東電・勝俣社長に聞く 原発必要地元の理解を 法違反させない仕組み作る
2002年11月01日 産経新聞 東京朝刊 経済面

 原子力発電所をめぐる相次ぐ不祥事で、東京電力に対する国民の信頼は地に落ちてしまった。東電はどうやってこれを回復するのか。勝俣恒久社長の決意を聞いた。(聞き手 三浦恒郎)



 勝俣社長 原発の自主点検データ改竄(かいざん)、原子炉格納容器の密閉性試験の不正など、言語道断で弁解の余地もない。社会に迷惑をかけ、おわびの言葉もない。不祥事が起きた原因の究明と再発防止こそが、社長として私に課せられた最大の責任だと痛感している。

 《東電は九月半ば、原発不祥事の再発防止策を発表。企業倫理委員会が発足するなど、具体化もスタートした》

 勝俣社長 失った信頼を回復するには、まず、先にまとめた再発防止策を着実に進める以外にない。今回の不祥事を通じて、全社員が法令順守、企業倫理の徹底がいかに大事かわかったと思う。さらに、社員に法令違反などを『させない仕組みと、しない風土』を作り上げたい。そのためには、東電の仕事のやり方、あり方を、業務マニュアルを含めてすべて点検して基盤を整備するつもりだ。

 《福島、新潟両県が東電への不信感から使用済み核燃料を再利用するプルサーマル計画の事前承認を取り消すなど、原子力政策にも大きな禍根を残した》

 勝俣社長 原発立地自治体から言われたようにウミを出し切り、立地地域と共生の道を探っていきたい。消費者に確実に電力を届けるために、原発はこれからも絶対必要だ。使用済み核燃料を処理する青森県六ケ所村の再処理工場も、予定通り平成十七年七月に稼働させるべきだろう。

 《現在、東電の原発は十七基中の九基が運転を停止。今後の電力供給への懸念も浮上している》

 勝俣社長 供給力に不安がないわけではないが、全力を尽くして電力安定供給の使命は果たす。しかし、仮に多くの原発が停止したまま夏を迎えたら、もたない。だからこそ、不祥事の原因究明、再発防止を徹底して、原発運転再開に立地地域の理解を得たい。



 ◆「切れ者」「議論好き」

 社内外のだれもが「切れ者」と評する次期社長の“本命”だった。南直哉前社長の引責辞任という特殊事情がなくても、「いずれは…」と目されていた。

 南氏と同じく、経営戦略を立案する企画部門の出身。各社の思惑が対立する電力自由化では、業界のとりまとめ役として活躍した。「議論好き」「合理主義者」との人物評は、「すぐに議論をふっかける」「冷たい」といった反発と裏表の関係ともいえそうだ。

 元新日鉄副社長の長兄、丸紅専務の弟とともに、経済界では「勝俣三兄弟」の一人として知られる。家族は夫人と一男二女。趣味は「四段ぐらい」と自称する囲碁と麻雀、スポーツ観賞で、月刊誌に書評を寄稿する読書家でもある。

                 ◇

 昭和38年東大経済卒、東京電力入社。平成8年取締役。常務、副社長を経て、10月15日付で社長就任。東京都出身、62歳。


【登板】丸紅 新社長に勝俣専務 バランス感覚に高い評価
2002年12月19日 産経新聞 東京朝刊 経済面

 白髪で引き締まった顔。寡黙な立ち居振る舞いは「切れ者」という社内の評判をうかがわせるが、一方では「寝業師」(同業他社)との人物評もある。

 入社以降、成長性は低いが、産業や生活を下支えする紙・パルプ畑を一貫して歩いてきた。業界では、「供給側と需要側の双方に強い随一の実力者」として、紙・パルプ部門を丸紅の強い収益源に育て上げてきた。

 来年四月一日に丸四年間の社長業を終えて勝俣氏にバトンタッチする辻社長も、同じ紙・パルプ畑の出身。辻社長は「難しい判断を相談すると、なるほどという回答が返ってきた」と勝俣氏のバランス感覚を高く評価する。製紙業界が強く反対するなか紙製品の直接輸入に踏み切った交渉力は「いつの間にか反対派も取り込んでしまう」という内外の評価を生んだ。

 十月中旬に東京電力の社長に就任した勝俣恒久氏は、二歳年上の兄。二日前、「社長になるから」と電話すると、アドバイスは全くなく「ご苦労さん」とだけ静かに言われたという。池波正太郎や平岩弓枝などの時代小説は「ほとんど読み切った」とさまざまな状況下での人間模様に強い興味を示す。(近藤哲司)

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