『進化思考の世界』(三中信宏著、NHKブックス)を読む。
新書で先に分類思考と系統樹思考という多様性に対する人間の認知型についての考察を出版されてから第三弾が着弾した。ダーウィンとヘッケルの話から進化論の歴史をおさらいし、分類の世紀の最終段階で時間軸のない静的な分類から時間を含めた動的な分類へと変化したことを述べ、こうした思考法が生物学(博物学)に限らず普遍的だったことを博覧強記な引用で示していく。人間が必要に迫られずとも多様性をパターンにより分類する存在であること、時間軸に沿った系統的分類がそれに続くこは分かった。後者で重要なのが時間的変化の因果関係を同定する(由来を見いだす)営みである。おそらく進化的思考はこの営みの中で人類が発見した最も強力な”万能酸”なのだ。なぜそうなのだろう。これは人間がもっとも扱いにくいと感じている”偶然”を合理的に解釈することができる思考だからではないだろうか。原因があれば結果を予測し、結果があれば原因を考察せざるを得ない人間にとって、必然性のある力(神も含む)で因果の橋渡しをし説明することは、大きな魅力だ。それに抵抗する偶然をどう扱うか。哲学も含めて人類は長いことこれと苦闘してきたように思える。生物学でいえば変異という偶然を織り込むことはダーウィンの登場で成し遂げられたことだったと思う。私は系統樹思考は人間がもってうまれた思考パターンだと思うが、進化思考は生物学の歴史をみると苦労して獲得した英知だと思うのだがどうだろう。
まあそれにしても本文250頁ほどの中によくもこれだけの内容を凝縮したものだと思う。引用図版がほとんど著者の蔵書ということだけど、カラーで拝めるのは表紙だけというのがちょっと淋しい。先生今度は思い切ってカラー版でどうでしょう。

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