「そうですね。ばらつきもあるので。とってみないとわからない、正確な値というのは」
 取材を初めて1ヶ月。この日新たな問題が持ち上がった。
「入らんのよ。うまいこといかんのよ」
「また変な細工してあるわ」
 井上さんたちが切ろうとしていた太い配管。周りには配管を支える鉄骨が張りめぐらされていた。そのため、電動のこぎりを使うスペースがないという。代わりにとったのが、高温のガスで溶かして切断する方法だった。しかし、この方法は危険を伴う。
 高温のガスで切断すると「ヒューム」と呼ばれる気体が発生。ヒュームには配管の中に残った放射性物質が含まれることがあり、吸い込むと危険なのだ。(取材陣)「できれば溶断は避けたいんですか?」
(作業員)「できればですね。小さい配管はバンドソー(電動のこぎり)の方が楽なんで。火花も飛び散らないし。溶断するとヒュームという金属の蒸気が出てあまり身体にはよくない」
 特別なマスクを着けることになった。
 作業員とは別に放射線を管理する専門の人(「放射線管理員」)がいる。ヒュームに含まれる放射性物質を10分ごとに測定していた。基準を上回った場合、作業員を退避させることもあるという。
(ピ、ピピピ…。黄色いシールに「GM-52」と書かれたガイガーカウンターが反応する。)
 放射能という目に見えない壁に阻まれ、予定していた工程は1ヶ月以上遅れた。
現場責任者の井上辰也さん「僕らが想定した作業時間。こういう格好で作業すると、実際5時間もつだろうと思っていたのが4時間しか体力がもたないとか。そういう読み違いがあったと思います。半面(マスク)しながら作業するのがキツいというのが分かったと思いますけども、そこの読みも甘かったと思います」(ヘルメットに「JAEA」の文字。)
 放射性物質を絶対に外に漏らさず解体しようという現場。安全を確保しながら解体することの難しさが取材で明らかになってきた。

   * * *

 国は原発の解体についてどのように考えてきたのか。
(「原子力研究開発利用長期計画」「原子力開発利用長期計画」等8つの書類。「科学技術庁図書館」の判が押してある。)
 これは日本の原子力政策をまとめた原子力長期計画。昭和31年にできた最初の計画の中に解体についての記述はなかった。
 将来起こりうる解体を考慮せずに原発は作られてきたのか。
 専門家は、原発は事故や地震に備えて頑丈に作ることが第一に求められ、解体に対する対策はいわば後回しになってきたという。

原子力研究バックエンド推進センター 榎戸裕二さん 「解体を特に考慮した設計は採用されていなかったのが実態でございます。設計思想においては、原子力発電所の健全性や安全性の確保を主に考慮しておりまして、解体については将来の技術開発で対応できる、今後技術開発をすることによって十分な技術が確保できるという考え方の下でやっておりまして、近い将来の課題とは考えておらなかったと。」

 国が解体しやすい研究を始めたのは昭和60年代。しかし、今も国は解体を考慮した設計を建設の際の条件にはしていない。

  * * *

 日本に最初の原発ができたのは昭和41年(東海発電所)。その後、電力需要の伸びとともに次々と建設され、現在57基に上る。しかし、解体を前提に作られていないため、現場に思わぬ問題が起きていることが取材で見えてきた。  11年前に運転を停止した東海発電所(茨城県東海村)。最も難しい、原子炉の解体に向けた準備が進められている。
 東海発電所の構造。5年かけて配管やタービンなどを解体してきた。現在は原子炉周辺の機器の撤去を進めている。原子炉は強い放射線を出しているため、今も人が入ることはできない。そこで、原子炉の解体に国内で初めてロボットを導入することにした。
 コンピュータを使ってロボットの遠隔操作の訓練が行われている。ロボットを使うには、原子炉内部の詳しい構造と正確な寸法を入力しなければならない。そのためには建設当時の詳細な図面が必要だった。しかし、ここで壁にぶつかった。必要な図面が見つからないのだ。
「リストにないものがいくつかあって、それを探してもらえるとうれしいんですけども…」
 東海発電所の建設は40年以上前。保管義務のない書類も少なくない。
「あ、違うな」
「あ、ありました。これかな…」
 図面が見つかっても、古くなったり汚れたりして数字などがよく見えないものもある。
「この辺が切り貼り?」
「こういうところですね。今のように電子データをそのままPDFにしているんじゃなくて、写真を撮ったんじゃなくて、昔の青いコピーを写真に撮っているんです」
 これまでに集めた原子炉の図面は合わせて1,500枚。それでもロボットを操作するにはまだ不十分だという。
「85番」
「そこは見えないんだよ、確かに」
「例えばこの辺の字が読めないわけです、この濃さで見ると。図面を中心にコントラストを当ててしまうと、字が見えない、ということになるんで…」

日本原子力発電 松本松治副社長 「40年前につくられたものですから、今の解体を想定しながら、それがうまくいくように図面を整備しておかないといけないという考え方は、その時点ではなかったんだと思いますね。いま原子力発電所を作るとなると、図面をきっちり残しておく工夫がどんどんされていかないといけない…」

 必要な情報を入手できないか。解体プロジェクトの担当者が、原子炉を作った当時の技術者を訪ねた。今のままでは解体が遅れかねないため、話を聞こうと考えたのだ。
 今年71歳になる林勝さん。建設が始まった昭和35年から完成まで現場で工事を担当していた。
解体プロジェクト担当者「事前準備でいろんなことを調べておかないと、解体の時に思わぬことが起こるという前提で考えていますから…」
林さん「これは基本的に解体を考慮しない建設工程で作っていますから、非常に解体の方の逆工程を想定するというのは難しいかもしれませんね」
 解体を考慮せずに建てられた古い原発。建設に携わった技術者から話を聞けるうちに方法を見極めることができるのか。解体は時間との戦いになっている。東海発電所の原子炉の解体は2年後に迫っている。

  * * *

 これまでに世界で閉鎖された原発は107基。これらが次々と解体される時代を迎えている。
 日本より10年先に原発を導入したヨーロッパ。中でもドイツでは32基の原発のうち既に15基を閉鎖している。ドイツでは今、最新の技術を使って原発の解体を進めようとしている。
 14年前に閉鎖されたビュルガッセン発電所。ここでも、解体を考慮していなかったことで新たな問題に直面していた。
 私たちは日本が間もなく取り組むことになる原子炉の解体を取材した。
 この解体プロジェクトの責任者、ヘンゲルハウプトさん。原子炉の構造に詳しい解体の専門家だ。これまでアメリカやヨーロッパ各国で原発の解体に関わってきた。遠隔操作のロボットを使って原子炉の解体に当たっている。

原子炉解体責任者クラウス・ヘンゲルハウプトさん 「この原子炉は、閉鎖されたときより放射線の量が低くなっています。それでも人への影響がないほどではありません。だから、離れた場所で作業しなければならないのです。遠隔操作のロボットを開発するためには、長い時間と高い技術が必要で、コストもかかります」

 ヘンゲルハウプトさんが解体に取り組んでいる原子炉。運転を停止した今も、強い放射線を出し続けている。私たちは被曝を最小限に抑え安全を確保するため、撮影を20分以内に終えるよう求められた。
「ここの空気は外部と遮断されています」
「ここは6マイクロシーベルトだけど、上に持っていけば測定の音が変わる」放射線管理員(測定器を取り付けたポールを高く掲げて)「音を聞いて。全然違うだろう?」(数値は「1.83mSv/h」を示している。)
「1900マイクロシーベルト」
 この数値は、一般の人が一年間に浴びても差し支えないとされる量を30分あまりで超えるものだ。原子炉は、運転停止から14年経っても強い放射線を出し続けている。
 それは「放射化」と呼ばれる現象のためだ。核燃料から出る中性子に晒されたため金属の性質が変化し、自ら強い放射線を出すようになっているのだ。長い間運転した原子炉は全てこのような状態になる。

 ビュルガッセン原発の原子炉解体を行っているのは、世界で最先端の解体技術を持つ企業だ。(エアランゲンにあるアレバ社が映し出される。)放射性物質による汚染を取り除く技術の開発で実績を上げてきた。(除染研究センターの研究室の様子。)今では細い配管の中の汚染までほとんど取り除けるという。しかし、原子炉から出る放射線を抑えることはこの企業でもできない。

除染技術責任者ライナー・ノイハウス博士 「原子炉の汚染を減らすことには限界があります。大部分が放射化しているからです。原子炉自体が放射能を持っているので、取り除くことができないのです。これがまさに原子炉の難しいところです。表面の汚染しか取り除くことができません。原子炉そのものが放射化してしまうと、どんな方法を使っても放射能を減らすことができないのです」

 ヘンゲルハウプトさんは原子炉を解体するため、建設当時の図面を基に1年間かけて計画を作った。この計画に基づいて、解体する場所ごとに別々のロボットを特注。さらに、原子炉と同じ大きさの模型を作り、事前にテストを繰り返した。
 (ビュルガッセン発電所にて。)ロボットを使った解体が始まった。常にモニターでチェックしながらの作業だ。
 ヘンゲルハウプトさんが考えた解体の方法はこうだ。原子炉の中に入れたロボットを離れた場所から操作し、内部のリング状の構造物を切る。切断に使うのは、高圧で噴出する金属を混ぜた水。(高圧噴出水により切断された金属の様子。)
「ゆっくり、静かに動かすんだ…速さの調節が難しい。うまく嵌めるのは大変だ」
「気をつけろ。止めろ止めろ。失敗してしまった…」
 技術の粋を集めたロボットを使っての作業。それでもヘンゲルハウプトさんが予想しなかった問題が起きた。
「これは切り残しになっているのか」
「そうです。こっちの線もジグザグです」
「こっちはぶれているが、切れている」
「でもこっちは完全に切り残しだ」
 計算上問題なく切断できるはずだった金属が、実際には切り離せないのだ。原因を探ると、問題は溶接の部分にあることが分かった。厚みのある溶接部分を避ければ切れるはずだった。
 これは建設当時の図面。溶接の幅は20mmと書かれていた。しかし、実際の溶接は幅が50mmになっていた。建設当時、溶接を厚くすることでより安全に固定できると現場で判断していた。そのため、切断した部分は予定より厚みがあり、切り残しが出たのだ。
「うまくいかなかったな」
「本当なら1回の切断でいいのに」
「ああ、計画通りだったらな」
 切断にかかった時間は35日間。10日で行う予定が3倍以上かかった。

原子炉解体責任者クラウス・ヘンゲルハウプトさん 「原発は解体を想定して作られたわけではなく、あくまで運転を目的に作られています。私たちが想像しているような方法で全ての部品を解体できないことが改めて分かりました」
 解体は予定よりも7年遅れる見込み。費用も当初の900億円から、およそ1.5倍の1,300億円に膨れあがっている。
 ドイツの取材から見えてきたのは、最先端の技術を使っても時間とコストがかかる原発解体の難しさだった。

  * * *

 世界で運転を取り止めた原発は既に100基以上。取材を進めるうちに、さらに大きな課題があることが分かってきた。解体に伴って原発から出る大量の放射性廃棄物の問題だ。
 解体した後に残る廃棄物。原子炉で使われた核燃料を含め、人の住む環境に影響を与えないよう、特別な容器に入れ、地下などに処分しなければならない。しかし、世界各国は共通の問題を抱えている。全ての廃棄物を埋められる処分場がある国は一つもないのだ。
(ドイツ、ザルツギッター。デモ行進の様子。)
「この土地に放射性廃棄物はいらない」
「放射性廃棄物はいらない」
 今年5月、ドイツで処分場の建設に反対するデモが行われていた。今ドイツでは、放射性廃棄物が大きな問題となっている。国民の不信感を募らせたのは、廃棄物の処分をめぐって起きたある出来事だった。
 ドイツ中部。17年前に閉鎖されたアッセ元処分場。施設は地下深くにある。ドイツ政府は処分場を作る際、「安定した地質だ」と住民に説明していた。しかし、問題が発覚し閉鎖された。
処分場管理担当者「ここは深さ595メートルの地点です。壁が塊になって剥がれてしまうんです」
 処分場の壁はあちこちで崩れていた。建設当時は予想しなかった地下水が漏れ出し、汚染が広がる懸念も出てきたという。過去に持ち込まれた放射性廃棄物は今も埋められたままだ。
処分場管理担当者「この下の廃棄物から出る放射線は、命に関わるほど強いです」
 処分場の環境が悪化していたことを国は10年近く公表しなかった。アッセ処分場は住民不信の象徴となった。ドイツでは、解体の時代を迎えても住民が処分場を受け入れることは極めて難しい。
 国の放射性廃棄物管理委員会のミハエル・サイラー委員長。ドイツは原発の建設を優先し、廃棄物の問題を先送りしてきたと考えている。

放射性廃棄物管理委員会 ミハエル・サイラー委員長 「そもそも、原発を使い始めるときから処分場のことを考えるべきだったのです。原発があるどの国でも、放射性廃棄物は大量に生まれています。そして、最終的な解決方法を見出した国は世界のどこにもありません。私たちは解体や廃棄物の処分の問題にもっと注目すべきなのです」

  * * *

 処分場がないまま進む原発の解体。今、最も深刻な状況を招いているのがイギリスだ。1956年、イギリスは世界で初めて原発を建設した。
エリザベス女王「皆さんは歴史が誕生する瞬間に立ち会っているのです。未来は私たちが想像できないものになるでしょう」
 それ以来、半世紀あまりの間に45基の原発を作ってきた。しかし、その半数を超える25基が既に寿命を迎え、閉鎖された。そのため、解体や廃棄物の処理に多額の税金をつぎ込まざるを得ない事態に陥っている。
 イギリスで今後必要となる費用は11兆円。市民の間で問題意識が高まっている。
(市民)「原発の解体は問題だ。本当に恐ろしい。どこに放射性廃棄物を置くというのか」
(別の市民)「どこの国よりも廃棄物を多く作ってきた。そのツケを背負うしかないんだよ」
 なぜ費用が膨らんだのか。
 18年前に運転を停止したトロースフィニド原発を取材した。発電所にある貯蔵施設には、放射性廃棄物が入ったドラム缶が積み上げられていた。どこにも処分場がないからだ。そこでやむを得ず発電所内にもう一つ貯蔵施設を作ることになった。建設費はおよそ30億円。すべて国民の税金だ。

貯蔵施設責任者 「1960年代に原発を作ったときには、こんな施設が必要になるなんて思ってもいませんでした。廃棄物の処分場がないから、こんな施設を作らないといけない。もし処分場があれば、こんな施設はいらないのに」

 経営が立ち行かなくなった原子力関係の企業も出ている。
 イギリス中西部にあるセラフィールド。ここでは世界有数の原子力企業が、原発だけでなく使用済み核燃料の再処理工場などを運営していた。しかし、放射性廃棄物の処理や、再処理工場で起きた事故への対応に費用が嵩み、債務超過に陥った。こうした費用を国が肩代わりすることになり、3兆5000億円の税金を投じる事態になっている。
 費用が嵩むのにはもう一つ理由がある。処分場の建設をめぐる地域への対策費だ。
 国の放射性廃棄物処理の責任者アラン・エリスさん。各地を回って住民への説明を行っている。処分場への不信感が根強いイギリス。ほとんどの自治体が拒否する中、3つの自治体が建設に関心を示した。しかし、受け入れには条件があった。
(カンブリア州のある町での説明会にて)
地元議員「処分場を受け入れると利益があるのか、みんな興味を持っているのよ」
エリス氏「処分場は地域のためになります」
地元議員「それは見通しでしょ。地域としてはただ処分場を作らせるのではなく、関連事業も含めたあらゆるところから利益を得たいのです。そうすれば多くのお金を得られます」
住民「それは重要だ。最初に考えてほしい大事な点だ」
 住民からは具体的な地域振興策を求める声が相次いだ。

原子力廃止措置機関アラン・エリスさん 「地域に利益をもたらすことができるか。それが処分場を作る鍵になります。地元の要求すべてに応えるのは不可能です。理解を求めていくしかありません」

 エリスさんは、処分場を建設する目途を立てられずにいる。
 イギリスでは、25基の原発の解体や廃棄物処理などの費用が積み上がり、最終的には11兆円という巨額の負担となった。

  * * *

 負の遺産を解決できないまま今、世界は原発の建設に舵を切り始めている。温暖化対策につながるとして、二酸化炭素を出さない原発に注目が集まっているからだ。

(9月22日、国連気候変動サミットにて)
米オバマ大統領「気候変動による危険は否定できない。私たちは責任をとらなければならない」
仏サルコジ大統領「温室効果ガスを2050年までに50%削減。先進国は80%削減しなければならない」

 ヨーロッパではチェルノブイリの事故以降、およそ20年ぶりに原発の建設が再び始まった。(フィンランドの映像)
 新興国でも建設ラッシュが進んでいる。経済成長を続ける中国。今後3年間で16基の建設を計画している。
 今後、世界で作られる予定の原発は100基を超える。放射性廃棄物という課題に私たちはどう向き合うのか。
 原発の解体と建設が同時に進むイギリス。政府は温暖化対策やエネルギーの確保を目的に方針を転換。原発建設に乗り出した。

(イギリス、カンブリア州でのイベントにて)
エネルギー気候変動省エド・ミリバンド大臣 「この国には原子力ルネサンス、新しい原発が必要です。気候変動が国民の考え方を変えたのです。原子力ルネサンスは世界中でわきおこっています」(観衆の拍手)

 これに対し、政府内から反対する声も上がっている。

政府のエネルギー諮問委員会 ジョナサン・ポリット委員長 「廃棄物の問題を解決した国はほとんどありません。現状では原発はデメリットの方が大きいのです。問題が解決できるまでは新たに原発の建設を進めるべきではありません」

 市民の間でも意見が分かれている。原発の建設候補地で開かれた電力会社による住民説明会。
(会場の意見)
「原発は持続可能な発展をもたらします。反対している人はごくわずかです」「本当にこの村が建設に適しているのですか?」
「なぜここに原発を建てたいと思うのか、わかりません」
電力会社幹部「雇用が生まれますし、将来的には子どもにとっても良いニュースです」
 イギリスでは、政府、住民、様々なレベルで議論が広がっている。

  * * *

 日本でも、2つの原発が解体されると同時に、9基の建設計画が進んでいる。しかし、国民的な関心が十分高まっているとは言えない。処分場がないまま、解体で出る廃棄物が増え始めている。
 解体が進む東海発電所。運転中の7倍の放射性廃棄物が出ると見込まれている。東海発電所に設けられた貯蔵施設。廃棄物は専用の容器に入れられ、コンクリートの施設の中に保管されていた。しかし、広さは限られている。解体作業が進むと、数年後には満杯になると見られている。

日本原子力発電 松本松治副社長 「解体をやっているのだけど、その廃棄物がどう処分されるのか分からない。外に出せない場合は、そこ(発電所内)に保管せざるを得ないわけですが、そこがだんだんと逼迫してくると、ある意味解体に着手ができないという状況に陥っていくことになろうかと思います」

 放射線の影響を受ける廃棄物は6万8000トン。少しでも減らすため、一般の製品にリサイクルしようとしている。国の制度では、放射線が、胃のレントゲンで浴びる量の60分の1を下回れば、リサイクルできる。
 作業員が汚染の度合を測定する。
「線量どうですか?」
「100以下でOKです」
(大型の測定器にかける。「判定・良」の表示が出る。)
 基準以下と認められれば、原発の外に持ち出すことができる。
 この日、リサイクルが許可された廃棄物を地元の企業に持ち込んだ。廃棄物を溶かしてベンチやテーブルに加工している。リサイクルの目標とする量は4万トン。しかし、こうした廃棄物の加工を引き受けてくれるのは1社だけ。健康に影響のないレベルだとしても、放射能への抵抗感が根強いためだという。リサイクルを始めて2年、まだ広がっていない。

 国は放射性廃棄物の処分場についてどう考えているのか。
(廃止措置安全小委員会の報告書のアップ)
 平成13年(2001年)にまとめられた国の審議会の報告書。原発が解体撤去される前に廃棄物の処分場を作ることが不可欠だと指摘している。東海発電所で原子炉の解体が始まるのは2年後。大量の廃棄物が生まれることになる。
(東京千代田区、原子力委員会)
 国の原子力政策を立案する内閣府原子力委員会の近藤委員長に処分場がない現状をどう考えているか問うた。

内閣府原子力委員会 近藤駿介委員長 「当初はもう少し早く進むということを想定していたと思うんですけど、しかしこれは、色々な当時は想定していなかった不都合、不具合がプロセスで起きた結果として遅れていると…国民との対話を通じて自分たちの問題と理解していただける、そういう人たちの数を増やしていくと…私はまだまだそういう目で見ますと、われわれ原子力関係者の努力が足りないと」

 国民の理解を広げ、処分場を作りたいとする国。原発を推進してきた責任がいま問われている。

 原発解体で出る廃棄物の問題に将来向き合うのは子どもたちだ。
(市民による原発を考える授業。小学生対象の様子。)
講師「今日本で電気のうち原子力というのは3割くらい…」
(埼玉県新座市大和田小学校にて)
児童「賛成の理由は、電気ができて、二酸化炭素を出さずに、環境にもすごくいいと思いました」
別の児童「僕は反対にしました。理由は、地下に埋めてもそのうち埋められなくなって、埋めるところがなくなります。いくら環境にいいとしても、地上に置かれるとちょっと怖くて、厳重にされているとしても本当に怖くなるからです」
 原発が生み出す負の遺産を次の世代に先送りし続けるのか。

 私たちは再び「ふげん」を取材した。地下に作られた廃棄物の処理施設では、作業員たちが廃棄物を分別する作業に追われていた。解体で増え続ける放射性廃棄物。日本のどこに処分されるのか、その行方は決まっていない。
 人類が原発を手にしてから半世紀。これまでに作られた原発は、世界で539基にのぼる。そして、そのすべてがいずれ解体され、廃棄物となるのだ。

(テロップ)「原発解体~世界の現場は警告する~」


取材協力:
AREVA NP GmbH
E.ON Kernkraft
ANT AG
三井不動産グループ

映像協力: NASA
語り: 仲條誠子
取材: 内山太介 山崎淑行

ディレクター: 鈴木 章雄
制作統括: 馬場広大 根元良弘

(終)

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