nobutoge

Nobukazu Toge · @nobutoge

10th Sep 2010 from Twitlonger

集合写真を撮影するとき、誰も瞬きをしないでいる状態のものを一枚でも良いから得るためには、何コマの撮影をすれば良いのか?

答え:概ね、人数の半分くらいのコマ数が必要である。

この問題の解析で、ネット上に存在する最初?のものは、Nic Svenson (物理学者!)によるもので、彼はこの仕事により、2006年度イグノーベル賞を受賞している。

http://www.csiro.au/multimedia/2006-Ig-Nobelwinners.html
http://velocity.ansto.gov.au/velocity/ans0011/article_06.asp
http://www.abc.net.au/rn/scienceshow/stories/2006/1642840.htm

ただし、残念ながら、上の記事は、いずれも、数学的な展開をあまり懇切には追っていない。高校数学が出来れば追える程度の話ではある。

ので、余計なお世話ながら、以下にこれを:

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まず、一人の人間は、一分間(60秒) のうち N 回瞬きして、1回の瞬きに B 秒掛かるとする。そうした人間の一人を、シャッタースピード S 秒のカメラで撮影したとき、彼が瞬きしていない確率 P(1) は、

P(1) = 1 - ( B + S ) * N /60 [1]

で得ることができる。

典型的には、人間はあるていどの緊張状態にあるとき(たとえば写真を撮られるとか)、毎分10回くらい瞬きをするそうで、一回の瞬きが始まって(瞼が閉じ始まり)、もとに戻るまで(瞼が完全に開くまで)約0.25秒掛かるらしい。ということで、

N = 10, B = 0.25秒, S = 0.01秒 のときには、

P(1) = 1 - (0.25 + 0.01) * 10 / 60 = 0.95667 [2]

というわけだ。繰り返しながら、これは、シャッター0.01秒で人一人撮ったときに、瞬きをしてない確率です。

そういうふうな n 人の人を同時に撮影して、やっぱり誰も瞬きをしていない確率 P(n) はどうなるか?それは、P(1) の n乗である:

P(n) = P(1)^n [3]

たとえば、

n = 20 人だとすると、P(n) = 0.41 [4]

である。つまり、二十人写真なら、二枚に一枚は大体必ず誰かが眼をつむっている。

さて、[4] のようなことだとしたら、20名の集合写真で成功写真を撮るのは、二三コマ撮ればお終いのように一見思えるが、実はそれでは全然確実ではない。

なるべく確実な仕事をするには、どうするか?次のように計算する。[3] のようなふうな n 人の人の同時撮影を m 回行って、一回も成功しない(誰も瞬きをしていない写真を一枚も撮れない)という確率というのを、まず考える。どうなるか?

それは、

( 1 - P(n) )^m [4]

で与えられる。P(n) は誰も瞬きをしてない確率。よって、1-P(n) は誰かが瞬きをしている確率。(1-P(n))^m は、そういう、誰かが必ず瞬きをしているという失敗写真が連続して m 枚撮れてしまう、という極限に不幸なことが起こる確率である。

逆に言って、少なくとも一枚は成功する(誰も瞬きをしてない写真を少なくとも一枚は撮れる)確率は、1 から [4] の さっ引き を考えればよいわけだ。

1 - ( 1 - P(n) )^m [5]

となる。そこで、こんどは、少なくとも一枚は成功する、という確率を 0.99 以上にしたいのならば、

1 - ( 1 - P(n) )^m > 0.99 [6]

とすればよい、ということになる。つまり、

(1 - P(n) )^m > 0.01 [7]

と同じこと。注:n = 人の数; m = 撮影枚数、である。

ということは、何枚撮れば良いのかといえば、上を満たす m を求めるのだから、

m * log (1 - P(n)) > log (0.01) [8]

である (log は自然対数) ことを使って、

m > log (0.01) / log(1 - P(n)) = log (0.01) / log(1 - P(1)^n)
[9]

を計算すればよい。具体的には、

前出のように、N = 10, B = 0.25秒, S = 0.01秒のときには、P(1) = 0.95667であるので、

人数 n = 10 ならば、試すべき枚数 m > 5
20 9
30 15

また、天気が悪い、暗いなどの理由でシャッタースピードが遅くないといけない場合、たとえば、[1] において、S = 0.1秒 とすると、P(1) = (1 - (0.25 +0.1) * 10 / 60 = 0.94167となって、その場合には、

人数 n = 10 ならば、試すべき枚数 m > 6
20 13
30 26

これだけ撮れば、九割九分は、誰も瞬きしてないコマを少なくとも一つは撮れますよ、ということである。

http://velocity.ansto.gov.au/velocity/ans0011/article_06.asp の図と比較してみよ。すこし見づらいけれど、大体合っているのがわかるであろう。

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ノート:九割九分でなく、九割でよければ、[7] や [8] に出てくる 0.01 を0.1 に直して計算すればよい。

なお、人間の瞬きの持続時間が 0.25 s というのを信ずると、それよりもあまりにも短い間隔、つまり、はやい繰り返し(毎秒10発など)での連射はあまり有効でない、ということになろう。その観点からすると、集合写真で、D3 で激連射してもあまりしょうがないですから、ということになる。

むしろ、一秒にせいぜい二三発のレートで「行きます」、「行きます」、とか声をかけながら、5-6秒続けるのが良いように、計算上は、思われる。

ただし、良い写真は瞬きの無いこと、だけでなく、視線の呉れ具合とか、表情のほぐれ具合にも依存する。そころへんはまた、別途考察を要するところです。

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